2013年6月13日

國部会長記者会見(三井住友銀行頭取)

和田専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日の理事会において、お手許の資料のとおり、平成26年度税制改正の要望書を取りまとめた。今後、関係先に対し要望書を提出し、要望の実現に向けて働きかけてまいりたい。なお、本件に関する内容については、会見終了後、事務局にご照会いただきたい。 事務局からの報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 今週の日銀の政策決定会合で、長期金利の上昇を抑える追加策の導入が見送られて、今日も含めて、株価、為替、金利が非常に大きく動いている。日銀の判断とその後のマーケットの状況についてどう見ているのか教えていただきたい。
(答)
 足元、マーケットが大きく動いている。こういった状況について、私がどのように認識しているか、お話をさせていただく。
 先月のこの会見で、黒田日銀総裁による、いわゆる異次元緩和について、デフレ脱却に向けた強い意志を示すものとして高く評価したいと申しあげたわけだが、私は、日銀は、引き続きデフレ脱却と経済の持続的な成長へ向けて、強い決意を持って、ぶれずに量的・質的緩和を推進されていくものと理解をしており、私の評価、認識も変わらない。4月に量的・質的緩和の導入を発表して以降、国債金利のボラティリティが非常に高まったわけだが、日銀は、市場参加者との密接な意見交換とオペレーションの弾力的な運営を積極的に進めており、国債市場の安定化に向けて努力を続けておられる、と評価している。
 少し、足元のマーケットの状況についてコメントさせていただくと、まず債券市場であるが、日銀、そして市場参加者の双方で、オペレーションに対する、いわゆる経験値が高まってきたことを受けて、金利の動きもだいぶ落ち着いてきていると思う。一昨日の決定会合では、固定金利オペの拡充等々の緩和策が、新しい施策として打ち出されたわけではないけれども、私は、先ほど申しあげた長期金利の動きがだいぶ落ち着いてきているということであるとか、あるいは、黒田日銀総裁がぶれずに方針を貫徹していること、この「ぶれずに」という意味は、黒田総裁の言葉を借りれば、戦力の逐次投入はしない、ということ、また、デフレ脱却のために貸出や株式に資金をシフトさせていくという基本的な考え方、こうした考え方のもとで、今回はそのような新たな緩和策は必要ではないと判断されたのではないかと見ている。
 長期金利は、いわば経済の体温計のようなものと考えており、今後、実体経済の改善状況を確認しながら、横ばいから徐々に上昇していく、というのが自然な流れではないかと思う。ただ、先月の会見でも申しあげたが、今はノーマライゼーションへの過程と思っている。その過程において懸念すべきことというのは、金利の動きが過度に不安定になって、国債の保有リスクが高まり、金利が急騰するような局面。これは非常に懸念されるわけだが、この点についても、黒田総裁は、必要に応じて弾力的なオペを行っていくとコメントされている。
 それから円相場であるが、昨年の秋以降、日銀の積極的な金融緩和を織り込むかたちで過度な円高が是正され、一時は103円台まで達したわけだが、足元はいろいろな要因があると思う。アメリカの指標は、強い指標と弱い指標が入り混じっている状況。そして、それに関連するQE3の縮小の思惑。いわゆるテーパリングと言われているものだが、その思惑。そして株式市場全体が不安定化し、それらを受けて短期筋のポジションの巻き戻しが加わる等々、大変値動きの荒い展開になっている。今は、まさに居所を探る時間帯になっているのだと思う。中期的に見ると、日米の金融政策の方向性の違いが、ある意味明確であることから、そういったことを踏まえ、今後ファンダメンタルズを確認しながら、基本的には円安・ドル高基調というふうになっていくのではないかと思う。
 次に株価については、安倍政権、それから日銀の政策による景気押し上げ効果を織り込むかたちで上昇してきたわけであるが、5月23日に大きく調整をして以降、これも居所を探る展開が続いている。5月23日の下げのきっかけはいろいろあったと思うが、先ほどのFRBのQE3がどう動くのか、QE3の縮小が近いうちに起こるのではないか、といったようなことをきっかけとして、大きく調整し、居所を探る展開が続いている。これまでの上昇ペースが速かった一方で、調整も大きかったわけで、しばらくは不安定な動きが続く可能性があると思う。こうした今の動きは、私は一時的なものという見方をしているが、一方で、成長戦略を含め、デフレ脱却に向けた一連の施策の実効性を確認したい、というメッセージを市場が発している、という見方もあると思う。
 足元の経済実態については、鉱工業生産や、消費者・企業マインドの回復が明確になっているし、輸出にも持ち直しの兆しが出始めている。また、物価についても、東京都区部のコアCPIが、5月に、4年2ヶ月ぶりにプラスに転じている。こういった指標を勘案すると、景気回復の足取りは、よりしっかりとしたものになってきていると思う。今しばらくは、相場は居所を探る展開が想定されるが、打ち出された成長戦略がしっかりと実行されて、内外の実体経済の改善を確認するにしたがって、株価も上昇していくのではないかと、私は見ている。


(問)
 今週、アベノミクスの「第三の矢」と位置づけられている成長戦略がまとまった。金融に関連する分野でもPFI/PPPの推進や金融資本市場の強化策の検討などが盛り込まれているが、評価をお聞かせいただきたい。
(答)
 アベノミクスの「三本の矢」、すなわち大胆な金融緩和、機動的な財政政策、それから成長戦略、この「三本の矢」が相まって日本経済を復活させていくということであるが、日本が経済再生を果たして持続的に成長していくためには、中長期的視野に立った成長戦略、構造改革の実行が欠かせない。その意味で、安倍総理ご自身が「三本目の矢」の実行、すなわち民間投資を喚起する成長戦略を骨太に実行するということ、また、今後3年間を「集中投資促進期間」と位置付け、国内投資の促進に向けて、「税制・予算・金融・規制改革・制度整備といったあらゆる施策を総動員する」こと、特に「規制、制度改革を一挙に行う」という方針を明確に示されたことは大変重要であり、高く評価したいと思う。
 今回公表された成長戦略、日本再興戦略でも、成長への道筋や目標、そしてそれを実行するための三つのアクションプランが示されるとともに、全ての施策に関する実施スケジュールが工程表として明確化されている。是非これを果断に実行していただきたいと思う。
 金融分野としては、PFIの推進、あるいは金融特区等々が盛り込まれているが、PFIの推進は、私自身、これまでもこの会見で、金融機能の強化を図るうえで重要なテーマの一つであると申しあげてきた。今回、このPFI/PPPが盛り込まれ、アクションプランが策定されたことは非常に意義の深いものであると思うし、金額的にも今後10年間で12兆円規模の事業を推進するという目標が掲げられているので、評価をさせていただきたい。私ども金融機関も、以前にも申しあげたが、海外で培ったプロジェクトファイナンスのノウハウ等を豊富に持っているので、しっかりと貢献して参りたいと思う。
 一方、金融特区について申しあげれば、日本の金融・資本市場の国際競争力を強化するということは、経済の持続的な成長を実現していくうえで、大変重要な課題である。そういう意味で、今回、「金融特区のフィージビリティも含めた市場活性化策を検討し、本年中に概要を固める」という方針が打ち出されたことは、大変大きな意義があると思う。今後、金融庁、財務省、民間有識者による金融資本市場活性化ワーキンググループが設置されて、具体的な施策についての検討が行われていくということであり、我々銀行としても民間の立場から積極的に議論に参画をして参りたいと思う。
 いずれにせよ、今回、成長戦略の大枠が打ち出され、メニューが一通り出揃ったので、今度はそれを実行に移すフェーズに入ってきたということである。是非スピーディな実行をお願いしたいと思っている。


(問)
 住宅ローンの10年物固定金利が2ヶ月連続して上昇している。金利は、これから徐々に上昇していくのが自然な流れ、という発言もあったが、今後、住宅ローンの金利が上がれば、住宅購入に影響が出てくるのではないかと思うが、そのあたりをどのようにお考えか。
 また、大手メガバンクでは3年物固定金利を0.6%に引下げるといった動きもあり、競争が一段と激しくなっていくと思うが、その点についてはどのようにお考えか。
(答)
 住宅ローン金利のうち、10年物固定金利については、当行では、足元の長期金利の上昇を受けて、この5月、6月とあわせて0.25%引き上げたが、引き上げ後の10年物固定最優遇金利は1.6%であり、歴史的に見ても、そう高い水準ではないと思う。限界的には、少し上昇しているが、これは足元のマーケット環境を受けたものだということである。
 当行では、3年物固定金利0.6%の住宅ローンを提供させていただいたが、これは住宅ローン金利が少し上がっていくなかで、お客さまの利便性向上の観点から、「金利負担を抑え、資金ニーズにお応えする方法はないか」と考え、日銀の貸出増加支援政策を活用したものである。ファンドに上限金額を設定したり、取扱期間を限定した形ではあるが、低金利の住宅ローンを提供させていただいている。
 それを受けて、他行でも同様の取組みが進んでいる。一般的に、金融機関では、他行商品を比較し、そしてお客さまのニーズを勘案しながら、商品設計をするということを常に行っているので、今後もこのようなかたちで広がっていく可能性はあると思っている。
 当行では、住宅ローンの新規取組金額が、4月、5月と2ヶ月連続で、前年同月比プラスとなっている。今後の消費税引き上げといった要因もあるかもしれないが、足元では、住宅取得に向けた個人のお客さまのマインドは改善してきていると感じている。


(問)
 冒頭のお話のなかにもあったが、米国でのQE3の縮小に対する、日本経済あるいは日本の金融市場に与える影響について、どのように考えているか伺いたい。
 また、銀行は米国債への投資を拡大させていると聞いているが、QE3縮小の見通しを受けてアメリカの長期金利も上昇している。それに対するメガバンクの影響をお聞かせいただきたい。
(答)
 まず、QE3の影響だが、今まさに起こっていることは、アメリカのFRBがQE3の縮小へ向けて近いうちに対応策を取るのではないか、ということ自体が、マーケットに大きな影響を与えているということ。例えば、為替でいうと、金融緩和で新興国へ流れていた資金が少しずつ新興国から流出している。新興国の為替が弱くなり、先進国、例えば円も含めた通貨が買われているということが、昨日、急激に円高になった理由の一つだと思う。
 QE3の見直し時期がいつになるのかがポイントの一つだと思うが、確かにアメリカは今、住宅市場の調整や家計のバランスシート調整といった経済の重石になっていたものがかなり解決してきており、個人消費の拡大等の前向きなメカニズムが働き始めていると思う。さらに、シェールガス革命というかたちで製造業が国内回帰する等、景気の本格回復が視野に入り始めている。
 したがって、今後どこかの段階で米国FRBが資産買入を見直していくことは、ある意味で自然な動きだと思っている。ただ、いつの段階で起きるかということは見通しを付けることが難しい。例えば、失業率は7.6%と非常に高い水準にあり、FRBが注目しているコア個人消費デフレーターも前年比1.1%で、目標としている2%よりもまだ大きく下回っている。また、財政政策が機動性を若干失っている。こうした状況を考えると、私自身は、今すぐQE3を縮小することは時期尚早かなと感じている。少なくとも、年内は現状政策を維持して雇用やインフレ率の動向を見極める必要があるのではないか。
 こうしたFRBの出口戦略を巡る議論の高まり自体が株式市場の調整を招いているという面もある。ただし、先ほど申しあげたとおり、QE3の見直しについては、今すぐ行うのは少し早いと思っていること、そして、日銀が異次元緩和を行っていることから、市場の混乱は限定的ではないかと思っている。
 先行き、FRBがQE3の縮小に着手した場合、一時的に金融市場が混乱する可能性はあるが、おそらくその時は、米国経済の足取りは確かなものになっていると思われる。そのような状況になっているからQE3の縮小を考えているということであり、その場合には、輸出の増加などを通じて実体経済にはむしろプラスの影響が出るのではないかと思っている。
 次に、米国債について、米国金利の上昇が起こったときに、銀行全体にどういった影響を与えるかということだが、他行のポートフォリオを承知しておらず、運用方針も異なっているので、一概には申しあげられない。当行について申しあげると、米国債を含めた外貨建て債券については、ALMオペレーションの一環として保有しているが、米国債の残高、あるいはリスク量は、日本国債対比ではかなり小さい水準になっている。残高ベースでいうと、日本国債の15%くらいであり、リスク量も低い。経営体力の範囲内でコントロールされており、米国金利が上昇してもあまり大きな影響は出ないと思っている。


(問)
 新しいリース会計について、先月再公開草案が出されて、今、世界的に意見募集されているかと思う。日本のリース協会としては、基準化には反対するという言葉も出た。御社にも傘下にリース会社があり、銀行によってはリースの利用者としての立場もあるかと思うが、全銀協としての立場や、銀行にとっての影響を総括していただきたい。私が取材した範囲では、オフバランスの見直しと、対象物件によって費用計上が異なるということが出ていたと思うが、どうか。
(答)
 リースの会計基準の変更について、今、私自身がよく承知していない。答えを持ち合わせておらず、コメントができないので、また別途お尋ねいただきたい。


(問)
 債券市場について、足元、今日も長期金利が0.8%を割り込み、ボラティリティが非常に高まっていると思うが、そういったなかでリスクマネージメントの観点から、2003年のVaRショックのときと比較して今の環境をどう捉えているか。加えてVaRショックの経験を活かし、リスク軽減のために、今、どのような取組みを行っているかお聞きしたい。
(答)
 まず長期金利の水準であるが、11月中旬に野田前総理が衆議院解散を表明されたときに0.75%近辺であった。それから低下し、4月3日の時点では0.55%。その後、一旦0.3%台まで落ちて、今は足元0.86%とか0.87%である。足元の数字、日々の変動を見ていると、先ほども申しあげたが、国債市場、長期金利の市場というのは、だいぶ落ち着いてきていると思う。円相場、株式相場はかなりボラタイルであるが、長期金利、債券市場は少し落ち着いてきていると思う。
 ご質問のあったVaRショック時との比較であるが、まず環境の点で申しあげると、2003年と今とでは、量的緩和政策における超低金利環境という点では確かに類似していると思うが、市場のボラティリティが高まった理由については、私は違うと思っている。
 2003年当時においては、市場参加者の日銀の時間軸政策に対する見方であるとか、ポジションが極端に一方的に偏っていたことが、その後の金利の急騰やボラティリティの上昇の原因になったと思う。一方、今回は、まさに異次元緩和という、ある意味未踏の緩和策に対する市場参加者の見方が分かれているということが一因だと思う。そういった観点では、2003年当時の市場のボラティリティの高まりというのは、ある意味予期せぬテールリスクの発生ということだったと思うが、今回はそういった性質のものではないと思う。
 リスク管理という点でも、大きく異なっている。まず2003年と今とで最も異なるのは、「我々がVaRショックを経験した」ということである。今我々は、行内的なリスク管理として、VaRショックと同じ状況が発生しても大丈夫かどうか、どれぐらいの影響を経営に与えるのか、といった目線での管理を行っているし、様々なシナリオにもとづくストレスケースを想定したシミュレーションも行っている。VaRショックを経験し、リスク管理の高度化も培われたということだと思う。
 また、リスク量自体についても、2003年当時我々が持っていたリスク量と、今のリスク量を比べれば、現在の方がかなり小さい。そういった諸々の点を考えると、VaRショック当時よりは我々への影響度合いは少ないのではないかと思う。
 もちろん、各行の運用残高あるいは運用方針、今後の相場の見通し等々は区々であるので、銀行によって多少は違うかもしれないが、VaRショック当時と現在の債券市場の状況について、基本的にはそのように見ている。
(問)
 あのときみたいに急激な動きはない、動きにくいということか。
(答)
 先ほど申しあげたが、金利の急騰リスクというのは日本の金融機関の経営に影響を与え得るので、日銀が市場と対話を続け、市場を注視しながら必要であれば施策を打っていくということだと思う。
(問)
 国債を購入するという方向性はまだ続くということか。
(答)
 これは各行によって運用方針が違うと思う。今後の債券市況の動き、例えば10年であれば10年の固定金利をどう見るか、今後の市場の動きをどう見るかによって、債券を購入するかどうかを決めると思うので、銀行によってばらつきがあるのではないか。個別行では、国債を購入する局面もあると思う。


(問)
 最近、日本の金融市場に対する関心が高まるとともに、いわゆる投資ファンドなどの物言う株主の存在がクローズアップされているが、企業再生の観点から、投資ファンドのような株主がどこまで関与できるのか、するべきなのか、銀行の見解をいただきたい。
(答)
 ファンドと言っても、いろいろなファンドがあるので一概には言えないが、アクティビストファンドに代表される、いわゆる「物言う株主」について申しあげると、各国が金融緩和をして過剰流動性が発生しているなかで、欧米投資家が日本株投資に非常に興味を持ち、また投資を拡大していることに伴って、一部のファンドによる投資先への提案活動が活発化している。これを、どう考えるかということであるが、もちろんプラスとマイナスの両面がある。
 例えば、そういった株主からの提案が、経営陣に対する規律付けということになったり、あるいは、企業価値の向上に寄与する建設的な提案というものもあると思う。一方で、一時的な増配要求であるとか、あるいは自社株買い要求によって、中長期的に見ると、かえって企業価値にとって、マイナスになるような提案をする可能性がある。いくつかの会社で起こっているような事態であるが、ケースバイケースで見て、本当にその企業の企業価値向上に資するかどうかということで、判断をしていくべきだと思う。
 事業再生という点について言えば、PEファンドを含めたいろいろなファンドが、日本企業に投資をしている。私どもも一緒に投資をしているケースもあるが、事業再生を図っていく時に、ファンドの資金を活用して、再生を果たした例も実際にあるので、有用と言えると思う。ただ、先ほど申しあげたとおり、本当にいろいろなタイプのファンドがあるので、個々に見ていくということではないか。


(問)
 金融商品取引法の改正で、金融機関が破綻した時のベイルインの導入の部分も盛り込まれていたと思う。国際規制の流れに沿ったものだと思うが、会長の見解をお聞きしたい。
(答)
 今回、金融商品取引法の一部を改正する法律が成立し、新たな破綻処理制度が導入された。2008年のリーマンショックの際、市場取引を通じて危機が伝播していったということがあり、その後FSB等で議論が行われ、国際的な合意がなされた。それが「実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性」、いわゆる「キーアトリビューツ」であり、今回の制度は、それを踏まえて、そうした市場等を通じて伝播するような危機に対応するために、証券や保険を含む金融業全体を対象として整備されたものである。
 ベイルインについて申しあげると、例えば市場の著しい混乱を回避するために必要と認められる場合には、「金融機関の資産・負債の秩序ある処理」に関する措置が発動され、その際、当該金融機関が債務超過等に陥っている場合には、いわゆる契約上のベイルインが発動される。すなわち、無担保債権の元本の削減や、株式への転換といった条項が付いた債務について、そういったことが行われる。したがって、ベイルイン条項が付された債券等を保有する投資家が負担を強いられることになる。
 バーゼルIIIという新たな規制では、コアティア1以外の、いわゆるその他ティア1、ティア2資本として認定されるための条件についても議論が行われ、例えば劣後債等については、先ほど申しあげた、ベイルイン条項を具備しなければ、規制上の自己資本として認定がされないという枠組みができた。商品性が完全には確立しておらず、かつ、非常にコストが高いという状況であるので、まだ発行事例はあまり多くはなく、世界で30例程度しかないと認識しているが、今後バーゼルIIIの最終ターゲットの2019年が近づくにつれ、世界各国の金融機関で発行されていくのではないかと思う。いずれにせよ、今回の破綻処理制度の整備は、金融システムの安定に大変意義のある枠組みだと思う。先般、衆議院、参議院に参考人として呼ばれたが、その際にも大変有用な枠組みであると申しあげたところである。


(問)
 アメリカのFATCA法にもとづき、2015年までに、邦銀もアメリカの政府に米国人の口座情報を提供しなければならないことになっているが、銀行界としての対応と実務への影響をどのように見ているか。
(答)
 FATCAについてはみなさんご承知だと思うが、アメリカの税務当局が、海外口座を使った米国人の租税回避を阻止するため、我々だけではなく、米国外の金融機関に対して、米国人の口座の確認および報告を要請し、これに従わない金融機関や米国人口座の確認に協力しない顧客には、アメリカの源泉所得に30%の源泉徴収を課すというものである。
 FATCAについて、全銀協として、当初は以下の3点を懸念していた。すなわち、一点目は国内の個人情報保護法への抵触の懸念、二点目は源泉徴収に伴う法的なリスク、三点目は米国人口座の確認および報告に伴う追加的な事務、システム上の負担である。こういった問題について、意見書を公表するなどして、米国当局にも懸念を表明し、日本の当局とも打ち合わせをしてきた。
 今回、日米政府間のFATCAの実施円滑化等に関する共同声明が公表され、米国人口座の情報提供に関する日米間の具体的な枠組が構築されたことにより、先ほど申しあげた懸念事項は、相当程度解消されたと認識している。
 例えば、個人情報保護法との関係では、口座保有者が同意した場合にのみ、米国当局に口座情報を報告し、口座保有者が同意しない場合は、非協力顧客の口座の総数、総額のみを報告するなど、日米政府間で取り決めが出来たので、相当程度、我々のリスクは軽減された。
 事務負担という点では、制度の開始は2014年1月ということになっているので、現在、FATCAに準拠した米国人口座の確認および報告を遺漏なく行えるよう、事務、システム等の体制を整備しているところ。各行の状況については、「ある程度の負担は発生するが、十分対応可能なレベル」と聞いている。