2013年6月13日

一般社団法人全国銀行協会

平成26年度税制改正に関する要望

1.金融・資本市場の競争力強化と国際的な取引の推進のために
(1)金融所得課税の一体化の推進等
(2)確定拠出年金税制の見直し等
(3)国際的な金融取引の円滑化
2.日本経済の再生と課税の適正化のために
(1)エンジェル税制の拡充
(2)企業グループに関連する税制の見直し
(3)住宅取得の促進に資する税制措置の拡充等
(4)印紙税の軽減・簡素化
(5)登録免許税の軽減・簡素化
3.適切な経営環境を確保するために
(1)貸倒れに係る税務上の償却・引当基準の見直しおよび欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の拡充
(2)国際課税の見直し
(3)消費税の課税売上割合の算定方法の見直し
(4)公益法人関係税制の整備

1.金融・資本市場の競争力強化と国際的な取引の推進のために

 経済活動のグローバル化や少子高齢化が進展するなか、わが国経済が今後も持続的に成長するためには、金融・資本市場の競争力を強化し、その魅力を向上させていくことが大切である。
 そのためには、金融所得課税の一体化の推進や金融資産形成に資する非課税制度の普及・定着と拡充、確定拠出年金税制の見直し等を通じて、個人投資家にとって利便性の高い効率的な金融・資本市場の構築を後押しすることにより、およそ1,500兆円に上る家計部門の金融資産に適切な投資機会を提供し、「貯蓄から投資へ」の流れを確実なものとしていくことが重要である。
 また、国際的な市場間競争が一層激しくなるなか、わが国金融・資本市場が内外の利用者の多様なニーズに応えていく観点から、店頭デリバティブ取引の現金担保に係る源泉徴収の免除やイスラム金融取引に係る税制の措置等、国際的な金融取引の円滑化に資する税制を整備していくことが求められる。

(1)金融所得課税の一体化の推進等

  • 金融所得課税の一体化をより一層推進すること。具体的には、金融資産に対する課税の簡素化・中立化の観点から、課税方式の均衡化を図るとともに、公社債等に係る金融所得課税の一体化に関する体制整備の完了後を目途に、預金等を含め損益通算を幅広く認めること。
  • 納税の仕組み等については、一体化の実施時期に応じて、納税者の利便性に配慮しつつ、金融機関が納税実務面でも対応可能な実効性の高い制度とすること。
  • 少額投資非課税制度(NISA)について、制度の普及・定着のために個人投資家の利便性および金融機関の実務に配慮したより簡素な制度とすること。また、恒久化等の制度の拡充を行うこと。
  • 社会保障・税番号制度については、金融機関の実務負担等に配慮した制度設計・導入スケジュールとすること。

 わが国では、個人金融資産の有効な活用が経済活性化のための鍵となっており、それに資する金融・資本市場の構築が喫緊の課題である。そのためには、個人投資家が自らのリスク選好に応じて自由に金融商品を選択できるようにする必要があり、金融資産に対する課税は、簡素で分かりやすく、金融商品の選択に当たって中立的であることが求められる。
 政府税制調査会は平成16年に金融商品に対する課税方式の均衡化と損益通算範囲の拡大の方向性を打ち出した。この流れに沿って、平成20年度税制改正では、上場株式等の譲渡損失と配当等の損益通算が平成21年以降可能とされ、さらに平成22年度税制改正では、「金融所得課税の一体化を更に推進する」とされた。また、平成25年度税制改正大綱では、「平成28年1月以降、公社債等に対する課税方式を上場株式等と同様、申告分離課税に変更したうえで、損益通算できる範囲を、公社債等にまで拡大」することとされ、金融所得課税の一体化に向けた制度整備が進展している。
 このように、金融所得課税の一体化が着実に前進しつつあるなか、金融資産に対する課税の簡素化・中立化の観点から、金融商品間の課税方式の均衡化を図るとともに、公社債等に係る金融所得課税の一体化に関する体制整備の完了後を目途に、預金等を含め損益通算を幅広く認めることで、一体化のさらなる推進を要望する。
 その際、金融所得課税の一体化に係る具体的な納税の仕組みについては、その対象範囲が順次拡大されることを念頭に、一体化の実施時期に応じて、納税者の利便性に配慮しつつ、金融機関のシステム開発等に必要な準備期間を設ける等、金融機関が納税実務面でも対応可能な実効性の高い制度とすることを要望する。
 少額投資非課税制度(NISA)については、平成25年度税制改正大綱において、毎年100万円までの非課税投資を行うことができる期間を平成26年1月から平成35年12月までの10年間に拡充するとされた。機動的・効率的な運用を可能とし、NISAを普及・定着させる観点から、口座開設手続の簡素化や勘定設定期間中の金融機関の変更・移管を可能とする等、投資家の利便性および金融機関の実務に配慮したより簡素な制度とすることを要望する。
 また、幅広い家計に国内外の資産への長期・分散投資による資産形成を行う機会を提供するとともに、国民の自助努力による教育資金等の資産蓄積を支援する観点から、NISAの恒久化の実現とともに、中長期的には若年層向けの「ジュニアISA」の導入を含めた制度拡充の検討が望まれる。

 社会保障・税番号制度については、平成22年より導入に向けた検討が進められてきたが、「社会保障・税に関わる番号制度についての基本方針」、「社会保障・税番号大綱」等の取りまとめを経て、第183回通常国会において「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(「番号法」)が成立した。
 社会保障・税番号制度の導入に際し、行政のみならず民間においても相当規模の負担・コストの発生が想定されるため、今後、実務の詳細等を検討するに当たり、関係者である金融機関との事前協議を行い、十分な準備期間の設定等を含め、金融機関が実務面でも対応可能な制度設計とすることを要望する。
 また、番号法では、制度導入当初の社会保障・税番号制度の利用範囲を、税分野等の行政手続に限定することとされている。利用範囲の拡大について同法では、法律の施行の状況等を勘案し、施行後3年を目途として所要の措置を講じるものとされており、民間分野においても利用者と金融機関との双方の利便性向上に資するかたちで幅広く活用されることが期待されるが、金融機関の実務への影響等を十分に勘案したうえで、民間分野における活用が検討されることが重要である。

(2)確定拠出年金税制の見直し等

  • 退職年金等積立金に対する特別法人税を撤廃すること。
  • 確定拠出年金に係る拠出限度額を見直すこと。
  • 確定拠出年金の対象者を拡充すること。
  • マッチング拠出制度における従業員拠出額の要件を緩和すること。

 わが国において少子高齢化が進行するなか、自助努力による老後生活の維持向上を図る観点から、公的年金を補完するものとして、確定拠出年金の果たす役割の重要性は高まっている。また、確定拠出年金の一層の普及は、より多くの個人に対して投資性商品を選択する機会を提供し、「貯蓄から投資へ」の流れを後押しすることにもつながる。
 こうした確定拠出年金制度の重要性に鑑みれば、わが国においても、欧米における同種の年金と同様に、拠出時・運用時非課税、給付時課税を基本とする十分な税制上の措置を講じる必要がある。
 平成16年度税制改正では、確定拠出年金の拠出限度額が引き上げられた一方、公的年金等控除の縮小および老年者控除の廃止等、拠出時非課税と給付時課税の措置がなされた。また、拠出限度額は平成21年度税制改正でも一部引き上げられている。しかしながら、老後に必要とされる生活資金の水準や公的年金の給付縮減可能性等を勘案すれば、引き続き、税制面の整備を推進する必要がある。
 したがって、運用時非課税を実現し、国際的に見劣りのない制度とする観点から、平成26年3月までの時限措置として課税が停止されている退職年金等積立金に対する特別法人税を撤廃するか、少なくとも課税停止措置の期限を延長するほか、拠出限度額のさらなる引き上げを要望する。
 また、個人型確定拠出年金の加入対象者を、確定給付型の企業年金のみを実施し企業型確定拠出年金は実施していない企業の従業員や専業主婦等にまで拡大する等、確定拠出年金の対象者を拡充するほか、平成24年1月から開始された企業型確定拠出年金のマッチング拠出の限度額要件のうち、従業員拠出額を事業主拠出額の範囲内とする要件の緩和をあわせて要望する。

 なお、個人型確定拠出年金の加入対象者の拡充等と併せて、中長期的に米国のIRA(Individual Retirement Account)等を参考に、拠出時課税、運用時・給付時非課税の個人型年金積立金非課税制度の導入を含めて検討を行うことも考えられる。

(3)国際的な金融取引の円滑化

  • 金融機関等が行うデリバティブ取引に係る付随契約(CSA:Credit Support Annex)にもとづき授受する現金担保から生じる利息について、源泉徴収を免除すること。
  • イスラム金融について、取引の実質を踏まえた税制上の措置を講じること。

 金融機関等はデリバティブ取引を行うに当たり、一般的に国際スワップ・デリバティブス協会(ISDA:International Swaps and Derivatives Association)が定める付随契約(CSA:Credit Support Annex)を締結し、現金・国債等を担保としている。
 現金を担保として授受している場合、担保提供者(ISDAマスター契約の対象取引は本店・支店が混在しており、通常、担保提供者となるCSAは本店のみ)に対し、受入れ期間に応じて現金を支払うが、これについて源泉徴収が行われている。
 現在、バーゼル銀行監督委員会および証券監督者国際機構では、中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制の最終提案に向けた作業が行われているが、わが国金融機関が信用リスク削減等のためにデリバティブ取引を円滑に行うことを可能とし、ひいては金融・資本市場の類似取引(例えば、レポ取引のように有価証券取引に関連した現金授受)との整合性の観点から、源泉所得税を課さない扱いとすることが必要である。
 したがって、金融機関等が行うデリバティブ取引に係るマスター契約およびCSAにもとづき授受する現金担保から生じる利息について、源泉徴収を免除することを要望する。

 イスラム金融とは、イスラム法に則した金融取引を総称するものであり、金利の概念が用いられず商品売買やリース等の形式が用いられること、教義に反する事業に関連する取引が認められないこと、等の特徴がある。近年、中東諸国の潤沢なオイルマネーを背景にイスラム金融の規模は拡大傾向にあり、非イスラム教国においても自国市場におけるイスラム金融の育成に積極的に取り組む例が見られる。
 このように世界的にイスラム金融の存在感が高まるなか、イスラム圏の投資を国内に呼び込むとともに、一般企業に対して多様な資金調達手段を提供することは、非常に意義深いものである。平成23年度税制改正において、社債との類似性が十分担保されたものに限定して、非居住者等が受け取る国内発行のイスラム債(社債的受益権)の配当(利子相当分)について非課税とする等、イスラム金融に関する所要の税制措置が講じられたものの、引き続きわが国においてはイスラム金融と一般の金融取引との税制面におけるイコール・フッティングを図るための措置が十分講じられているとは言い難い。
 そこで、わが国金融・資本市場の競争力強化等の観点から、英国やシンガポール、香港等のように、イスラム金融での利益や配当(利子相当分)を利子とみなす措置の導入や、イスラム金融スキームにおけるアセット売買時に発生する消費税、印紙税、不動産取得税の免除等を要望する。

2.日本経済の再生と課税の適正化のために

 わが国では、政府が強い経済を復活させるという方針を掲げて矢継ぎ早に政策を打ち出し、行き過ぎた円高の是正や株高等の前向きな動きが現れつつある。
 こうした動きを持続的な成長につなげていくためには、規制改革を含めた成長戦略の本格的な取組みが不可欠であり、新規・成長企業へのリスクマネー供給に資するエンジェル税制の拡充や、活発な組織再編を通じて企業競争力を増強させる連結納税制度の見直し、住宅投資拡大策としての住宅取得促進に資する税制措置の拡充等は、民間部門の投資・消費需要を喚起していくためにも有用である。
 また、金融取引を含む各種の経済取引には、担税力に着目して印紙税や登録免許税等の流通税が課せられるケースが多いが、こうした税負担は円滑な経済取引に悪影響を与え、経済の活性化を阻害している側面がある。そこで、これら流通税の軽減・簡素化により、課税の適正化を図ることが必要である。

(1)エンジェル税制の拡充

  • 適格企業の拡大や法人によるベンチャー企業への出資に対する税制優遇措置を導入する等、エンジェル税制を拡充すること。

 平成9年度に創設された個人投資家に対する税制の優遇措置「エンジェル税制」は、平成20年度にベンチャー企業への投資額を総所得金額から控除できる大幅な優遇措置の拡充が行われ、当該年度にエンジェル税制を新たに利用した企業への投資実績は一時的に増加したものの、日本のエンジェルによる投資活動は、欧米に比べると未だ活発とは言い難い状況にある。
 リスクの高い事業に新規に挑戦するベンチャー企業の多くは、担保能力に限界があること、売上が十分でないこと等から、創業・シード期から成長期における間接金融による資金調達に限界があり、リスクマネーをいかに供給できるかが初期のベンチャー企業の成長を左右することとなる。
 したがって、新規参入や新事業が生まれやすい環境を醸成し、日本経済の再生につなげるため、エンジェル税制における適格企業の範囲の拡大や、法人によるベンチャー企業への出資に対する税制優遇措置の導入を図る等、制度の拡充を図ることを要望する。

(2)企業グループに関連する税制の見直し

  • 現行の組織再編・連結納税制度の見直しを含め、企業グループに関連する税制の見直しを図ること。

 わが国では、企業グループの一体経営の推進や柔軟な組織再編を可能とするための法制度・会計制度が整備されるなか、税制面では、連結納税制度が平成14年度税制改正において整備され、さらに平成22年度税制改正ではグループ法人税制の導入や連結納税制度の見直しが実施された。連結納税制度の創設以来、同制度の採用企業数は着実に増加しつつあるものの、租税回避の防止のための措置等により、米国等と比べて積極的に活用されているとは言い難い面がある。
 したがって、グループ企業の再編を通じた競争力強化とそれに伴う経済の活性化を一層促進する観点から、連結納税グループへ加入する連結子法人の繰越欠損金の持込制限の撤廃や、連結子法人の保有資産に対する時価評価課税の撤廃もしくは緩和、さらには連結子法人の範囲の拡大等、現行の組織再編・連結納税制度の見直しを含めた企業グループに関連する税制の見直しを図ることを要望する。

(3)住宅取得の促進に資する税制措置の拡充等

  • 住宅取得、住生活の安定確保および向上をさらに進めるため、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度の恒久化等を図ること。

 住宅は、国民の社会生活や経済活動の基盤となる重要な資産であり、自然災害に強く良好な居住環境を形成するためには、社会経済情勢等の変化に左右されることのない、安定かつ公平な住宅取得の機会が、国民に与えられることが重要である。
 こうしたなか、平成18年に制定された住生活基本法では、政府の責務として、住生活の安定の確保および向上の促進に関する施策を実施するために必要な措置を講じるべきことが規定された。持家取得に伴う初期負担の軽減により住宅投資を促進し、これが景気浮揚にも資するとの観点から、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度は、平成21年度税制改正によって大幅に拡充され、平成25年度税制改正においても、消費税率の引き上げに伴う一時の税負担の増加による影響を緩和する観点からの措置が行われたが、わが国経済においては、住宅投資が拡大することに対する期待は依然として大きいところである。
 したがって、住宅取得、住生活の安定確保および向上をさらに進めるため、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度の恒久化、税額控除の拡充を図ることを要望する。

(4)印紙税の軽減・簡素化

  • 印紙税について、金融取引に悪影響を及ぼさないよう軽減・簡素化すること。

 印紙税は、本来軽微であるべき流通税としては極めて高い税率となっており、金融取引に悪影響を及ぼさないよう整理し、軽減・簡素化することを要望する。

(5)登録免許税の軽減・簡素化

  • 登録免許税は手数料的な性格を持つことを踏まえ、担保権の信託における抵当権等の信託登記をはじめ、登録免許税の税率を低額の定額税率とする等、軽減・簡素化すること。

 現行の登録免許税は、手数料的な性格を持つ流通税であるにもかかわらず、負担が極めて重い。このため、わが国企業の競争力強化に必要な組織再編成や、資産流動化、担保権の信託を利用するシンジケート・ローン取引等の経済取引に影響し、経済の活性化を阻害している面がある。
 特に、担保権信託に関しては、不動産信託の所有権移転登記に係る登録免許税が非課税にもかかわらず、抵当権設定登記に加え、信託登記についても登録免許税が課されている。
 このため、登録免許税が持つ手数料的な性格を踏まえ、低額の定額税率とする等、大幅に軽減・簡素化することを要望する。
 また、平成25年4月に国会に提出された「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」において、国内銀行が出資関係の有無を問わず外国銀行の業務の代理・媒介を行うことを可能とすることが盛り込まれているが、当該代理・媒介は、国内の顧客保護の観点から、海外で行われる場合に限るとされていることから、本件に係る「外国銀行代理業務の認可」については登録免許税の課税範囲から除外することを要望する。

3.適切な経営環境を確保するために

 国内外において経済構造の変化が進行するなか、企業や金融機関を取り巻く環境も急速に変化しており、適切な経営環境を確保するうえで、わが国の実情や諸外国の制度に配意した税制面の整備を進めることが一段と重要になっている。
 なかでも、貸倒れに係る税務上の償却・引当基準等について欧米主要国に遜色のないものとし、外国税額控除制度等の国際税制について適切な見直しを図ることは、日本企業の投資意欲や競争力を高めるほか、金融機関の自己資本の強化等の観点からも極めて意義深いものである。
 また、税制抜本改革法の成立に伴う消費税率の引き上げに関連して、課税売上割合の算定方法の見直し等、適切な税制の構築を図ることが重要である。
 なお、民間非営利部門の活動の健全な発展を促進する観点から、旧制度における公益法人等が新制度に円滑に対応するための適切な措置を講じることが必要である。

(1)貸倒れに係る税務上の償却・引当基準の見直しおよび欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の拡充

  • 貸倒れに係る税務上の償却・引当の範囲を拡大すること。
  • 欠損金の繰越控除の制限を撤廃するとともに、繰越期間を延長すること。
  • 欠損金の繰戻還付制度の凍結措置を解除し、繰戻期間を延長すること。

 わが国金融界は長年の不良債権問題から脱却したものの、わが国経済の持続的成長に資する金融システムの維持や、中小企業者等の経営改善、事業再生支援を積極的かつ継続的に進める金融機関の取組みを一層促進する観点から、不良債権税制の拡充が重要である。また、将来の損失発生に備えた制度を拡充することは、企業の投資意欲を高める効果も大きい。

 現在、会計上の引当金基準と税務上の無税基準が大きく乖離している状態にあるが、不良債権問題の再発防止や金融機関の自己資本の強化等の観点からは、金融機関が実施している自己査定等にもとづく会計上の償却・引当を税務上も幅広く認める等、債権毀損の実情に応じたものとすることが重要である。
 具体的には、法的整理手続き開始の申立てがあった場合の個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入割合(現行50%)を引き上げる等、貸倒れに係る税務上の償却・引当の範囲を拡大することを要望する。

 法人税における欠損金の繰越控除・繰戻還付制度は、事業年度ごとの課税負担の平準化を通じ、経営の中長期的な安定性を確保するものであり、わが国企業の投資意欲や競争力を高めるうえで極めて重要な制度である。また、金融機関にとって景気後退期における不良債権の規模は大きく、その処理に伴い発生する欠損金の控除について十分な措置を設ける必要がある。
 しかしながら、繰越控除制度の繰越期間は、欧米主要国との比較において明らかに見劣りする。また、繰戻還付制度については、平成21年度改正において凍結が一部解除されたものの、対象が中小企業等に限定されているほか、繰戻期間が1年とされていることから、十分な措置が講じられているとは言い難い。
 したがって、欠損金の繰越控除の制限(現行、繰越控除前の所得金額の80%相当額)を撤廃するとともに、繰越期間を少なくとも10年に延長することのほか、繰戻還付制度の凍結措置を解除し繰戻期間(現行1年)を延長することを要望する。また、繰戻還付制度は資本金1億円以上の企業に対する適用が停止されているが、この取扱いを廃止することを要望する。

(2)国際課税の見直し

  • 外国税額控除制度における繰越控除限度額および繰越控除対象外国法人税額の繰越期間(現行3年間)を延長すること。
  • 外国子会社合算税制におけるトリガー税率(現行20%)を引き下げること。益金不算入額となる特定課税対象を過去10年分に制限する規定を撤廃すること。また、適用除外の判定基準において「貸金業」についても所在地国基準ではなく、非関連者基準により判定することを認めること。
  • 非居住者および外国法人に対する課税原則の「総合主義」から「帰属主義」への見直しについては、本邦金融機関への影響を最大限に考慮すること。

 外国税額控除制度は、わが国企業の海外展開を支え、国際的な二重課税を排除する制度として重要な役割を果たしている。
 しかしながら、わが国金融機関において、過去に海外子会社の売却等に伴う売却益が発生したものの、現行の外国税額控除制度において繰越控除限度額(余裕額)や繰越控除対象外国法人税額(限度超過額)の対象期間が3年とされていること等の理由から、部分的に国際的な二重課税が発生したケースがあり、こうした問題はあらかじめ解決しておく必要がある。
 したがって、外国税額控除制度における繰越控除限度額および繰越控除対象外国法人税額の繰越期間(現行3年間)を、欠損金の繰越期間(現行9年)に合わせるかたちで延長することを要望する。

 外国子会社合算税制における、いわゆる「トリガー税率」は現在「20%以下」とされているが、この水準ではシンガポールや香港等のアジア主要地域までが同制度の対象に含まれることとなる。したがって、国外に進出する企業の事業形態の変化や諸外国における法人税等の負担水準の動向に対応し、わが国企業の国際競争力を維持する観点から、トリガー税率を引き下げることを要望する。
 また、外国子会社合算税制によって合算された所得から配当があった場合、過去10年間に発生した特定課税対象金額の5%については、益金不算入(外国子会社配当益金不算入と併せ、100%の益金不算入)とすることができるが、二重課税を排除する観点から、この期間を廃止する措置が求められる。
 さらに、銀行は海外業務を補完するため、諸外国に商業銀行子会社のほか、「貸金業」の子会社も保有しているが、預金受入を行うか否かを除いては業務に特段の違いはないことから、「貸金業」の場合も、商業銀行子会社の場合と同様に、実体基準、管理支配基準および非関連者基準を満たす場合には、外国子会社合算税制の適用除外とすることを要望する。

 平成25年度税制改正大綱の検討事項には、いわゆる国際課税原則を見直すこと、すなわち「総合主義」にもとづく従来の国内法上の規定を、OECD承認アプローチ(AOA:Authorised OECD Approach)に沿った「帰属主義」にもとづく規定に見直すとともに、これに応じた適切な課税を確保するために必要な法整備に向け、具体的な検討を行うことが明記されている。
 邦銀は支店形態で海外進出を行っているケースが多く、この「国際課税原則」の見直しに伴い外国税額控除適用上の国外所得の算出にAOAが導入された場合、海外支店を本店等から分離・独立した企業であると擬制して国外所得を計算するといった体制整備が必要となり、多大なコストと時間を要することが想定される。
 このため、国際課税原則の「総合主義」から「帰属主義」への見直しに当たっては、外国税額控除適用上の国外所得の算出において内国法人に過度な負担が発生することのないよう、実務にも配慮した簡易なルールの策定を要望する。また、国際課税原則の見直しに伴う体制整備のための十分な準備期間を設けることを要望する。

(3)消費税の課税売上割合の算定方法の見直し

  • 課税売上割合の算定方法について、経済実態に合わせた見直しを行うこと。

 消費税については、平成24年に公布された「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」において、平成26年4月と平成27年10月の2段階で税率を引き上げることとされている。

 消費税の納税額は、課税売上に係る消費税額から、課税仕入れに係る消費税額を控除する(仕入税額控除)ことで算出されるが、この仕入税額控除を計算する際に用いられる課税売上割合の算定方法について、現在の経済実態に合わせた見直しが求められる。

 具体的には、近年、わが国では、企業再生支援に伴うファンド等への貸出債権の売却、住宅金融支援機構を中心とした住宅ローンの証券化、貸出債権を銀行間で個別に売買するローントレーディング等、貸出債権の売買が一般化している。課税売上割合を計算する場合、金銭債権の譲渡金額はその全額を非課税売上として分母の額に算入する実務が一般的となっているが、ファンドを通じた企業再生支援や、貸出債権等のクレジット市場の発展はわが国金融市場にとっても重要な課題であることに鑑み、貸出債権等の金銭債権の譲渡については、有価証券と同様、譲渡対価の5%のみを非課税売上に算入するよう見直すことを要望する。

 また、近年、企業の組織再編が一般化している。組織再編時の株主に係る消費税については、対価として合併法人株式のみを交付する合併等では、被合併法人の旧株主が旧株式と合併法人株式を交換する行為について、資産の譲渡に該当しない不課税取引とされている。
 一方、株式交換の場合、完全親会社株式のみが交付される場合であっても、完全子会社の旧株主が、完全子会社株式と完全親会社株式を交換する行為は資産の譲渡となる(非課税取引)。
 組織再編の形態により株主側の消費税法上の取扱いが異なることは、組織再編形態の選択に歪みを生じさせるおそれがあり、合併法人株式を対価とする合併と平仄を合わせる形で、他の組織再編に係る株主の消費税上の取扱いを見直すべきである。具体的には、株式交換等の企業組織再編の際に、株主が株式の交換に伴う譲渡損益を認識しない等、一定の要件を満たす場合は、消費税法上の取扱いにおいて、当該株式の交換を資産の譲渡に該当しない不課税取引とするよう見直すことを要望する。

(4)公益法人関係税制の整備

  • 旧制度における公益法人等が新制度に円滑に対応できるようにする等の観点から、固定資産税等について適切な措置を講じること。

 全銀協ならびに地方に所在する銀行協会は、経済活動を支える手形交換制度や各種決済制度の企画・運営、一般消費者を対象とする相談業務、銀行図書館の運営等、わが国経済の発展と国民生活の安定向上に資する非営利事業を営んでいる。その大多数は、旧民法第34条にもとづく社団法人・財団法人であったが、公益法人制度改革関連法(平成20年12月施行)によって特例民法法人となり、その後、一般社団法人へ移行している。
 平成20年度税制改正では、公益法人制度改革関連法に対応するため、公益法人関係税制が整備され、同法に定める公益社団法人・公益財団法人や、一般社団法人・一般財団法人のうち共益的活動を目的とする法人等について、収益事業課税を適用する等の措置が講じられた。このなかで、固定資産税等に関しては、公益社団法人・公益財団法人の施設について、旧民法第34条にもとづく社団法人・財団法人と同様の非課税措置が講じられるとともに、一般社団法人・一般財団法人に移行した法人の既存の施設(図書館、博物館等)についての非課税措置が平成25年度まで継続するとされているが、平成24年度税制改正において、平成26年度以降の当該非課税措置の対象は、非営利型法人であって、遊休財産額が一定の基準を満たすもののうち、年間収入額5,000万円以下のものに限ることとされた。
 公益法人制度改革の目的は、民間非営利部門の活動の健全な発展を促進し民による公益の増進に寄与すること等であり、公益的な性格からこれまで非課税措置が講じられてきた施設の性格に、本来、何らの影響を及ぼすべきものではなく、新制度に円滑に対応できるようにする必要がある。
 したがって、旧制度における公益法人等が一般社団法人・一般財団法人に移行する場合、これらの図書館、博物館等の施設に対する平成26年度分以降の固定資産税等については、収入規模に関わりなく非課税とする等、適切な措置を講じることを要望する。