2014年10月16日

平野会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

髙木専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 全銀協および全国銀行資金決済ネットワークでは、決済システム等を取り巻く国内外の環境変化を踏まえ、中長期的な観点から今後の全銀システムのあり方等に係る検討を行っているところであるが、このたび、お手元の資料のとおり、検討状況の中間報告をとりまとめた。
 全銀システムの稼働時間の拡大、ならびに金融EDIの活用それぞれについて、ポイントを簡単にご報告させていただく。
 まず、全銀システムの稼働時間の拡大であるが、お手元の資料の1.(4)に記載のとおり、[1]現行の全銀システムにおける稼働時間を加盟全行で拡大する案、[2]別システム構築を通じた全銀システムの機能拡張により、土日祝日を含む稼働時間を拡大する案、の2案に絞り込んでいる。この案のいずれか、または組み合わせることで、全銀システムの平日夕方以降および土日祝日を含め、稼働時間拡大の実現を目指していく方針である。
 金融EDI活用については、資料の2.(2)、および(3)に記載のとおり、産業界のニーズをしっかりと踏まえる必要があることから、関係省庁や業界団体とも連携し調査を継続していくとともに、11月に流通業界と実施する共同システム実験の結果等も踏まえて、実現可能なスキームを検討してまいる。
 今後、全銀システムの稼働時間拡大、ならびに金融EDI活用それぞれについて、さらに検討を進める。
 事務局からの報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 全銀システムのあり方について2問ご質問する。中間報告で2案に絞り込んだとのことだがもう少し踏み込んでお話をしていただきたい。実際の稼働時間はどれくらい延びるのか、手数料は今と変わらないのか、あるいは実現する時期、それぞれ[1]案と[2]案はどのタイミングで実現するのか、これに伴い個人と法人にどういったメリットがあるのか、それらを含めてお答えいただきたい。
(答)
 ただ今、ご報告申しあげたとおりであるが、全銀協としては、政府が現在進めている日本再興戦略、あるいは諸外国における動向を踏まえて、資料の「(4)基本コンセプト」に記載のとおり、決済インフラの高度化を実現する方向である。1行目の後半に記載のとおり、「平日夕方以降および土日祝日を含め、全銀システムの稼働時間を拡大していくことが望ましいと認識」している。
 ここに2案お示ししているが、記載のとおり、いずれか、または組み合わせるということを含めて、これから具体的な検討に入る。実現時期については、今ここでは申しあげられないが、おそらく[1]であれば比較的早期に、[2]であればシステムの要件定義、開発、テスト、実行というステップを踏むことになるのでそれなりの時間がかかる、とご理解いただければと思う。
 お客さまへの影響については、ご利用いただける時間が長くなれば、国内調査結果にも記載したとおり、個人のお客さまのネットショッピング、あるいは週末における冠婚葬祭等の急な事態に備えるためのニーズが相応にあるという結果が出ており、こうしたニーズにお応えすることが可能になる。そういった面での利便性が改善する。
 それからもう一つ、私どもが意識しているのは、IT、最近はICTという言い方をすると思うが、IT技術の進化に伴って、スマートフォン等も活用した電子決済の多様化、高度化が進んできている。この動きも視野に入れながら、我々銀行界としても取り組んでいくべきとの認識である。
 手数料に関しては、基本的に各行がビジネス戦略、事業戦略にもとづいて検討すべきものであり、全銀協としてコメントする立場にはない。ただ、私ども金融機関としては、先ほども申しあげたように、お客さまのニーズに応えたうえで、健全な競争を行っていくこと、これが社会的な責任を果たすとともに企業としての責任であると考えている。


(問)
 稼働時間が何時間くらい延びるかというような目安はあるのか。
(答)
 今、ここでお答えできる回答はない。これから検討を進めて、年内には何らかの最終的な報告をまとめたいと思っているので、それまで今しばらくお待ちいただきたい。


(問)
 先ほど、手数料のお話を伺ったが、地銀等には投資負担がかさむのではないかとの懸念もあると聞いている。大手銀行と地方銀行等で別の仕組みにする、あるいはやはり決済なので皆同じ仕組みにした方が良いとの考え方もあると思うが、そのあたりのご見解をお願いしたい。
(答)
 確かに両方の考え方があると思う。実際、海外のケースを見ても、必ずしも全金融機関が加盟する形でファストペイメントを実現しているとは限らない。ただ、私ども全銀協としては、この全銀システムが日本における重要な決済インフラであり、かつ、機能性にも優れたものであるという点を考えると、極力多くの金融機関、できれば現在全銀システムに接続している全ての金融機関がこれを利用することが好ましいと思っている。仮に、一部の金融機関だけが先行してシステムを構築する、あるいは金融機関が二つないし三つに分かれて、別々に投資を行うと、かえってコストが増加することになるため、極力幅広い金融機関の参加が可能になる形でのシステム設計を心掛けたいと思っている。


(問)
 決済に関連して伺いたい。10月9日(木)から、金融審議会「決済業務等の高度化に関するスタディ・グループ」での議論が開始された。東京五輪も控え、非現金決済の大きな流れに向かう機運が高まりつつあるが、銀行におけるリテール・法人の決済ビジネスモデルの方向感について、どのようにお考えかを教えていただきたい。
(答)
 まず、「決済業務等の高度化に関するスタディ・グループ」での検討は、先ほど私が申しあげた問題意識と同じく、情報通信技術の急速な発展等、決済を巡る環境が大きく変化しており、かつ、電子商取引等の拡大に伴う決済高度化に対するニーズが高まっていること等が、検討の背景となっている。
 したがって今回のスタディ・グループのテーマとしては、日本国内の決済だけではなく、例えばアジアにおける共通決済インフラの整備等も想定されており、まさにタイムリーなスタディ・グループの開始ではないかと感じている。
 全銀協としてもスタディ・グループに参加しており、先進的技術を取り込みながら、より高度なインフラを作っていくという、まさにスタディの場にしていきたいと考えている。
 続いて、リテール・法人それぞれの決済ビジネスモデルについてである。
 まず、現在の全銀システムは、リテール・法人関係なく、非常に幅広く、かつ頑強で信頼性の高いシステムである。また、汎用性があり、かつ即時性も兼ね備えている。したがって、全銀協としては、今後も技術の進歩、ニーズの多様化や高度化に合わせ、さらに全銀システムを高度化していくという循環を作っていきたいと考えている。
 銀行のビジネスに関しては、そもそも、リテールと法人は別のものと考える。リテールに関しては、特に消費者、コンシューマーを対象にしたeペイメントといった電子決済サービス、あるいは電子商取引が、様々な形で発展してきている。これは、日本においては楽天やYahooが、海外においてはamazonやアリババがあり、それらに決済が徐々に統合されるような方向にある。そうした流れのなかで、銀行がどういう役割を果たすか、といった問題の立て方が一つある。
 それからもう一つは、カードや銀行の実店舗といったリアルの世界である。デビットカードも含め、カードの世界がもう一つの大きなチャネルであることは間違いないと思う。したがって、銀行のビジネスモデルとして申しあげれば、まず、バーチャル、デジタルあるいはインターネットやモバイルの世界、次にカードの世界、3点目に銀行システムの世界、これら三つの分野において、それぞれの特徴を最大限に発揮できるような、そういうビジネスモデルを構築していくことになるだろうと考えている。
 法人に関しては二つのことを考えなくてはならない。1点目に、相当大きな資金が移動するので、やはり安定性・安全性・頑強性が重要であることは間違いない。この点は、銀行の強みを活かせる領域だと思う。加えてもう1点は、日本国内だけではなく、クロスボーダーの取引が活発化しているので、この分野におけるニーズにどう応えるかというテーマである。
 いずれにせよ、銀行が背後にある決済サービスと、それがない世界でのサービスがある。資金決済法が制定され、日本でも非金融機関による決済サービスが進んでおり、一方、海外においてはペイパルがあったり、クロスボーダーの送金が極めて低料金で行われるという現実があるが、そうしたサービスと、銀行が背後にあるサービスとの違いは何かということをきわめていくのが、これから非常に重要であると思う。
 銀行は規制のもとに置かれ、かつ、国際的な規制も多く導入されるなか、そのためのコストも相応に掛けている。それにより得ている信頼・信用、これをやはり基軸として、銀行の決済ビジネスを組み立てていく。そして、それにいかに利便性や柔軟性等を付加していくかが重要なのだろうと考えている。


(問)
 マーケットに関してお伺いしたい。昨日の欧米市場における株価下落に続き、本日の東京市場でも株価が下がり、世界的に株安局面に入っているが、今の状況をどう受け止めているか。また、株安の背景には、世界経済の不透明さが増しているということがあると思うが、今後の世界経済の先行きをどう見ているか、この2点をお伺いしたい。
(答)
 先週の中盤以降と思うが、ドイツの8月の輸出や生産が前月比マイナスになったという報道をきっかけに、今の相場の変調が始まっている。この変調の背後にあるのが世界経済の成長減速に対する懸念、あるいは不安であることは間違いないと思う。それに伴って、リスクオフの動きが顕在化している。加えて、もう一つ申しあげれば、米国における量的金融緩和からのイグジットが日程に上り始めており、市場全体が非常に神経質になっているという、大きなバックグランドがあると捉えている。
 このようななか、実体経済はどうかということであるが、私は先週IMF、世界銀行関連の会合に出席するためにワシントンにいた。そこでIMFのラガルド氏が言っていたのは、「New Mediocre」という最近有名になっている言葉である。これを日本語に訳すのは難しいところであるが、彼女は、今の世界経済を「Mediocre」という言葉を使って表現した。10月にIMFでは世界経済見通しを出しているが、その言葉を引用すると、「世界経済は、ばらつきはあるが全体として回復を続けている」ということである。したがって、「Mediocre」とは、成長が止まっているとか、下降に向かっているという意味ではなく、成長は続いているが、期待したほどではない、という意味だと思う。我々としては、そこをよく理解する必要があり、つまりパニックになってはいけないということである。
 実体経済は、米国経済は基本的に強いと思う。もちろん雇用の質の問題等が取り沙汰されてはいるが、基本的には企業業績は極めて好調であり、設備投資も前向きである。また、将来に向けての資源、すなわちシェールガスという新しい動きもあるということで、米国経済の着実な回復が腰折れするということは基本的にはないと見ている。
 ただし、そのリスクについては、いくつかの言われているポイントがあり、ワシントンでは、大きく言えば三つが話題になった。一つはやはり欧州、二つ目は地政学リスクであり、これはウクライナとISISの二つである。そして、三つ目はエボラ出血熱の問題である。特に米国内ではエボラ出血熱への関心は非常に高く、ISISよりも米国内では政治的あるいは消費者のマインド的にはより大きな事柄かもしれない。このようなリスクが認識され、一部顕在化しつつあることから、世界経済の下振れに対する懸念が強まっているという状況だろうと思う。
 したがって、世界経済が成長の軌道から外れているという捉え方をする必要は現時点ではないが、如何にダウンサイド・リスクを抑えて、世界経済をしっかりとした成長軌道に戻していくか、これに我々としては意を用いるべきなのだろうと思っている。


(問)
 昨日、経産省で再生可能エネルギー買取り制度の見直しについて議論がスタートした。金融機関はこれまで太陽光、メガソーラーに対して積極的に融資してきたが、今後どのように影響が及ぶのか。一方、地熱や風力にシフトしていくとすれば、将来性をどうみているか。
(答)
 私自身の認識としては、再生可能エネルギーの普及は重要であり、かつ、持続可能性が必要ということである。今回の制度見直しは、後者の持続可能性が問われているということであろう。
 これまで事業者や金融機関は、こうした点を念頭に置きつつ、現行制度に則って事業計画を進めてきた。今回の固定価格買取り制度の見直しにあたっても、留意すべき点であると思うし、今後、仮に他の再生可能エネルギーに政策的な重点が置かれるのであれば、二つの考え方に則って、同様に対応していくことになるであろう。


(問)
 先ほど発表された決済に関して、「(4)基本コンセプト」の[1]については「加盟全行で拡大する案」とされている一方で、[2]には「加盟全行」という言葉がない。つまり、別システムを構築する[2]の案については、加盟全行ではなく、参加は自由ということか。
(答)
 [1]に関しては現在の加盟全行が稼動時間を拡大するというものであるのに対して、[2]に関してはもう少し弾力的な対応の余地もある案である。しかし、先ほどお答えしたように、システムが二元化、三元化することは好ましくなく、仮に[2]を選択するとしても、例えばコアタイムに関しては全行参加とする等、極力、加盟全行が参加する形で、新しいシステムを構築したいと会長としては考えている。


(問)
 特に法人を意識して使われたと思うが、先ほど会長のほうからクロスボーダーというお言葉があった。稼動時間延長については、イギリス・シンガポール・オーストラリアが始めているが、それと同時に、ISO20022もグローバルで議論となってきている。ISO20022については、全銀システムではすでに採用しているが、イギリスもこれからそれを順次やっていくという流れになると思う。
 今後は、クロスボーダーの決済に関する議論が出てくる余地があると思うが、今回の全銀システムの時間延長では、さほど遠くない将来に、クロスボーダー決済のリアルタイム化といった議論が出てくる可能性があることを想定しているのか。
(答)
 今回の取組みは、あくまでも日本の国内における金融機関相互間の決済を対象にしている。クロスボーダーという点では、例えば海外の企業が日本の国内に置いている口座間の送金を行うことは可能であり、こういった取引は今回のスコープの対象となる。
 一方で、法人だけでなく個人も含め、国を跨るクロスボーダーの資金決済については、全銀システムだけでは解決できない。
 ご承知のとおり、対外的な円決済は外為円決済制度が司っており、これを変えていかないといけない。この制度は、日本銀行が運営している決済システムを利用しているが、その新日銀ネットの稼働時間延長が2016年2月に予定されている。現在の19時から21時まで延長され、同時に、外為円決済も同じ時間まで延長が検討されており、クロスボーダーの円決済の高度化に向けた動きはすでに一部で始まっている。
 私ども全銀協としても、そういった流れにも目を向けながら、これからの決済システムの構築を進めてまいりたい。


(問)
 先ほどクレジットカード等の決済でも、最終的には銀行間、つまり全銀ネットを活用した決済が行われており、銀行にはそのような基盤があるとのことだったが、その一方で、非銀行系の事業者が決済を武器に商売を拡大しているという状況もある。銀行界は、この決済分野を銀行以外の事業者に侵食されるリスクがあるという、そういう危機感はお持ちであるのか、それとも銀行がやっている決済は他の事業者がやっていることは異なり、自分たちの領域には関係ないものだと考えているのか。
(答)
 先ほど少し触れたつもりでいたが、十分でなかったようなのでもう一回申しあげる。
 海外での会議等で議論していると、情報通信技術、これは単純にインターネットだけではなくて、ビッグデータであるとか、あるいはコグニティブ・コンピューティングや人工知能等の全てが、将来の銀行業の形を変えるだろうという共通の認識がある。それは私自身の認識でもある。
 したがって、決済についても、それらの技術を有効に活用する競合事業者との競争を念頭に置く必要がある。先ほどは、銀行は変わらなくてもよい、と申しあげたわけではなく、銀行が銀行以外の送金事業者であるとか、あるいは金融サービスの提供者と何が違うのかということを突き詰めて、変化しつつある世の中の潮流にどう対応していくかを考える必要があるということを申しあげた。


(問)
 東京電力への銀行団による特別融資の期限がまもなく来る。最近では原発の再稼働が遅れるなかで値上げや分社化が議論されている。このような議論を見据えて、銀行団としてはどのような姿勢で融資の借換えや今後の対応を考えているのか。
(答)
 この場では個社の問題には踏み込まないのがルールだが、電力の問題は社会的に影響が大きく、個社の問題というよりは電力業界全体の問題と考えるためお答えする。
 まず支援スタンスについてであるが、電力事業、電力業界は日本の家計や産業を支える経済の基盤であることから、金融界としても可能な限りのサポートを行っていく、これは変わらない姿勢である。
 次に原発の再稼働が遅れているなかでの対応についてであるが、東京電力では、まずはコスト削減によって一層の合理化を図るとしており、9月に立ち上げられた「生産性倍増委員会」による各種の取組みを見守っていく。
 いずれにせよ、新総合特別事業計画に則して国による一歩踏み込んだ対応が行われ、金融業界もそれに対する協力が求められていることから、それぞれがしっかりと役割を果たすことが重要である。


(問)
 「金融システムのあり方に関する検討状況(中間報告)」のなかで、国内調査結果として「平日の夕方~夜および土・日・祝日には相応のニーズがある」と記載されているが、こうしたニーズが具体的にどの程度あるのか教えていただきたい。
(答)
 個人のお客さまでは、「夜間・土日祝日の即時入金を利用したい」との回答が52%。法人のお客さまでは、土曜日営業の企業の41%が「土曜日の当日着金を希望」と回答している。


(問)
 不正送金に関して、これまで法人の補償に関する指針等を発表されているが、それによって不正送金被害は実際に減っているのか、実態を教えていただきたい。8月は実際に減ったようであるが、これは日数の関係もあったように見受けられる。9月の動きも含めて実態について伺いたい。
(答)
 不正送金に関しては、毎回申しあげているとおり、セキュリティ対策と犯罪者のいたちごっこである。足元の数字はお約束しているとおりのタイミングで公表するが、それだけを見て一喜一憂しても仕方がない。犯罪者は弱いところをついてくるので、今は他のところを狙っているかもしれないし、それが一巡し、また狙ってくる可能性もある。ここは不断の努力を重ねるしかないと思う。
 何か対策を取れば一定の効果はあるが、さらに上をいくような新たな手口が開発され、また脆弱なところが突かれる。この繰り返しであることを念頭に置きながら対応することが重要と考える。


(問)
 全銀システムの件で2点お伺いしたい。1点目は稼働時間の延長をした場合に、コスト面以外で商慣習等におけるデメリットは生じないのか。
 2点目は、以前、英国の例が参考になるかもしれないと言っていたと思う。英国では、大手10行でシステムを作り、そのシステムに他の銀行が相乗りする形だと思うが、日本においても、大手行がシステムを作り、それ以外の銀行が相乗りする形は考えられるのか。
(答)
 1点目については、まず、金融犯罪に対する懸念がアンケートのなかでいくつか出ている。例えば、仮に深夜時間帯に全銀システムが動いて、寝ている間に不正送金が実行されると、今以上に不正送金のリスクが高まる。個別行の例であれば、送金するとスマートフォンにメールが送信される機能があるが、寝ていたら見られない。このような不正送金のリスクは日本だけではなく、海外においても同様であり、海外では、不正送金に対する警戒感から金額を少額に設定する等の工夫が行われている。よって日本においても、夜間帯には同じような問題があると思う。
 また、以前にも申しあげたとおり、決済が動くということは、送金する人がいて、決済の稼働を支える人がいるということになるので、ユーザー側の対応も、銀行側の対応も必要になる。加えて、手形交換時限の問題も、以前申しあげたとおり、考え方を整理する必要がある。
 2点目の大手行がシステムを作り、他の銀行が相乗りする英国方式については、今回の2案のなかには入っていない。


(問)
 いわゆるIR推進法案によるカジノの合法化が銀行業界や経済全体に与える影響についてどのように考えているか。また、融資等の事業機会に対して、どのような準備やリスク管理の体制整備を進めているのか。
(答)
 カジノ構想に関する法案については、一部修正のうえ国会提出の方向にあると聞いている。この法案の目的は、国際的な観光振興や地域振興につながり、経済への波及効果もあり、税収も増える、というものである。一方で、反社会的勢力の排除、マネー・ローンダリングの防止、ギャンブル依存症、青少年の保護等の様々な課題がある。これらの両面が十分に国会で審議され、合意形成されていくことを期待している。
 銀行としての対応は、その後に考えることで、法律の内容次第ではあるが、私どもも適切な方法で、金融機関としての機能を果たしていくことになると思う。ただし、これは個別行が判断する事項であり、全銀協として何か申しあげることではない。


(問)
 日本企業におけるグローバル人材の構築というテーマで伺いたい。海外の事業展開を積極化する日本企業が増えていくなかで、日本人・外国人を問わず、優秀な人材をどれだけ確保するかが、大きな課題になっていると思う。そうしたなか、例えば日立製作所のように、一部の企業では、人事をグローバルに一本化するといったアイデアを取り入れているが、金融界、銀行界において、特に、アユタヤ銀行の買収等を行っている御行としては、人事のグローバル化について、どのように考えているか。
(答)
 金融を支えるのは人である。したがって、海外、あるいは、海外に関連するビジネスをこれからも発展させていくために、人の育成が欠かせないことは、十分に認識しているところである。また、日立製作所における今回の対応は、グローバルな競争力をより強化するという観点から、タイムリーな動きと私自身は捉えている。
 個別行としての例をご紹介すると、2012年にグローバル人事室を立ち上げ、同室が中心となって、人事の制度設計を集約する施策の展開を始めているところである。
 まず最初はトップタレント層にかかる施策の展開から開始した。日本国内だけではなく、あるいは日本で採用された人だけではなく、世界中で採用された人のなかから、将来のトップマネジメント、すなわち経営の中枢を担うような人材のプールを作り、そうした人材の人事評価、研修、異動から開始した。実際、私自身もグローバル幹部研修に参加し、議論を聞いたうえでコメントするといったことを、日本やスイス、あるいは電話会議で行っている。
 人事評価についても、評価のシステムをグローバルに統一していくという試みを始めており、採用、教育、研修、人事評価等の各分野において、グローバルな人事の共通化を、今後進めていくことになる。ただし、それぞれのローカルマーケットにも人はいることから、私どもの場合は、人事制度を二層化して構築していくことになるだろうと考えている。


(問)
 2点お伺いする。1点目は、決済の高度化について24時間化を目指すのかということを確認したい。
 2点目は、国際金融規制の関係で、3メガバンクを含む29の銀行に損失吸収力をどこまで求めるかという議論の輪郭がそろそろ見えてきたのではないかと思うが、一部には、3メガで10兆円程度の調達が必要との見方もある。現時点で影響をどう見ているか。
(答)
 まず1点目について、資料の「基本コンセプト」とそのオプションをご覧いただきたいが、24時間とは必ずしも書いていない。さきほどご質問をいただいたように、24時間化することのリスクもあることを考慮したうえで、これから年末に向けて結論を出していきたいと考えている。
 2点目、これは従来GLACと呼んでいたものだが、今はトータルという意味でTLACと呼ばれており、バーゼルIIIの枠組みと合わせてトータルで損失吸収力のある資本ないしは債務を持つことをG‐SIFIsが求められていると報道されている。ただし、現状の協議の内容については申しあげられない。
 ただ、前回も申しあげたが、全銀協としては意見書を提出し、国際金融協会つまりIIFでもペーパーを公表する等、当局との対話を通じて理解可能な方向性にあるのではないかと個人的には感じている。


(問)
 国内の総資金利ざやについてお伺いしたい。特に御行の場合、前期の総資金利ざやの実績はマイナスとなったが、そういった厳しい状況は今も続いているのか、反転のきっかけのようなものは感じているのかお伺いしたい。
(答)
 これも繰り返し申しあげているが、従来、商業銀行は、預金をお預かりして貸出し、それに伴う利ざやを稼ぐというのが基本的なビジネスモデルであった。そういう意味で申しあげれば、一部の銀行において、総資金利ざやがマイナスになっていることは、大変危機的な事態と捉えている。
 ただし、その一因である貸出利ざやの低下は、基本的には需給の問題であることは以前もお答えしたとおりであり、これを個別行の努力で大きく変えることは難しいと思う。したがって、現在、各金融機関が工夫していることは、1番目は、やはり貸出利ざや以外でいかに収益を上げるかということである。すなわち、個人であれば、個別行では総資産営業と呼んでいるが、様々な運用性商品や相続等の分野において、お客さまのニーズにお応えすることで手数料を頂戴するというビジネスモデルをさらに進めることであり、法人であれば、M&Aやその他の金融商品の販売に伴う手数料を頂戴するといったフィービジネス、すなわち、非金利収入をいかに強化するかということである。
 2番目は、金利自体もある意味で需給バランスが崩れているということは極めて競争が厳しいことを意味しており、このような環境下では、非価格競争力のあるサービスを貸出に付加することで、利ざやを極力維持するといったやり方はあると思う。これは、最近では、コンサルテーションバンキングという言い方がされているが、お客さまの経営や事業上の課題にお応えすること、例えば、ビジネスマッチング等が典型的なケースであり、その努力をお客さまにご評価いただくことで、過度な金利競争に陥らないような取引関係をお客さまとの間で永続的に築いていく、そういった努力も大事だと思う。
 3番目には、内外の事業ポートフォリオのバランスをとることによって、銀行全体での採算を確保することであり、そういったビジネスモデルを持っている金融機関では、それももう一つのオプションであろうと思う。これらを含め様々な努力を重ねなければならないほど、銀行業界としては、非常に危機的な状況にあるということである。


(問)
 上期決算について伺いたい。具体的な中身は11月中旬の個別行決算の公表時になると思うが、上期が終わって銀行の事業環境についての感想はいかがか。特に7-9月期は、長期金利等が低下し、今年度も市場部門が牽引し、収益を稼ぐ構造になりつつあるのではないかと思うが、このあたりについても伺いたい。
(答)
 4-6月期はいわば市場が凪の環境であった。極めてボラティリティが低いなか、銀行も、また、証券業界もそうであったと思うが、非常に収益を上げるのが難しい状況が続いた。これは日本だけでなく海外も同じである。
 一方で、7-9月期は、ご指摘のとおり市場が動いたことから、それに伴う収益チャンスが生じたであろうことは間違いない。
 ただし、その機会をどういう形で捉えるかについては、最近では、各金融機関における市場のビジネスに対する取組みの仕方も変わってきていることから、影響度合いは各金融機関において、相応にばらつきが出るのではないかと見ている。


(問)
 9月に再開された政労使会議について伺いたい。会議のなかで安倍首相から、年功序列型賃金体系の見直しについて、経済界や労働界に対し問題意識として提起されたわけだが、銀行業界の現状はどうか。また、会長としてどうお考えかを伺いたい。
(答)
 安倍首相からの年功序列型賃金に対する問題提起は、労働の付加価値生産性に見合った賃金体系のあり方ということだと思う。
 一般論として言えば、日本の金融機関が置かれている環境、とりわけ海外金融機関との競争等にも晒されている金融機関にとってみれば、一段の労働生産性の向上が必要である。また、日本全体としても、海外の諸国との、あるいは海外の産業・企業との競争に晒されているわけであり、国全体でも必要ということである。そのために何をやるのかが問われているのであろうと思う。
 一方で、海外の金融機関における、過度なペイ・フォー・パフォーマンス、要するに成果連動型報酬に、前回金融危機の一つの要因があったのではないかとの非常に厳しい批判がある。したがって、そうした観点も当然念頭に置いておく必要がある。
 日本企業に関して言えば、各企業あるいは業界ごとに、これまで労使間で積み重ねられてきた賃金体系もあり、それらも十分考慮する必要がある。
 したがって、目指している方向、すなわち労働の付加価値生産性を高めるということはそのとおりで、頑張って取り組んでいかなければならないと思っている。ただし、そのために何をするかと言うのは、業界ごと、あるいは同じ業界でも業態ごとに、銀行で言えばメガバンクと地域金融機関とでは異なるであろうし、それぞれが工夫を凝らさなければならない。また、一つの会社のなかに、異なる賃金体系があっても構わないのではないかと思う。


(問)
 先ほどの国際金融規制について追加の質問をお願いしたい。先ほど、「理解可能な方向性」とあったが、具体的に「理解可能な」というのは何を指すのか。
 もう1点。規制導入で自己資本比率の引き上げというのは避けられないと思うが、具体的に邦銀にとってネックとなるのは何なのか。例えば、調達コストなのか、株主還元の停滞なのか、貸出ビジネスの拡大が妨げられるのか。
 この2点を伺いたい。
(答)
 理解可能というのは、Too Big To Failを繰り返さないという政策目標について理解できるということである。他方で、この政策目標を達成するための手段については、規制が不適切あるいは過度であることによって、実体経済の成長に必要な銀行としての機能、すなわち資金供給が損なわれることがないようにする必要がある。この二つの観点から、規制当局と金融機関の間で一定の認識の共有が出来るよう、協議が行われていると理解している。
 2番目の質問についてであるが、TLACは普通株、議決権付株式でなくてもいいので、割り切って言えば、コストの問題と言えるかもしれない。ただ、そのコストが金額次第ではそれなりのものになると懸念されるので、そうすると資本をヒットすることになる。資本は収益で出来ているということである。


(問)
 全銀システムの稼働時間の拡大により、企業活動にどのような影響が出てくるのか伺いたい。先ほど説明のあった手形の取扱いについてのご見解も伺いたい。
(答)
 先ほど述べたとおり、全銀システムの稼働時間拡大により即時入金される時間が延長され、その間の商取引がリアルタイムで行われることにより、資金の効率性を高めることが可能になる。一方で、時間延長に対応する社内体制を構築するには負荷やコストが掛かる点が企業側の課題となる。
 手形という日本で独自に発展したシステムをどうするかも結論を得る必要があり、法的側面、商慣習、銀行の事務面等から検討中である。
 また、先ほどご質問のあった不正送金についても、企業向けのオンラインバンキングでも被害が増えていることから、同様に留意すべきと考えている。


(問)
 FATFの勧告の履行状況が不十分といわれていた件で、臨時国会に犯罪収益移転防止法の改正案が提出されている。今後、金融界としての対応が必要になると思うが、どのように取り組んでいくのか伺いたい。
(答)
 前回かなり詳しく述べたので今回は簡単にお話したい。犯収法の改正法案および国際テロリスト財産凍結法案が今臨時国会に提出されたが、私ども銀行界としてはこれを歓迎している。
 加えて、もう一つ、昨年の通常国会に提出され、現在継続審議中となっているテロ資金提供処罰法改正法案も含め、早期に成立することを引き続き強く期待している。前回も申しあげたが、アンチマネー・ローンダリングに関する規制が厳しくなるなか、コルレスバンキングを縮小する動きがある。日本の金融機関がコルレス契約を打ち切られ、その結果として送金が出来なくなる、あるいは送金が遅れることが起こりうるということを念頭におく必要があると思う。
 一方、ご質問のとおり、お客さまへの影響が相応にあるので、円滑な制度導入に向け、私ども銀行サイドの実務対応も急ぐ必要がある。また、政府におかれては、広報活動を徹底していただきたい。実行段階においては、これらが課題になると思う。