2014年11月13日

平野会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

髙木専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日の理事会で、お手許の資料のとおり、中小企業金融等への取組みについて申し合わせを行った。
 内容としては、年末の資金需要への柔軟かつ積極的な対応に加え、コンサルティング機能を発揮した取組みの一層の重要性等について申し合わせを行っている。また、お手許の資料のとおり、「中小企業者等に対する金融の円滑化に向けた行動指針」の改訂を行った。金融仲介機能の積極的な発揮に向けて、行動指針の表題を変更し、本年2月に「経営者保証に関するガイドライン」の適用が開始されたことを踏まえ、経営者保証に依存しない融資の一層の促進を示す等の変更を行ったものである。
 銀行界では、今回の申し合わせの内容や、同行動指針の趣旨を十分に踏まえ、より一層、金融仲介機能を発揮し、国民経済、地域社会の安定的な発展、公共の福祉に貢献できるよう努めて参る。
 事務局からの報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 政府が年内にも判断するとしてきた消費税率10%への引上げについて、政界でも様々な議論が起きているが、現時点で会長はどのような見通しをお持ちか。引上げの是非も含めて改めてご所見を伺いたい。
(答)
 消費税率の引上げについては、全銀協の会長として来週17日(月)の「点検会合」に招聘されている。「点検会合」の場では、当日の朝公表される予定の7~9月のGDP成長率を見たうえで、意見を申し述べるつもりである。
 したがって、本日は、現時点での基本的な整理についてお伝えしたいと思う。まず、わが国が国際社会からの信任を維持し、向上させるためには、成長戦略の着実な実行による安定的な経済成長を実現し、同時に、財政再建への不断の取組みを進める必要があるという点を申しあげておきたいと思う。これを前提にして、3点申しあげる。
 まず1点目、足元の経済状況であるが、個人消費や生産を中心に、一部指標に弱さが見られるが、企業業績や設備投資、雇用・所得環境の改善は続いていると見ている。個人消費は消費増税あるいは夏場の天候不順もあり、振るわなかったが、その影響が徐々に和らぐ方向にあると見ており、総じて景気は穏やかながら回復基調を維持しているという認識である。日銀の追加金融緩和も、景気の弱めの動きや先行きに対する懸念を和らげ、景気回復のモメンタムを維持・強化する方向に作用するのではないかと見ている。
 2点目は財政再建である。プライマリーバランスのGDP比赤字を2015年度までに2010年度比半減し、2020年度に黒字化を目指すとの政府目標の達成に向けては、財政構造改革として、歳出面では社会保障制度改革、歳入面では消費税率の見直しを含む改革が必要という点である。
 3点目は、消費税率引上げを予定どおり実施した場合のリスク、すなわち、景気の下押しリスク、および、延期する場合のリスク、すなわち、内外から政府の構造改革姿勢の後退と受け止められるリスク、これらをどう見るかであり、二つのリスクを比較考量する必要があると思う。前者の景気の下押しリスクに関しては、経済対策を講じることで対応が可能と考える一方、後者に関しては、より構造的な問題に関するリスクであると認識しており、中長期的なわが国に関する信認の問題だと捉えている。
 以上が現在の整理である。以前、よほど深刻な景気の落ち込みがない限りは、予定どおり消費税率の引上げは実施されるべきだと申しあげたことがある。足元は、そのような事態ではないと考えているが、市場の動きあるいは先ほども申しあげた7~9月のGDP成長率も踏まえ、17日(月)の「点検会合」で意見を申しあげたいと考えている。


(問)
 今言及があったが、日銀が先月末に踏み切った追加の金融緩和をどう評価しておられるか。日本経済への影響、ひいてはビジネスへの影響という観点からご所見を伺いたい。
(答)
 先月31日の決定は、日銀が2%という「物価安定目標」を何としてでも達成するという不退転の決意を示したものである。市場参加者の多くが予想していなかったこともあり、金融市場を大きく動かす結果となったが、総じて市場の反応はポジティブであったと考える。日銀は2%の「物価安定の目標」を安定的に持続するために、必要な時点まで「量的・質的金融緩和」を継続する意向であり、今後も経済・金融情勢にあわせて適時・適切に対応されることを期待している。
 次に、日本経済への影響ということだが、マクロ的に見れば、株価の上昇は消費者マインドの改善、あるいは個人消費の回復に寄与するだろう。また、円安は輸出企業を中心とした企業業績の拡大・改善に寄与し、結果として雇用・所得環境の改善、企業の設備投資の拡大に繋がることが期待される。
 一方、最近指摘されているところだが、内需型企業あるいは中小企業については、円安に伴い原材料価格が値上がりしても、価格転嫁力が弱く、収益あるいは資金繰りへの影響が懸念される。
 すなわち、為替相場の変動が企業業績、企業の収益に与える影響は、業種あるいは企業規模、価格転嫁力等によっても様々であるので、追加緩和の結果として生じた為替相場の変動が、取引先企業の事業、あるいは業績に与える影響を私ども銀行としても注視していく必要があると考えている。


(問)
 3点お伺いしたい。まず、日銀の追加金融緩和に関連して、もし消費税率引上げが見送られた場合、テールリスクとして将来的に国債価格が下落するとの見方もあると思うが、国債運用が主体である銀行の経営に与える影響についてお伺いしたい。
 2点目は、銀行業界全体として、国内で利ざやがなかなか取れないなかでは、海外へ展開し海外の成長をどう取り込んでいくのかが鍵になると思うが、足元の海外経済についてどのように見ているか。
 3点目は、中小企業金融に関する取組みの公表に関連して、金融の円滑化と、転廃業の支援といった新陳代謝とのバランスについてどのように考えているか。
(答)
 まず、1点目は、短期的に見れば、今回の追加緩和の結果、国債市場では特に中長期のゾーンを中心に金利低下が予想される。これにより、金融機関が保有している国債のポートフォリオのイールドが下がり、金利収入が一段と減少することになると考える。また、中長期の金利がベースレートに使われる取引の金利低下を促す可能性もある。他方、中長期的に見た場合、わが国の財政、あるいは国債の信用に対する信認が揺らぐこともあり得るため、これを常に念頭に置いておかなければならないと考える。
 もちろん、各金融機関においては、ストレステストの実施等を通じてこうした事態に備えていると思うが、引き続き留意していく必要があると認識している。
 2点目の海外経済の見通しについては、まず、米国経済は底堅いと思う。以前にも申しあげたが、リーマンショック後の循環的な景気回復期にあることに加え、シェールガス革命や3Dプリンター、IT分野での様々なイノベーションをいち早く取り込む形で経済を活性化させつつある。雇用の質の課題は依然抱えたままで、戸建住宅販売もまだ若干弱いところがあるが、おそらく米国の底堅い成長はこれからも続くとみてよいと思う。
 次に、欧州については、当面厳しい状況が続くとみられ、とりわけウクライナ、中東といった地域における地政学リスクが欧州経済の足を引っ張る可能性があるのではないかと思う。
 一方、アジアは比較的堅調と思う。中国も徐々に構造改革が進むにつれて成長ピッチを落としていくとは思うが、引き続き7%、あるいはそれに準ずるような成長を続けていくとみてよいと思う。こうしたマクロ的な状況を正しく捉えつつ、銀行としても海外のビジネスを展開していく必要があると考える。
 3点目の中小企業金融への取組みについては、いわゆる金融円滑化のフェーズは終わりつつある。もちろん、中小企業の資金繰り支援は重要であり、とりわけ、昨今の急速な為替変動による中小企業への影響は懸念されるため、引き続きしっかり取り組んでいく必要がある。
 一方で、失われた20年を振り返って思うのは、企業・産業の新陳代謝が停滞し、日本の潜在成長率が下がってきていることである。私どもは、円滑化の次のフェーズとして、起業と並び、廃業・転業への支援に対してもしっかり取り組んでいく必要がある。地銀協が今年の9月に取組み事例をまとめる等、これらに対する取組みはすでに各行で始まっており、これからも続いていく。


(問)
 1点目の質問は消費増税を見送った場合の影響という意図だが、先ほどのお答えのとおり、ということでよいか。
(答)
 消費税率引上げが見送られた場合の影響については、なかなか予断を持ってみることはできないと思う。ただ、短期的には、日銀の追加金融緩和が行われ、黒田総裁も強い決意で金融緩和を維持されようとしているので、国債が翌日から直ちに暴落することは考え難い。しかし、私どもは、常に中長期的な視点を失ってはならないと考えている。


(問)
 先日、TLACの概要が公表されたが、かねてから問題意識を持たれていたこのテーマに関して、メガバンクへの影響をどう見ているか。それと、テーマは異なるが、地銀再編が相次いでいるが、現状の流れをどう見ているか。2点お伺いしたい。
(答)
 TLACについては、11月10日にFSBから市中協議案が公表された。私どもは、今年の7月31日にポジション・ペーパーをFSBに提出しており、そのなかでいくつか要望、提言を行った。特に重要なポイントとして、他の規制、特にバーゼルIIIとの整合性をとるべきであるということと、水準は各国あるいは各法域の破綻処理法制あるいは制度の整備状況を考慮して決められるべきであるという点を申しあげていた。
 今回の市中協議案を見ると、最初の点については、GLACと呼んでいたものをTOTALということでTLACと呼ぶようになったように、バーゼルIIIの資本を、バッファーやサーチャージは別であるが、基本的にはカウントできるということになった。
 2番目の点については、特に私どもが念頭に置いていたわが国における破綻処理制度としての預金保険制度、これが強靭なものであるとされて考慮された。これは金融庁によるメディア向けの説明のなかにあったと思うが、私どもの主張を反映したものとなっている。預金保険制度を勘案し2.5%分をカウントしてもらえるということである。
 また、日本の場合は、G-SIBである3メガは持株会社の形態をとっているが、持株会社におけるシニア債、一般債は、いわゆる構造劣後性を認められることになっている。したがって、現在、傘下の銀行業態で発行している社債を持株会社で発行すれば、これは今回のTLACにカウントされるということになった。
 以上の3点をもって、私どもとしても今後の対応に関する透明感が増した、見通しがよくなってきたと評価しているところである。
 2点目のご質問であるが、最近の地域金融機関における再編の動きについては、これは各行の経営陣がお決めになることであり、私からコメント申しあげることはない。
 ただ、一般論として申しあげれば、企業が競争力を維持する、あるいは強化する観点から、統合や再編を行うことは選択肢の一つであると考える。とりわけ銀行業界においては、ご承知のように、少子高齢化や低金利の継続、あるいはIT投資を含むコスト増といった極めて厳しい経営環境に置かれており、こうした厳しい環境への対応を考えるなかで、各行の経営者が判断される問題であると考える。


(問)
 先日の米国での中間選挙で、共和党が上院・下院ともに過半数をとったことでFEDの規制強化の流れが変わってくるのではないかとの期待感が金融機関にあるように見受けられる。御社も外銀への規制に対応してIHC等取組みを進めているが、その辺りを会長はどう見ているか。
(答)
 一言で言うと、これまでの大きな流れは変わらないとみている。理由は、米国におけるドッド・フランク法あるいはボルカールールといった諸規制はToo Big To Failの問題を解決しようというものであり、Too Big To Failについて言えば、おそらく国民のほぼ全てがこれを回避すべきと考えているためである。共和党も民主党も、この点については同じだと思う。したがって米国における金融規制強化の大きな流れが変わることはないとみるべきである。
 ただし、やや細かな話になるが、日本の金融円滑化の話に似ているが、中小の金融機関に対して規制が厳しすぎるのではないか、という声はすでに出ているし、今回の選挙の結果を受けて高まってくる可能性がある。そのため、中小の金融機関に対して適用免除や猶予といった動きが起こることはあり得るとみている。


(問)
 国際的な租税に関する仕組みについてお伺いしたい。OECDで各国の金融機関の口座情報を交換する仕組みを整備する動きが進んでおり、早ければ2016年にも始まると聞いているが、これに対して銀行界はどのように取り組んでいくのか。加えて、全銀協として会員行への周知等でどのように取り組んでいくのかお聞きしたい。
(答)
 ご質問の内容は、OECD租税委員会で検討されている多国間自動的税情報交換の枠組みのことではないかと思う。この枠組みに似たものとしてFATCAがあるが、これは米国の制度ですでに実施されている。
 ただ、今回のOECDの枠組みは、FATCAよりもさらに負荷の大きいものである。例えば、報告対象になるお客さまの預金口座残高に関わらず口座確認作業をしなければならないことや、海外在住者に関し居住国の納税者番号取得に関する努力義務が課せられること等である。したがって、全銀協としては、FATCAとの平仄を極力合わせるという観点も含めた実務面での配慮を要望している。
 今年7月にOECD租税委員会からコメンタリーが公表されているが、国内法の整備状況も見ながら、システム対応をはじめとした金融機関側の準備に必要な期間にも考慮した枠組みとなるようお願いしているところである。


(問)
 与党幹部の発言を聞いていると、解散・総選挙がほぼ既定路線になりつつあるような印象を受けるが、この時期の解散・総選挙については、経団連の榊原会長等からは、「現時点では政策課題の遂行に全力を注ぐべきで解散をすべきではない」という声も聞かれる。この時期の解散・総選挙について、会長はどのように受け止めているのか伺いたい。
(答)
 年内の衆議院解散・総選挙という報道があることは承知しているが、衆議院の解散は首相が判断されることであり、私から申しあげることはない。
 ただ、今後の経済を考えると、今は極めて重要な時期である。仮にではあるが、解散・総選挙ということがあるのであれば、空白を生じないように所要の対策を講じていただく必要があるであろうということだけ申しあげる。


(問)
 所要の対策というのは、なるべく迅速にやって政治の空白をできるだけ短くするという意味か、それとも、本国会で必要な法案は成立させるという意味合いか、どういったイメージをお持ちか。
(答)
 先ほどの消費税の話の際にも申しあげたが、このところ景気回復にややもたつき気味のところがある。したがって、今後、そういった事態を長引かせることがないように、その期間中においても、日本経済に必要な施策が滞ることがないように対応をしていただく必要があるであろうということを申しあげた。


(問)
 仮に消費増税が見送られた場合について伺いたい。日銀の黒田総裁は、財政健全化の重要性と消費増税の必要性について、これまで発言してきたと思うが、仮に政府が消費増税を見送った場合、日銀と政府の関係性について、車の両輪が上手くかみ合っていないのではないかとの印象や意見もあるのではないかと思う。会長として、日銀と政府の関係についてどのように見ているか伺いたい。
(答)
 政府と日銀は昨年以来、日本再興に向けて目標を共有し、それに対して必要な政策を、政府として、あるいは中央銀行として打ってこられた。これが今後も続くことを、私どもとして期待している。


(問)
 貸出についてお伺いしたい。金融緩和により日銀の当座預金が増加しているが、今回の日銀の追加緩和の結果、また当座預金が増加するだけなのか、あるいは違うところに投資されるのか、見通しを教えていただきたい。
(答)
 まず、全銀協の9月分の集計では、銀行貸出は前年比2.0%増と、平成23年9月から37か月連続で増加している。業態で見ても、都市銀行、地方銀行、第二地銀、信託銀行全ての業態で増えており、間違いなく貸出は伸び続けている。
 金融緩和の効果はいろいろあるが、金利の低下を補うために、一つはボリュームを増やす、もう一つはよりリスクを高めてリターンを取りにいくということが、世界中の金融機関の行動である。日本の金融機関もそれと同様の動きをしていくと思う。証券投資のポートフォリオに関しても、従来の国債中心の運用から、外債や、場合によってはETF等への多様化が進んでいる。
 このような動きは、主要金融機関だけではなく地域金融機関においても見られ、例えば海外に対する貸出やプロジェクトファイナンスへの取組み等が増加していることがその一例であり、これからも続いていくと思う。
 懸念されるのは、いわゆる審査基準が緩和されることで将来のリスクの芽を生み出すということ。これは言葉を換えれば、金融バブルと言ってもいいのかもしれない。例えば米国では最近、OCC(通貨監督庁)の長官がLBOの引受け基準が大幅に変わっていることに対して警告を発した。これは米国における低金利を背景にした動きである。日本で今その芽が出てくることはないと思うが、今後留意していくべき点であろう。