2015年9月17日

佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ執行役社長)

髙木専務理事報告

 事務局から2点ご報告する。
 1点目は、本日、三井住友銀行の國部頭取を次期会長に推薦することが、理事会において了承された。来年の理事会での正式な選定手続きを経て、4月1日付で就任予定である。
 2点目は、本日の理事会において、お手元の資料のとおり、10月1日から10月31日までの1か月間を「振り込め詐欺等撲滅強化推進期間」とし、警察はじめ関係機関と連携し地方で開催されるイベントでの寸劇の上演や、新聞への記事広告掲載、会員銀行や各地の銀行協会における、全銀協作成の頒布物、お手元にある注意喚起チラシなどの店頭配布等を通じた注意喚起等を行うことを決定した。なお、各施策の概要は資料のとおりであるが、内容についてご質問があれば、会見終了後、事務局にご照会いただきたい。
 事務局からの報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様


(問)
 中国経済の減速、そして国際経済・金融情勢についてお伺いしたい。先頃の中国株式市場の急落、あるいは人民元の切下げ、あるいは新興国の減速を機に、国際金融市場のボラティリティがかなり高まっている状況が続いている。そうした中で、日本経済への影響を踏まえて、今後の見通しをお伺いしたい。
(答)
 主として中国経済について説明する。
 中国経済は、7月の会見でも申しあげたとおり、基本的には大きな構造問題を抱えながら走っている。いくつか例を挙げると、1点目は、過剰設備の問題と、シャドーバンキングを含めた過剰債務の問題がセットになって、より大きな問題になっている。2点目は、2015年をピークに国際基準で見ても労働力人口がいよいよ減り始めると同時に、人口の老齢化が日本のスピードをはるかに超えるかたちで進んでいくという人口問題。3点目は、環境問題。空気だけではなく、食糧問題を含めてそれが経済の持続的な成長への大きな足かせとなってくる懸念がある。
 昨今の中国経済の状況を見ると、足元のGDP成長率は7%と公表しているが、電力の使用量や貨物の輸送量などいろいろな角度から中国経済を見ると、相当スローダウンしてきていると感じている。実態は、より低い成長率となっている可能性もあるとも言われている。
 そうした経済のスローダウンに対して、中国政府はいくつかの手を打っており、例を挙げると、昨年11月から金利の引下げを5回実施している。足元では、財政面で、地方政府が公共投資プロジェクトの資金調達を円滑にし、地方でのインフラ投資を促すことで経済の浮揚を図るという考え方が実行に移されている。もう1点は、例えば住宅の売却に関する税金を引き下げるなど、住宅市場に対する刺激策も採られている。
 それらの効果は、電力の使用量などいくつかの経済指標からは若干ではあるが底打ち感が見てとれるため、おそらく中国経済全体でも、構造問題を抱えながらも足元の経済はいったん底を打ちつつある可能性が高いと感じている。
 しかし、問題はその先だと感じている。今年初めの全人代で、中国政府は「ニューノーマル(新常態)」という政策を打ち出した。このニューノーマルが目指しているものは、大きく二つあると認識している。1点目は、中国の経済構造そのものを、固定資本形成と輸出が支えていた経済から消費が支える経済へと大きく移していくということ。2点目は、いわゆる「中所得国の罠」から脱却するために、中国独自の技術の開発、すなわちイノベーションに国を挙げて取り組んでいくということである。先ほど申しあげたように、足元のスローダウンを何とか食い止めるために行われている政策は、地方のインフラや住宅など引続き固定資本形成に刺激策を投入して経済を支えるという考え方になっている。足元の景気減速は底を打ち、これ以上大きく沈むことがないかたちになりつつあるが、見方を変えると、ニューノーマルでやろうとした中国の構造問題を解決するために必要な改革をある意味先送りすることで、足元の景気のスローダウンを抑えている可能性もある。この点については、今後、より注意深く見ていく必要があると思う。
 1年や1年半といったタームで見たときには、今の景気刺激策が奏功して中国経済が世界経済全体のリスクになる可能性は低下していくと思うが、問題はその先にあり、2年後あるいは3年後に、構造改革が進まなかったために今ある問題がまた我々の前に登場してくる可能性もある。もちろんそのようなことがあっては困るわけだが、我々としてはこれからも中国経済の運営をしっかりと注視していく必要があるだろうと考えている。


(問)
 2点目は、これも前回の会見から引続きであるが、郵政民営化についてお伺いしたい。先ごろ、ゆうちょ銀行を含む日本郵政グループ3社の上場が東京証券取引所から承認された。かねてより全銀協は、ゆうちょ銀行の預入限度額の引上げについて反対を明言されている。
 今回、上場承認という新しいフェーズに入るわけであるが、改めて、民間金融機関とゆうちょ銀行が共存・共栄するために、ゆうちょ銀行はどうあるべきなのか、見解をお聞かせ願いたい。
(答)
 ご指摘のとおり、日本郵政グループ3社の上場については、9月10日に東京証券取引所から承認が得られたということであるが、これに先立ち、7月には金融担当大臣と総務大臣から郵政民営化委員会に対し、「今後の郵政民営化の推進の在り方」に関して、調査審議の要請が行われている。
 これを受けて、郵政民営化委員会は幅広い論点について意見を集約するということで、全銀協に対しても8月にヒアリングがあった。
 全銀協の郵政民営化に対する基本的なスタンスは、以前から申しあげている内容と変わっていないが、ご質問をいただいたので、株式上場が決まったということを踏まえて、改めて何点か申しあげたい。
 まず基本的な考え方であるが、今般の日本郵政グループ3社の上場は、特にゆうちょ銀行にとっては、我々が以前より申しあげている完全民営化に向けた一里塚、すなわち重要なワンステップという位置づけであり、しっかりとその方向に向かって進むということと理解している。そのうえで今回の上場はご承知のとおり、株式の売却代金が震災復興財源に充てられることが決められており、被災地の復興という観点からは、この上場が成功裏に進むことが、日本経済にとっても、また被災地の経済にとっても極めて重要であることは申しあげるまでもないことだろうと思う。
 したがって、日本郵政グループ3社の株式上場については、私どもとしても是非とも成功裏に進めていただきたいと考えている。
 しかしながら、この上場を成功させるということについて、私どもはかねてから申しあげているとおり4点ほどイシューがあると考えている。
 1点目は、上場会社になれば新たな株主ができ、しかも一般の株主が入ってくることとなるため、「成長戦略の着実な実行」、すなわちエクイティストーリーというものが極めて重要になるという点である。日本郵政グループが4月に公表した中期経営計画や、先日公表された新規上場申請のための有価証券報告書では、ゆうちょ銀行の成長戦略の柱として、「資産運用の高度化」や「役務手数料の拡大」といった項目が掲げられている。
 ご承知のように、金融緩和政策によって超低金利が長い間続いている経済環境の下で、今までと同じように貯金を集めて、それを日本国債で運用するというビジネスモデルでは立ち行かなくなることは自明の理である。そこで、掲げられたような「運用戦略の高度化」や「役務手数料の強化」による収益増強策を着実に実行していくことが、ゆうちょ銀行が上場会社として経営リスクを縮小し、さらに持続的に成長していくモデルとして望ましい方向だと私どもも考えている。
 また、これも客観情勢であるが、デフレからの脱却や、昨今のNISAの普及等も含め、日本全体に「貯蓄から投資へ」という流れが整いつつある中で、巨大な顧客層を有するゆうちょ銀行がこうした取組みを強化していくこと自体が、政府の成長戦略の推進、そして何よりもお客さまの利便性の向上という観点からも極めて望ましい方向だろうと思っている。そうしたビジネス戦略をしっかり進めていただくことが重要であると思う。
 2点目は、公正な競争条件の下で我々民間金融機関との間での協調・連携を進めるべきだという点である。これまでも、ゆうちょ銀行の全銀ネットへの接続やATM相互接続といった取組みを通じ、様々な分野で民間金融機関とゆうちょ銀行との協調・連携が進んできており、お客さまの利便性の向上につながってきたと考えている。ゆうちょ銀行の強みである全国のネットワークや資金量と、私ども民間金融機関が持つ商品やサービスのノウハウを組み合わせて、両者が協調・連携を進めていくことにより、共に成長していくというストーリーが十分に描け、お客さまの利便性向上にもつながっていくと考えている。こうした民間金融機関との協調あるいは連携が、ゆうちょ銀行あるいは日本郵政グループの企業価値向上はもちろんのこと、わが国の成長戦略や地方創生というアベノミクスの大きな戦略的な目標をしっかりと実現していくうえでも非常に意義深いものだろうと思う。是非ともこの民間金融機関との協調・連携という点をしっかりと見据えていただくということが重要だと思う。
 3点目は、これも従来より全銀協として主張しているが、規模の縮小を通じた適切なリスクコントロールである。ゆうちょ銀行のバランスシートの規模は約200兆円で、国債への運用が今の段階では非常に多い。見方を変えれば、巨大な金利リスクを抱えているということであると思う。昨今は、アメリカをはじめとした世界的な金融緩和からの出口に備えた金利上昇リスクの管理について、世界中の金融機関でその重要性が指摘されており、対応しなければならない。また、それに対する国際的な議論も活発化している中で、ゆうちょ銀行はバランスシートに抱えている金利リスクをしっかりとハンドリングしていく必要があり、これは国民経済的なリスクといっても過言ではない。ゆうちょ銀行が運用の高度化や多様化を推進し、上場企業として企業価値を向上させていくためにも、適切なリスクコントロール、あるいは、それが可能になるレベルへの規模の縮小について、しっかりと対策を講じて実践していただきたい。
 最後に4点目であるが、グループの中の日本郵便との取引に関わる透明性の確保という問題である。銀行法の他業禁止の趣旨を踏まえると、異業種のリスク混入を防止し、ゆうちょ銀行の健全性を確保する観点から、日本郵便との取引に関わる透明性の確保は上場会社として非常に重要な問題だろうと思う。
 こうした4点を踏まえ、最初に申しあげたように、株式上場の成功に向けて、ゆうちょ銀行がビジネスモデルを早期に確立し、サステイナブルに成長していく形にもっていっていただくことが極めて重要だろうと考えている。
 したがって、従来から申しあげているとおり、ゆうちょ銀行の適切なリスク管理を含めた安定的なビジネスモデルの確立や持続的成長にとって大きな障害となる「預入限度額の引上げ」や「貸出業務への新規参入」は行うべきではない。上場会社として益々そういう問題がクローズアップされてくるだろうと考えており、この点については従来からの全銀協の主張を全く同じように申しあげたいと思う。
 私どもとしては、そういった正しい姿でゆうちょ銀行が成長していく中で、ゆうちょ銀行と民間金融機関がよりよい形でお互い切磋琢磨し、また連携していくことを通じて、顧客利便性の向上と、わが国の金融市場や経済全体の成長に大いに貢献していけること、将来像をともに築いていけることを、ゆうちょ銀行の上場を機に再度強く希望する。


(問)
 3点目だが、昨日、格付会社のスタンダード&プアーズにより、日本国債が1ノッチ引き下げられた。引下げの理由の一つとして、経済が今後2~3年で国債の信用力を好転させるだけに改善する可能性は低いということで、いわゆる「アベノミクス」への失望感といったものを挙げている。
 そこで、今回の日本国債の格下げに係るご所見と、併せて、海外投資家の反応や外貨調達コスト等、諸々の影響面について見通しを聞かせていただきたい。
(答)
 格付の基準は格付会社によってそれぞれ異なり、各格付会社が独自の格付手法にもとづいて判断するものと認識している。したがって、全銀協会長としては、個別の格付会社の判断についてコメントする立場にない。
 そのため、一般論としてお話しする。今回、スタンダード&プアーズは、日本国債の長期格付をAA-からA+に1ノッチ引き下げたが、これはある程度、我々のような市場関係者には予想されていたところである。本日の債券市場の動きを見ると、マーケットは極めて冷静に受け止めているようであり、ある程度は可能性があると受け止められていた、ということではないかと思う。
 格下げの背景であるが、ご指摘いただいたような「アベノミクス」、すなわち成長戦略の成果がなかなか現れにくい、あるいは、現れるのにもう少し時間がかかると言われている点と、日本の財政が厳しい状況に置かれているという点、大きく分けるとこの2点がポイントと言われている。
 まず、後者について申しあげると、政府は2020年度にプライマリーバランスを黒字化するという目標を掲げて、財政健全化を図っているところである。この目標に向けて、日本政府として、引続き財政再建を国家の非常に重要な課題として掲げながら、歳出・歳入のコントロールを続けていくということは、格付を維持する、あるいは、もう一度引き上げるために重要であると思う。
 もう一つは「アベノミクス」の効果である。これも格付会社によって見方が異なるが、安倍政権のスタート時点から比べると、明らかに株価や為替、企業収益、有効求人倍率が格段に良くなっているということは事実であるし、これらが全て所謂「3本の矢」のうちの「第一の矢」と「第二の矢」のみによる成果ではないと私は思う。「第三の矢」は、やはり、成果がなかなか見えにくい、あるいは、その成果が数字となって跳ね返ってくるのに少し時間がかかるということは事実であろうと思う。ただし、ご承知のとおり、規制緩和の問題も含めて、例えば、農業、医療の問題では、先般、国会で幾つかの法案が通っており、着実に歩を進めていただいていると認識すべきであろう。
 したがって、今回、スタンダード&プアーズが成長戦略の成果が現れていない、成果が現れるのが遅れていると指摘していることについては、一定の受止め方をしなければいけないものの、しっかりと成果が現れる時期は来ると思うので、その時には、今回の格下げの理由が成長戦略の遅れであったということをしっかり踏まえて、むしろ、格上げの議論に繋げるべき、もしくは、繋げることができるのではないか、と考えている。
 日本国債の格下げが国債価格や銀行の信用といったところにどう影響してくるかという、もう一つの質問であるが、今日のマーケットを見ていても、国債の価格に大きな変動が出ているというわけではない。日本経済は、世界最大規模の外貨準備を誇り、欧米に比べると消費税も含めて増税の余地があり、また、日本国債の90%以上は日本国民が保有している。このような日本経済の構造は何も変わっているわけではないので、スタンダード&プアーズによる日本国債の1ノッチの引下げが即座に日本国債の売りに繋がる、あるいは、日本売りに繋がることはあり得ないと思っている。
 ただし、先ほど申しあげた中国の問題も含めて、マーケットは非常にボラタイルな状況であり、市場のセンチメントがそうなっている。日本経済の構造上、起こりにくいまたは起こらないと思っているが、短期的にはマーケットが揺れる可能性はゼロではないので、しっかりとマーケットの状況を見ていくということは必要であると思う。個別の金融機関にとっても、資金調達コストあるいは保有国債の価値といった点で、経営に関係するということはご指摘のとおりであり、より注意深くマーケットを注視することが金融機関としても必要になってくると思う。


(問)
 明日のFOMCでアメリカが利上げするかしないかが話し合いで決定されるが、万が一利上げがあった場合、9月に利上げがあった場合、もしくは12月の場合、ドルの調達コストの上昇などを含めて、どのようなリスクが考えられるのか。足元のリスクとして会長はどのように見ていらっしゃるか。利上げによるメリットとデメリットも教えてほしい。
(答)
 FOMCで金利が引き上げられるかどうか、世界中が注目しているところだと思うが、FRBでどういう議論がされているのか分からないのでコメントする立場にない。一般論でいうと、しばらく前までは9月の利上げ説が非常に強かったが、足元の中国の景気減退を踏まえると、9月の利上げの可能性は低くなってきているとみる向きが多いのだろうと思う。
 強調したいのは、イエレン議長が言っておられるように、利上げのタイミングではなく、利上げのスピードあるいは利上げの規模といったものの方がマーケットに与える影響としては大きいのではないかということである。アメリカが利上げをしていくだろうというのは明らかなわけで、マーケットに与えるインパクトとしては最初の利上げの幅がどのくらいか、また最初の利上げをするときにイエレン議長がマーケットに対してどういうアナウンスメントを行うか、そこが非常に大きなポイントになるだろうと思う。
 イエレン議長がどのような言葉を遣うか、形容詞の一つ一つでも非常に重要になってくると思っている。そのメッセージが、極めて緩やかに、例えば25ベーシス等といったレベルで「少しずつマーケットの様子を見るが、アメリカの景気は強いから引き上げていく」というようなメッセージであった場合には、これはむしろ世界経済にとって歓迎すべきものであって、我々金融機関にとっても、そうした巡航速度での利上げというのは、経営上も決してマイナスではないと思う。
 ところが、イエレン議長がどのような言い方をするかは分からない。仮に、かなり急激に金利を上げていく、というように受け止められるようなケース、例えばアメリカ経済の説明のなかに「住宅市場がヒートアップしている」という言葉が一つ入り、利上げのタイミングが想像していたよりもかなり早い、あるいはその幅が大きいというような印象を与えた場合には、マーケットに影響が出てくるかもしれない。その場合には少し注意を要すると思う。ただし言うまでもなく、その点は十分承知のうえで、アナウンスメント効果を含めてFRBもしくはイエレン議長は発表されるだろうと思う。
 少し話を広げると、もし万が一、マーケットが急激な利上げという受止め方をした場合には、様々な角度から色々な問題が起こりうる。一つはドルが上昇する。ドルの上昇が何をもたらすかと言えば、資本逃避をもたらす可能性があり、新興国経済への影響が大きくなる可能性がある。さらに、いくつものケースが考えられるが、例えばドルとの間において、円が相対的に安くなるということになった場合には、今度は日本の株式市場において、足元ではプラスの方向に働くかもしれない。ここから先は複合的な要因がどのように影響するかによって大きく分かれていくと思う。
 いずれにしても最終的には、急激な利上げをするというようなメッセージがマーケットに伝わる可能性は極めて少ないと考えているので、そのような観点からご質問にお答えするとすれば、日本の金融機関のみならず、ドルを調達しているほかの外国の金融機関も含めて冷静に米国の利上げを受け止め、むしろ、この超金融緩和からの出口の扉を最初に開くFRBを支援していくことが世界経済にとって非常に大事になってくるだろうと思う。


(問)
 前問に関連して、アメリカでの貸出は引続き堅調に伸びていると思うが、そういう意味でドルファンディングなど、緩やかな利上げであれば影響はないと思うが、今では円投や預金などがあると思うが、追い付いていかない状況でどう対応されていくのか。
(答)
 全行の情報を持っているわけではないため、みずほ、あるいはメガバンクとして足元の状況を申しあげると、ご承知のとおり海外への貸出を増やしているが、貸出の伸びと同程度もしくはそれ以上に対顧の預金も増えている。それから、メガバンク3行とも米ドルベースでの社債を発行しており、マーケットでの受止めも極めて良好である。足元の状況では米ドルのファンディングについて大きな問題は生じていない。
 したがって、緩やかな金利の上昇であれば、むしろプラスに働くこともあり得るだろうと考えている。
 仮に急激な上昇となった場合でも、私見ではあるが、欧米、特に欧州の金融機関あるいはアジアの新興国の金融機関との比較において、日本経済、日本の金融システム、あるいは日本の金融機関のアセットクオリティの高さということは、マーケットに十分浸透していると思うので、日本の金融機関が諸外国の金融機関に比べて、米ドルの流動性に対して相対的に苦労することにはなりにくいと考えている。
 一番理想的なのはその急激な上昇がないことではあるが、万が一の場合でも、相対的に見れば十分に対応していくことが可能であると考えている。


(問)
 北関東と東北を襲った豪雨災害から一週間が経過している。
 銀行業界として顧客であるお客さまにこれまでどのような対応を取っているか。また、今後どのような支援が考えられるかの2点を伺いたい。
(答)
 今回の豪雨災害においては、非常に大きな被害が出た。被災された方々に対しては、心からお見舞いを申しあげたいと思う。
 私ども全銀協としても、そうした自然災害に遭われた方々に対して適切な対応を行うために制度化を検討している。例えば東日本大震災の際、住宅ローンなどの個人の債務整理を支援するため、全銀協を事務局とする研究会で2011年7月に「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」を取りまとめ、このガイドラインを活用して被災者の自助努力による生活・事業の再建や被災地の復興・再活性化を促してきた。このような対応を行っていくことが重要であると思う。
 我々としては東日本大震災のみに留まらず、今後大規模な自然災害が発生した場合に被災した個人債務者を支援することを目的として、債務整理に関する新たなガイドラインを取りまとめるべく、9月2日に「自然災害による被災者の債務者整理に関するガイドライン研究会」を発足させたところである。新たなガイドラインの具体的な内容の検討はこれからであるものの、特定地域にこだわらず全国各地での今後の自然災害を対象としたうえで、支援の考え方としては東日本大震災と同じ方向で検討して参りたい。
 今回の台風第18号等の被害に関しては、住宅ローン等の貸出金の返済猶予など、金融上の措置を適切に講じるよう財務局および日本銀行から金融機関等に要請がなされているところである。全銀協としても各金融機関において、被災者の被災状況に応じて要請の趣旨を踏まえて適切に対応するよう周知徹底を行っている。
 また、ご承知のとおりすでに対応を行っている銀行も数多くある。新たなガイドラインをまとめあげるには、多少の時間が掛かる可能性はあるものの、今回については、すでに災害への対応を行っているということをご理解いただきたい。


(問)
 国際的に議論になっている金融規制、特にTLACと呼ばれている規制についての質問である。
 11月にトルコで開かれるG20に向けて、金融安定理事会はTLACの最終規則を提出することになっている。市中協議案で規制の大枠は明らかになっているのかもしれないが、現時点でのメガバンクグループでの資本政策に与える影響を教えていただきたい。
 また、規制を受けて、将来的にはTLAC債と呼ばれる持株会社による資金調達が増えてくると思う。この辺りどう見ているのか教えていただきたい。
(答)
 TLACについては、今おっしゃったスケジュールで議論が進んでいると理解している。だとすれば、最終案が出てくるのにそれほど時間はかからないのではないかと思う。
 詳細な内容はまだわからないが、基本的には16~20%という枠組みの中で議論がされているのではないか。また、期間を分けて、最初は何%、次は何%というように、段階的に水準が決まる可能性があるとの報道もある。
 日本の金融機関という観点から申しあげると、日本の金融システムあるいはそのセーフティネットの堅確性が一定程度評価され、その分をバッファーとして考慮することを認めることが最終案の中に織り込まれることを強く期待している。バッファーの水準などはまだわからないが、我々にとって何らか配慮された内容が最終案の中に含まれるだろうと考えている。
 このバッファーが考慮されると、我々にとってTLACの問題や影響は相対的に少ないだろうと思うものの、仮にそうだとしても、TLACには具体的な対応をしていかなければならない。ご質問のとおり、子銀行発行の債券を持株会社発行の債券に振り替えることでTLAC対応が可能となるので、持株会社発行の債券が増えるかもしれないという点は、おっしゃるとおりであると思う。マーケットでのTLAC債の受止め方については、我々もリサーチしているが、これを買いたいという投資家は確実に存在する。未だ発行経験はないが、このプライシングについては、普通の債券調達よりもかなり高いコストをかけないと発行できないというわけではないと思っている。
 したがって、さきほどのバッファーを含めて考えれば、3メガバンクグループは、マーケットとの会話を通じてTLAC債の商品性を工夫することで、それをマーケットで消化し、対応できると考えられるため、TLACが日本の金融機関、メガバンクグループに対して大きな脅威になるかといえば、そうはならないだろうと思う。
 ただし、TLACは規制なので、最終的に全ての内容が確定するまでは安心することはできない。引続き、最後の最後まで日本の金融機関の主張を、金融庁、日銀、そして我々民間金融機関が関係当局や関係各所に強く主張を続けていく、もしくは、そのように働きかけていく。これを怠ることをせず、これからも続けていきたいと考えている。


(問)
 日本郵政グループの上場について、ゆうちょ銀行が上場することに関連して、メガバンクの株価にどういう影響を与えうると現時点でお考えになられているか。特にみずほ株については、個人投資家の比率が高いと思う。ゆうちょ銀行株も国内の販売先の95%が個人というところでバッティングする可能性があると思っているが、どうお考えか。
(答)
 難しいご質問だと思う。ゆうちょ銀行がどのような業態としてマーケット、特に個人投資家に受け止められるのかわからない部分がある。マーケットがこれを銀行セクターの一つとして受け止めるのかどうかということである。これは証券会社が個人投資家に販売する際に、ゆうちょ銀行という銘柄をどのように説明するのかによるところが大きいと考えている。
 先ほどそのあり方について申しあげたように、ゆうちょ銀行を、運用を主体とした資産運用会社として説明するとすれば、それは貸出や預金あるいは海外業務も行っている銀行セクターとは少し意味合いが違ってくるだろうと思う。つまり、ゆうちょ銀行という銘柄がメガバンクや地方銀行の株主にとって、全く同じ銀行セクターというジャンルで代替可能な投資対象と受け止められるか否かにより状況が変わると思うが、これは現時点では分からない。
 ただし、今申しあげたように、ビジネスモデルあるいはビジネスネーチャーは必ずしも銀行セクターと同じではないということは、かなりはっきりしていると思う。ゆうちょ銀行がその成長モデルつまりエクイティストーリーをどのように説明するのかによって、マーケットの受止め方は違ってくると思うが、もし、現在示されているゆうちょ銀行の成長モデルがそのままマーケットに語られるのだとすれば、ジャンルとしては銀行セクターと違ったものとして受け止められる可能性があるのではないかと考えている。
(問)
 それは、違ったジャンルとして受け止めてほしいという期待か。
(答)
 希望や期待は全く入っていない。観測と受け止めていただければと思う。


(問)
 シャープや東芝の件であるが、シャープについては急激に業績が悪化し、また東芝については会計が非常に杜撰であり、西田さんを含めた3人のトップが責任を問われる事態となったわけであるが、銀行はわからなかったのか。目利き力をお持ちではないのか。
(答)
 5月にもこの場で申しあげたが、例えば、資金の借入れのご依頼があったとき、あるいはあるプロジェクトについてご相談があったとき、その問題についてどのような取組み方をなさっているかについては十分に精査している。具体的には、プロジェクトファイナンスであれば、環境問題も含めたいわゆるエクエーター原則が守られているか等といったある種のガバナンスについて、ファイナンサーとして当然に踏み込んでフォローしている。
 一方、会社全体のガバナンスについては、株主総会などを通じて、株主としてのチェックをすることはある。ただ、今回のような会社の内部で行われている会計上の問題についてまで、ファイナンサーとしての立場で、あるいはメインバンクの立場で、十分に見通せるかというと基本的には難しいと考えている。
 会社のガバナンスの形態そのものがどのような形式か、あるいはその形式をどのように運用しようと考えているか、といったことは聞けるが、そこで実際に何が行われているか、というレベルの情報まで常時ウォッチしていくのは基本的には難しいと考えている。


(問)
 改正個人情報保護法というものが成立したが、この改正法が銀行にとってどういった影響、あるいはどういった対応をする必要があるのかということについて、また想定される課題等があればお聞かせいただきたい。
(答)
 改正個人情報保護法は、我々銀行にとって、今後のビッグデータの活用といった観点からも、非常に重要な論点を含んでいると思う。
 今後、個人情報をどう保護するかという問題と、ビッグデータをどう活用できるかという、2つの相反する問題に銀行だけでなく日本経済全体が直面することになると考えている。
 まず、個人情報をどう保護するかという問題について申しあげると、金融機関は、金融庁の「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」の下で、お客さまからお預かりした個人情報を従来から他の業界と比べて厳格に管理してきた。また、個人情報保護法と一体で改正されたマイナンバー法に関して、マイナンバーを含む特定個人情報についてはさらに厳格な情報管理が要請されている。それらに対しては、金融機関の社会的責任としてしっかりと対応していかなければならないと思っている。
 次に活用について申しあげると、先程のような個人情報の厳格な管理を前提としたうえでの議論であるが、例えば、マイナンバー制度の活用について国民全体での議論が進んでいけば、金融機関においても、マイナンバーを活用した様々な業務の効率化や新しいビジネスの展開といったものが、今後考えられてくる可能性があると思っている。


(問)
 個別の話になってしまうが、今スタンダード&プアーズがみずほ銀行を含めた邦銀の格下げを発表したようだが、格下げになったことのご所見をお願いしたい。
(答)
 格付けが下がったのはまさに今のことだと思うが、日本の金融機関の格付けは、ある程度においては日本国債の格付けとリンクしている。したがって、国債の格下げに伴って同じように下がっていくという面があるということは承知しており、今回もおそらくそのことが反映されているのではないかと思う。慌てることなく冷静に受け止めるべきことだろうと考えている。


(問)
 長期的に見た金利の話について伺いたい。FRBの利上げの話が出ていたが、いわゆる金融政策当局がいじれる手前のところではなく、イールドカーブの長いところ、例えばFRBが今後正常化してFFレートを上げていったり、その他の先進国金融当局がまた出口をやり、手前のところは戻ってきても、果たして以前のように長めのところは本当に戻ってくるのか、サマーズのセキュラースタグネーションではないが、先進国の経済の体質自体が変わってしまって、基礎体温が下がっているのではないか、もしそうだとしたら、低体温の世界の中で、銀行はどうやってお金を儲けていくのか、その辺長い話だが、お聞かせ願いたい。
(答)
 このテーマに関しては個人的な見解を申しあげる。今ご指摘いただいたことは、一つの可能性として考えておく必要があるだろう。一般的に、金利が上がれば金融機関の収益が上がると言われる。過去は確かにそうであり、預貸利率の広がりによって自動的に稼ぎが増えるという構造を持っていた。しかしながら、ご指摘のようなことが現実に起こるのであれば、今後はそう簡単に収益が上がる話にはならないだろう。
 以前から、世の中の潜在成長率が全体として下がっているのではないかという議論はある。日本の例で見ても、十数年前から比べると、今の潜在成長率は明らかに下がっている。経済が成熟化していくとそういうベクトルが働くという傾向はあるのであろう。ただし、世界経済全体では、それぞれの国・地域の経済発展に差があるため、引続き従来のビジネスモデルの中でイールドカーブが立ち、そこに銀行の収益余力が出てくる地域もあり得る。それが例えばアジアなのか、アフリカなのかは分からない。
 このような中で、金融機関が総体として収益を上げていくためには二つのやり方がある。一つは国際展開してそのような地域に出て行き、引続き残っている預貸利率の差を狙うというものである。もう一つは、経済が成熟した社会の中で、金利の上昇局面において預貸利率の広がりが仮に小さくても、金利収益のみに拘ることなく、貸出を一つの入り口として、その他の金融サービスによって非金利収入を稼ぎ出すというビジネスモデルである。
 個別行の話ではあるが、我々の「One MIZUHO」戦略は、後者の道をはっきりと歩もうとする戦略であることを申し添えさせていただきたい。


(問)
 直接銀行業界に関係しないことなので少しお聞きしづらいのだが、安保法制がいよいよ審議終盤になってきている。もし何か、法制自体であったり、審議の進め方であったり、あるいは政権としてこのテーマが通れば次に移るなど、いろいろ含めて何かご所見、ご感想でもよいがあればお願いしたい。
(答)
 今のご質問については、所見も感想も申しあげる立場にはない、と申しあげさせていただく。


(問)
 再来年の消費税の10%への引上げを巡って、軽減税率の導入が検討されており、財務省原案としてマイナンバーを使って2%分を戻すという案もあったが、増税は消費を通じて日本経済に大きな影響を与えると思うのだが、今後どうあるべきかご所見あれば伺いたい。
(答)
 2017年4月の消費税率引上げは、経済情勢に関わらず実施することになっていると理解しており、基本的にはその方向で進んでいくと思う。
 ただ、前回引上げを延期したときには、財政再建という一つの政策目標と、経済の持続的な発展というもう一つの政策目標とのせめぎあいがあった。
 あくまで私見であるが、決まったことを整斉と進めていくのがメインストリームであると思う。第2Qは数字に一服感がみられたものの、足元の日本経済は順調に回復してきており、このままいけば整斉と進むものと思うが、今の段階で我々が予測できないことが起こる可能性も理論的には否定できないので、その時には、財政再建に対する安倍政権のコミットメントをマーケットがきちっと受け止められるような対応が必要になってくるかも知れない。


(問)
 先ほどの安保法制の質問とも関連するが、今回、この山場を越えたら政権は経済政策に改めて力を入れると言っている。具体的にどういったところに力を入れて欲しいという風にお考えか。
(答)
 個別グループの話になるが、しばらく前に、私どものみずほ証券主催の投資家説明会に菅官房長官がご登壇され、今ご指摘いただいたように、この法案の成立後は安倍政権として経済に真正面から取り組むとおっしゃっていた。政権として何をやろうとしているのかということはある程度見えてきており、成長戦略の「第三の矢」の中身は案としてはかなり決まっている。現在はそれをどう実行するかというPDCAの段階に入ってきており、今後は民間の力、つまり民間自身がそれを受け止め、結果を出すべく官の力と共に動いていくことが一番理想的な方向だと思う。
 もう一つあるとすれば、日本経済における課題のひとつは、例えばIoTや人工知能、あるいはドイツにおけるインダストリー4.0のような、新しい産業革命とまで言われている世界のイノベーションの動きに日本経済全体として付いていけるかということである。これらに付いていけるかどうかというのは、日本の経済、あるいは日本という国の10年先を大きく規定していくことになると思っている。
 今後、経済中心で取り組む場合に、規制緩和、少子化・高齢化対策、女性活躍など焦点の当て方はいろいろあると思うが、このイノベーション、特にビッグデータの活用や人工知能の活用といった分野に今まで以上に注力していかなくてはならないと考えている。ビッグデータや人工知能を使った新しい産業が世界を席巻していくことは、世界の人々の生活を変え、労働のあり方を変え、あるいは産業の新陳代謝を促すといった大きな変革につながる可能性が高い。そのなかで、今までの成長戦略でも一部議論されてきているが、ドイツに負けないように、あるいはアメリカに負けないように、日本が先手を打って対応策をとっていけるよう、この分野にさらに強い光を当てて具体的な対応策を取っていくことが、日本経済の今後の成長にとって非常に大事である。
 安倍政権として目に見える形で、そうした対応を具体的なかたちで取っていただくということが望まれているのではないかと、個人的な見解として是非申しあげたいと思う。


(問)
 全銀協と直接関係ないが、来週、プラザ合意から30年の節目を迎える。全銀協の会長としてよりも、佐藤会長個人として、当時、急激な円高が進んで日本経済はかなりの構造改革を迫られたわけだが、プラザ合意というものをどう振り返って評価されているかをお聞きしたい。
(答)
 プラザ合意から30年については、各社特集を組み、それぞれのお立場で話をしておられるが、やはりこの30年間、大きな変化があったのだろうと認識している。30年前ということは、わたくしが銀行に入って10年程度のころであるが、為替についていえばいくつかポイントがあると思う。
 一つ目は、為替に対する各国の取組み方であり、特に為替介入についての一般的な受止め方は、30年前と比べると大きく変化してきたのだろうと思う。振り返って考えると、従来、為替介入は時折行われていたが、その後、国民経済的な運営とマクロ経済あるいはグローバル経済の運営との関係においてできるだけ為替市場に直接的な介入を行うことは避けるべきである、というコンセンサスがこの30年の間に相当程度できあがってきていると思う。現在、為替介入を行っている国がまったくない訳ではないが、従来に比べると、為替介入については大きな変化、あるいは進歩があったという感想である。
 二つ目は、やはりユーロという通貨が導入され一定の存在感を持ってきた、ということだろう。また、他にも今後アジアの新興国経済が成長していくなかで、アジア通貨やエマージング通貨がどうなっていくかということが、新しいトピックスとして出てきている。EUという大きな実験が、まだ本当の意味でのかたちを表していなかった30年前と比べれば、EUあるいはユーロという通貨がそれなりの存在感と安定性を示しているということは非常に大きな違いだと思う。30年経ってまた、この部分が揺らぎ始めているということはあるが、少なくとも実績として、そういうことは申しあげられるだろうと思う。
 三つ目は、取引の手法についてである。30年前と比べて、電子取引やアルゴリズムを使ったような取引など、より高速、高額で、大量の処理が瞬時の間に行われていく取引ができるようになった。これをテクノロジーの進歩と捉えて良いのか分からないが、やはり情報技術の発展、データ処理の高速化、大量化という流れが為替の世界でも浸透し、取引手法が革命的に変わってきていると思う。この点が3番目の変化ということだろうと感じている。
 ただし、最後に付言するならば、30年前を振り返っての変化ということは申しあげたように総括するとしても、30年経った現在の姿が、また大きく変わろうとしていることも間違いないと思う。基軸通貨の問題、人民元の国際化の問題、ユーロの揺らぎといった問題について、次の30年に向けて大きな胎動がすでに始まっているという認識もまた、重要なのではないかと感じているところである。

別添資料:佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ執行役社長)