2016年7月14日

國部会長記者会見(三井住友銀行頭取)

髙木専務理事報告

 本日の理事会において、お手元の資料のとおり、平成29年度税制改正の要望書を取りまとめた。今後、関係先に対し要望書を提出し、要望の実現に向けて働きかけてまいりたい。

 

会長記者会見の模様


(問)
 1点目が、Brexitの受止めと英国経済、欧州経済、世界経済、日本経済への影響、先行きをどうみているか。2点目は、7月1日に発表された日銀短観の受止めと、日本経済の足元の環境認識、今後の見通しについて伺いたい。
(答)
 まず1点目のBrexitに関するご質問だが、6月23日、英国の国民投票でEUからの離脱という英国民による重い決断が下された。私は、今回の結果にはさまざまな背景があると思っており、一言ではなかなか言い表せないが、今回のBrexitに加え、米国大統領選挙においてトランプ氏が共和党の候補者指名獲得を確実にしていることを含めて、やはり経済がグローバル化し、自由貿易が進展するなかで、国や地域によってはこの成長メカニズムから享受する恩恵に差が生じ、この潮流に逆行するような内向き志向や保護主義的な動きが出てきているということも背景にあるのではないかと思っている。
 Brexitに伴う金融資本市場の混乱は足元落ち着いてきているが、EU加盟国のEUからの離脱という事態が初めての経験であり、正直なところその影響は現時点では計りがたく、私ども金融機関をはじめとして、英国でビジネスを展開する約1,000社の日本企業への影響も危惧されるだけに、注意深く見ていく必要があると思っている。
 今回の結果を受け、今後、英国では政治や経済の先行きに対する不透明感が高まるなか、相応の景気の減速も避けられない情勢ではないかと思う。政治面では、メイ新首相が就任したわけだが、与党・保守党内にEU離脱派と残留派が存在している状況で、今後の政権運営には難しさがあると思う。また、実際に英国がEUを離脱するのは早くとも2年後となるものの、通商関係や各種規制などをめぐる新たなEUとの協定が具体的にどのような内容となるのか見通せないなか、当面、経済面でも先行き不透明感がくすぶり続けるのではないかと思う。
 このような状況下、英国企業における設備投資の先送り等が進むと予想されるほか、英国の成長ドライバーであった海外からの投資の減少、さらには場合によってはロンドンの国際金融センターとしての相対的な地位低下を懸念した金融セクターの企業活動縮小等の可能性も懸念をされるところである。
 家計部門でもこれまで個人消費の押し上げに寄与してきた雇用・所得環境にブレーキがかかると見込まれ、個人消費の伸びも減速するおそれがある。IMFも英国がEUを離脱した場合、2019年の同国GDPは、残留時に比べると5.6%減少すると試算しており、英国の経済の下振れの可能性を指摘しているところである。
 こうした英国の影響がどのように波及していくかであるが、貿易面等について言えば、世界経済における英国経済のウエートは2%強、日本経済、ユーロ圏における英国向けの輸出のウエートも日本では2%弱、ドイツ、フランス、イタリア、スペインでも1割弱であり、いずれも小さい割合であるので、実体経済への直接の影響は限られると見ている。
 ただし、「英国とEUの離脱交渉の長期化」、「反EUの動きの拡大」、さらには「欧州金融機関の信用不安」という事態まで展開していくと、経済にもたらす影響は大きくなってくるので、注意が必要だと思う。
 この3点について少し付言をさせてもらうと、2年とされている英国のEU離脱までの期間がそれ以上に長引く場合は、不透明感の長期化が企業や消費者のマインドを萎縮させ、投資や消費の冷込みによる英国や欧州、さらには世界経済の足を引っ張りかねない。
 また、ほかのEU各国でもこれまでの財政緊縮や昨年半ば以降の難民の急増を背景として、反EU政党の動きが活発化しており、EUに懐疑的な見方を持つ国民が少なくないことから、今後、こうした反EUの動きが一段と勢いを増すような事態になれば、投資家のリスク回避姿勢の強まりなどから、金融市場の不安定な動きが続くことも懸念され、それが実体経済にもマイナス影響を及ぼす可能性があると思う。
 さらに、足元でイタリアの銀行の不良債権問題がクローズアップされ、欧州の銀行の株価が低迷している。英国のEU離脱は政治的なリスクの顕在化であり、リーマン・ショックや欧州債務危機と比べて危機の中身が異なるほか、欧州主要銀行の健全性はこの数年間で総じて改善してきていることから、欧州の銀行の信用不安が高まる危険性は現時点では大きくないと見ているが、金融システム不安が経済にもたらす影響は大きいため、動向を注視していく必要がある。
 以上申しあげた三つの可能性については、それぞれ蓋然性が高いと見ているわけではなく、今後、懸念する点とすればこうした三つが挙げられるのではないかという観点で申しあげさせていただいた。
 過度に不安をあおる必要はないが、思い起こしてみると、リーマン・ショックのときも、当初は日本経済への影響は軽微なものにとどまるとの見方が大勢を占めていたが、結果的には大きな影響があったので、我々としては刻々と変化する状況を冷静に見ながら対応していく必要があると思っている。

 2点目のご質問である日銀短観の受止めと日本経済の足元の認識については、わが国では内外需の低迷が続き、足元、景気は足踏みが続いている。こうした状況に加え、6月調査の日銀短観では、調査時点において米国での利上げ先送り観測や英国のEU離脱懸念などを受けた市場のリスク回避姿勢の強まりから、円高・株安が一段と進行したこともあり、企業の景況感は総じて悪化した。また、今回の短観調査は、英国の国民投票によるEU離脱の決定が十分に織り込まれておらず、足元の景況感やその他DIの実勢は調査結果よりもさらに慎重化している可能性もある。
 業況判断DIを見てみると、大企業では円高など輸出環境の悪化を受け自動車や機械が、また個人消費の弱含みやインバウンド需要の増勢鈍化などから小売り、宿泊、飲食サービス等がそれぞれ悪化している。中堅・中小企業においては軒並み悪化しており、景気の見方に関して一段と慎重な様子が伺える。
 もっともわが国景気の先行きを展望すると、好循環の流れが大きく崩れていないなか、徐々に底堅さを取り戻していくと見ている。今回の短観の結果を見ても、雇用・所得環境の回復が見込まれるほか、企業の2016年度の設備投資計画も前回3月調査対比、大企業では製造業、非製造業ともに伸びが上方修正されており、設備投資の増加による景気の下支えが期待される。
 一方で、英国のEU離脱に伴う円高進行といった新たな懸念も浮上しているのは事実である。足元のドル・円相場は、大企業製造業の日銀短観における想定為替レート111円41銭を上回る円高水準になっている。英国のEU離脱をきっかけに米国の利上げ先送り観測が強まっていることなどを踏まえると、円高の状況は当面続くとみられ、景気の好循環メカニズムの起点となっている企業業績への下押し圧力が強まるのは避けられないのではないかと思う。今後の為替動向によってはわが国景気の持ち直しが一段と緩慢になる懸念もあり、注意が必要である。
 以上、総合して申しあげると、わが国経済は欧米の政治情勢など、先行き不透明感もあり、当面は停滞感の強い状況が続くことが懸念されるが、一方で、安倍政権において強固な政権基盤の下で、わが国経済の足腰を強くしていくための経済政策や構造改革の実行が期待されることから、景気は徐々に上向いていくと見ている。


(問)
 昨日、三菱東京UFJ銀行によるプライマリー・ディーラー資格の返上について、正式に財務省側が発表して、三菱東京UFJ銀行側からもそれについて説明があった。改めて、前回の会見でも伺ったが、正式発表となったことを受けて、今回の動きについて、受止めであったり、国債マーケットへの影響などが出てくるかどうか、どのようにご覧になっているか教えてほしい。
(答)
 三菱東京UFJ銀行からプライマリー・ディーラー資格を返上する旨の届け出がなされて、7月15日付で財務省がその指定を取り消すとの公表があったことは承知している。個別行の判断なので詳細は分からない面があるが、三菱UFJフィナンシャル・グループの公表文を拝見すると、今回の資格返上の理由は、「銀行と証券会社の業務や機能の集約、グループ一体的な運営強化」とされ、「引き続き国債発行の安定的な消化・流通への責務を果たしていく」とうたわれていて、私も三菱UFJフィナンシャル・グループのなかの業務戦略の見直しの一環ではないかと理解している。
 三井住友銀行としてどう対応するかについては、総合的に判断をして、現時点で資格の返上は考えていない。また、今回の三菱UFJフィナンシャル・グループの対応によって国債市場が混乱をするというようなことは、私はないと思っている。


(問)
 1点目は、先ほどもあったが、参院選が終わって与党、自民・公明が勝利した。政府・日銀が一体となってアベノミクスを再度ふかし、デフレ脱却に進むことが求められているわけだが、金融界として改めて政府・日銀に何を望むのか。
 2点目は、市場では今、日銀の追加緩和観測が再び高まっているが、金融界ではマイナス金利の深掘りに対して抵抗感が強いことも事実である。これについてどのようにお考えか。
(答)
 まず1点目の質問だが、今回の参議院選挙で、自由民主党、公明党の与党が勝利したが、安倍政権の進めるアベノミクスに対する信認が得られたものと受け止めている。今後、安倍政権においては、英国のEU離脱に関する国民投票結果等を受けて、世界経済の先行き不透明感が高まるなか、強固な政権基盤の下でわが国経済の足腰を強くしていくための政策の実行により、デフレ脱却、経済再生への取組みを一層加速させてほしいと思っている。
 もう少し申しあげると、すでに策定した日本再興戦略やニッポン一億総活躍プランなどに盛り込まれた政策パッケージを着実に実行することにより、わが国経済の構造改革に取り組んでいただき、国内の期待成長率を引き上げていくことが重要だと思う。加えて、対日直接投資の促進や外国人旅行者の受入れ態勢強化によるインバウンド需要のさらなる拡大等を図り、外需を取り込んでいくことも必要だと思っている。安倍総理の強いリーダーシップの下でこれらの政策を力強く推し進めていかれることを期待したいと思う。
 また、景気下支えのための経済対策についても、まさに安倍総理が「未来への投資」と言っておられるように、将来の経済発展、安心・安全な国民生活の基盤となるインフラ投資や、わが国の潜在成長率の引上げにつながるような長期的視点に立った成長戦略の具体策を盛り込んでいただきたいと思っている。もちろん、我々金融機関も引き続き、ファイナンス面を中心に日本経済の成長に貢献してまいりたいと考えている。
 もう一つ申しあげると、消費税率10%への引上げが延期されたわけだが、今後財政面で細心の注意が必要になってくると思う。2019年10月に消費税率を引き上げるために必要な経済環境を創り上げていただくとともに、歳入、歳出の両面から取組みを進めていただき、中長期的な財政健全化への道筋を付けていただくこともお願いしたいと思う。
 2点目の質問のマイナス金利政策については、7月28日、29日に日本銀行の金融政策決定会合があるが、一般論として金融政策というのは、その時々の経済・金融情勢を踏まえて日本銀行が判断をされるものである。もし追加緩和をするとすれば、市場でいろいろな策が言われているわけだが、マイナス金利政策についてはこれまでの会見でも申しあげているとおり、日本銀行においては現在の政策の効果を十分に検証いただくことが何よりも重要だと思っている。少しマイナス金利政策について申しあげると、前回の会見と同じく、足元で設備投資など企業の前向きな動きはまだ出てきていない。これは、金利がさらに下がるのではないかと様子見をしている企業も引き続き多いためと思っている。
 また、マイナス金利政策の導入以降、20年国債利回りが一時マイナスの水準となるなど、市場金利は大きく低下している。また、イールドカーブはフラット化している。日銀によるオペレーションの影響が大きいとはいえ、このイールドカーブの形状が、いわば長期にわたって低金利が継続するというマーケットのメッセージと捉えられ、デフレからの完全脱却に向けたマインドのリセットにとって必ずしも好ましい状況とは言えないのではないかと思う。
 日本銀行におかれては、今私が申しあげたような観点も考慮いただき、マーケット参加者や企業がマイナス金利政策の意図や狙いを十分に理解し、実体経済への政策効果が早期に生じるよう、コミュニケーションの面にも配慮していただきたいと思う。
 また、政府におかれては、今月中をめどに経済対策の策定が予定されているわけだが、デフレ脱却、経済再生に向けてしっかりとした取組みをしていただければと思う。


(問)
 2点質問させていただく。まず、6月末で第1四半期の決算が締まったと思うが、この3ヶ月はフルでマイナス金利の影響を受ける最初の決算になったと思う。先ほども影響についていろいろお話が出ていたが、改めて今回の決算を取り巻く環境をどのようにご覧になっているかということをお話しいただきたい。
 2点目は、政府の経済対策のなかで、財政投融資を利用したインフラ整備、中小企業向けの融資等が検討されているようである。財政投融資が例えば民間銀行の融資機会を奪うかたちになって民業圧迫になるという懸念があるのかないのか、ご所見はいかがか。
(答)
 まず、私どもを取り巻く経営環境について少し申しあげさせていただくと、第1四半期を振り返ってみると、わが国経済は内外需の低迷が続いたほか、4月に熊本地震の影響もあり、足踏み状況が続いた。また、マーケットについても、米国の利上げ先送りや英国のEU離脱の影響を受けた市場の混乱等によって、円高・株安が一段と進行した。さらに、今ご指摘のあったとおり、本年2月16日に導入されたマイナス金利の影響が第1四半期からフルに効いてきている。
 こうした環境下、全銀協の統計、これは7月7日に公表しているが、6月末の全国銀行ベースの貸出残高で見てみると、前年同期比、58ヶ月連続で増加しているが、残高増加のトレンドに大きな変化は見られていない。一方、マイナス金利政策もあり、預貸金利鞘の減少は続いている。加えて、お客さまが相場の混乱ということもあって、資産運用に対して慎重になられた結果、銀行、証券会社を含め、投資信託等の販売が低調となっていることなどから、各行とも堅調な業績であった昨年度の第1四半期と比べると、この第1四半期の決算というのは、やや力強さに欠ける決算になる可能性があるのではないかと思う。もちろん銀行によって区々であるとは思うが、概して言うとそういう環境だったのではないかと思う。
 第2四半期についても、わが国景気は徐々に底堅さを取り戻していくことが期待されるが、グローバルなマーケットの不確実性、不透明性が続くと予想されることから、銀行を取り巻く環境は厳しい状況が続くというふうに見ている。
 2点目の財政投融資についてだが、これはまさにどういった案件に財政投融資が投入されるかということによると思うので、個別の案件を見てみないと一概には言えない。例えばインフラ案件というのは非常に長期間となるものも多く、そういったものについて、財政投融資等の政府の資金を投入していくということは必ずしも民業圧迫につながらないケースもあると思う。まさに、それは民間が取り得ないリスクを政府が取っていくという面もあり、一概には言えないと思う。


(問)
 銀行の窓口で販売されている特定保険商品の手数料開示について考え方を伺いたい。先週、金融審議会の市場ワーキング・グループが開かれ、手数料開示を含むフィデューシャリー・デューティーのあり方について議論が始まった。手数料開示については、金融庁が金融機関に対して顧客への情報開示を求めているところだが、手数料を開示するかどうかは銀行界のなかでも意見が分かれるところだと思う。開示の是非について國部会長はどう考えているのか。
(答)
 まず、金融審議会の市場ワーキング・グループにおいてフィデューシャリー・デューティーの議論が開始された。そもそもフィデューシャリー・デューティーとは何かを私なりに平たい言葉で申しあげれば、「法令を超えて、本当にお客さま本位の業務姿勢を徹底していくこと」と捉えている。もう少し具体的に申しあげれば、これは当行個別行としての整理だが、お客さまのニーズに応じた適切な品揃え、お客さまに提供する情報の充実・わかりやすさ、お客さま本位の販売体制の整備、これには販売員の教育・研修や適切な評価制度等が含まれる。そして、お客さまの声を踏まえたサービス改善への継続的な取組み、こういったことが重要だと考えており、これらの考え方は、私ども三井住友フィナンシャルグループのフィデューシャリー・デューティー宣言として制定させていただいている。
 銀行界としては、各行がそれぞれ工夫を凝らしながら、本当にお客さま本位の業務姿勢を徹底する、すなわちフィデューシャリー・デューティーを果たすことによって、貯蓄から投資への流れが加速され、わが国経済の成長に資するとともに銀行のビジネス拡大にもつながると考えている。
 そのうえで貯蓄性保険の手数料開示について申しあげると、まさに金融審議会の市場ワーキング・グループにおいて7月6日から議論がスタートしており、その議論の内容も踏まえながら開示について検討を行っていく。
 従来から、投資信託のように、お客さまから私どもが直接いただく手数料については開示して、丁寧にご説明しているわけだが、貯蓄性保険については、お客さまから直接ではなく、保険会社から受け取る代理店手数料という面もあるので、開示に当たっては、そもそもどのような開示方法がお客さまにとってわかりやすいのか、そして実際に開示を行った場合にどのような質問がお客さまから寄せられることになるのかといった点を含めて、お客さま起点で考えていきたいと思っている。
(問)
 開示するのであれば、それぞれの銀行がばらばらに対応するのではなく、時期や対象商品について足並みをそろえて開示したほうが、顧客にとってわかりやすいのではないかという指摘もある。これについて、全銀協として、銀行界で統一的な対応をするために足並みをそろえた対応を呼びかけるなど、何らかのやり方は考えているのか。
(答)
 これは、おっしゃったように両面あると思っている。貯蓄性保険の手数料開示等については、一義的には、各行が個別に判断をすることと考えている。一方で、今おっしゃったように、各行がばらばらなやり方で開示をした場合、かえってお客さまから見るとわかりにくいという懸念も出てくる。この二つのことを考えながら進めていかなければいけないと思う。まさに保険手数料の開示については、金融審議会の市場ワーキング・グループにおいて議論がスタートしており、この会合には全銀協からもオブザーバーとして参加しているので、当然、その議論の中身は傘下金融機関と情報共有を行っている。したがって、今後、この市場ワーキング・グループでどういう議論がなされていくのかを見ながら、開示のあり方を考えていきたいと思っている。


(問)
 1点目だが、当初の質問にもあった日銀と政府が今後協調して経済活性化をどう進めていくかという話のなかで、今週の初めにバーナンキさんが来日されて以降、ヘリコプター・マネー論議が活発化している感じもある。この定義は人によって違ったり、分かりにくいところはあると思うが、財政・金融の一体化という面で考えた場合、より財政出動なり金融緩和をやり易くなるという側面とともに、財政信認に対する疑義が上がってくると思うが、会長としてのお考えがあれば教えていただきたい。
 2点目については、直接関係はないが、今日、東京都知事選が告示された。これまで2代続けて短期間で替わってしまったことで少し混乱もあったと思うが、新知事にどういうことを求められるか、教えて頂きたい。
(答)
 まず1点目のヘリコプター・マネーだが、バーナンキさんが来られてどういう発言をされたのか承知していないが、いわゆるヘリコプター・マネーは、おっしゃったとおり定義がいろいろあり、一般的に言われているのは、中央銀行が国債を直接的に引き受けて、その資金をもとに政府が財政出動するという、まさに金融政策と財政政策を一体的に運営する政策と認識している。現在、日銀が行っている政策は財政ファイナンスとは全く異なる政策であり、今後、ヘリコプター・マネーと言われているような手法をとることについて、私は、財政規律が失われるリスクがあるため、必ずしも好ましい政策ではないと思っている。
 2点目の都知事選についてだが、このところ3人連続、任期途中で都知事が辞職するという状態が続いているので、私は、まず新都知事には、東京都政の安定運営を期待したいと思う。東京都においては、経済や産業の活性化、首都直下地震に備えた防災対策の強化、あるいは子育て支援や高齢者対策など、重要課題が山積している。また、首都東京の経済、住居、文化、娯楽など、魅力ある都市づくりを進めて、国際競争力の強化を図っていくことは、日本の経済成長にとっては必要不可欠なことだと思っている。
 また、金融経済の観点から言えば、海外の企業や優秀な人材が東京でビジネス、そして生活をしやすい環境づくりが欠かせないと思う。さらに、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが控えており、しっかり準備をして、これを成功に導いていただくということはもちろん、ぜひこの絶好の機会を活用して、より一層東京を世界へアピールしていただきたいと思う。いずれにしろ、新しい都知事には強いリーダーシップを発揮していただき、先ほど申しあげたことも含めて、都政を力強く推進していただくことを期待したい。


(問)
 2点質問がある。1点目、先ほど会長が言われたイタリアの銀行の不良債権問題をきっかけに欧州の信用不安が広がってきている。比較的健全だとされているフランスやドイツの金融機関にも波及するとお考えか。その場合、邦銀への何かしらの影響、例えばヨーロッパ向けの債権などに対する影響が出てくるのか。
(答)
 まず、イタリアの銀行についてはかねて不良債権比率が高止まりをしており、対応の遅れが懸念されていた面もある。イタリア政府は、今年に入って以降、証券化を用いた不良債権処理スキーム、銀行支援ファンド等による対策を発表してきたが、6月に、公的資金の導入を検討しているとの報道があり、クローズアップされたということである。不良債権比率の水準を見てみると、イタリアと他のヨーロッパ各国とではかなり差があるので、私は、このことがフランスやドイツの銀行の問題にすぐ波及するとは考えていない。しかしながら、冒頭の幹事社からのBrexitに関するご質問にお答えしたなかで申しあげたが、今後懸念される項目として、ヨーロッパの金融機関の経営不安にまでつながっていくと経済に大きな影響が出てくるということはある。まさに国民投票後にヨーロッパの銀行の株価が下落して、CDSスプレッドが上昇したことから懸念の声もあったが、足元では各国の国債利回りは比較的安定して推移している。また、この数年間でヨーロッパの主要行の健全性は総じて改善をしており、いわばショックへの耐性が向上していると思っているので、信用不安が広がる危険性は現時点ではさほど大きくはないのではないかと思っている。
(問)
 2点目は企業価値の向上とは何かについての質問である。出光で見られるように、昨今、創業家と経営陣との間で経営戦略についての意見の食い違いなどが生じるケースがある。銀行は株主であったり債権者であったり、いろいろと絡んでくることも多いと思うが、企業価値向上という意味では、必ずしも経営陣が正しいとか創業家もしくは株主が正しいとは言い切れない部分もあると思う。企業がある決断を迫られた場合、銀行はどのように対応するべきなのか。
(答)
 まず、個別の案件についてはコメントを差し控えさせていただく。一般論で申しあげると、企業の経営陣と創業家との意見が異なるケースはありえる。今年も事例が幾つかあったが、もともと創業家というのは大株主であるケースが多く、経営陣は、その株主と常に会社の成長、企業価値の向上ということについて密接なコミュニケーションをとっていく必要があると感じている。私ども金融機関は、その会社が中長期的に成長し、企業価値を向上させていくという軸で両者の意見を判断していくということに尽きると思っている。


(問)
 Brexitの関係だが、現在、シティの市長が来日しており、証券取引所を訪問したり、金融機関の首脳に会うことも目的の一つと聞いている。会長は会う予定はあるのか。
(答)
 今回来日されている方はシティ・オブ・ロンドンの市長、英語で言うとLord Mayor of the City of Londonのエバンズさんという方である。このLord Mayor of the City of Londonというのは、毎年交代され、財界の企業経営者、企業経験者が就任し、ある意味、シティ・オブ・ロンドンのプロモーションであったり、日英間の貿易投資促進を進める立場の方で、今回日本に来られて、私も会う予定である。
(問)
 市長に聞きたいことや要望したい具体的な内容で、今考えていることがあれば伺いたい。
 また、冒頭に触れられたシティの地盤沈下が実際にあり得ることなのかどうかという私見も伺いたい。
(答)
 主に、一般的な経済・金融情勢の意見交換ということになると思う。また、金融市場としてのシティの地位低下が起こるかどうかだが、これは、今後のイギリスとEUとの交渉によるところも大きいわけで、今の時点で低下するかどうかはわからない。冒頭申しあげたとおり、ロンドンの国際金融センターとしての地位低下ということが懸念事項にはなるが、今後の交渉次第というところもあるので、その交渉を見守るということだと思う。何よりも、今ロンドンには、金融インフラ、とくに弁護士、会計士、金融専門人材とかが大変多くおられるので、そういった方が、ロンドンの国際金融センターとしての地位が低下したときに、ほかのヨーロッパの都市ですぐに代替できるものなのかどうかも含めて、今後、議論の行く末を見守っていくことになると思う。


(問)
 保険の情報開示について、開示の時期については、一義的には個別行の判断であり、さまざまな観点から考えなければいけないということだが、報道ベースでは、大手5行は年明けにも先行して開示する方向で検討されているとのことだが、考え方としてそのような方向性はあるのか。
(答)
 そのような報道があったことは承知しているが、例えば当行についていうと、開示の時期は今のところ決めていない。先ほど申しあげたとおり、金融審議会の市場ワーキング・グループの議論を見ながら、どういう方法で開示するのがよいのか、いつ開示するのかということを考えていきたいと思っている。
(問)
 大手行の側が引っ張っていく考えはないのか。
(答)
 繰り返しになるが、まさに今、議論がスタートしたところで、これからフィデューシャリー・デューティー、場合によっては保険の手数料の開示についても議論されるかもしれないが、そういった議論を見ながら決めていきたいと思っている。


(問)
 日銀のマイナス金利政策について、先ほど会長は、日銀において現在の政策の効果を十分に検証することが何よりも重要だと話された。ということは、今はまだ効果があまり見えないなか、今月末の会合でマイナス金利を深堀りすることには反対ということでいいか。
 もう1点、日銀は2017年度中に物価目標が2%に到達すると言っているが、これは実現可能と考えているか。場合によってはその2%という目標自体が高過ぎるという意見もあるのかどうか教えてほしい。
(答)
 追加緩和については先ほど申しあげたとおり、日本銀行において適切に判断していただけると考えている。追加緩和については、現在マイナス金利政策導入の効果が実体経済に浸透していない状況であり、こうした政策というのは効果が実現するのには時間がかかる、タイムラグを伴うという面もある。現時点においてやはり日本銀行が政策を考えるときに、このマイナス金利政策を導入した効果をまず検証することが先ではないかと思っている。
 それから2%の物価目標については、これはまさにデフレ状態が長く続いた日本の経済を再生させていくため、「物価安定の目標」を2%に設定して、その実現に向けさまざまな政策をとっていくことで進められているわけだが、いろいろな要因もあって、まだ2%という目標に到達してはいない。ただ、日本銀行が2%を達成するという目標を掲げてさまざまな政策をとっているわけで、いずれ2%に近いところまで物価が上昇していくことを期待している。


(問)
 成長産業の支援に関連して、先日三井住友銀行が農業分野への参入を発表した。従来銀行から農業というのは非常に縁遠いものというイメージがあったが、それが新たな参入ということで、今後銀行界から農業以外にどんな成長分野への参入が考えられるか。また、できれば個別行の考えをお伺いしたい。
(答)
 まず金融機関の役割として、日本経済の成長に貢献するということだが、その一つの側面として、やはり成長産業、成長企業を育成していくということが一つの重要なポイントになると私は思っている。
 個別行の取組みということになるが、私ども三井住友銀行では、そういう成長産業、成長企業を金融面からサポートして、日本経済の持続的成長に貢献するために、専門部署を立ち上げている。新エネルギー、環境、水、資源、ヘルスケア、農業、ロボット等を成長分野として位置づけたうえで、国内外の産官学の連携で集積した幅広い知見とネットワークを活かして新たなビジネスモデルの創出に取り組んでいるところである。
 その一例を紹介すると、ロボットの分野は、まさに産業あるいは生活支援というさまざまなシーンで今後活用が期待されている分野である。私ども三井住友銀行では、平成28年5月に米国のSRIインターナショナルという研究機関と日米のロボット産業の振興に関する相互協力を目的として覚書を締結した。この提携を通じ、当行の持っている幅広いネットワークを活用することで、ロボット関連分野のビジネスマッチングやフォーラムなどのイベントの開催などによって、SRIの持つ最先端の技術と日本企業の優れた技術を融合させて、次世代技術の開発であるとか、あるいは新たなビジネスの創出をサポートしていきたいと思っている。将来的にはベンチャーファンドを通じた投資であるとか、あるいはそれが育ってくればIPOの支援をするなど、いろいろな金融イベントも生まれてくると思うので、そういう金融イベントを捕捉するとともに、やはり日米のロボット分野の発展に貢献したいと考えている。
 そのほか、当行では先ほど紹介したようなさまざまな分野でいろいろな取組みをしている。


(問)
 本業と少し離れた質問で恐縮だが、昨日から、天皇陛下が生前に皇太子様に天皇の位を譲られる生前退位の意向を示されているという報道があるが、これについての会長自身の受止めは。皇室典範には規定がないとのことだが、改正の議論に向けて見解があればお聞かせいただきたい。
(答)
 報道されたのはもちろん承知しているが、事柄の性格上、コメントは差し控えさせていただきたいと思う。


(問)
 冒頭でBrexit、あるいはアメリカの大統領選に絡んで、グローバル化するなかで保護主義的な動きが出てきているという話があったが、日本では足元でこのような動きがあるのかないのか、どのようにお考えか。日本でも貧困層、富裕層と二極化している、あるいは中間層が弱っていると言われているなかで、外形的には状況が似ているのかと思っており、ご認識を伺いたい。
 また、政府の経済対策において、インフラ等もそうであるが、これに加えて中間層をどのように分厚くしていくかというのも一つの柱になっていると思う。例えば、年金を10年にするとか給付型奨学金などもそうだと思うが、そのようなところへの期待は持っているか。
(答)
 まず、先ほど冒頭で、いわゆるグローバリゼーションや自由貿易等が進展するなか、国や地域によって享受する恩恵に格差が生じることから内向き志向になっている、あるいは保護主義的な動きが出ていると申しあげたわけだが、この動きが今後、世界に拡大をしていくのかどうかについては、関心を持って見ていきたいと思っている。
 日本ではどうかというと、私は今のいろいろな議論を見ている限り、そのような内向き志向とか保護主義的な考え方が出てきているとは見ていない。アメリカにおいてTPPの承認についていろいろな議論がなされているが、今年の秋の臨時国会等で日本が先んじてTPPを承認して、進めていくことが必要であり、政府にもそのような期待をしている。
 これからどのような経済対策を講じていくべきかということについては、先ほど少し触れさせていただいたが、まさに安倍総理が未来の投資とおっしゃっている若者や、所得の低い方などへの対策をどのように展開していくかということも政策上、重要なことではないかと思っている。
 日本の重要項目でいうと、消費税増税の反動もあると思うが、消費があまり増えていない、低迷しているということもあり、消費を拡大していくためにも消費喚起策が必要ではないかと思っている。とくに若い世代はいろいろ支出も多く将来に対する不安もありなかなか消費ができない、つまり消費性向が高まっていないということもあると思う。このような対策として、高齢者の方々の個人金融資産を世代間移転していくことが有益であり、私は教育資金贈与信託もよい政策だと思う。高齢者の方々の資産をいかに次の世代、あるいは次の次の世代に移転させて消費につなげていくかということを取り上げていくことも必要ではないかと思っている。


(問)
 社外取締役について伺いたい。國部会長ご自身、それから奥さん、宮田さんも、取引先を中心に社外取締役を務めている。社外取締役というのは必ずしもエクイティホルダー、株主だけのためとは言えない。デットホルダーとしての銀行側も、それから株主の利益も優先されなければいけないが、社外取締役として、利益相反は起こらないのか。つまり、取引先のメーンバンクが社外取締役をやることによってちゃんと本当に役割を果たせるのかというのと、もう一つが、さらに取引先であるがゆえに、社外取締役としての重要な役割である、できない、使えない経営者にモノが言えるかについて伺いたい。
(答)
 まず、企業が社外取締役を登用すべき、採用すべきという議論がある。それは社外取締役に何を求めているかというと、社外取締役が持っている多様な知見、それを経営に生かしていく、その会社が中長期的に成長あるいは企業価値を向上させていくために助言を受け、活かしていくということである。そうすると、銀行の役員が取引先企業の社外取締役になるというケースについて申しあげると、一般論として、銀行の役員はファイナンスに関する知識、経験を豊富に持っている。それから、もちろん当該企業の状況をよく把握しているということで、特に金融面から適切なアドバイスができると思う。こういった第三者の目を取り入れることは企業経営にとっては大変有益なことだと考えているので、取引銀行の役員という理由で一律排除するのは、当該企業にとっても機関投資家にとっても得策ではないと私は思っている。
 一方、ご指摘のように社外取締役としての立場と銀行の役員としての立場で利害の対立が生じる場合もあると思う。実務の観点から申しあげると、銀行の役員が社外取締役に就任している会社の取締役会において、利害対立の可能性がある案件が付議された場合には、その社外取締役はその議案の決議には参加しないという対応をとることによって適切に対応できると思っている。
 また、経営者に対してモノが言えるかどうかということについては、別に取引銀行の役員であっても、もちろん問題なくできると思う。


(問)
 今年度に入ってコンビニATMで起きた不正な引出しについて、5月に海外発行のクレジットカード情報を使った偽造カードにより、不正に多額の現金が引き出されるという事件が起きた。政府の要請で、銀行界としては海外発行カード対応のATMを普及させようとした矢先の事件だったと捉えている。この事件に対し、会長はどのように捉えているか。それに関連して、事件を踏まえて海外発行カード対応のATM設置についてどう考えているか。
(答)
 今回の事案というのは、南アフリカの銀行が発行するカードが偽造されたことにより、コンビニエンスストア等のATMから現金が不正に引き出されたもので、これは何らかの理由によりカード情報が流出したのではないかと思っている。仮にそうだとすれば、やはり金融機関から顧客情報が漏えいするということはあってはならない事態なので、一義的にはカード発行銀行において情報セキュリティを絶えず強化していくことが重要だと思う。
 ATMを設置する銀行の立場で言うと、現状では、偽造カードであったとしても正しい情報が磁気ストライプに記録されていれば、ATMで偽造カードかどうかを判別することはできず、暗証番号が入力されると現金の払戻しを止めることはなかなか難しい状況である。
 また、海外発行カードでの出金については、これは国際ブランドが定めるルールに従って対応しており、ATM設置銀行のみでの対策ということにも限界がある。今後、国際ブランドとも協議を行いながら、不正取引へのさらなる対応を検討していきたいと思っている。この対策として、すでに1回の引出し額を引き下げている銀行もあるが、私ども三井住友銀行もセキュリティ強化の一環として、7月19日から当行ATMでの海外発行カードによる1回当たりの引出し限度額を5万円に引き下げる予定である。また、不正取引を早期に検知する対応策を強化していく予定である。
 いずれにしても、そういった対応策を取りながら、海外発行カード対応のATM設置については、今のところ設置計画、あるいは目標は変えていない。我々としては、顧客利便性の向上とセキュリティ強化の両面を踏まえて、先ほど申しあげた適切な引出し限度額の設定、あるいは不正検知等の対策を講じながら、順次導入を進めていくことになると思う。