2016年9月15日

國部会長記者会見(三井住友銀行頭取)

髙木専務理事報告

 本日の理事会において、お手元の資料のとおり、10月1日から10月31日までの1か月間を「振り込め詐欺等撲滅強化推進期間」とし、大相撲巡業における来場者への啓発活動や、警察をはじめとする関係機関と連携し、地方で開催されるイベント等で寸劇の上演を行うほか、会員銀行や各地の銀行協会における、全銀協作成の頒布物の店頭配布等を通じた注意喚起等を行うことを決定した。

 

会長記者会見の模様


(問)
 日銀は今月の金融政策決定会合で2013年4月から始めた3年半の金融政策を総括的に検証するということだが、國部会長はこれまでをどう評価しているか。また、金融機関の経営に影響を与えるマイナス金利政策も含めて、今後の金融政策はどうあるべきか、お考えをお聞かせいただきたい。
(答)
 これまでも会見の場で中央銀行と市場とのコミュニケーションの重要性ということについて申しあげてきたが、茲許日本銀行の黒田総裁や中曽副総裁が外部講演の機会などを活用して、マイナス金利政策の効果や副作用についてもコメントをされている。これは市場とのコミュニケーションに配慮されたものと考えている。
 黒田総裁が就任されたのが2013年3月20日であるが、2013年4月にスタートした量的・質的金融緩和、いわゆる異次元緩和について申しあげれば、長期のデフレに苦しむわが国の経済において円高の是正や株価の上昇をもたらすとともに、企業や家計のマインドを前向きに転換するなど、「期待」に大きく働きかけた。また、企業収益が大幅に増加をしたほか、雇用・所得環境も改善するなど「実体面」でも明らかなプラス効果が生じたと捉えている。その後の2014年10月の追加金融緩和による円安・株高等も踏まえれば、こうした大規模な金融緩和はわが国景気浮揚のきっかけになったと考えている。
 来週9月20日、21日の金融政策決定会合において、金融緩和政策の総括的な検証が行われる予定である。黒田総裁は9月5日の講演のなかで、総括的な検証について二つの点、すなわち2%の物価目標実現の阻害要因、そしてマイナス金利付き量的・質的金融緩和の効果と影響を検証すると述べられた。特にマイナス金利政策については、これまでの会見においても、効果を十分に検証していただくことが重要と申しあげてきたところであるので、しっかりとした検証をお願いしたいと思う。
 私なりに黒田総裁が頭出しをされた2点について申しあげると、まず2%の物価安定目標については、現時点において達成されていないわけだが、これはこの間の原油価格の下落や世界経済の減速、国際金融市場の不安定化による円高の進行などの影響も大きいと考えている。
 原油価格の影響について見てみると、生鮮食品を除く総合指数、いわゆるコアCPIは足元で前年比マイナスである一方、食料およびエネルギーを除く総合指数、いわゆるコアコアCPIと言われているものだが、これは前年比プラスを維持している。また、年明け以降には原油価格の影響も縮小し、コアCPIもプラスに転じる可能性がある。もっとも個人消費など、景気の回復スピードが緩やかなため、今後も物価上昇の動きは緩やかなものにとどまると見ている。
 講演で黒田総裁は、「今後もこの目標をできるだけ早期に実現するというコミットメントを堅持していくことが重要」と話されている。わが国のデフレ完全脱却を成し遂げていくうえで、私もこの目標は堅持すべきだと思うが、今後も海外をはじめ、不測の事態が生じる可能性もあるなか、金融政策のもたらす副作用を抑制しながら着実に目標に向かっていくには、2%達成までの時間軸の柔軟化などのアプローチも選択肢としてあるのではないかと考えている。
 次に、本年2月に導入したマイナス金利政策についてであるが、これは従前の「量」・「質」のほか、「金利」も加えた形で一段の金融緩和効果を狙ったものだが、導入から7ヶ月が経過するなか、実体経済への効果という意味ではあまり現れていない、というのが金融の現場から見た実感である。金融取引や、お客さまの動向を見ても、住宅ローン金利の低下や企業の資金調達コストの低下、そして超長期の社債発行の増加などのプラス効果は見られるものの、前向きな投資等の動きは増えていない。また、金利の低下は個人や企業の運用収益の減少をもたらしているほか、退職給付債務の増加を通じて、企業財務にもマイナスの影響を及ぼしている。
 さらに銀行に与える影響としては、日本の銀行はいわゆる預超状態にあって、かつ預金金利の引下げ幅は限定的であるため、マイナス金利の下で、預貸金利鞘が縮小し、収益へのマイナス圧力となっている。わが国がすでに歴史的な低金利水準にあるなかで、私どものお客さまからは、マイナス金利政策によって前向きな活動を促進するという声はあまり聞こえてこないのが実情である。
 黒田総裁は、先般行われた講演の締め括りの部分で、金融政策で意識すべきは「ベネフィット」と「コスト」の比較と話されている。この考え方に照らすと、過度なコストにより金融仲介機能への悪影響が生じるようなことがあれば、本来得るべきベネフィットも損なわれかねない。むしろ金融政策によるベネフィットをしっかりと享受していくためにも、政府による的を絞った財政政策や構造改革を伴う成長戦略の実行、少子高齢化社会に対応した持続的な社会保障制度の構築などを併せて行うことにより、個人や企業のコンフィデンスを高め、国民の期待成長率を引き上げ、個人や企業の前向きな動きを促していくことが重要だと思う。
 もちろん我々金融機関としても、コンサルティング機能の発揮等を通じて引き続き資金需要の創出に積極的に取り組んで、日本経済の再生に貢献をしていきたいと思っている。


(問)
 2点質問をさせていただきたい。まず1点目は、銀行貸出の状況について。先ほど会長は、マイナス金利政策について、実体経済への効果はあまり出ていないという指摘をされていたが、全銀協の統計を見ると、貸出の残高が60ヶ月連続のプラスということで、データ上は貸出が順調に伸びているという形になっている。ただ、マイナス金利が導入されている割には伸びが鈍いという見方もあるかと思うが、会長として貸出残高の増加の現状をどのように評価しているかを伺いたい。
 2点目は、マイナス金利が仮に深掘りされた場合、銀行が口座維持の手数料を徴収する選択肢も一つあるかと思うが、利用者の反発も予想されて難しい課題であると思うが、手数料に関する会長の所見を伺いたい。
(答)
 二つの質問のうち、まず最初の銀行貸出についてだが、ご指摘いただいたとおり、9月7日に公表した全銀協の統計によると、8月末の全国銀行の貸出残高は前年同月比で2.2%増加している。これは60ヶ月連続の増加ということであり、国内経済の緩やかな回復基調が続いていることを示しているのではないかと思っている。そのうち都市銀行の貸出残高を見ると、2ヶ月連続で前年同月比減少という数字になっている。7月末が最初にマイナスになったが、これは政府等向け貸出の減少が主な要因と分析しており、その分が8月末残高にも影響を与え、結果として前年同月比でマイナスとなっているが、8月末は前月比ではほぼ横ばいとなっているので、下降トレンドをたどるとは見ていない。
 マイナス金利の影響ということだが、例えばSMBCの国内企業向け貸出残高を見ても、前年同月比で増加を続けているがマイナス金利が導入された2月以降、増加が加速しているということではなくて、前年同月比の増加幅が少しずつ縮小してきているという状況であり、マイナス金利導入が企業の資金需要に前向きの影響を大きく与えているという状況ではない。
 足元の状況についての私どものお客さまの声として、特徴的なものを申しあげると、「マイナス金利によって資金調達コストが低下している」という声がある一方で、「景況感の変化は感じられない」という声や、「金利水準がそもそも低いので、これ以上金利が低下しても景気への影響は小さく、資金需要は乏しい」といった声の方が多くあった。したがって、私どもの営業現場の実感も、設備投資など企業の前向きな動きというのはまだ出てきておらず、資金需要は盛上がりを欠いているということではないかと思う。
 もちろん、先ほど申しあげたとおり、前年同月比はプラスになっているわけだが、資金需要を増やしていくために実需をどうやって喚起していくかというのがポイントだと思っており、我々金融機関もさまざまな取組み、工夫をし、いわゆるコンサルティング機能の発揮等を通じて資金需要の創出に取り組んでいるところである。
 それから、2点目の質問について、仮にマイナス金利が深掘りされた場合ということだが、当行について申しあげれば、深堀りされた場合に預金に手数料を導入するかどうかという方針は全く決めていない。ただし、今後もし深掘りされて、その後の状況を踏まえると、私どもとしてはそういうことも検討していかなければいけなくなる可能性もあるとは思う。繰り返しになるが、今のところ、個別行として方針は全く決めていない。


(問)
 先般、金融庁の試算として、マイナス金利政策による3メガ銀行グループの決算への影響は合計で3,000億円程度という報道もあったが、実際、そろそろ半期が終わるわけだが、決算に与えるマイナス金利政策の影響をどのように分析しているか。もしある程度、定量的に示していただけるのであれば、それも含めてお願いしたい。
(答)
 今、ご指摘いただいたとおり、マイナス金利政策導入によって、3メガ銀行グループ合計で3,000億円程度の減益影響、当行でいうと750億円という数字が報道されたことは承知しているが、これは当行が試算したものではないので、この金額の水準自体については、コメントはなかなか難しい。
 いずれにしても、マイナス金利政策というのは、預貸金利鞘の縮小を通じて、短期的には銀行の収益の圧迫要因となるのは間違いないわけであり、今期の各グループの業績目標も、一定程度、こうしたマイナス影響を織り込んだものになっていると思う。
 先般、7月末に発表した第1四半期の決算でも、預貸金利鞘の縮小による資金利益の減少等を要因として、ボトムラインは各グループともに減益となっており、3メガ合算でいうと、前年同期比約2,000億円の減益となっている。
 したがって、もし、さらなるマイナス金利の深掘りがなされた場合には、さらに預貸金利鞘が縮小し、収益に大きなマイナス影響を与えると思う。


(問)
 まず1点目は、ドルの資金調達の状況と海外戦略について。前回の決定会合で日銀がドル資金供給の施策を発表したが、メガバンクとしてはどのぐらい効果があるものなのか。プログラムに参加されたりしているのか。
 一方で、米国でMMFに対する規制が強化されたことでドル不足が懸念されているが、邦銀にとって外貨調達に問題は生じないか。先ほど会長がおっしゃったマイナス金利の影響で邦銀の減益が予想されるなかで、海外事業への投資に対して影響は出てこないのか。
(答)
 7月29日の金融政策決定会合で示された「成長支援資金供給・米ドル特則拡大」については、2014年12月以降上限に達していた貸付総枠を拡充するものであり、日本の金融機関の外貨調達環境の安定に資する措置だと考えているので、この政策は効果があると思っている。
 外貨調達環境について申しあげると、日本の金融機関のドル調達ニーズや米国の利上げ観測等に加えて、銀行が発行するCD・CPの買い手であるプライムMMFに対する規制の導入が10月14日に控えているが、現在の段階では、外貨資金繰りに特段問題は発生していない。もちろん私どものCD・CPでの調達もMMFの規制導入を見越して若干減少してきているが、外貨調達に大きな影響を与えるような状況ではないということである。
 個別行の取組みとして申しあげると、粘着性の高い、お客さまからの外貨預金の受入れや、ドルシニア債など期間の長い市場性調達の強化等を行っており、安定した資金繰りに努めているので、今は全く問題がないと申しあげていいと思う。
 こうした環境のなかで海外ビジネスをどうしていくかということだが、個別行で戦略は少し違うかもしれないが、3メガおしなべて海外ビジネスが今後も成長ドライバーの一つであるという点には変わりがないと思う。海外で大きなビジネスチャンスが数多くあるので、外貨調達環境にも目を配りながら拡大をしていくというのが基本的なスタンスだと思う。
 もう一つ、我々が海外ビジネスを伸ばすときに留意しなければいけないのはクレジットコストである。世界経済の先行きが不透明になってきていることもあり、外貨建て、海外企業向け、あるいは資源企業向けの融資等については、クレジットの状況等についてもよく留意しながらビジネスを進めていく必要があると思っている。消極的という意味ではなく、外貨調達環境とか信用状況を留意しながら海外ビジネスを伸ばしていくのが基本的なスタンスである。


(問)
 2点目だが、9月1日にマージン規制、非清算店頭デリバティブに関する証拠金規制と言うようだが、これが日本、米国、カナダで施行された。まず1回目が金融機関3社で、御行も多分来年3月ぐらいに適用しなければいけないと思うが、それに対する受止めと影響を教えていただきたい。
(答)
 マージン規制というのは、ご存じのとおり、中央清算機関に清算が集中されない店頭デリバティブ取引について証拠金の授受を義務付けるものである。デリバティブの時価に応じて授受する変動証拠金と、取引の相手方が破綻した際のデリバティブの時価変動に備えて授受する当初証拠金の2種類の担保の授受が必要になる。そもそもこの規制は、リーマン・ショックの反省を活かして、マーケット参加者の破綻時の連鎖的な影響を低減することを目的として導入されたものである。今、ご指摘があったとおり、本年9月1日から、日本、米国、カナダという一部の国において、取引規模に応じ一部の金融機関に規制が導入されたが、足元でデリバティブマーケットに特段の変化、混乱は見られていないと思う。
 一方、今後、本年9月1日からの適用を延期した国々でも順次規制が導入される方向であり、日本では来年3月1日から全ての金融機関が規制対象となる見込みである。全銀協としても円滑な規制導入に向けてフォローしていきたいと思う。当然のことながら、デリバティブ取引はグローバルに行われているが、本規制は各国で別々に導入されているので、クロスボーダー取引で支障が出ないよう、各国の当局間の連携による規制のハーモナイゼーションを期待したいと思う。


(問)
 資金需要に関して、全銀協の統計を見ると都銀の融資は2ヶ月連続マイナスだが、地銀や信託銀行は伸びており、結果として全体の融資は伸びている。他の銀行が伸びて都銀が減っている理由として、客層が大企業と中小企業で違うとか、個人向けが多い少ないで違うとか、この辺の違いをどう分析しているのか。
 また、不動産分野が非常に伸びていて、バブル期以来の水準と言われており、過熱感もあるのではないかという指摘もある。こちらについても國部会長の受止めやSMBCとして融資のスタンスが今どうなっているのか伺いたい。
(答)
 全国銀行の数字と都市銀行の数字の違いの要因は、他行の数字は完全にはわからないので分析できないが、都市銀行の貸出残高が2ヶ月連続で前年同月比マイナスになった主な要因として、政府等向け貸出の減少が大変大きな影響を与えたと推定している。したがって、7月末に前年同月比マイナスになり、8月末は前月比ほぼ横ばいの数字だったため、7月の影響で前年同月比ではマイナスになった。そういう大口要因によって都市銀行の貸出残高が前年同月比マイナスになったということなので、全体の動きとしてそれほど大きな差はないのではないかと見ている。
 2点目のご質問については、ご指摘のとおり、不動産向け融資は増加している。ただ、皆さまがご心配になるのは、過去に経験した不動産バブルの様相を呈しているのではないかということかもしれないが、今の時点ではそのようには思っていない。現時点の不動産市況については、東京都心部を中心としてオフィスの空室率は低位で推移しているほか、賃料も上昇傾向にある。これらはアベノミクスによる経済状況の好転や2020年の東京オリンピック開催を背景として、実需に裏づけられたものと認識している。したがって、先ほど申しあげたような判断をしている。一方で、首都圏のマンションの初月契約率が低下しているなど、少し気になるデータも出てきている。したがって、我々としては今後も実体経済とかけ離れた市況になっていないか等、常に注視をしていく必要がある。
 当行について言えば、バブルの崩壊、リーマン・ショックの教訓を踏まえ、市況をしっかりとモニタリングし、例えばLoan to value(LTV)、いわゆる裏付資産の価値に占める借入金割合、これを適切にコントロールするなどリスク管理の徹底を図っている。市況のモニタリング指標を通じて、不動産市場が過熱の過程に入っているのかをチェックすることで、早めにアラームを鳴らし、もし過熱状態に入っていくのであれば、不動産業向け融資をコントロールする枠組みを整備している。


(問)
 10月から人民元がSDR入りすることに関して、これまで御行を含めたメガバンクは人民元ビジネスを拡大されてきたが、SDR入りが実現することによるビジネス拡大への期待と、それから人民元そのものについては昨年から相場に関して少し恣意的な動きもあるとの不安もささやかれているが、拡大に対する不安はないのかについて伺いたい。
 また、今月下旬から銀行の営業時間の柔軟化が解禁されると言われていることに関して、地銀では営業時間の短縮等が議題になってくると思うが、都銀の場合には営業時間延長などがあるのか。個別行の話になるかもしれないが答えられる範囲で伺いたい。
(答)
 まず、1点目の人民元取引についてだが、中国の貿易取引は2013年にアメリカを抜いて世界最大となり、実需の拡大に伴い、今後のさらなる人民元建て決済へのシフトを含めて、人民元の利用拡大の余地は大きいと思っている。もっとも、足元は人民元安ということもあり、当行の日系のお客さまの動向を見ていると、現時点では人民元建て決済へのシフトはやや足踏みの状態となっている。
 今後、貿易決済として人民元の利用が急速に拡大していくためには、金融・為替政策の透明性といった通貨の信認や、今も資本規制的なものがまだ残っているので、人民元取引の一層の自由化などが課題となっていると思う。こうした動向を注視しながら、我々としては人民元ビジネスの拡大に取り組んでいきたい。
 当行の人民元ビジネスについて少し申しあげると、お客さまのクロスボーダー人民元取引のニーズにお応えをすべく、現地法令を前提に、預金口座の開設、貿易取引や資本取引に伴う送金、人民元建ての融資、為替予約や通貨スワップ、中国国内におけるCMS(キャッシュ・マネジメント・サービス)などのサービスを提供しているところである。
 人民元のSDR入りも含め、将来的に人民元取引は拡大していくと思うので、我々民間銀行としてもしっかりと取り組んでいく必要があると思っている。
 2点目の営業時間についてであるが、7月19日に金融庁から銀行が柔軟に営業時間を変更することを可能とする銀行法施行規則の改正案が公表された。銀行法上、銀行の営業時間は午前9時から午後3時までと定められており、その延長は自由であるが、店舗の立地やお客さまのニーズに応じて、例えば、開店時間を11時にして閉店時間を17時までに延ばすなど、一部の時間について営業しない形に変更する場合には、これまでは当座預金業務を営んでいないことが要件の一つとされていた。今回の改正は、この「当座預金業務を営んでいないこと」という要件を削除するものである。
 銀行の店舗の多くは当座預金業務を営んでいるため、従来、営業時間の変更が難しい面があったが、今回の規制緩和によって、より柔軟に営業時間を設定することが可能となるため、お客さまの利便性を高めることもできるようになると思う。また、当座預金業務の取扱いができなかった既存の店舗においては、改正後、当座預金業務の取扱いが可能となるといった効果もあると思う。
 具体的に営業時間をどのように設定するかは各行の戦略によるが、地域の特色やお客さまのニーズを踏まえながら、いろいろな営業時間の設定ができるようになってくるのではないかと思うので、お客さまへのサービスレベルの向上にもつながっていくと思う。


(問)
 短期プライムレートの水準のことで伺う。日銀のマイナス金利政策が始まって以降、市場金利が低下しているなかで各行が設定している短プラのレートは2009年から据え置かれたままになっている。従来、短期プライムレートと政策金利は連動して上げ下げされることが多かったと思うが、今回、政策金利が下がったにもかかわらず据え置かれている理由を伺いたい。また、短プラは中小企業向け貸出や住宅ローンの基準金利となっている面がある。資金需要が伸びない一因として短プラが据え置かれていることもあるのではないかとの指摘もあるが、その見方についてどのように考えているか。
(答)
 まず、短期プライムレートの水準は各行が個別に判断をするものであり、全銀協としてコメントをするべきものではないと思う。したがって、個別行として申しあげる。短期プライムレートはどういうことをベースに決まっているかということで申しあげると、大きくは当行の資金調達コスト、信用コスト、貸出に関する経費等を踏まえて総合的に判断して決定している。これまでとの違いは、資金調達コストの部分になるわけだが、これは当行に限らず、日本の銀行は預金が貸金を上回る預超状態にあるため、預金金利水準の影響が大変大きいわけだが、預金金利はマイナスとしていないので、資金調達コストの低下は極めて限定的なものにとどまっている。したがって、短期プライムレートは変動していないということである。
 お客さまへの影響で申しあげると、貸金のベースレートにどの金利を適用するかはお客さまと銀行が相談しながら決めていくものであり、何らかのルールにのっとって機械的に短プラ貸金と市場金利連動型貸金を使い分けているわけではない。私どもSMBCでは市場金利連動型貸金の方が短プラ貸金よりも圧倒的に残高が多い状況であり、短プラ貸金を利用されていた中小企業のお客さまから市場金利連動型貸金への移行の申入れがあった場合は、商品内容をきちんとご説明し、ご理解いただければ、市場金利連動型貸金を適用している。したがって、かなりのお客さまにもマイナス金利政策の導入に伴う貸出金利低下のメリットは出ているということだと思う。
 住宅ローンの話もされたが、住宅ローンも確かに短プラベースの変動金利型があるが、市場金利に連動した固定金利型、あるいは変動金利型と固定金利型を組み合わせたものと、私どもでは3種類のタイプの商品を提供させていただいており、お客さまはこの中から選択をされている。足元、例えば変動金利型、固定金利型のどちらの取組みが多いかというと、半々ぐらいではないだろうか。時系列で見ると固定金利型が急速に伸びている。そういった意味でも市場金利の低下のメリットが個人のお客さまに出ていると思う。
 また、借換えの相談も大変多く頂戴しており、この意味でも、かつて高い金利で借りたお客さまも新しい低下した金利で借り直すということで、メリットが出ているケースも多いという状況である。


(問)
 銀行の株価について伺いたい。銀行株価はアベノミクス相場にも乗り遅れて、なかなか上がらなかった。さらに、株価が低迷し始めると、特にマイナス金利に入ってからは、がくんと落ちている。株価の水準を示す一つの指標として、PER、PBRがあると思うが、PBRはメガ3行とも0.5倍前後と、かつては大騒ぎされた1倍を割ることの半分というところまで来てしまっている。PERも市場平均に比べてずっと低い。御行の場合で7倍ぐらい。銀行をずっと担当していた者からすると寂しい株価だなと思うし、極端にいうと、PBRで見る限りでは、過去の例でいうと、倒産企業でもあまりなかったような低い水準だと思う。銀行界、銀行業に対する将来不安、あるいは収益力に対する期待が全くできないと思っているのか、そういうことが株価にあらわれているのか、と思いたくなるような残念な水準だと思うが、いかがか。
(答)
 まず、株価は市場で決まるものなので、なかなかコメントしにくいテーマではあるが、一経営者としてSMFGの株価水準について申しあげると、今の株価水準に満足しているわけではない。もっとも私がSMBCの頭取に就任した2011年4月は2,586円(2011/3/31 終値)だったと思うので、そのときよりも株価は上がっている。
 一方、PBRが大変低い。これは日本の金融機関だけではなく、世界の金融機関が、おしなべてPBRが低い。銀行セクターだけではなく、日本の市場でもPBRが1を割っている企業も数多くあるとはいえ、市場が金融セクター、銀行セクターについて、例えば、国際金融規制の強化の影響なども含めて評価しているのではないかと思う。
 足元、日本銀行がマイナス金利政策を導入したときに、大きく株価が下落したわけだが、それはおそらくマイナス金利幅0.1%に下げた事象だけではなくて、将来のさらなるマイナス金利幅の拡大まで織り込んで下げたということだと思う。今は、その水準よりは少し戻ってきている。今の株価水準に満足はしていないので、経営努力をしてしっかりと株価を上げていきたいと思っている。


(問)
 6月の官民推進会議で全銀協として示した決済高度化の取組みについてお伺いする。そのメニューのなかにローバリュー送金があったが、検討の進捗状況を教えてほしい。6月の時点では相手国と協議中だったが、具体的に合意のめどが得られた先があれば教えてほしい。
(答)
 ローバリュー送金は政府の経済対策にも入っているが、もともとは昨年の金融審議会で提言されたものである。ローバリュー送金は、従来のコルレス契約にもとづいて国際送金をするということに代えて、他国の決済システムに直接接続することなどにより、安価で急がない国際送金の実現を目指すものである。まず、全銀協では、わが国のAPN事業者であるNTTデータと連携をして、具体的なスキームに関する検討を進めており、本年3月には他業態も含めた預金取扱金融機関全体を対象として基本構想に関する説明会を開催した。さらに、本年5月には各金融機関の関心の有無等に関するアンケート調査も実施し、189金融機関中、約9割に当たる166金融機関が関心を示している。
 現在、スキームの実現に向けて、まず接続相手国としては韓国と協議を進めているところである。その他の国との協議についても、現在協議ルートを含めて検討している。相手国との間で具体化に向けた合意が得られれば、年内をめどに参加意向を有する金融機関等で構成する「ローバリュー送金検討会(仮称)」を設置したうえで、詳細を詰めていく予定。
 なお、ローバリュー送金の提供方法は、全銀協として検討するローバリュー送金以外にも、FinTech企業と連携・協働して提供する方法などもある。また、ローバリュー送金となるかどうかは別として、SWIFTにおいても従来のコルレスバンキングに代わる新たな国際送金スキームの構築に向けた検討が行われていると聞いている。全銀協の検討しているローバリュー送金は、こういったさまざまな選択肢の一つという位置づけであると考えている。


(問)
 イールドカーブのスティープ化について、一般的に、金利が立ってくると銀行の経営にはプラスの影響があると言われているが、今のマイナス金利政策のなかでのスティープ化というのは、金利が寝ているよりもプラスの影響があるのか、それとも特に手前のところの金利が下がったうえで金利が立ってくるという状況はまた違った様相を示すものなのか、会長の考えをお伺いしたい。
(答)
 例えば、20年国債利回りについて見てみると、7月に一時マイナスの水準となったわけだが、足元では0.40%台半ばとなるなど、超長期国債の利回りが上昇している。これは、インフレ期待や景気回復期待の高まりを背景とした動きというよりは、日銀の金融政策に対する思惑や海外金利の上昇を反映した動きだと思う。
 ご質問のあったイールドカーブのスティープ化ということについて、一般論で申しあげると、銀行というのは短期で調達してより長い期間で貸し出すということなので、銀行収益にとってはポジティブになる。足元はどうかというと、足元では10年物、20年物の国債利回りが上昇している。銀行の最大の資産は貸金であるが、当行について言うと、国内円貸金の大半が短期金利をベースとした変動金利型の貸金であり、固定の長期貸金でも3年物や5年物が中心になっている。
 一方、先ほども触れたが、調達は預超構造なので、主な調達手段である預金の金利引下げ余地は限定的である。したがって、国債利回りの上昇とマイナス金利の深掘りによる短期金利の低下によるイールドカーブのスティープ化を考えると、預貸金利鞘の縮小を通じた銀行収益へのネガティブなインパクトの方が大きいと言わざるを得ないということだと思う。
 したがって、先ほども申しあげたとおり、貸出金の主力タームである比較的短めの金利のところが上昇したうえでスティープ化すれば収益的にはプラスかもしれないが、現在のイールドカーブの形状からすると、銀行収益に対してはむしろ足元のマイナス金利幅の拡大によるネガティブなインパクトが大きいということになる。
 もう一つ、我々のアセットサイドでいうと、国債での運用ということがある。金利の上昇やそれに伴うスティープ化というのは、一般的にはキャリー収益の増加につながるが、例えば足元で当行の平均デュレーションは3年弱で、地域金融機関についても、日本銀行の金融システムレポートを見ると昨年12月末時点で4年程度であり、スティープ化によるプラス影響は、国債運用という観点でもあまり大きくないのではないかと思う。
 したがって、銀行収益という観点からいうと、やはり経済の回復継続を背景とした、実態を伴った金利の上昇およびイールドカーブのスティープ化というのが望ましいと考える。
 もう一つ付け加えると、実態を伴わない金利のボラティリティの高まりということになってくると、企業活動などに与える影響にも注意をしておく必要があると思う。


(問)
 来月から外貨建ての一時払いの終身保険など、一部の保険について代理店手数料の自主的な開示が始まるが、開示が当該の保険の売れ行きに与える影響についてどのように考えているか。
(答)
 まず、販売に与える影響について触れる前に今回の開示に対する考え方をお話しておきたい。保険の手数料開示について、7月の会見で「金融審議会の市場ワーキング・グループでどういう議論がなされていくのかを見ながら、開示のあり方を考えていきたい」とお答えするとともに、フィデューシャリー・デューティーの取組みについては「各行が個別に判断をすること」と申しあげた。8月2日にワーキング・グループが開催されたが、そこで当局から金融機関による運用商品販売についての問題意識が示されるとともに、委員の先生方から金融機関の販売姿勢についてさまざまなご指摘を頂戴している。これらを踏まえて、自らのフィデューシャリー・デューティーの取組みをさらに進めるという観点から、貯蓄性保険の販売手数料の開示を行う銀行が、私どもを含めて多く出てきたということだと思う。
 私どもについていうと、今年の3月にフィデューシャリー・デューティー宣言を行い、お客さま本位の資産運用・資産形成事業に継続的に取り組んでいる。その一環として、保険商品の販売に当たっての営業店の評価体系や保険会社からの手数料の受領方式の見直しを行っているところである。このような取組みに加え、先ほど申しあげた金融審議会の市場ワーキング・グループの議論も踏まえて、10月から貯蓄性保険の販売手数料を開示することとしたものである。
 今回開示する手数料は、お客さまから直接頂戴する費用ではないが、保険会社から頂戴する代理店手数料を開示することも販売姿勢の透明性の強化につながるのではないかと考えた。
 これが保険の販売にどういう影響を与えるかは、まだ開示をしていないので正確には見通せない部分ではあるが、それほど大きな影響は出ないのではないかと見ている。むしろ手数料よりは、全般的な市場環境の動向による影響の方が大きいと思う。


(問)
 マイナス金利の効果について懐疑的な見方をしていることはよくわかったが、会長としては撤回が望ましいとお考えなのか、それとも導入してしまったものは仕方がないが、これ以上の深掘りはすべきではないとお考えか。
 また、先ほど時間軸の柔軟化も選択肢となるのではないかとおっしゃったが、金融緩和の縮小と捉えられて円高が進むといったリスクもあり、その点はどうお考えか。
(答)
 いずれの質問についても、最終的に金融政策をどうするかというのは政策当局者である日本銀行が決められることである。私が申しあげたいのは、今回「総括的な検証」をするとおっしゃっているが、さまざまな金融政策の効果が実際に出ているのか、あるいは当初想定した効果とどう異なっているのかということを十分検証したうえで判断をしてほしいということである。
 マイナス金利政策については先ほど申しあげたとおり、現時点においてはその効果は出ていないというのが金融の現場から見た実感である。さらに金利が低下することになればコストがベネフィットを上回ることになりかねない。その場合、金融仲介機能の低下によって、実体経済にも悪影響を及ぼしかねないというリスクがあるので、その辺も含めて十分に検討をいただいたうえで総合的に判断をしてほしいということである。
 日本銀行としては金融緩和を行って日本経済を再生させていく、デフレ脱却を遂げていくということでやっておられるわけで、まさに市場とのコミュニケーションが大変重要になってくると思うので、今回「総括的な検証」をされて市場へどういうメッセージを出されていくのかということについては、大きなポイントだと思っており、大変関心を持って見ている。


(問)
 御社とみずほさんがスポンサーを務めているリオオリンピックが終わった。4年後に向けてこんなかたちでやっていきたいとか、今回の所感を含めて活かしていきたい点があれば教えてほしい。
(答)
 所感から申しあげると、8月5日から21日にリオで開催されたオリンピックで、日本人選手が41個のメダルを獲得した。最高が前回ロンドンの38個なので、過去最高のメダル獲得であり、私もいろいろな競技を見て応援をしていた。
 今回、私は三つ特徴があると見ている。一つはチームワークの勝利。例えば陸上の400メートルリレーで、世界はオーバーハンドパスだが、日本はアンダーハンドパスで、これを徹底的に訓練したことによって、4人のリレーが1人の選手が走っているように見えるほどスムーズな連携があった。その結果、米国を抑え銀メダルを獲得した。二つ目は、粘り強さ、勝利への執念。今回、逆転勝ちが大変多かった。例えば体操の内村選手は最後の競技で逆転した。それから四連覇を遂げた伊調選手、これもたしか残り4秒で逆転、バドミントンもそうだったと思うが、そのほかさまざまな競技で逆転があった。
 三つ目が若い人が活躍したということ。10代半ばから20歳前後の若い選手が世界の強豪に伍して大活躍した。メダルをとった方もいるし、とれなかった方も2020年の東京オリンピックでの活躍が予感できる大変な活躍だった。私はお客さまとの会でも言っているが、この三つの特徴は日本人らしさが非常に表れていると思う。
 ちなみに今パラリンピックが開かれているが、私どものグループからも4名の障害者アスリートが参加しており、活躍しているところである。
 次は、東京オリンピックということになる。私どももゴールドパートナーとして進めていくわけだが、例えば大会ビジョンの一つとして、「全員が自己ベスト」ということを掲げているように、やはりスポーツだけでなく、文化、芸術、経済、社会インフラ、IT、医療技術等、さまざまな分野で全員がベストを尽くして、世界中のアスリートが安心して活躍できる、そして世界中から多くの方が訪れると思うので、しっかりとおもてなしができる大会にしていくことが大事だと思う。我々金融機関は、ある意味縁の下の力持ちということかもしれないが、東京2020オリンピック・パラリンピックをしっかりと支えていきたいと思っている。
 今、いろいろな取組みを進め始めていて、例えば東北復興ということについても、ほかの企業と組んで、さまざまなイベントを企画している。今回、やはり一つのテーマが、東日本大震災からの復興を世界に示すというミッションもあると思うので、そういったところでもお手伝いしていきたいと思っている。