2017年9月14日

平野会長記者会見(三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)

髙木専務理事報告

 本日の理事会において、お手元の資料のとおり、10月1日から10月31日までの1か月間を「振り込め詐欺等撲滅強化推進期間」とし、大相撲巡業等における来場者への啓発活動や、会員銀行および各地の銀行協会において、全銀協作成の頒布物を店頭配布することを通じた注意喚起等を行うことを決定した。
  施策の概要は資料のとおりであるが、内容についてご質問があれば、会見終了後、事務局にご照会いただきたい。

 

会長記者会見の模様


(問)
 幹事社から3点伺う。
 1点目はカードローンについて、金融庁が実態把握のために個別行に対して検査に乗り出す方針を示した。全銀協としては、これまで申し合わせなどで対策をとってきていると思うが、金融庁はそのうえでさらに実態調査が必要だということで検査の方針を示したということだと思うが、今後の銀行界としての対応について聞きたい。
 2点目は金融庁の組織再編について、銀行の不良債権などを厳しく調べてきた検査局を廃止し、新たにFinTechなどの対応に力を入れていく体制に変わるが、会長としてこの組織再編をどう感じているか。
 3点目はマーケットについて、8月以降、改めて北朝鮮情勢によって株、債券、為替の市場が大きく動いている。これについて銀行業界に対する影響はどのようなものがあるか。
(答)
 最初の質問はカードローンに関する銀行業界としての対応ということである。皆さまもご承知のとおり、私ども全銀協の取組みとしては、3月の申し合わせ以降、アンケートの実施などを通じてカードローンの適切な業務運営に向けた会員各行の自律的な取組みの後押しを続けてきた。今後も業界としての取組みをさらに深化、深めていく必要があると思う。
 幾つかの切り口に分けて、少し具体的に話すと、まず第1は、これまでも行っていた会員各行の取組みの促進である。9月下旬から10月初旬をめどに、再度会員向けのアンケートを実施する。5月に実施したアンケートは、主に会員行が相互に取組状況を確認し、具体的な見直しの参考にすることを目的に行った。アンケートの結果を見ると、公表したとおり、多くの銀行が広告宣伝、審査体制の整備の見直しに着手したところであった。ただ、一方で検討中というところも多かった。そこで今回実施するアンケートでは、第1に現在でも検討中あるいはまだ対応が未完了という事項があるのかどうか、もしあればその理由を確認したいと思っている。それに加え、前回のアンケート以降、この場も含めてさまざまな指摘、論点を頂戴した。例えば、これは前回の会見でも質問を受けたが、業績評価に関する質問を追加して、より網羅的に会員行の運営状況を確認していく予定である。アンケートの結果は、さらなる運営の見直しの参考になるようなプラクティスも含めて、前回同様、その要旨を公表する予定である。
 第2は、マクロ動向等を把握したいと考えている。まず最初は、10月から全銀協において会員行のカードローンの残高を月次で集計し、全銀協のウェブサイトで公表する。現在、貸金業界は主な事業者の貸出残高を毎月公表している。そして、話題となっている自己破産も司法統計として月次で公表されているが、銀行のカードローンについては、日銀統計において四半期ごとに公表されているだけである。そこで、私ども全銀協としてはカードローンの残高を月次で集計し、すでに毎月公表している預貸金速報に併せて公表する。これでマクロの動向を捉えていく。去年までは10%を超える伸びだったものが直近では8%ぐらいに落ちてきているが、これがこれからどう動くのか、我々の取組みがどう残高に反映していくのかを見ようという趣旨である。加えて、ユーザーの実態把握を行いたいと思っている。カードローンに関する意識調査を行いたいということで、会員行とは独立した調査会社等を活用し、年内実施を目指して具体化していく。
 3番目、多重債務者の発生を防ぐことは重要な課題だと思うが、これについて二つ。一つ目は、10月中をめどに全銀協にカードローン専用の相談窓口を設置する予定である。この窓口においては、消費生活相談員などの資格を保有する相談員と返済方法のアドバイスなども行う専門のカウンセラーが対応する体制としたい。二つ目は、これは政府でも議論されているが、ギャンブル依存症対策推進関係閣僚会議での議論に対応し、貸金業界の取組みも参考にしながら、借入人本人や家族からの申し出により、貸付自粛を行う制度を銀行業界としても検討しようと考えている。今年度中には方針を決定し、来年度には導入したいと考えている。
 こうした多面的な取組みを通じ、我々全銀協としては、銀行カードローンの会員行における取組状況あるいは市場の動向をフォローし、多重債務者問題が発生することがないように、健全な消費者金融市場が育成できるように対応を重ねていくつもりである。
 次に、金融庁の組織再編に関する質問である。今回の金融庁の組織再編は、金融界を取り巻く環境の変化、あるいは新たな課題に対応するためのものであると理解しており、前向きに受け止めている。
 今回金融庁は、見直しのポイントとして4点挙げている。第1に金融行政の戦略立案機能の強化、第2に金融行政の専門性の向上、第3に市場行政を含めた企画能力とFinTechへの対応の強化、第4に各業態ごとの検査・監督の一体化である。
 それぞれについて簡単にコメントすると、第1点目と第2点目については、金融庁が考えているのは、庁内の人的資源を専門別のチームに集約したうえで、その知見を活かし、金融市場全体を鳥瞰しながら、これまでのような業態軸だけではなく、市場、決済、リスク管理等の機能を軸として金融行政の方針を検討、立案していこうということだと思う。また、そういう枠組みのなかで、例えば決済市場や債券市場の一層の整備、育成といった課題に取り組んでいくということだと思う。そして、もう一つ重要なのは、マクロ・プルーデンスである。これは、従来も機能はあったのだが、これからいずれまた景気のサイクルが回ってくるときに発生するであろうさまざまな問題の予兆を捉え、早めに手を打っていく意味で、マクロ・プルーデンス機能の強化が謳われているのは大変時宜を得た取組みだと思う。さらに、それらをやっていくうえで専門性を高めていかなければならず、人材の採用、育成にも力を入れたいとのことで、これは大変に結構なことだと思っている。
 3点目はFinTechも含む対応力の強化だが、FinTechを活用した新たなビジネスでは、一方で顧客利便性の向上が期待できるわけだが、他方で顧客保護、あるいはマネー・ローンダリングといった観点で、これまでにはなかった課題も出てきている。すなわち、こうした功罪両面を捉えた市場の整備が課題となっている。それ以外にも森長官が掲げている資産形成、ガバナンス改革といった現在実施中あるいはこれから実施状況をフォローしていくような課題もたくさんあるわけで、これらに対する対応を進めていくのだろうと思う。
 最後に検査・監督の一体化については、もうすでにかなりやってきている。したがって私は、今回はこれまでの取組みに合わせて組織対応したのだと見ている。実際、米国のケース、英国のケース、これらの当局とは四六時中対話しているが、ここではまさに検査と監督は一体運営されており、ある意味では、ベストプラクティスに近いかたちではないかと、私自身は考えている。特に、今私ども自身も含めて多くの銀行でビジネスモデルの改革が必要になっているが、検査と監督が一体化された新しい体制の下、当局と金融機関の間でより密接なコミュニケーションが可能となり、そうしたなかで金融機関の健全性の確保、あるいは環境変化への対応が進んでいくことを期待している。
 三つ目のご質問の北朝鮮であるが、まず申しあげておきたいことは、全銀協としては、緊急事態が発生した場合への対応が重要であるということである。Jアラートが発動されたときには、状況に応じて、全銀協全体、および全銀ネットや短期金融市場等の業務のインフラごとに災害対策本部を立ち上げることを決めている。従来、震災等に備えてバックアップサイトを設置していることに加え、これまでも合同訓練においては全銀協および会員行が参加し、業界挙げての業務継続体制の高度化に取り組んできたところであり、北朝鮮の動向には留意しながら、いざというときに備えていく必要がある。
 2点目に、質問の主旨により近いと思うが、市場の問題である。現在、市場はかなり神経質になってきており、いわゆるリスク回避の動きがある。先週の金融市場を見ると、日経平均株価は弱含み、ドル・円相場は円高に進み、日本国債も買われ、長期金利は10年物が一時マイナスゾーンに落ち込んだ。アメリカにおいても、同様のリスク回避の動きがあり、ニューヨークの金先物相場が1年ぶりの高値をつけた。今、市場は少し平静を取り戻しているが、引き続き注視が必要なことは間違いないと思う。
 さらに、もう少し私が気にしているのは長期的な影響で、もし今の状態が長く続くと、潜在成長率の低下やインフレ期待の剥落につながり、これが実体経済の足を引っ張ることが懸念される。全銀協としては、市場の変化には十分留意しながら、有事に対応していく。


(問)
 東芝について伺いたい。半期末を前に依然、債務超過の状態となっているが、この半導体メモリ事業が2兆円で売却可能という前提に立てば、実質債務超過ではないとの判断ができるのではないか、あるいはそもそも不正会計を行っているような会社ならば、保全と回収が前提になるということなのか、そういった東芝に関する融資に関して考え方があれば教えていただきたい。
(答)
 毎回申しあげているが、個別企業に関する話については、基本的にコメントを差し控えるのが妥当と思う。ただし、東芝の問題は社会的にも非常に関心が高いので、少し一般的な考え方を述べたいと思う。
 8月は全銀協の記者会見が開催されなかったことから、前回7月会見以降の動向を簡単に振り返ると、まず第1に、昨年度の通期決算の開示について、限定付きとはいえ適正意見での有価証券報告書提出が実現した。そして第2に、メモリ事業の好調もあり第1四半期の実績は四半期決算として過去最高の営業黒字となった。第3には、ウエスチングハウスのチャプター11申請により東芝自身のリスクがあり得たが、そのリスク遮断に関しても保証負担金額の上限が固まったということで、確かに前進感はあったと思う。
 一方、ご指摘のとおり、メモリ事業の売却に関して、昨日、日米韓連合と覚書を締結したとの公表があったが、今後も最終合意に向けた協議が必要であり、また、ウエスタンデジタルによる仲裁申し立ての対応もある。さらには、一番時間軸上問題と思われるのが、独禁法のクリアランスであり、様々な乗り越えるべきハードルがあるということである。
 したがって、金融界あるいは銀行、貸し手としては、東芝自身が目指している来年3月末までの売却完了に向け、これまで以上に時間軸を意識した対応を実施することを期待しているところである。
 それから、もう1点、ガバナンスについても再構築が必要であるが、特設注意市場銘柄の指定が未だ解除されていないことを踏まえると、株主、投資家をはじめとしたステークホルダーにとって納得感が得られるような経営体制を構築することが重要と考えている。個別行としても、経営が大変な努力を払っておられることはよく認識しているが、主力行との協議状況なども確りと見守ったうえで、判断、対応していきたいと考えている。


(問)
 カードローンについて2点。まず1点目、カードローンの残高の伸び率が去年10%を超えていたのが8%台に鈍化したということだが、これは3月の申し合わせ以降、過剰な部分が抑制されたという理解でよいか。
 もう1点、日弁連などが懸念しているカードローンの問題については、1行でも過剰な貸付を行っているようなところがあれば、批判は消えないと思う。100%徹底させるために、今、ご説明があった対応で本当に十分なのか、総量規制といった法規制まで踏み込む必要があるのではないかという声もあるが、どのようにお考えか。
(答)
 まず、最初の伸び率についてであるが、実際のところ、私どもも正しく判断する材料を持ち合わせていない。客観的な事実として伸び率が少し下がってきているということであるが、これは私ども個別行についても同じことが言える。個別行においても、これまで行ってきた取組みが伸びの鈍化につながっている、あるいは伸びを抑制しようと個別行として少なくとも考えており、ご指摘のとおり10%台から8%台へ低下したというのも、おそらくそういった各行における取組みが総体として反映されたものではないかという推測はできると思う。
 一般的に言って、事業が急速に成長する場合には何らかのひずみ、あるいは課題が出てくる。これに対しては、一つは今申しあげたとおり、その成長をどうコントロールするか、どう見ていくかということであり、もう一つは、二つ目の質問にもつながるが、銀行界として実態を十分に把握するということであり、かつ、特に審査の面ではまだまだ工夫の余地があるということだと思う。広告宣伝の抑制については、かなり取組みが進んできたが、次に、商品のコンセプトをどうお客さまに理解していただくのかといったビジネスの見直しも必要になるかもしれない。そういった意味で、全銀協としては、先ほども申しあげたように、いろいろと取組みを行っており、前回も申しあげたとおり、会員行の取組みをフォローアップするかたちで対応をしていきたいということである。
 特に審査については、まだまだ改善の余地があると思う。カードローンのビジネスは基本的にクレジットモデル、すなわち審査のモデルを各行でつくり、それにお客さまから得た、あるいは信用情報機関から得た情報等を加味して審査を行い、与信判断をしている。これは本来、経験値が積みあがれば積みあがるほど、あたかもAIが進化するかのごとく、クレジットモデルがより改善され、より精緻なものになっていくはずであり、その努力を続ける必要があると思う。したがって、一律に金額の上限を設けるなどもさることながら、まず第1に取り組むべきは、お客さまの返済能力の範囲内で資金をご利用いただくということに対して、貸し手サイドの努力の積み重ねが必要だと思う。個別行としても、銀行が持っているさまざまな情報や、貸倒率と属性情報の相関関係に係る情報量を増やすことによって、私どもから見れば代弁、お客さまからご覧になれば返済が難しいという状況をつくり出すことがないような努力を重ねていく。今の段階ではそれが最も重要だと考えている。


(問)
 引き続きカードローンで恐縮だが、2点お願いしたい。
 1点目は、金融庁がカードローンについての検査を始めるが、通常、検査を行うということは事前には公表されないところ、今回は異例で我々にも説明があった。相当重みを持ってやるということのようだが、これについての見解をいただきたい。
 もう1点は、3月の申し合わせの後に、今回このような対応をされたのは、3月時点の申し合わせがまだ少し不十分だったという見解を持っているということか、伺いたい。
(答)
 金融庁の検査については、3月の申し合わせ以降、会員各行のさまざまな取組みを改めてモニタリングされるということであろうし、これは2番目の質問にもつながるが、それで十分なのかということも併せてご覧になるのではないかと推測する。
 2番目は、3月は不十分だったのかというご質問だが、これについては先ほどから申しあげているとおり、カードローンビジネスが、ある意味では私ども銀行界にとっては新たな取組みだということであり、そういった場合、初期的な段階においてさまざまな課題、あるいは不足などが生じることはあり得るところ、それらに対して実態を把握しながら改善を続けるという努力を重ねるということである。
 したがって、3月の取組みについて、今この時点でそれが不十分だったかどうかというよりは、むしろその後、皆さまからも頂戴したさまざまな声、お客さまからの声に耳を傾けながら、カードローンという、数多くのお客さまにご利用いただき、活用していただいている商品の磨き上げ、あるいは高度化を図っていく必要があると思っている。今回の私どもの取組みも、そういった一環をなすものであり、引き続き、品質の向上を図っていくということだと考えている。


(問)
 仮想通貨についてお聞きしたい。仮想通貨や仮想通貨を絡めた資金調達がかなり盛り上がっている。一方、FinTechという大きなくくりのなかでいうと、仮想通貨というのはまた別の異質なものという認識も広がっている気もしている。仮想通貨全般に関して、新しく金融庁の規制も入ってくるが、現状をどう認識されているのか、三菱東京UFJ銀行としてもMUFGコインを今後出していくことを検討されているが、そういったなかで、FinTechにおける仮想通貨の位置づけをどう見ているか、教えていただきたい。
(答)
 FinTechは一般的に申しあげれば、これからの金融ビジネスを大きく変えていくドライバーになっていくことは間違いないと思う。これをうまく活用すれば、大きく将来の金融業界のあり方、サービスの内容、お客さまにとっての利便性が変わる、あるいは金融機関自身にとっての効率的な事業運営が可能になるという意味で、極めて重要である。
 そのようななか、仮想通貨のご質問について少し申しあげたい。
 今、異質なものとご指摘になったのは、ビットコインについて8月に発生した分裂問題や、直近でも、ある米国の大手金融機関のCEOの詐欺だという発言報道によって相場が動いたということに対してと思う。一時は5,000ドルぐらいに近かったものが4,000ドルまで落ちているということで、急激な価格の変動が起こっている。
 それから、ICOの問題がある。これも、仮想通貨を利用した資金調達の方法であるが、さまざまな課題がここに来て出てきているということである。
 日本ではご承知のとおり、4月の改正資金決済法の施行により、仮想通貨の取引の安全性あるいは信頼性を高めようという取組みが行われているが、これが一定の成果をおさめることを期待している。9月末までには登録申請が行われ、10月からは登録された業者による取組みが始まるということで、これは一つの安心材料である。
 ただ、本質的には、以前にも申しあげたことがあるが、三つ課題があると思っている。一つは、仕組みあるいは運営に関する信頼性の問題である。二つ目が、先ほども申しあげた過剰なあるいは過度な価格変動のリスク。三つ目がマネー・ローンダリングを含む悪用のリスクである。実際、パリのテロ事件でもテロリストファンディングに使われたというような報道も一部になされていた。
 これらを順番に考えると、まず一つ目の仕組みや運営に関する信頼性について言えば、ビットコインの場合、処理能力の不足という技術的な問題に端を発したわけであるが、中央管理者がいないことから技術的な課題に対する解決手法次第で利害関係者に大いに影響が出る場合、意見の集約も難しいということがある。この問題はかなり本質的な問題であって、中央集権的な管理者の不在はビットコインのような仮想通貨、パブリックな仮想通貨の特徴であるものの、そこにそもそもの課題があるというのが1点である。
 二つ目は、これも同じような問題があって、「根拠なき熱狂」という言葉をかつてフェデラルリザーブのチェアマンが使ったことがあるが、一種のバブルになっているという見方があり、実際、投機的な目的で利用されているのが現状ではないかと思う。これをどうするのかということが二つ目の問題である。
 三つ目には、マネー・ローンダリングあるいはテロリストファンディングについてであり、G7を中心に規制は整備されつつあるが、未整備な国もたくさんある。仮想通貨の場合は基本的に国境がないので、そういう意味ではモニタリングをどうするかといった運用面での課題も含めて、まだまだ課題が残っているということである。
 ただ、一方で、日本においても、商業施設も含めて、仮想通貨、デジタル通貨が使われるケースもかなり増えてきているので、今、申しあげたような課題に我々がどう立ち向かって、広く使われるような通貨を生み出していくのかということが、これからの課題だと思う。その場合には何かを捨てるということもあるかもしれない。何かを捨てて、例えば信頼性をとるとか、何かを捨てて、ボラティリティを抑えるとか、そういった考え方もあるかもしれない。その辺はまさにこれからこの事業に取り組もうとする関係者が考えていかなければいけない課題だと思っている。

 


(問)
 気候変動リスクの開示について質問する。
 金融安定理事会のタスクフォース、いわゆるTCFDが、6月に気候変動リスクを財務報告のなかで開示するように推奨する最終報告を出している。開示は化学会社などが先行しそうだが、銀行界としてどのように受け止めているか教えていただきたい。
(答)
 ご指摘のように、6月に、TCFDから報告書が出た。この報告書が対象としているのは、基本的にはイシュアー、すなわち債券あるいは株式を発行している企業等であり、気候変動のリスクと機会、並びにそれらの財務的なインパクトについて、財務報告書などで開示をすべきだという内容である。具体的には、ガバナンス態勢、事業戦略への影響、そして、リスクをどう管理するのか、そのリスクをどう測るのか、目標値はどう置くのか、といった内容になっている。
 銀行業に関しては、例えば、炭素関連資産、要するにCO2を発生するような事業だが、これらの事業に対する融資がどの程度あるのか、その集中度を開示すべきだといった推奨もなされている。これに関しては、銀行界としても、ESGの観点から、再生可能エネルギーへの取組みであるとか、あるいはグリーンボンドの発行など、環境に配慮した取組みを進めているところであり、実はこの歴史はかなり長い。
 したがって、従来、必ずしも明確に意識し、開示していなかったことを、きちんとまとめて開示するということには大いに意味がある、と私自身は考えている。そこで、全銀協としても、会員行のESGの取組みのレビュー、すなわちアンケート調査をしているところであり、さらには有識者を招いた勉強会も主催し、会員行の取組みを後押ししていこうと考えている。TCFDの推奨についても、そういった脈略のなかで取り組んでいこうと考えているところである。


(問)
 カードローンで2点教えていただきたい。今日のお話のなかで利用者の実態調査を始めるということだったが、利用者のどういうところについて調べるべきだとお考えか。ポイントがあれば教えていただきたい。
 また、銀行の審査能力をこれから高めていくというお話もあった。自己破産に陥るような利用者が、消費者金融も併せて複数のところから借りているという状況を考えると、一つの銀行の能力が高くなっても、結果として幾つかの銀行から借り入れるので、その借入れをコントロールするのはなかなか難しいのではないかと思う。かつ、銀行カードローンの貸付が結果として今ある貸金業法の総量規制をほとんど無効なものにしているのではないかと思うが、その点はどのようにお考えか。
(答)
 まず、カードローンのユーザーの意識調査、あるいは実態調査に関しては、通常この種の調査で聞くことをきちんと網羅しようと思う。まず資金使途、なぜお借りになったのか。それから、例えば返済が滞るような事態に陥った場合にはどなたからそれを借りるのか、何社から借りておられるのか、年収対比の借入れの金額を意識しておられるか、など、まさにこれまで様々ご指摘を頂いている内容を明らかにする、そういった調査にしたいと思っている。
 2番目の点、複数の金融機関から借りることをコントロールするのはなかなか難しいのではないかという話だが、私どもとしては、まず各個別の金融機関が審査能力を高めて、お客さまの実態を把握したうえで貸すという努力を積み重ねる、これがまず第1だということは、先ほども申しあげたとおりである。一方で、例えば貸金業法における上限規制を実質的に超えるような貸出が行われているケースがあるのではないかということに関しては、前回も申しあげたが、この規制は、ある意味で一律の規制を適用したわけであるが、その一方で、私ども銀行がそれぞれのお客さまに応じた与信のラインを設定し、そしてお客さまがその返済をしっかりできるというケースがあるのも事実であり、これは大事にしていきたい。おそらく問題は、例えばこれだけのサイズの市場、あるいはお客さまのニーズがあったという場合に、その一部に問題になるセグメントがあって、まさにそれが多重債務者の問題となる可能性があるわけで、ここを回避するような取組みができるか、むしろそこに焦点を当てた方が良いのではないかと考えている。全体に大きな網を掛けるよりは、やはり問題のあるところに的を絞って対応していく努力を続けていきたいと考えている。


(問)
 FinTechの話を改めて教えていただきたい。FinTechに関する、日本の銀行業界の立ち位置、例えば、どこか遅れているとか、この辺は進んでいるとか、課題があれば教えてほしい。また、規制の観点でFinTechの普及を阻むものがあるのかを教えていただきたい。
(答)
 今日は全銀協の会見であるので、一つ全銀協のPRをさせていただこうと思う。まず、今のご指摘とも関係があるが、会員各行は事業規模に違いがあり、あるいはビジネス特性にも違いがあるから、FinTechへの取組みには一定のばらつきがある。
 そのなかで、会員の声を聞いてみると、何らかの取組みを後押しするような場を全銀協として提供してくれるとありがたいという話が出てきた。そこで、ブロックチェーンに関するプラットフォームを全銀協で立ちあげることにした。これは10月から動き始める。この取組みには、複数の事業者に参加をしていただき、また複数のプラットフォームを提供していただくことで、会員がそれを比較しながら自社のブロックチェーンの活用に取り組めるような仕組みをつくるということである。
 次に、規制に関して申しあげると、今、金融庁が、実証実験のアドバイスを行うといった取組みを始めようとしている。また、東京都におかれては「国際金融都市・東京」というテーマでいくつかの取組みを始めている。大きく三つあるが、一つはアセットマネジメント、二つ目は東京というまちを世界にPRしようということ、三つ目がFinTechである。これは海外のFinTech企業が日本にやって来て、日本のスタートアップの企業とのコラボレーションをするといった活動の場を提供しようということである。
 個別行の話になるが、私ども三菱UFJフィナンシャル・グループでも、プラグ&プレイという、FinTechのスタートアップ企業をサポートするプラットフォームを提供する会社と手を組み、日本のFinTech企業の育成に当たろうとしている。そういったさまざまな取組みが今、官あるいは民においても行われているということをご理解いただければと思う。
 いずれにしても、このFinTech、最初のころはディスラプターというイメージが強かった。ディスラプターとは破壊者、既存の金融事業者にとっては脅威だという捉え方がまずあったわけだが、今はそうではなくて、英語ではイネイブラーという言い方をしているが、これまでにできなかったことを可能にする事業者だということで、敵対するよりはコラボレーションする、これが基本になってきている。
 FinTechは、うまく取り組むことで私ども自身のサービス力を向上する、お客さまの利便性を向上する、私どもの社内ではなかなか思いつかないような新しい発想で新たなビジネスを始める、といった存在に徐々に変わりつつあると思う。今後そういう脈絡で、今申しあげたような幾つかの取組みが成果を生むことを大いに期待している。


(問)
 郵政民営化から今年10月で10年となるが、金融2社株は現状、完全売却の目途は立っていない。日本郵政の株式は、先般、政府が追加売却したことで一定の進捗は見せているが、ゆうちょ銀行の株式の売却について今後どうなっていくべきと見ているか。
 もう一つは、当時、官から民へということでゆうちょ銀行を民営化することによって、郵便局を使った地域の金融システムの安定にも寄与するという目的もあったかと思うが、現状それがどれぐらいのところにあり、官から民へという取組みがうまく機能しているのか、その点についてお考えを聞かせてほしい。
(答)
 まず、最初のご指摘は、日本郵政グループが誕生したまさに平成19年10月には、金融2社の完全民営化を実現する期限として10年後がセットされていたわけである。残念ながら、これはその後撤廃され、いまだ金融2社については完全民営化の道筋が示されていない。私どもとしては、引き続き民間金融機関との間での公正な競争条件が確保されていないということを申しあげざるを得ない状況である。そうしたなかで、昨年4月にゆうちょの預入限度額も引き上げられたわけだが、仮にこうしたことが続くと、金利上昇局面での金利リスクが一段と大きくなるし、それによって将来の国民の負担が発生しかねないということだと思っている。
 2点目の官から民への成果ということだが、一つの成果として申しあげられるのは、ゆうちょ銀行と民間金融機関の間の連携・協働が進んできたということだと思う。最初は、ATMの相互開放、それから全銀システムへのゆうちょ銀行の加入があり、特例会員としての全銀協への加盟が実現した。さらには、これは各行の取組みだが、ゆうちょ銀行による民間金融機関の金融商品の販売、あるいはシンジケート・ローンへの参加がより活発になってきた。それから、投信運用会社の共同設立という動きもある。地域への取組みでいうと、地域活性化ファンドを共同出資でつくるといった、さまざまな取組み、あるいは融和が進んできたということは言えようかと思っている。
 すなわち、引き続き完全民営化への道のりを明らかにしていただく必要があると同時に、今申しあげたようなゆうちょ銀行と民間金融機関の連携・協働について、それぞれの機能あるいは郵便局ネットワークを活用しつつ、取組みを加速させ、ひいては地域の発展、国民の安定的な資産形成に共に貢献していくということが重要だと考えている。


(問)
 金融庁の検査・監督の組織再編に伴う改革のなかで、オンオフ一体運営、フォワードルッキング、ビジネスモデルにもとづいた深度ある対話など、従来型の厳格な資産査定はもうやらなくてもいいというようなメッセージが金融庁から伝わってきていると思う。いわゆる1本1本の資産査定というのはもはや時代遅れで、それをやっていても金融システムの健全性は担保できないのか、あるいはやはり必要なものなのか。銀行の経営者としては金融庁の検査は緩いに越したことはないのだろうが、金融システムの健全性という観点から見た場合、資産査定とはどうあるべきなのか、お考えを聞かせてもらいたい。
(答)
 まず、金融庁の一番大きな狙いは、金融システムの安定化、個々の金融機関の健全性の維持、金融サービスのさらなる発展ということだと思う。その観点で資産査定を考えると、基本的にこれは事後対応であるが、現在、森長官をはじめ金融庁が考えているのは、ご質問にもあったようにフォワードルッキング、すなわち将来を見越した監督のあり方を追求していこうということであり、そうした方向に軸足が移っているということだと思う。一つの背景としては、金融危機の時代に最大の問題となった不良債権問題が、今は収束しているということであり、もう一つは、各銀行における自己査定が確立されて、検査においてもあまり乖離が大きくなくなってきた、つまり、一つのスタンダードが業界としてできたということがあると思う。したがって、資産査定を軽視して良いということではなく、各行で確りやるべきだということだと思う。さらに、各行においては、営業の第一線、リスク管理の第二線、それをさらに監査が見るという三線の構造もかなり確りとできてきたことから、各金融機関における取組みに委ねることを軸に考えるということだと思う。
 なお、一つ目の点については、将来的にまた変わってくることはあると思う。先ほども申しあげたが、金融には必ずサイクルがあり、いわゆるクレジットサイクルの時計で、今どの時間なのか即断することは難しいが、仮にこれが夕暮れに近づいてくるような時期になれば、もう一回クレジット、すなわち与信の質に対する関心が出てくることはあるかもしれない。ただ、先ほどから申しあげているように、制度面、あるいは仕組みづくりはかなり進んできており、かつてと同じような意味での資産査定が復活する可能性は、かつてに比べれば低いと考えている。


(問)
 カードローン等の類似商品は、消費者金融ではすでに提供されており、クレジットカードのキャッシングもあるなかで、銀行のカードローンはお客さまにとって何が優れているのか。資金の提供側にとって仕組みが優れているということではなくて、お客さまにとって何が優れているということが言えるのか。
(答)
 まず、私どもがこれまで申しあげてきているのは、お客さまのニーズを的確に捉えて、ご利用いただける仕組みをご提供するということである。ただ、重要なことは、与信というものは必ず返済という行為を伴うわけであり、返済能力を何らかのかたちで、それが審査モデルであろうが対面であろうが、あるいは信用情報であろうが、しっかりと見たうえでお客さまにご利用いただく、そういったパッケージであるということだと思っている。そして、そのように考えたうえで、お借り入れをいただくお客さまに、より幅広い選択肢を正しく適切にご提供することは、引き続き重要なことであろうと考えている。
 一つの商品属性としてあるのは、例えば金利の設定であり、取組みにはかなり幅があるが、あるクライテリアのお客さまに一定のまとまった金額をご融資する場合、ご利用いただける金利の水準を低く設定する等、各金融機関のそれぞれの工夫において、お客さまのニーズにお応えしていくということだろうと思っている。
 他方、これはこの場でも何度かご指摘いただいているが、借りやすい、というのがこれまで銀行のカードローンの基本的な商品特性としてアピールされてきたと思う。すなわち、年収証明不要、30分以内審査などであり、それが本当にいいのかということについては先ほどから申しあげているとおりであって、その結果として、仮に返済にお困りになるようなお客さまが増えてくるのであれば、そのカードローンとしての品質は改善していかなければならないということである。
 したがって、各行での取組みとなるが、借りやすいということは一つの属性ではあるものの、やはり銀行からであれば安心して借りることができるよね、とご認識いただけるように、各行が商品のかたちを少しずつでも整えていくということ、これを先ほど私は品質改善と言ったが、品質を高めていく、こういう努力が必要なのではないかと考えている。これは、全銀協としての見解ではなく、一事業者として考えているものである。
(問)
 会長に一つお願いがあるが、今後、カードローン残高を月次で公表するのであれば、貸出残高だけではなく、極度額も開示していただけないか。フォワードルッキング、つまり将来的、潜在的な利用額を見える化によって把握するためには、自己査定も過去だと言われたとおり、残高も過去であることから、そういう意味では、過去の残高ではなくて極度額を公表していただくと、将来的なことを考えるのにとても参考になると思うので、できたらお願いしたい。
(答)
 ご意見として承ったが、この種の統計を見るときに、何が重要かというと、やはりトレンドである。残高は確かに結果かもしれないが、残高の動きをしっかり見て、さまざまな施策がその動きにどう反映されているかということをまずはフォローしたいという趣旨で、今、準備を進めているところである。


(問)
 仮想通貨について、先ほどもさまざまな課題があるという話を頂いた。そのなかで、三菱UFJフィナンシャル・グループもMUFGコインを発行されていく方針だと思うが、どのような違いを生み出していくのか。これだけたくさんの仮想通貨が発行されているなかで、なお独自の仮想通貨を発行される意義をどのようにお考えなのか、改めて教えていただきたい。
(答)
 私どものMUFGコインは、今、発展途上というか、開発途上の段階にある。商品自体の一次開発は終わり、現在、社内でモニターを使ったテストを繰り返している。当初、150人から始めたが、今は1,500人に増やし、さまざまな課題を抽出し、それに対してどのような手を打つかという検討を日々続けている状況である。
 なぜ新たな仮想通貨かという質問だが、これについては、先ほど、私は、仮想通貨について三つ課題があると申しあげた。一つ目は仕組み、あるいは制度の信頼性、二つ目が価格、価値の過剰な変動、三つ目がマネー・ローンダリングや、犯罪に資金が利用されるという問題があるのではないかということである。
 私どもは、そのような幾つかの仮想通貨が持っている弱点、課題を、私どもなりに解決できないかという挑戦を続けている。したがって、仮に、私どもがこれを実用化し、商品化するところまで進むのであれば、それはやはり信頼に足るものでなければいけないし、過剰な価格の変動を極力排除できるようなものでなければいけない。そして、当然、マネー・ローンダリング等への備えも行っていくということであり、実証作業のなかで、点検を続けているところである。


(問)
 IPU(Intermediate Parent Undertaking)、いわゆるヨーロッパの中間持株会社について、先日、19行が当てはまるのではないかと言われて、御行をはじめ3メガの名前が挙がっているが、これはどういうインパクトがあるのか。
(答)
 ご指摘のとおり、邦銀への影響は、仮に今のEC(European Commission)の提案どおりになれば、G‐SIBsを全部対象にするということで、メガ3行は、アメリカの中間持株会社と同じようなIPU(Intermediate Parent Undertaking)をつくらなければいけないということであり、それに伴い、一部グループ内での組織の再編、場合によると戦略の変更が必要になるということである。具体的には、中間持株会社をEU内につくることを求める理由というのは、仮に当該金融グループが破綻するような場合に備えて、一定の資本や流動性をEU内に置かせるということである。これはいわゆるリングフェンシングという言葉でよく言われることがあるが、そういった試みの一つで、自分の法域内に流動性・資本を抱え込むということである。それが行われると、グループ全体で余分な資本が、中間持株会社を一つつくるごとに増えていくということであり、これは流動性も同様である。したがって、グループ全体をグローバルベースで見た時に、資本の効率、流動性の効率が悪くなる。そうなると、その地域以外で仮に問題が起こった場合、損失吸収能力が低下するという本末転倒の結果にもなりかねないということであり、インパクトがある。したがって、すでに全銀協として、今年の4月、それから今月、EC、EU理事会、欧州議会等に意見書を提出し、直接訪問もし、会話を続けているところである。
 簡単に言えば、G‐SIBs一律ではなく、EU圏内における事業規模あるいは資産規模が大きいところだけに絞って欲しい、引き続き支店は外して欲しい、あるいはBrexitの問題も絡むため、基準日はBrexit後にして欲しい等、かなり具体的な提案をしているところである。