2017年10月19日

平野会長記者会見(三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)

髙木専務理事報告

 事務局から3点ご報告申しあげる。
 1点目は、本日の理事会において、みずほ銀行の藤原頭取を次期会長に推薦することが了承された。来年の理事会での正式な選定手続きを経て、来年4月1日に就任する予定である。
 2点目は、お手元の資料のとおり、カードローンの相談・苦情等を受け付ける専用相談窓口を本日付で設置した。また、10月からカードローン等の残高(前々月の確報値)を集計し、業態別計数も含めて公表を開始している。
 3点目は、こちらもお手元の資料のとおり、今般、シンガポール銀行協会と、協力関係に関する覚書(MOU)およびフィンテックに関する協力についての非拘束的合意を締結した。
 これらの内容については、会見終了後、事務局にご照会いただきたい。

 

会長記者会見の模様


(問)
 最初に、今週末に投開票が行われる衆院選について、各党の公約に関連し3点ほど聞きたい。
 一つ目、選挙戦ではアベノミクスの是非も争点の一つになっている。景気の現状を見ると企業部門を中心に回復が続いているが、個人消費や物価の伸びは弱く、一般市民には実感が湧かない状況が続いている。アベノミクスへの評価についてお願いしたい。
 二つ目、自民党は公約で、幼児教育無償化の財源として消費税の使途変更を打ち出した。一方、野党側は消費税の凍結を訴えて論戦をしている。いずれにしても、財政再建目標の達成が遅れる懸念が強まっている。それが金融市場や日本経済に与える影響をどう見ているか。
 最後に、自民党が公約でゆうちょ銀の預入限度額の引上げを盛り込んでいるが、2016年4月に続いて再度の引上げとなった場合、民間金融機関にどのような影響が出ると考えるか。
(答)
 順にお答えする。
 先ずアベノミクスについては、それまで停滞していた日本経済の流れを、大胆な金融緩和、機動的な財政政策という第1、第2の矢で大きく変化させた。そして第3の矢である成長戦略、民間投資を喚起する政策として法人実効税率の引下げ、あるいは経済提携、協定の拡大といった幾つかの課題に積極的に対応してきており、これらの点を評価したい。
 実際、昨年度の企業業績は、リーマン・ショック時のピークを2割以上上回る水準に達しているし、8月の有効求人倍率は1.52倍と雇用情勢も大きく改善している。日経平均も今月、21年ぶりの高値をつけ、商業地の公示地価が全国平均で2年連続上昇しているなど、資産価格も好転している。景気も回復の期間をとれば9月時点で「いざなぎ景気」を超える58ヶ月に達し、名目GDPも2012年10-12月期の493兆円から、直近では4-6月期で543兆円と、約50兆円増加するなど、全体として見れば日本経済は改善の傾向をたどってきたと言える。
 ただ、個人消費が所得並みには伸びていない。すなわち、消費性向が十分に上がっていない。直近8月のコアCPIが、エネルギー価格の上昇がありながらも前年比+0.7%程度にとどまっており、物価には力強さがない。経済の好循環によるデフレからの脱却をより確かなものにしていくためには、さらなる政策対応と官民一体の取組みが必要だろうと考えている。
 わが国の財政状況あるいは金融政策の現状を踏まえると、アベノミクスの初期にそうであったように、この先、財政あるいは金融政策に多くを求めることはできない。したがって、規制緩和を中心とした成長戦略の加速と社会保障制度の改革による家計の将来不安の払拭、ならびに財政の健全化、これらを粘り強く進めていただくことが必要だと考えている。
 二つ目、消費税の使途変更でプライマリーバランスの黒字化達成が遅れることの金融システムへの影響についてお答えする。2020年度のプライマリーバランス黒字化目標は、安倍総理自身が9月下旬に、「今般の消費税引上げの使途見直しに伴って、2020年度の達成は困難となる。しかし、財政再建の旗をおろすことはない」という発言をされた。歳出・歳入両面での改革を継続するとともに、成長戦略の実現を通して財政健全化を進めていくことは極めて重要である。私どもとしては、政府におかれては、新たな目標時期の再設定と、その実現に向けた具体的かつ市場の信認を得ることができる財政再建計画を示すことを強く要請したい。
 与野党の政策の話だが、与党の公約によれば消費税引上げは実行し、これに伴う税収の使い道を当初の予定から変更するということだが、子育て世代への投資とともに、財政健全化にもおよそ半分は使うということなので、財政健全化に向けては一歩前進と言えよう。一方、消費税増税凍結を主張するのであれば、より具体的な黒字化達成に向けた道筋を提示してもらう必要があると思う。
 プライマリーバランスの黒字化目標の先送りが、金融市場あるいは金融システムにどういう影響を与えるかについては、まず国債に関する影響だが、現状、日本銀行による大規模な国債購入もあり、国債の消化は安定的である。仮にプライマリーバランスの黒字化目標が後ろ倒しされた場合でも、格付機関の一部には、すぐに日本国債の格付を変更するつもりはないという趣旨のコメントも出ている。しかし、金融市場をよく見ると、日本のソブリンCDSの拡大傾向がうかがえるように、財政悪化への懸念も根強く残っていると思う。さらに、国債が仮に格下げされた場合には、私ども日本の金融機関の保有する日本国債の評価損、あるいは外貨調達コストの上昇などの影響が発生する懸念がある。これは私ども邦銀の海外事業展開に大きなインパクトを与えるだけではなく、海外展開している日本企業の調達にも影響を与える可能性がある点には留意するべきだと思う。
 そもそも2020年度のプライマリーバランスの黒字化目標は、政府が2010年のトロントサミットをはじめ国内外で達成すると表明してきたことでもある。また、経済環境全体を見ても、過去に財政目標を撤回した局面が2回あった。一度は平成不況、2回目はリーマン・ショックだが、これらと比べると、現在、景気を理由とした先送りはなかなか理解を得られにくい状況にあると思う。確かに教育の無償化などの政策は、少子高齢化社会における人材の育成につながるものであり、また、これを進めることで家計の安心感が増して資金が消費に回る効果を期待することはできる。しかし、最終的には政府の財政の健全化こそが、教育であれ社会保障であれ、その持続性を担保するものである。したがって、今後の政策運営には万全を期して消費税率10%への引上げを確実に実行するとともに、プライマリーバランスの黒字化目標を堅持し、歳出・歳入両面での改革と成長戦略といったトータルな施策の断行、実行を通じ、新たな目標が確実に実現されるよう、達成時期、達成手段、どういう段取りで達成するのかに関して、計画を早期に示していただきたい。
 三つ目、ゆうちょ銀行の預入限度の引上げについては、同じことばかりお話して申しわけないが、私どもはかねてより郵政民営化の本来の目的は、国際的にも類を見ない規模に肥大化した郵貯事業を段階的に縮小し、将来的な国民負担の発生を回避すること、そして、民間市場への資金の還流を通じて国民経済の健全な発展を促すことだと主張してきた。預入限度の再引上げについては、仮にこれがさらなる規模拡大につながる場合には、現在の低金利環境下での収益に影響が出てくるし、今後の金利上昇局面においてゆうちょ銀行が抱える大きな金利リスクがさらに増加し、ひいては将来的な国民負担の発生につながりかねない。もう一つ、ゆうちょ銀行自身が中期経営計画で掲げている、国際分散投資の加速による資産運用戦略の高度化にも影響を与えかねない。結果、ゆうちょ銀行の企業価値向上にも悪影響を及ぼしかねないと懸念している。
 したがって、この引上げを議論する際には、国内外の経済・金融環境の変化、あるいは昨年4月の引上げが、他の金融機関等との間の競争関係やゆうちょ銀行の経営状況に与えた影響等を十分検証するとともに、肥大化した規模が、今後国内金融市場に大きなインパクトをもたらす可能性があることを十分考慮し、慎重な検討をお願いしたいと思っている。


(問)
 数ヶ月前の会見でも一度話題になったが、来月、金融危機から20年になる。このテーマで何点か伺いたい。1点目は、会長ご自身が金融危機を通して最も印象に残っている出来事とそこから学んだ教訓について教えてほしい。2点目として、次の金融危機がいつ起こるかはわからないが、今、業界として危機に備えるという意味で課題が見えているようであれば、それも併せて教えてほしい。
(答)
 この場で私自身の経験を語るのは適当かどうかわからないが、ある意味象徴的な話かもしれないので、一言だけ触れた後、一般的な話をしたい。
 私は、アジア危機、日本の金融危機が起こったときにニューヨークにいた。以前も少し触れたが、その時、資金繰りがつかなくなりかけた。銀行というのはお客さまの資金繰りについてさまざまなご助言をしたり議論をしたりすることがあるが、自分の資金繰りにあれだけ日々苦労をしたことは後にも先にもない。金融危機というのが、まず最初、流動性の危機になって現れるということ、これを当時は実感した。今も国際的な金融規制は資本と流動性、この二本立てになっているが、まずは流動性の危機がある。例えば、取り付け騒ぎも流動性の危機である。それから徐々に信用危機を深める、あるいはその背景に資本の毀損があり、それがきっかけになって信用不安、流動性に波及する場合もあるし、また、その流動性の危機がさらに信用危機を深める場合もあるということ、それが私の限られた銀行員経験のなかでの印象に残る事象であった。
 次に2点目として現在の金融機関あるいは金融システムをどう見るかを考えるに当たって、少し振り返ってみたいと思う。まさに、この20年は、大きな構造転換の時期であったと思う。90年代後半には日本版のビッグバン構想が打ち出され、伝統的な金融事業が大きく変化した。そのなかで、アジア通貨危機、日本においては大型の金融破綻が生じて、結果的にはそれらが日本経済全体に大きな負の影響を及ぼしたということである。
 2000年代に入ると、そこから何とか脱出するために、金融機関の不良債権処理等、まさに痛みを伴う施策が講じられた。それと併せて、金商法が制定されたり、窓販業務が拡大したり、あるいは消費者保護の制度が整備されるということで、新たな金融の枠組みが構築された時期だったと思う。
 その後、今度はグローバル金融危機が起こり、それ以降はバーゼルIIIへの移行等によって規制強化が進む一方で、最近では2年連続して銀行法が改正されて、決済サービスに関する整備等が進んできたということである。
 大きく流れを振り返ると、この20年間、国内の金融サービスに関する基盤、枠組みが大きく変わり、整備されるとともに、金融機関の健全性自体は大きく改善してきたと思っている。企業もこの間大変なご努力を続けられ、過重債務、あるいは設備の圧縮を進めて、冒頭申しあげたようなグローバル金融危機の前のピークを上回るところまで業績が回復しているということである。
 まとめて見ると、現在は、一方で金融サービスの多様化が進み、もう一方で、企業、金融セクターともに財務の健全化が進んだ。したがって、かつてのように貸出が不良債権化し、日本経済あるいは金融システム全体に大きな影響を及ぼすようなリスクが蓄積されているということはない、これが20年前と一番大きな変化だと見ている。
 ただ、一方で新たな課題が出てきている。この場でも何度も話題になったが、足元の金融機関においては少子高齢化の進捗、あるいは低金利環境が続くというなかで、いかに収益性を確保し、サステナビリティを維持するかというのが大きな課題である。また、企業においても設備投資に力強さを欠くなかで、いかに長年蓄積されたデフレマインドを払拭して、将来のビジネスの拡大を図っていくかという課題が残っているということである。
 したがって、金融機関あるいは企業においても、既存事業の見直し、あるいは新たなビジネスモデルの構築や成長戦略の実行、そしてそれらを通して日本全体に将来への期待を作り出していくということが重要だろうと思っている。それがこの20年間を振り返った私の感想である。


(問)
 企業の健全性なり金融機関の健全性は大きく改善してきたということだが、やはり20年前の傷跡というのは非常に深く、その後の企業や金融機関の行動を大きく規定することになったと思う。いまだに当時の記憶から抜け出せていない状況が残っているのか、それとももうすでに払拭できているのか、どう見られているか。
 そして、中でも今回の選挙で、内部留保の課税について一部の党が検討すると言っているが、その内部留保について、企業が信用できるものは何かといった場合に、手元に持っておきたいということがおそらくあって、その根源をたどっていくと20年前に当たるということかと思う。この内部留保課税について、二重課税等の批判もあるが、銀行業界としてどう受け止められているのか教えていただきたい。
(答)
 最初の20年前の痛手を今どこまで日本の経済・金融、あるいは産業が引きずっているかということだが、一言で言うと、当時の三つの「過剰」は完全に解消されていると思う。すなわち設備の過剰、債務の過剰、要員の過剰だが、現在はいずれもない。いろいろな統計があるが、私ども三菱東京UFJ銀行の経済調査室の認識では、現在需給ギャップはほぼ無いという理解である。ではそれにもかかわらず、なぜ個人消費が力強く伸びず設備投資が増えてこないのかということになるわけだが、これは本当にいろいろな要素があると思う。大きく捉えればセキュラー・スタグネーションと言われているような、日本だけではなくて世界全体を覆っている長期的な構造的低成長という問題がある。この要因については、イノベーションが足りない等の意見があるが、この罠を今の世界経済はまだ脱していないと思う。それに加えて、日本の場合は少子高齢化という20年前には意識されていなかった問題がある。そしてそうした問題もあって将来に対するさまざまな不確定性、あるいは不安が企業にも家計にもあり、これらを払拭していかないと、かつてのような高度成長ではないにしても、もう少し元気が出るような経済状況には戻らないと思う。
 金融機関も、言わば構造的な不況に直面しており、そこからどうやって将来の成長の道筋を描くのか、どう構造改革を進めていくのかもがいているわけだが、この局面を何とか乗り越えていく必要がある。そのためには、政・官・民それぞれの努力が必要だろうと感じている。
 二つ目の内部留保課税については、これは二重課税であり、短く言えば法理論的に不適切であろう。また、少し詳しく言うと、よく内部留保は悪だという話があるが、おそらくそれは正しくない議論であって、内部留保というのは企業が将来のさまざまな状況の変化に対する備え、それから将来の成長に向けた投資を行う場合の財源であり、それが厚くなることは決して悪いことではない。先ず、実際どう使われているのか、よく出ている数字を見ると、昨年度末の企業内部留保は406兆円、現預金が211兆円、一方で設備等を含む有形固定資産は456兆円、国内外の投資有価証券が305兆円であり、内部留保はいろいろな用途に使われているということである。
 次に変化、即ち安倍政権発足時、つまり平成25年度以降の変化で見ると、内部留保は102兆円増加したが、このうち現預金が43兆円、一方で、設備等の有形固定資産は28兆円増、投資有価証券が69兆円増加している。企業規模別に見ると、中小企業では、どちらかというと現預金の伸び率が高く、大企業・中堅企業では比較的低い。したがって、まず内部留保が全部現金になっているわけではない。また、有価証券の相当の部分はM&A等だと思う。つまり新たな事業投資がここしばらく活発に行われてきているということだろうし、設備もそれなりに出てきているということである。ただ、十分力強いかといえばそうではないということだと思う。
 では、なぜ中小のセクターで現金が厚いか。ここは、さきほど指摘があった20年前のトラウマがないとは言えないと思う。やはりどうしても手元資金を厚くしようという心理が働くのではないかという感じはしている。これらを今後どうしていくかについては、先ほどから言っているような成長戦略、あるいは事業戦略をこれから官民ともにしっかりと実行していくことによって、中進国の罠という言葉があるところ、今陥ろうとしている言わば先進国の罠からどうやって抜け出すか、先進国としてのチャレンジに日本全体として取り組んでいかなければならないと思っている。


(問)
 カードローンの上限規制について伺う。全銀協の加盟行のなかにも少しずつ上限規制をとり入れるという動きが広がっているようだが、まず1点目として、この上限、年収の3分の1とか2分の1とかいろいろあると思うが、上限規制自体をとり入れるということ、その必要性についてどのようにお考えか。2点目は、各行で導入されている基準が年収の3分の1、あるいは年収の2分の1、100%という銀行もあるようだが、各行の上限設定が、借り先によって年収の2分の1や100%とばらばらであることについて、どのようにお考えか。
(答)
 まず、上限を設けることについてだが、前回も確かお答えをしたことがあると思うが、消費者金融専業会社においては、年収の3分の1という貸付上限が法律で定められている一方で、銀行についてはそれがない。これがなぜそうなっているかというと、一つは、銀行の場合は、銀行としてのより精緻な審査モデルを構築することができ、そうした各銀行における審査制度、審査体制、あるいは審査モデルの整備が進められるはずだということ。それからもう一つは、これは私見だが、銀行のお客さま、あるいは銀行のカードローンをご利用になるお客さまが、消費者金融専業会社と一部は重なるかもしれないが、異なるということなのだろうと思っている。
 一方で、各銀行においては、それぞれ貸付上限を定めているところが多いのではないかと思う。それをどういう基準で定めているかというと、それぞれのお客さまの属性であるとか、年収、これまでのいわゆるクレジットヒストリーや決済の履歴など、銀行が持っているさまざまなデータを含めて、返済能力に合った金額を設定するというやり方をしている。つまり、一律ではなくて、お客さまの返済能力を見ながら、この金額が適当だという設定の仕方をしているということだと思う。
 したがって、銀行のカードローンについて、法の制度としての貸付上限を導入する必要はないと思っているが、各銀行において、審査モデルの向上、それに向けたさまざまな情報の活用を進めていくことで審査能力を高度化する、それによって、最終的には、過剰な借入れをされるようなお客さまがいなくなっていくことをめざす努力を続けるべきだと考えている。
 二つのご質問を、まとめてお答えした。


(問)
 官民データの利活用について伺いたい。政府が行政と民間が保有する、さまざまなデータの利活用を目指している。5月に閣議決定された基本計画では金融も重点分野とされており、2017年度から2018年度にかけて利活用の方策を検討するように謳われているが、銀行界として今後どのように検討していくのか、教えていただきたい。
(答)
 官民データについては、データの種類とその活用方法に分けてお話したい。
 まずはデータの種類として、匿名加工データおよび個人名が特定できるパーソナルデータがある。次に利活用について言うと、金融機関が自ら保有するデータを金融機関自身で使うこともさることながら、外部にも使ってもらう、逆に銀行外の企業、組織が持っているデータを銀行が使うというケースが考えられる。
 まず匿名加工データについてだが、一般的に銀行が保有しているデータは膨大であり、何かに利用できるのではないかという感覚があると思う。ただし、この匿名加工されたデータが本当に使えるものなのかは、これは三菱東京UFJ銀行の取組みではあるが、銀行外の一般の企業に現在ヒアリングを行っているところである。したがって、今のところは、例えば個人の位置情報とかショッピング履歴情報とは異なるようなデータが使えるのかまだよく分かっていない。
 もう一つ大事なことを申しあげると、仮に匿名加工をしているとはいえ、もともとは一般のお客さまの個人情報であることから、安心感のある仕組みを構築する必要がある。個人情報保護法は、業界が匿名加工情報に係る作成の方法等の指針を作るように促しており、銀行界としても今後、指針の作成を検討していくことになる。官民データ活用推進基本計画の趣旨や、先ほど申しあげた想定されるニーズ等も踏まえ、安全と利活用をうまく両立したルールを今後策定していかなければならないと思っている。
 一方で、銀行が外部のデータを利用することについては、各行が実施するべきものであり、それぞれ創意工夫の余地が大いにあると思う。全銀協会長としてのコメントは差し控えるが、ぜひ積極的に取り組むと同時に、やはり安心感のある利活用をしていくべきだろうと思う。
 最後に、いわゆる個人名が特定されたデータの活用であるが、未来投資戦略でも謳われているとおり、個人が関与する下でパーソナルデータの流通、活用を進める仕組み、すなわちPDS(パーソナルデータストア)、あるいは情報銀行と言われているが、これらを官民で実証実験を行っていくことや、信頼性・公正性・透明性といったキーワードを確保するための制度のあり方についても議論が進んでいく。私どもとしても、そのような議論に関与しながら、戦略を練っていきたいと考えている。


(問)
 商工中金の危機対応業務での不正について、政府においても再発防止策を検討する動きも出始めているようだが、会長はこの問題についてどのように捉えているか。また、今後、政府系金融機関の役割について、注文があれば教えてほしい。
(答)
 これもかねてから申しあげていることの繰り返しになるが、政策金融機関のあり方としては、民間にできることは民間に委ねる、いわゆる民業補完が原則であるとまず申しあげたい。政策金融機関の重要性が認識される分野としては、平時における中小企業や創業・起業に対しての政策的視点からの事業性資金のサポートが必要である場合、あるいはインフラ関連の超長期の融資や海外に関して言えば、新興国といったリスクの高い案件で、民間の金融機関では十分にリスクテイクができない場合が一つ。もう一つが、リーマン・ショックを端緒とした経済・金融危機への対応や、東日本大震災等の自然災害への復旧支援といった危機対応業務。この二つが柱である。
 そういうなかで今回不正の対象となった危機対応業務は、まさに金融危機、あるいは震災等の自然災害の危機事象によって影響を受けた中小企業等への支援業務であったわけで、本来期待される役割である。改めて、その取扱いについては、やはり法律の趣旨に則って、一般の金融機関が通常の条件で貸付などを行うことが困難な状況に限定した取扱いを徹底すべきだと認識しているし、危機の認定自体も厳密に運用していただく必要があることを感じている。平時における融資に関しても、民間金融機関では十分リスクテイクができない分野に的を絞る、あるいは協調融資のかたちで対応するなど、民業補完の原則を徹底していただく必要があると考えている。


(問)
 つみたてNISAについて伺いたい。10月から受付が始まったが、手数料を低く設定しているため、これではサステナブルに取り扱いできないという証券会社も多いらしく、取り扱う証券会社の数が広がっていないようである。預金の流入が続く銀行から見ても貯蓄から資産形成という流れは望ましいものではないかと思っているが、なかなか取り扱う金融機関の数が広がらないことについて会長はどう思われているのか。
 もう一つは個社の話になるが、三菱UFJフィナンシャル・グループ内でどう取り組んでいくのかまだ方針が出ていないと思うが、証券会社でやるのか銀行でやるのか、それとも全くやらないのか等いろいろな考え方があると思うが、今どのようにお考えか。
(答)
 つみたてNISAは10月から口座の受付が始まったばかりであるので、現時点でどういう走りになっているのか私も正式なデータを手元に持ち合わせていない。この制度自体は皆さまご承知のとおりで、非課税期間が20年と極めて長いものであるし、パッシブを中心として比較的リスクが小さく、販売手数料、信託報酬が低コストに設定されていることなど長期の資産形成に適した制度設計になっていると思う。したがって、投資をこれから始めようしているお客さまや、今後資産形成が必要な比較的若年層のお客さまが投資を始めるうえでは有効なツールになると期待している。
 2点目のご質問だが、つみたてNISAの販売については、各金融機関、銀行、証券、信託、あるいは各金融グループの事業戦略や販売チャネル戦略にもとづいてそれぞれ対応されると思う。例えば三菱UFJフィナンシャル・グループの場合は、比較的明快な販売戦略を取っている。先ほどから申しあげているように、対象となる一番中心的な年齢層は20歳から30歳のお客さまであると思うが、このセグメントのお客さまに関しては銀行に圧倒的に口座数が多い。したがって、三菱UFJフィナンシャル・グループでは銀行を主力チャネルとして取り組む方針である。さらに銀行の場合は職域やネットでもポテンシャルのあるお客さまとお取引をいただいており、そういった方法も通じて推進していく。
 一方、証券会社については、三菱UFJフィナンシャル・グループの場合、比較的シニアのお客さま、あるいはオーナー層の方が多いので、証券はそういったお客さまとのお取引を推進し、つみたてNISAのご要望があった場合は銀行でお受けするということで対応しようと思っている。
 いずれにしても、貯蓄から資産形成をさらに加速させていくうえでは、一人でも多くのお客さまに資産形成の重要性を長期・積立・分散というかたちでご理解をいただき、投資の第一歩を踏み出していただく必要があると思っている。そういった趣旨でそれぞれの金融機関あるいは金融グループが、最適なチャネル、販売戦略を組み立て、お取引の拡大に努力していくことが重要だと思っている。


(問)
 3点伺いたい。
 1点目は、株価が13営業日連続で値上がりしていることについての受止めと、値上がり自体が行き過ぎであるとか、どのような受止めをしているのかをお伺いしたい。
 2点目は、カードローン残高が、今日初めて公表されており、4月から比べると1.4%と微増だが、増えていることの受止めと今後の銀行業界としての対応を改めてお伺いしたい。
 3点目は個別の話だが、神戸製鋼所で製品の検査データ改ざんが起きている。影響がかなり広く受け止められているので、それについての反応と銀行業界としても対応していくのかお伺いしたい。
(答)
 1点目の株価については、どう考えるか本当に難しい。一部には日銀マネーとかGPIFが株価を支えている、官製相場ではないかという見方もささやかれている。確かに日銀のETF買い入れは、リスクプレミアムの縮小を企図したものであったので、それ自体が株価を押し上げる可能性がある。さらにGPIFという世界最大の機関投資家が運用ポートフォリオの変更をしたことにより、一部押し上げ要因はあると思うが、基本的には内外経済の回復あるいは企業業績の好転を反映していると考えるのが、現時点では正しいのではないかと思う。
 実際、数字を紐解いてみると、足元の数字と20年ほど前、すなわち1996年12月の日本企業の収益状況を比べてみると、非金融法人の数字であるが、経常利益は1996年が27.8兆円、これに対して、昨年度は75兆円まで3倍近くに増えている。それから、企業業績の収益性もROEの推移をTOPIXベースで見てみると、足元では9%台となっており、大幅な上昇である。また、PERで見ても、足元は15倍程度である。安倍政権が発足直前の2012年12月は24倍であったが、企業業績は良くなっており、PERが下がっている。株価は上がっているが、PERが下がっており、この点でも、現時点で株価が企業収益に対して過度に割高だとは言えないと思う。
 ただし、世界的に見て、緩和マネーが、株式のみならず債券、各国の国債、クレジットと呼ばれている社債などのさまざまなアセットクラスの価格を押し上げていることは間違いないと思っているので、こうした資金の流れによっては、株価に限らずさまざまなアセットクラスの価格が大きく変動する可能性はある。その動向には十分留意する必要があると思っている。
 2点目のカードローンの残高の推移については、今回初めて公表した。申し合わせ以降の4月からの数字を集計した。これによると、4兆3,000億円から4兆4,000億円の間を推移している。現在は前年との比較等ができないので、これだけで判断するのはなかなか難しいが、例えば4月から8月までの5ヶ月にわたる全体の残高増加率が1.4%である一方、これまでも公表されていた四半期ごとの日銀統計の平成27年6月から今年6月までの2年間を見ると、3ヶ月ごとの残高増加率の平均は2.4%であった。足元で出ている数字は5ヶ月で1.4%、過去2年間は3ヶ月で2.4%であり、数字的には今の足元の伸びのほうが低いとは言えると思う。
 もう少し付け加えると、この5ヶ月間で残高を5%以上伸ばしている会員行は1割である。逆に減らしているところは3割以上である。また、業態別の増加率で見ると、都市銀行等が0.9%、地方銀行が2.3%、第二地銀が0.7%になっている。これらの計数のなかには、過去のさまざまな状況や季節要因もあるため、この時点で断定的なことは申しあげるべきではないが、こういったデータをよく見ながら、各行において多重債務者を誘発するような取組みがなされていないのかということを、全銀協としてもマクロ動向から確認していきたいと考えている。
 3点目の神戸製鋼所についてであるが、これは個社の話であるので、細かくは触れないが、社会的にも大きな関心を呼んでいるので、一言申しあげる。今回の事案は、取引先との間で取り交わした製品仕様に適合していない一部の製品について、検査証明書のデータの書き換えを行うことにより、当該仕様に適合しているものとして出荷していた事実が判明したということであり、誠に残念なことだと言わざるを得ない。こうした事実は、社内での自主点検と品質監査を通じて判明したということであり、社長を委員長とした品質問題調査委員会を立ち上げて、外部の法律事務所による事実関係の調査も進めておられるということである。
 また、業績への影響も気になるところであるが、現在、見極めをしておられる状況であると認識している。今後、供給先における安全性の確認あるいは再発防止策の策定等、当社の対応を見守っていきたい。
 日本を代表する製造業においてこのところ幾つか不祥事が続いているが、日本のものづくりの信頼性は品質の高さにあるわけで、こうした不祥事は長い期間、何十年もかけて築きあげてきた信頼性を一気に突き崩すことになりかねないと思っている。
 製造業に限らず、企業には、法令遵守はもちろんだが、お客さまや社会の期待に応えて誠実に行動するという、より高いレベルのコンプライアンス意識が求められている。そうした企業風土、カルチャーを根づかせるとともに、不正の問題等に対して早い段階で内部から声があがり、深刻化する前に対処できるような環境あるいは制度を整備することも重要であると考えている。


(問)
 ビットコイン、または仮想通貨全般について、会長ご自身がどのように考えているか聞かせてほしい。
(答)
 さまざまな捉え方があるが、まず日本の国内に目を向けてみると、政府がまとめた成長戦略のなかに日本のキャッシュレス比率を10年間で4割に引き上げるという目標が設定されている。そのようななかで、キャッシュレスでの決済手段、すなわちクレジットカード、デビットカード、電子マネー等に加えて、ブロックチェーンを利用した仮想通貨が出現している。
 キャッシュレスを推進する効果は、まずは社会的コストの削減ということであるが、それと並んで、現金の取引では捕捉できなかった、主に消費者の金融行動をデータ化して活用することで新たな価値を生み出すサービスを創り出すということが挙げられると思う。FinTechなども有効に活用しながらこうした取組みを進めていくべきであると思う。
 企業にとっても、例えばポイント制などの特典付与による販売促進や、あるいは購買行動に関する情報活用を行うことで、これまで以上により有効なサービスの提供が可能になるなど、CtoC、BtoCの領域での活用が可能であると思う。また、それと併せてBtoBの領域での仮想通貨、あるいはデジタルテクノロジーの活用というのも十分考えられる。例えば私どもMUFGでは、R3や、あるいはユーティリティー・セトルメント・コイン、これはUBSがもともと始めた国際間の銀行間の比較的高額の資金決済のシステムであるが、こういった領域にも拡大が可能であるので、CtoC、BtoC、BtoBtoC、BtoB、さまざまな領域での取組みをしていきたいと思っている。
 もう一つ、その際に重要なのは、ユーザー目線に立った商品設計・規格であるが、あまりさまざまな規格が乱立するのもいかがなものかという話があり、業界、これは銀行・金融界だけではなく、場合によっては流通その他の業界ということもあるかもしれないが、協調して対応することも考えていかなければならないだろう。
 もう一点、これは本質的な話だが、新たなビジネスを創り出すに当たり、それが金融機関にとっても収益モデルとして成立し得るかということも当然念頭に置きながら、こうした新しい領域での取組みを深めていきたいと考えている。


(問)
 東芝に関して、先般、半導体の売却に関する合意が結ばれた。改めて現状の東芝の信用力をどう見ているか。また、今後の課題に関しての意見があれば聞きたい。
(答)
 個別企業の話なので、あまり詳しく申しあげられないが、簡単に申しあげたい。今回いわゆる日米韓連合とのメモリ事業の売却契約が締結された。かなり時間はかかったが、一歩前進と受け止めている。それからもう1点、特設注意市場銘柄の指定も解除された。したがって、上場維持に向けた課題は、2期連続債務超過の回避に焦点が絞られつつあるということである。
 しかしながら、東芝メモリ社の株式売却実現のためには、独占禁止法上のクリアランスおよび、ウエスタンデジタルが国際仲裁裁判所に請求した売却差止めへの対応といった、乗り越えるべきハードルがまだ幾つも残っている。したがって、当社がめざしている来年3月までの売却完了が実現するかどうかはまだ不透明なので、こうした障害を一つ一つ関係者と協議をしながら取り除いていっていただきたいと思っている。
 もう一つ、より重要かつ本質的なことは、メモリ事業売却の後、東芝の事業ポートフォリオが大きく変わることである。したがって、新生東芝として将来像を示していくことが重要だと思っている。個別行としては、引き続き経営陣のご努力、あるいは主力行との協議などをしっかりと見守って判断・対応することになると思う。


(問)
 先ほど質問された方がいたが、仮想通貨について、改めて会長ご自身が仮想通貨と電子マネーの違いをどうお考えなのか伺いたい。すなわち、MUFGコインは仮想通貨なのか、その場合は何を目指しているのか。私の理解では、MUFGコインは、あくまでも日本円に紐づけられていて、1コイン1円になっているので、そういう意味では電子マネーではないかと思うが、いかがか。
(答)
 電子マネーは円という法定通貨に裏付けられたものであるが、仮想通貨はそうではなく、設計における柔軟性があり、それを支えるコストも大幅に削減でき、結果として、社会的なコストが下がり、利便性も上がる。
 ただ、以前もこの場で申しあげたが、仮想通貨は大きく三つの問題を抱えている。一つ目は、最近も事故があったが、制度自体に対する信頼性である。二つ目が、価値の大幅な上下、ボラティリティ、それから三つ目がマネー・ローンダリングなどの問題である。三菱東京UFJ銀行は、それらを乗り越えるようなかたちで、今申しあげたような仮想通貨としての利便性をどう実現するかというテーマに取り組んでいる。
 MUFGコインは、先ほども少しご説明したが、いわゆる仮想通貨の一つである。さまざまなタイプの仮想通貨がこれから登場する。ホールセールで使われるもの、リテールで使われるもの、パブリックなもの、プライベートなものなど、私どもはそれらを今、幅広く研究しているところであり、MUFGコインも、その一つとしてどういう可能性があるのかをこれからも追求していきたい。