2017年11月16日

平野会長記者会見(三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)

髙木専務理事報告

 事務局から4点ご報告する。
 1点目は本日の理事会で、お手元の資料のとおり、中小企業金融等への取組みについて申し合わせを行った。
 これは、これから年末に向けて、企業等の資金需要が高まることに伴い、企業金融が逼迫しやすくなる時期であることから、中小企業等の資金需要に柔軟かつ積極的に対応し、中小企業金融等の取組みに全力をあげることなどを申し合わせたものである。
 2点目は、お手元の資料のとおり、経営者保証に関するガイドラインの活用・推進状況等について、全銀協の会員を対象にアンケート調査を実施し、その結果を取りまとめた。
 3点目は、お手元の資料のとおり、銀行カードローンについて、全銀協の会員を対象にアンケートを実施し、その結果を取りまとめた。
 4点目は、こちらもお手元の資料のとおり、今般、英国のUK Financeと、協力関係に関する覚書(MOU)およびフィンテックに関する協力についての非拘束的合意を締結した。
 これらの内容について、質問があれば、会見終了後、事務局にご照会いただきたい。

 

会長記者会見の模様


(問)
 3メガの中間決算の結果が出揃った。その受止めと評価、今後の見通しについて改めて教えてほしい。また、決算のときにもお話しいただいたと思うが、国内業務の効率化が業界として課題になっていると思う。FinTechの活用なども踏まえて、店舗の統廃合、業務量削減などの構造改革を進めているが、課題認識を改めて伺いたい。
(答)
 まず最初のご質問、3メガの中間決算の受止めだが、3メガグループの中間決算を一括りにして評価するのは、大変難しいと思っているが、あえて共通点を言えば、第1にマイナス金利政策の影響を受けて国内の預貸金利鞘の縮小が継続していること、第2に法人向けの貸出、住宅ローンのボリュームも減少を続けていること、そしてこれらの結果として、いわば本業の力を示す業務純益が総じて厳しい結果となったということであろうと見ている。
 一方、当期純利益は、与信費用の戻入益や株式等関係損益、為替の影響等によって押し上げられたわけだが、これは一時的な要因と見るべきだと思う。
 先行きはどうかというお尋ねだったが、国内ではマイナス金利に伴う預貸金利鞘の縮小と資金収益の低下が続くものと思われる。最近公表されたIMFのレポートでは、3メガを含むG-SIBsのうち9行について、持続可能な収益を確保できず、潜在的な金融システムの弱点となり得る、という指摘をしている。細かな点で異論がないわけではないが、低金利環境、金融規制、流動性が足かせになっているという指摘は的を射ていると考える。
 また、足元、グローバルな政治、地政学、マーケットの不確実性といったリスクにも注意する必要があることに加えて、日本の場合には、他に先駆けて経験することになる少子高齢化、人口減少問題がある。
 こういった環境変化のなかで、既存のビジネスモデルからの転換は各グループ共通の課題となっているのではないかと思う。対応はさまざまだと思うが、例えば従来型の預貸ビジネスを超える、グループ機能を統合的に活用したソリューションの提供や、デジタル技術の活用による新たなビジネスの創出、あるいは海外需要の拡大、バーチャルとリアルを一体化したチャネルの見直し、AI、RPA(Robotics Process Automation)を活用した機械化、自動化による大胆なコスト構造の見直しなどの施策を具体化し、一定の時間軸は必要だと思うが、着実に実行していくことが必要な状況になってきているという認識にある。
 二つ目が、国内業務の効率化というテーマである。今申しあげたこととも絡むが、特に国内においては引き続き厳しい環境が恒常化する可能性があると思う。マイナス金利は長期化する可能性があり、人口減が続けば赤字化する店舗が出てきてもおかしくはないと思う。
 ただ、その一方で、デジタル技術の進展もあり、よりローコストで、多様化するお客さまのニーズに合わせたビジネスモデルを実現することも可能になってきていると思う。すなわち、低収益環境下における事業運営の効率化と同時に、顧客起点の新たなサービス、ソリューション提供を実現するための構造改革が必要であり、また可能になってきているということだと思う。
 店舗統廃合、あるいは業務量の削減といった改革の具体的な内容は、各行それぞれの方針によるので全銀協としてのコメントは差し控えるが、一般論として申しあげれば、今後の店舗戦略は単にコストを削減するだけではなく、先ほども少し申しあげたが、デジタライゼーションを通じてお客さまのニーズ、あるいは行動の変化を的確に捉えて、次世代に向けた最適なチャネルのあり方を追求していくことだと思う。
 すなわち、機械化や軽量化による店舗の形態やネットワークの見直しと併せて、ネットチャネルのサービスの拡充、機能の強化を図ることで、高齢者から若い世代までの各層のニーズに応じたチャネルを複合的にご利用いただけるように、リアルとネットのチャネルの再構築を進めていくということだと思う。
 他方、業務効率化の観点で言えば、これも先ほど申しあげたが、Robotics Process Automation、いわゆるRPAによる業務効率化への取組みがすでに始まっている。例えば、コンプライアンスの分野においても、これまで手作業で行っていたプロセスにソフトウェアロボットを利用することで、オペレーションの負荷の軽減に加え、正確性、高速化も可能になる。銀行業のように事務作業が多い業種では、大きな効果が期待できると思っている。
 最後に1点だけ付け加えると、従業員の視点が大事だと思う。こうした構造改革は従業員の再配置を伴うことが多いが、社内においてリ・スキリング、再教育のための研修等のさまざまなサポートを行うことによって、より創造的な役割と、安心して働くことができる環境を提供することが重要だと考えている。


(問)
 三菱東京UFJ銀行のことで恐縮だが、伺いたい。国際的な北朝鮮への制裁に関する対応について、米国ニューヨーク州の金融当局によると、三菱東京UFJ銀行では北朝鮮国境に近い中国の都市に所在する、リスクの高い特定の顧客に対して、香港から継続的に決済のサービスを提供しているとの指摘がある。ニューヨーク州の当局は、このような継続的な決済においては、取引内容の精査が厳格なものとはならず、むしろ甘くなってしまうと指摘しているが、三菱東京UFJ銀行は北朝鮮制裁に関して、あらゆる地域で十分に対応を行っているか。
(答)
 この場は全国銀行協会の会見であるので、個別行固有の話題についてのお答えは差し控えさせていただく。必要あれば、個別に照会して頂きたい。


(問)
 カードローンのアンケートについてお聞きしたい。まず、会長として全体をどのように分析するかという点が1点。
 また、業績評価の部分だが、結果を見ると、3月の申し合わせを受けて業績評価の設定自体を取り止めているところもあるようだが、これまで銀行界全体を見たときに業績評価がノルマとなっている状況があったかどうかという点、それから、この設定を続けるということ自体をどのように評価するか。
(答)
 全般についての評価から始めたい。ご承知のとおり、今回のアンケートは、5月に実施したアンケートのフォローアップに加えて、この場も含めて関係各位からの新たなご指摘や論点等を追加して、改めて会員各行の運営状況を確認した。
 まず、広告宣伝の見直しに関しては、ほぼ全ての銀行が、「総量規制対象外」であるとか、「年収証明書不要」といった表示、あるいは「下限金利」や「審査の早さ」を過度に強調した広告を取り止めたということが確認できた。
 また、審査態勢の整備に関しては、多くの銀行が年収証明書の取得基準の引下げや、極度設定における年収債務比率の算出方法の見直し、銀行における貸付審査についても「実施している」、あるいは「実施を検討中」となっている。
 それから、信用保証会社とのコミュニケーションのうち、信用保証会社との定期的な情報等の交換もほとんどの銀行が「実施済み」という結果になり、審査の面でも一定の進捗を確認することができたと思っている。
 お尋ねの業績評価については、この場でのディスカッションも踏まえて今回新たに追加した。約6割の銀行が融資残高等に関する計画を設定している。また、4割が支店の業績評価項目、そして3割が個人の評価項目としてそれぞれ設定している。
 これをどう考えるかというのはなかなか難しいところだが、計画というものは事業を展開するうえで極めて重要であることは間違いではない。また、業績評価も重要である。以前も申しあげたが、問題は、そうした計画であるとか、業績評価が、お客さまのニーズに沿った業務運営が徹底されるかたちで設定されているかどうかということだと思う。この点については、やはり各行において点検を行うべきだと考えている。
 他方で、「自行カードローンの代弁率の推移を踏まえた、保証審査の審査方針や審査モデル等の見直し」であるとか、「貸付実施後の定期的な信用情報機関からの情報取得を通じたお客さまの状況、信用情報のフォロー」という項目では、「実施していない」、あるいは「実施を検討中」という回答が相応にある。この点は引き続き課題だと思っている。
 このように、今回の私どもの2回目のアンケート調査を通じて、前回からの進捗が明確になったところと、課題として引き続き確認をしていきたいところがより明らかになったのではないかと考えている。
 今後の全銀協としてのアクションプランだが、まずは今回のアンケートの結果について、各行の参考になるような事例も出てきているので、それを会員行と共有し、各行のより良い取組みを促していきたいと考えている。
 加えて、10月に設置したカードローン専用相談窓口に寄せられた声も出てきているので、これを還元する。更に、年初にかけて実施を予定しているカードローンの利用実態調査などを会員行と共有して、必要な対応を今後も継続的に検討していきたいと思っている。
(問)
 ノルマという状況がこれまで銀行界にあったかどうか。アンケート結果を見ると、申し合わせ前と後で設定を止めているところもあるが、実際そのような過度に貸付をしてしまうような業績評価という設定がこれまであったかどうかという点と、今お話のなかにあった、参考となる事例を共有するということに関し、具体的に何かあれば教えていただきたい。
(答)
 まず、ノルマという言葉の定義は難しく、私どもとして今回のアンケート調査のなかでどれが悪しき目標設定なのか、業績評価のあり方なのかというところまで正確に把握していない。ただ、先ほども申しあげたとおり、お客さまの目線に立って、カードローンビジネスが持続的に発展できるような、そういったフレームワークになっているかどうかということを自己点検してもらうことが大事だと考えている。
 そういう意味で先ほど好事例と申しあげたのは、さまざまな事例があって、審査のやり方であるとか、それから事後フォロー、いわゆる期中管理といったところで各行がいろいろと取組みをしておられるので、そういった事例を展開していきたいと考えている。


(問)
 2点お伺いしたい。1点目は賃金について、安倍総理は政府からということで賃上げ3%を経済界に要求している。銀行は現在、構造改革に取り組んでおり、かつ平均と比較して給与水準は高いと言われているが、今後、銀行員の給与は上がっていくのか、もしくは下がっていくのか、見通しがあれば教えていただきたい。
 2点目は本業に関連して、事業承継が社会的にも問題になっていると思うが、この分野で銀行が果たしていく役割、ならびにビジネスとして逆に事業承継がどの程度チャンスになるのか、考えを教えていただきたい。
(答)
 まずは賃金に関するご質問にお答えする。一般論で言えば、すでに報道されているとおり、企業の収益は過去最高益に近づいている、あるいは更新しており好調である。また、賃金についても、1人当たりの賃金こそ7-9月期で前年比0.24%の上昇となっているが、これはパートタイムの労働者などが増えてきたという事情もあるため、家計全体が受け取る名目の雇用者報酬の統計で見ると、前年比約2%の増加となっている。ただし、このようにマクロの家計の所得環境が改善しているにもかかわらず、個人消費は必ずしも高まらないところがある。
 確かに個人消費をさらに伸ばしていく、力強さを取り戻していくためには、家計の持続的な所得の改善が必要である。更に、前回の会見でも申しあげたが、政府が社会保障制度の改革などを通じて将来にわたる家計の不安を取り除いていくということと併せて、官民一体での経済成長および成長戦略の促進を組み合わせることが大事だと思う。
 銀行界については、ご指摘のとおり、現在構造改革が急務となっている。一方、前向きな新たな取組みにも注力しなければならない。それらを推し進めていくためには、従業員のモラルの維持や動機づけが非常に重要となるため、それら両方のバランスをどのように取りながら今後の処遇を考えていくのか、私どもも考えていかなければいけないと思っている。
 なお、ベア自体に関しては、現状、方針は決めておらず、これからということになる。
 事業承継に関しては、今、日本の産業あるいは社会が世代交代期に入っている。したがって、とりわけ日本の産業の裾野を幅広く支える中堅、中小企業における円滑な事業承継が新しい世代によるさらなる事業の発展を実現していくためにも極めて重要だと認識している。
 銀行に何ができるのかというご質問だが、これは私どもなりのさまざまな取組みが始まっている。まず一つは、事業承継に当たり、同族内で承継が行われる場合には、事業あるいは資産の承継プログラムをいろいろな面でご提供を申しあげることができる。助言でもあれば、いかに企業価値を損なうことなく、次の世代に事業を承継できるかというアドバイスでもあり、かつ一定のスキームを構築することによって円滑なファイナンスを可能にするというような貢献の方法もある。もう一つ、仮に後継者が見当たらない場合には、M&Aのアドバイザリー・サービスを利用していただいて、新たな事業の継承者を見つけていく。その場合には既存の事業と新たに引き継ぐ事業との間のシナジーが働き、新たな成長につながるビジネスが構築できる可能性もあり、極めて重要な取組みだと思っている。メガ、あるいは地域金融機関のいかんを問わず、積極的に取り組んでいるところである。


(問)
 アメリカのFRBの議長に新たに就任されるパウエル理事がイエレン氏の路線を引き継がれると見られている。これまでの規制をさらに緩めていく方針も示されていて、この影響についてどうご覧になっているのかをお聞きしたい。規制緩和自体は、方向でいえばプラスだとは思う一方、邦銀より米銀の方に追い風が吹くと思うが、相対的に見た場合、邦銀にとっての影響をどう分析されているのかを教えてほしい。
(答)
 先月、クオールズ氏が銀行監督担当の副議長に就任され、また、今月はパウエル理事が次期議長に決まった。一言で言えば、金融規制に関する体制が固まり、これまで金融危機後、ドッド・フランク法にもとづいて策定された規則や規制について、とりわけ法律の改正を必要としない分野での見直しが、いよいよ本格化してくると期待できると思う。
 金融規制に関してパウエル新議長は、今の規制が金融システムの安定性を大幅に向上させたと評価する一方で、規制緩和を検討すべき分野もあると言っている。また、クオールズ氏もストレステストや、いわゆるCCAR、当局による資本の分析等、今非常に複雑で、ややブラックボックス化しているものの透明性の向上について、すでに言及している。こういったご発言からも、今後の規制の改善の方向性が示唆されていると思う。
 ご指摘の邦銀に関する影響だが、この規制の緩和の影響、これは恩恵といってもいいかもしれないが、これを最も強く受けるのが米銀であることは間違いない。すでに米銀の競争力は、グローバルな競争場裡で見れば、最も回復が目覚ましく、その力がますます強くなるということは言えるかと思う。ただ一方で、今回ムニューシン氏が中心になって取りまとめられた財務省のレポートのなかでは、外国銀行のアメリカの市場における重要性についても言及されている。したがって、私どもを含む外国銀行についても一定程度の規制コストの低下、あるいは行動の自由がより増してくる可能性はあると見ているので、今後の具体化の状況をよく見てまいりたいと考えている。


(問)
 日銀の黒田総裁が、最近、金融緩和の長期化により、金融仲介機能が阻害されるリスクについて注視するという発言を何度か繰り返しており、先日スイスでも「リバーサル・レートの議論が注目を集めている」という発言をされたが、銀行側としてこうした発言をどう捉えられたか、ご意見をお願いしたい。
(答)
 私も、実は今ここ手元に黒田総裁がチューリッヒで講演された講演録の当該部分を持っている。ご存じない方もいるかもしれないのでご紹介すると、現在のマイナス金利政策や、イールドカーブ・コントロールが経済あるいは金融に与える影響に関して述べておられるくだりがあり、このようにおっしゃっている。「金融仲介機能への影響という点では、最近リバーサル・インタレスト・レートの議論が注目を集めています。これは、金利を下げ過ぎると預貸金利鞘の縮小を通じて銀行部門の自己資本制約がタイト化し、金融仲介機能が阻害されるため、かえって金融緩和の効果が反転(reverse)する可能性があるという考え方です。日本の場合、日本の金融機関は充実した資本基盤を備えているほか、信用コストも大幅に低下しており、現時点で金融仲介機能は阻害されていません。ただし、低金利環境が金融機関の経営体力に及ぼす影響は累積的なものであるため、引き続きこうしたリスクにも注意していきたいと思います。」
 私は本日の会見での冒頭から、3メガの決算あるいは金融機関における構造改革の必要性に言及してきたが、黒田総裁がここで引用しているリバーサル・インタレスト・レートの議論、これはマーカス・ブルナーメイヤー氏が提唱しておられるようだが、それに近い状況が今その姿を現しつつある、ないしは、そういうことが近い将来起こってもおかしくない状況になりつつあるということなのではないかと考えている。マイナス金利政策が導入された昨年の春、私は一定の課題があるのではないかということを申しあげたことがある。すなわち日本の経済、産業の競争力、家計を改善するために、こういった施策がとられること自体は是とすべきであるが、これが恒常化することは望ましくない。なぜかと言えば、それは、実は、先ほど引用した講演録の前段落で黒田総裁自身がおっしゃっているが、例えば年金への影響なども出てくるし、金融機関の経営体力も、今は総裁のご指摘のとおりで問題は少ないかもしれないが、これが仮に長く続くとすると、社会インフラとしての金融機関あるいは金融システムに大きな支障が出てくる可能性があるということである。したがって、日本銀行においては、局面、局面で常に政策の見直し、すなわち今、市場で起こっていることについて分析をされ、それにもとづいて金融政策が運営されていくということを強く期待しているところである。


(問)
 明日、経済産業省において、商工中金の今後のあり方に対する検討会が開かれることになっており、危機対応融資の制度をどう見直していくか、商工中金のあり方についてどうすべきかなどについて議論が交わされる予定となっている。銀行界を代表する会長として、この問題についての議論への期待について伺う。
(答)
 まず、政府系金融機関のあり方に関して、一言で申しあげれば、民業補完に徹するということだと思う。そのうえで、危機時の融資が今話題になっているが、これに関して言えば、基本的には信用保証制度を活用することで民間金融機関にも対応は可能だと思う。ただ、危機の状況、深刻さ、あるいはそれが持続する時間の長さは確かに不透明な場合がある。そういった事態も考慮すれば、これで十分と断言することは難しく、そのような本当に民間では対応できない局面においては、官の役割が期待されると考える。ただし、危機認定が重要であって、法の趣旨に則って厳格に運用される必要があると考えている。別の言葉で言えば、民間の金融機関が通常の条件では貸付ができないという困難な状況に限定して適用されるべきだと思う。今回の不正事案を踏まえて、商工中金の当該業務の見直しや、そもそものビジネスモデルも含めた商工中金のあり方について議論することが今回の検討会の趣旨だと考えているが、こうした場において、民業補完という本来の官の役割を踏まえて、今後どうあるべきかが十分検討されることを期待している。


(問)
 来年1月から始まるマイナンバーの預金付番の対応についてお伺いしたい。
 マイナンバーの提出は法的には任意の取組みではあるが、NISA口座のマイナンバーの提出状況を見ていると、預金付番の方もあまり進まないのではないかと感じている。銀行界として今後どのように進めていくお考えか教えていただきたい。また、会員行の準備状況、対応について、把握している限りで教えていただきたい。
(答)
 ご指摘のとおり、マイナンバー制度においては、法的には、銀行はお客さまからお預かりしているマイナンバーを管理する義務は課されているが、徴収する義務は課されていない。
 ただ、法の趣旨も踏まえて、私ども全国銀行協会加盟行においては、新規の口座開設や住所変更などのときにマイナンバーの提出をお願いするという方針である。協会としても、これまでホームページでのご案内、およびチラシやポスターを作って会員行に配布するなどの対応を行ってきた。
 ただ、先ほども申しあげたとおり、お客さまに提出の法的義務はなく、1月からの預金口座の付番の開始や、そもそもマイナンバー制度への国民一般の理解が進んでいるとは思えない。
 NISAについても、昨年1月の制度開始以来、私どもなりにマイナンバーの取得に努めてきているが、未取得の割合が相応にある。このような事態を見ると、金融界はもちろん努力するが、政府による積極的な広報を通じて、より幅広い認知度の向上等、国民の理解を得ることが重要だと考え、関係省庁にお願いをしているところである。
 もう一つ、単に国民に理解してもらい納得してもらうということだけではなく、利活用がポイントだと思う。個別行の話になるが、口座開設時の本人確認資料として使用したり、住宅ローンの電子契約における公的認証としての活用などを図るといった取組みを始めている。ただ、それ以外にも、例えばクレジットカードや診察券など、日常のシーンでの使用頻度が高い機能をマイナンバーカードに搭載していくことが可能になれば、より活発な利用につながるのではないかと考えている。民における創意工夫、それから官における強いリードが重要だと考えている。


(問)
 FinTech、デジタル化の分野について2点お伺いする。平野会長ご自身がFinTechに本格的に触れたきっかけは、BBVAがSimpleを買った直後にフランシスコ・ロドリゲスCEOから話を聞いたことがきっかけだった、というお話を別の場でされていたが、邦銀は一般的にはFinTechについては欧米より数年出足が遅れたとも言われており、その原因を今どう分析しているかについて教えていただきたい。
 もう1点だが、なかには遅れたからこそ巻き返しが可能だと言う人もいるが、今後、FinTech、デジタル化の分野で邦銀が世界でプレゼンスを示していくためには何が必要とお考えか、お伺いしたい。
(答)
 まず、日本の金融機関の歴史を振り返ってみると、実はデジタル分野への取組みは最も先進的だった時代が長く続いた。アメリカで生活をされた方であればご承知だと思うが、ATMの機能、振込みのスピード、公共料金の自動引落し、いずれにおいても日本の金融機関が世界の最先端を走っていた時代があったということである。今でも実は最先端に近いと私は思っている。
 ただ、なぜ、アメリカであるとか、あるいはむしろ、インドであるとかアフリカであるとか、あるいは東南アジアといったエマージング・マーケットで進んでいるようなFinTechを含むサービスが、日本でそれほど早いスピードで普及していないかというと、やはりそれはレガシーの存在だと思う。つまり、圧倒的に不便な、お客さまにとっての利便性が低い金融サービスしか提供できていない市場であれば、いかにしてお客さまの利便性を高めるかという動機が非常に強く働くし、レガシーシステムがない分だけ身軽に新たな開発に取り組むことができるということだと思う。
 ただ、今、日本で全てのお客さまが満足しておられるのかといえば、決してそうではないと思う。そもそもインターフェイスについても、今お客さまとの接点の多くは実はATMであり、キャッシュである。振込みに関しても非常に複雑な振込票があったりとか、あるいは地方自治体におけるさまざまな支払い、納税用の帳票などが存在するということで、実に煩雑である。それは個人だけでなくて、中小企業を含む企業にとっても大きな負担になっている。
 そういった分野についても、画面がいかにスムーズに遷移するかとか、クリックの数が少なくて済むかといった次元のカスタマー・エクスペリエンスも非常に重要であるが、それと併せて、今申しあげたような社会的なインフラを、いかにデジタル技術を使って改善していくかということも大きなテーマだと思う。
 そういった分野においては、おそらく日本は、欧米あるいはエマージングのさらにまた先を行くことができる可能性は十分にあると考えている。
 もう一つ、日本の持っている社会的な課題への対応という意味でいえば、シニアのお客さまへの対応がある。これも従来はどちらかというと、ITリテラシーであるとかデジタル・ディバイドという言葉で、いわゆるデジタル化の対象とはなり得ないというような固定観念があったと思うが、私はそれも打ち破っていくべきだと思う。
 例えば、スマートスピーカーを使うことによってキーボードからお客さまを解放すれば、デジタルの壁は簡単に乗り越えられる可能性があるなど、日本が持っている課題に対応するなかで、また同時に、他国もそれに直面するであろう課題に我々が先んじてソリューションを見出していく、それを私どもとしては狙っていきたいと考えている。


(問)
 FinTechについて、クレイトン・クリステンセンが書いている「イノベーターズ・ジレンマ」の世界と全く同じで、既存のマーケットリーダーがなかなか新しいディスラプティブなところにうまく対応できない理由が、まさに銀行界に当てはまるのではないか。というのは、既存のお客さまは、日本の銀行のハイスペックな仕様を当然のごとく求めており、それに応え続けるためには、既存のレガシーに対して人、お金を張らなければならないなかで、コストが低く、会長が言うアジャイルなシステムを同時に展開するのは難しいのではないかと思うが、その点はどう考えているか。
(答)
 ご指摘のとおりの難しさがあると思う。まず一般論としていえば、企業による投資論になるが、いわゆる持続的に維持しなければいけない事業基盤に対する投資と、既存のビジネスや収益基盤を自ら打ち破る可能性があるような、いわゆるディスラプティブな投資をどう選択していくか、あるいはバランスさせていくかというのは、とりわけ環境変化の激しい時代において、各企業、企業経営者にとって大きな課題だと思う。
 例えば、仮に今、足元での収益性が高くて、お客さまにもご利用いただいているビジネスモデルがあるとして、それが永続的なものなのか、あるいは将来の技術や環境の変化で急に陳腐化するものなのか。また、足元で金融機関がFinTechを活用したビジネス戦略を検討しているが、例えばお客さまのITリテラシーの将来の変化を予測して、それに合わせて投資をするのか、それともそもそもお客さまのITリテラシーの向上を図るような思い切った投資までやるのか。こうした点が悩ましいところだと思う。
 ただ、日本の社会を形成している個々人のお客さまが一方で求めているものは、社会インフラとしての金融機関の役割であり、安心、安定的な運営が求められる領域においてもしっかりやっていく必要がある。他方で、お客さまに顕在化しているニーズではないものを見つけ出して、それをご提示するという努力も併せて行っていく。その場合に先ほどご指摘もあったようなディスラプティブな投資、新たなチャレンジに取り組むということ。これは本当に難しいが、二兎を追わなければいけないと思っている。
 また、一方で、新しいかたちのサービスが本当にお客さまに受け入れられるのであれば、既存のビジネス、レガシーを従来と同じように本当に維持する必要があるのか、あるいは従来お使いいただいているようなかたちでご利用いただき続ける必要が本当にあるのか、そのようなことについて私ども金融機関は、お客さまに理解をしていただく努力も併せて続けていかなければならないと思っている。それで5年、10年経った時に、従来のレガシーの部分が減る一方、新しいサービスが実は過半になっており、かつ従来の方が断然良いと思っていたお客さまも、使ってみたらこっちの方が良いと考えていただくことができ、また社会的なコストを減らし、金融機関における効率性も向上させる。これら三つ、すなわち、お客さまの満足・利便性、社会的なコスト、銀行の効率性、これらを同時に達成できるような最適解を私どもは今模索していかなければならないと思っている。


(問)
 大手の銀行がさまざまな構造改革、店舗の統廃合、業務量の削減を掲げているが、おそらく同様の課題は地銀も抱えていると思う。ただ、先ほどから言われているようなRPAやAIの活用などは投資が伴うもので、なかなかついていけないところもあると思うが、構造改革について地銀でもやはり必要という認識なのか。また、投資が必要となるなかではどう折合いをつけて進めていかなければいけないか、考え方をお聞かせいただきたい。
(答)
 私自身は地域金融機関における経営環境はメガと同様、あるいはそれ以上に厳しいものだと思う。先ほどから申しあげているような日本における社会的な課題、少子高齢化、人口減少というのは地方においてより鮮明に表れてきているということである。もちろん、従来からお客さまに慣れ親しんでいただいているようなサービスであったり、ヒューマン・コンタクト、人間的な関係を大切にするという地域金融機関の本来の姿は維持しつつ、やれるところは大胆に改革を進めていくべきではないかと思う。
 端的に言えば、例えば、バックオフィスのオペレーションであるとか、あるいはミドルオフィスであるとか、改革の余地はたくさんある。それにデジタル・テクノロジーが活用できるのはメガの場合と全く同じだと思う。
 ただ、単体で取り組むのが難しいというご指摘はまさにそのとおりだと私も思うので、業界全体であるとか、あるいは複数の銀行が共同してこれに取り組むといった、協働が有効に働く部分ではないかと思っている。
 そういった観点で全銀協では幾つかの取組みをすでに行っている。例えば、先月リリースした「ブロックチェーン連携プラットフォーム」では、会員行のブロックチェーンの実証実験に対して技術的な基盤を提供するとともに、実験の結果を会員行全体で共有するようなフレームワークを作っている。
 それから、これは金融庁にも大変ご助力をいただいたが、オープンAPIにおける電文の仕様の標準化やセキュリティチェックリストなどを取りまとめるなどして、業界としての統一方針を打ち出すことで、APIの標準化を進めようと考えている。
 さらに、各行でも独自の取組みが始まっている。例えば、三菱UFJフィナンシャル・グループに関して言えば、Japan Digital Designという子会社があり、社会的なコストの低減や既存のレガシープロセスの革新に向けた研究開発、あるいは各地域における次世代のイノベーション人材の育成、それらの人たちとの協働を進めている。地銀32行と業務提携をしているが、こういったかたちでメガと地銀の協働も進んでいくといいのではないかと考えている。


(問)
 個人的見解でも良いが1点だけ。先ほどFinTechの活用、またはデジタル化に言及されたが、平野会長から見て、銀行の将来像はどこに向かうか、またどうなるべきと考えるか。
(答)
 銀行の根源的な機能、あるいは社会的な役割が変わることはないと私は思う。こういったときに私がよく引用する言葉で「不易流行」があるが、銀行が持っている社会インフラ性や信頼・信用、お客さまとの長年にわたる関係、これらは変わることがあってはいけないということである。ただ、一方でまさに流行、大きな時代の変化、かつ極めて潮が速く流れている状況に対して、いかに迅速かつ柔軟に対応していくか金融機関として心掛け、かつ切磋琢磨、競争することで社会にもお客さまにも引き続き有用な存在であり続ける、これがこれからの銀行のあり方ではないかと考えている。


(問)
 商工中金等の政府系金融について伺いたい。銀行界が構造改革やバブル時代の大量採用に関しての今後の対応など、まだ未完の状態なのだろうが、構造改革をしていかないといけないという状況にある一方で、政府系金融機関に対して低利融資で民業圧迫はしてくれるなという主張をされている。もしそうした低利融資をやめる方向、縮小する方向になっていくなら、構造改革を行う銀行にとって貸出金利は上がり、コストをお客さまに転嫁していくようなこととなると考えられるが、これが望ましいということなのか、その方向性について伺いたい。
(答)
 まず中小、あるいはより小規模な企業に対して適切な事業資金が提供されることは極めて重要なことである。それを実現するために、どのような仕組みをつくるのかという観点では、基本は民間の金融機関が信用リスクを判断しつつ、お客さまの事業に資する提案や事業承継等を含めた総合的なサービスを提供することによってそれを可能にしていくことだと思う。一方、例えば危機事象のような、民間金融機関の能力の限界を超える場合には、政府系金融機関、例えば商工中金の危機対応融資が有効に働いているということは先ほど申しあげた。
 それを前提にして申しあげると、長くさまざまに論じられているが、日本は、低金利という事象だけではなく、低クレジットスプレッド、すなわち信用リスクに応じた金利水準の設定が、少なくとも他国とはかなり異なるかたちで行われているということは事実としてあると思う。それについて、政府系金融機関の融資が一定の影響を与えているのではないかという意見は根強くある。
 その意見が正しいのかどうかを実証するすべを持っていないが、今の状況を勘案すれば、少なくとも民間の金融機関が切磋琢磨し競争する限りにおいては、日本において企業金融が円滑に行われないという事態は想定されないのではないか。つまり、今のクレジットスプレッドが、本来、国際的に見て「このような水準に設定されるべきだ」というレベルを大きく超えて上がっていくということは想像できないということである。
 したがって、政府系金融機関における低利融資がなくなったとして、そのことが日本の産業金融に支障を来すということは、幾つかの例外的なケース、例えば危機対応や超長期の融資などを別にすれば、ないと思う。