2019年12月19日

髙島会長記者会見(三井住友銀行頭取)

岩本専務理事報告

 事務局から2点ご報告申しあげる。
 1点目は、本日の理事会において、お手元の資料のとおり、来年度の副会長を内定した。
 次期副会長は、11月に内定している次期会長と同じく、理事会での正式な選定手続きを経て、来年4月1日付で就任予定である。
 2点目は、お手元の資料のとおり、近時、フィッシングによるものとみられるインターネット・バンキングに係る不正送金被害が急増している状況を踏まえ、警察庁とも連携して、同被害の防止に係る啓発を実施する。
 具体的には、本日12月19日から、全銀協のウェブサイトに、注意喚起ページを掲載したうえで、明日12月20日から来年1月19日までの間、同ページに遷移するバナー広告をインターネットの各種ニュースサイト等に掲載する。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 まず1問目だが、金融政策について伺いたい。FRB、ECBが、先週、金融政策の現状維持を発表しているが、日銀も本日、政策決定会合で現状維持を発表している。その受止めについて伺いたい。
 また、今年1年間の金融政策の振り返りを年末の会見なのでお伺いしたい。米国は3回の利下げを実行し、欧州ではマイナス金利の深掘りが実行された。世界的に金融緩和が進んだ1年間だったかと思うが、今後の日銀の金融政策について、どのような政策の実行を望まれるか教えていただきたい。
(答)
 かねてから申しあげているとおり、金融政策というのは日本銀行の専管事項であり、全銀協会長としてお答えするのは適当ではないので、私個人の意見としてお答えを申しあげたいと思う。
 ご指摘のとおり、先週、FRB、ECBはともに現在の金融政策の維持を決定されたわけである。パウエル議長は今の政策金利は適切であると発言をされ、ラガルドECB新総裁も成長の減速に歯止めがかかった初期の兆候が幾つか見られると、少し微妙な表現であるが、そういうポジティブなコメントもしておられる。これは現状、追加的な金融緩和を必要とするような新たな材料は出てきていないということだと受け止めている。また、本日、日本銀行の政策決定会合があったわけだが、現行の金融政策について現状維持という決定がなされた。
 黒田総裁は、つい先日も、現時点では今の金融政策が適切とされたうえで、今すぐ追加緩和をするということは考えていないという趣旨のご発言をされたと承知している。そうした点を踏まえると、やはり想定どおりというか、予想どおりの結果となったのではなかろうかと素直に受け止めている。
 また、この1年を振り返ってというお話だが、これもご指摘のとおり、今年に入り、欧州ではマイナス金利の深掘りを含めた大規模な金融緩和が実施され、米国においては3度利下げが行われたわけである。しかしながら、いずれのケースも、多かれ少なかれ通商問題などの不確実性が実体経済に及ぼす影響を踏まえた予防的な措置であった、少なくともそういう意味合いが強いものだったと思っている。今回いずれも現状維持となったわけであり、その政策効果を見極め、検証する時間帯に入ったと考えられる。
 翻って、経済のファンダメンタルズがどうなのかということを見てみると、依然として不確実性や不透明感はあるものの、アメリカでは労働市場が引き続きタイトな状況が続いており、年末の商戦も概ね好調なスタートを切ったと報じられている。また、世界の半導体の売上げも、本年半ば以降持ち直しの動きが見られている。海外経済については底入れの兆しが見られていると言っても良いのではないかと思われる。
 一方、国内では、12月5日に政府が2016年以来となる経済対策を閣議決定されており、今後の財政政策による景気支援も期待できる状況かと思う。このような環境を踏まえると、やはり今しばらくは、それらの効果を見極めることが妥当ではないかと思われる。
 以前からも申しあげているとおり、金融政策に過度に依存することは、さまざまなひずみや副作用を生むことに繋がる。財政政策や成長戦略、あるいは構造改革など包括的な経済政策パッケージのなかで適切な金融政策のあり方を引き続きご検討いただきたいと思う。
(問)
 2問目だが、昨今、報道も幾つかされているが、口座維持手数料、もしくは口座に関する各種手数料に関してお伺いしたい。先日、報道ベースだが、三菱UFJ銀行が新規に口座を開設する場合、2年間取引がない不稼動口座に対して年間1,200円の手数料を掛けることを検討されているという報道が出ている。また、通帳発行手数料の検討も同時に報道されたところである。
 SMBCとして、こうした口座手数料とか通帳発行手数料に関しての検討状況、もしくはそれに他行が追随する可能性についてどうお考えかお伺いしたい。
 口座維持手数料を検討する背景として、マネー・ローンダリング対策とか、継続的な顧客確認とか、審査・管理などにコストが昨今さらに上昇しているという問題もあるかと思う。実際、口座維持のためにどのくらいコストが掛かっているのか、具体的な金額や、感覚でもいいが、何かあれば教えていただきたい。
(答)
 三菱UFJ銀行の口座手数料および通帳発行手数料に関する報道があったことは承知している。口座手数料、通帳発行手数料については、まさに個別行の経営戦略、事業戦略に関わるものであり、他行が追随するか否かなども含め、全銀協会長としてコメントすることは差し控えたい。
 また、私どもSMBC個別行として、口座手数料あるいは通帳発行手数料導入について、仕組みやその影響などを含め、研究しているが、導入の是非を含めて何ら方針を決めているものではない。
 口座の維持・管理の1口座当たりのコストというご質問については、一般論として申しあげると、ご指摘のとおり、各銀行においてはマネロン対策の高度化の要請に伴い、従来以上に既存のお客さまについて継続的に確認を行う必要が生じているので、口座管理に係るコストが上昇しているのは事実である。また、セキュリティ対策等、昔に比べてはるかに大きなコストが掛かっている。管理手法やシステム対応の状況などは、それぞれの銀行ごとに状況、事情は異なっているので、一概に申しあげることはできない。
 従来から申しあげているとおりであるが、手数料のあり方について一般論として申しあげると、お客さまに対していかに付加価値の高いサービスを提供して、お客さまにご理解いただいたうえで必要な手数料を頂戴していくということが引き続き基本的な考え方だと思う。 


(問)
 2点伺う。一つはフィッシング詐欺について、これまでも各種対策を行ってきていると思うが、今回のリリース内容を含めてどのような取組みを行ってきているのか、改めて教えてほしい。あと、SMBC個別行として、被害抑止のためにどのような対策を講じているのかについても伺いたい。
 もう1点はBrexitについて。先般の英国総選挙で保守党が勝ち、1月末までのEU離脱がほぼ確実になっているが、今回の総選挙の結果をどう受け止めているか。また、今後、英国のEU離脱によって国際金融システムに与える影響、邦銀の活動に与える影響についても受止めを伺いたい。
(答)
 まず最初のフィッシング詐欺対策についてだが、銀行を騙る携帯のショートメッセージやメールが不特定多数のお客さま宛に送付され、各行のインターネット・バンキングの画面を精巧に模した偽サイトへ誘導されて、ID、パスワードなどが窃取されてしまうことにより、口座から不正に送金されるフィッシング詐欺の被害が9月以降急増している。最近では、ワンタイムパスワードを偽サイト上で入力させた後、すぐに不正送金を実行したり、あるいはインターネット・バンキングからECサイトのギフトカードなどを購入後に換金したりするなど、手口はますます巧妙かつ多様化しているのが実態である。
 キャッシュレス化の推進がわが国の成長戦略の重要課題の一つと位置付けられるなかで、全銀協としてもインターネット・バンキングのセキュリティを脅かす事態を重く受け止めており、被害の根絶に向けてさまざまな対策を講じている。
 まず、このような詐欺の手口があることをお客さまにしっかりと知っていただき、騙されないように注意していただくために、全銀協のウェブサイト、リーフレット、あるいは動画などを通じ、社会全体に対してフィッシング詐欺に関する啓発、周知をしている。
 また、足元の被害急増を踏まえ、その対策として警察庁ともしっかりと連携をして、本日から全銀協ウェブサイトの注意喚起ページをリニューアルしたうえで、明日から同ページに遷移するバナー広告をインターネット上で順次掲載する予定にしている。
 また、銀行側でも、被害対策を講じていく観点から、インターネット・バンキングのセキュリティ対策に関するアンケート調査の実施、結果の還元や警察庁、警視庁等との情報連携、意見交換および会員銀行への情報の展開などを鋭意行っている。
 さらに、全銀協としてフィッシング対策協議会にも加盟して、メンバーとして対策の検討に参画するとともに、フィッシング対策セミナーへの後援なども行っている。
 私どもの銀行についても質問があったが、当行においても被害に遭われたお客さまがいらっしゃるので、当行のホームページなどでお客さまに対して注意喚起をしっかりと行っているほか、振込の上限金額の引下げ、あるいは振込先の事前登録、電話番号登録、変更の新規受付停止など、いろいろなかたちでインターネット・バンキングのサービス内容の一部見直しを行ってきた。また、お客さまの振込内容をモニタリングするなど、お客さまの大切な資産を保護し、安心してサービスをご利用いただける対策を講じている。
 引き続きお客さまに安全・安心にインターネット・バンキングをお使いいただけるよう環境の整備に努めていくが、お客さまにおかれては、SMSなどに記載のURLリンク先に情報を入力しない、あるいはインターネット・バンキングにログインする際にはブックマークからアクセスするなど、フィッシング詐欺の被害に遭われないような基本的な動作をしっかりと認識いただき、十分に注意いただきたいと考えている。
 二つ目のBrexitについて。先週イギリスで行われた総選挙の結果、与党保守党が大きな勝利を収め、争点となっていたBrexitについては、これを実現すべきというイギリスの国民の民意が明確になった。これにより、英国が1月末にEUを離脱する可能性がかなり高まったと言って良いのではないかと思う。我々銀行界としても、グローバル経済の不確実性の一つが解消されたという観点から、今回の結果を歓迎したい。
 他方、Brexitは、単に1月末に離脱できれば良いというわけではないのは当然で、EUとの今後の将来関係について双方で合意をすることが必要。今後は、2020年末を期限とする移行期間内に一連の交渉を行い、詳細まで決定していく必要がある。この過程で、イギリス国民の負託を受けたジョンソン首相が、議会の理解を得ながら交渉に臨むものと期待している。
 国際金融システムへの影響という意味では、すでにEU離脱の是非を問う国民投票から3年が経過しており、EU域内で業務を行うライセンスを持つ拠点を構えた金融機関も多く、業務の継続ができなくなるリスクは、非常に低いものになっていると言って良い。また、欧州の金融機関がロンドンのクリアリングハウス、LCHなど、英国清算機関を利用できなくなる懸念があったが、それについてもESMA、すなわち欧州証券市場監督局がBrexit後も英国清算機関を暫定的に継続利用できる旨を法制化して、手当ても進んでおり、金融システム面の準備は整っているのではないかと思う。
 また、邦銀各行、証券会社各社とも、すでにEU域内で業務継続に必要なライセンス取得や現地法人設立の手当てを済ませている。資金繰りも従来比厚めの手当てを確保しており、当局主導の下、マーケット全体で見ても十分な資金手当てがされている。
 今後は、お客さまが通関あるいは関税の問題等に起因したサプライチェーンの変更、あるいはビジネスモデルの見直しを進め、そうした動きに沿って各行、各社が拠点網や人員の配置の見直しを行っていくことになる。これを整斉と進めていくことではないかと思っている。


(問)
 1点お伺いする。中央銀行が発行するデジタル通貨についての見解を伺いたい。日本でデジタル通貨が導入された場合、銀行業界にどういう影響があるとお考えか。それから、海外では、中国人民銀行によるデジタル通貨の発行計画が進んでいて、中国がデジタル通貨をめぐる覇権争いで先行するのではないかと懸念を示す声もあるやに聞いているが、その点についてもご見解をお願いしたい。
(答)
 これも非常にホットなテーマである。足元、さまざまな中央銀行において、デジタル通貨、いわゆるCBDC(Central Bank Digital Currency)の実現可能性、論点を検討する動きが広がりつつあるのは仰るとおり。特にこの夏、リブラの構想が発表されたことがある種刺激となり、こういう検討を活性化させているという面があると思う。
 日本銀行も、「現時点ではCBDCの具体的な発行予定はない」とされているが、キャッシュレス化の進展によって、将来、急速にCBDCの必要性が高まる可能性などを見据え、昨年11月、傘下の金融研究所に「中央銀行デジタル通貨に関する法律問題研究会」を設置されるなど、調査研究を進めておられると認識している。
 もっとも、CBDCと一口に言っても、例えば個人や企業などを含めて、幅広い主体による利用を前提とした一般利用型か、銀行間の決済など利用者を絞った大口取引型など、さまざまな在り様が想定される。また、利用者が中央銀行に直接口座を開設するかたちとなると、民間銀行を飛ばすようなイメージになり、大きな影響が及ぶ可能性もあるが、民間銀行を経由してCBDCを流通させるかたちとなれば、必ずしもそうでもないということかと思う。
 したがって、いろんな利用が検討の俎上にあるので、銀行への影響を一概に申しあげることはできないのではないか、というのが正直なところである。
 そして、中国人民銀行によるデジタル通貨、いわゆるデジタル人民元の発行計画については、設計、標準策定、機能研究は終え、次は試験地区の選定段階にある旨の報道がされていることは認識している。ただ、現時点では詳細については必ずしも明らかでなく、存じあげないので、コメントは差し控えさせていただきたいと思う。
 CBDCに関する一般論として申しあげれば、ある国の通貨が国際決済通貨として広く利用されるかどうかは、デジタル化による利便性の向上だけではなく、通貨としての信用力、安定性、それを裏付ける国家の経済力、あるいは政治的安定性と国際的な信認、資本規制の有無などさまざまな要因によって左右されるものだと思う。
 いずれにしても、デジタル人民元は試験段階であり、他の中央銀行もさまざまな検討を進めておられるので、私どもとしても、引き続き動向をよく注視して参りたい。


(問)
 LIBORに関連していくつかお尋ねする。先日、市中協議の結果が出て、その結果、事業法人や機関投資家と銀行との間で、これが良いという指標について意見の隔たりがあったと思う。まず、この隔たりが生まれていることについてどう受け止めているかということと、LIBORがなくなるまで、21年末ということなので、あと2年なのか、まだ2年もあるという認識なのかは分からないが、今後どういうふうに金利指標が収斂していくのか、現段階で想定されているスケジュールなどがあれば教えて欲しい。
(答)
 これもご承知のように非常にホットなテーマである。ご指摘のとおり、このほど「日本円金利指標に関する検討委員会」から、本年7月に実施した「日本円金利指標の適切な選択と利用等に関する市中協議」、いわゆる市中協議の結果が公表された。今回の市中協議はデリバティブ以外の領域、すなわち貸出と債券の分野において、円LIBORの後継金利としてどの金利を使いたいかを問うというものであった。
 市中協議結果はご指摘のとおりであるが、そもそもTIBORがあるなかで、あえて円LIBORを利用している方々にご意見を聞いているわけであるので、その代替金利指標としてやはりTIBORと答える方は少ないだろうと。そもそも質問の出し方からそういう結果になるというのは、ある意味では当然のことかなと思う。
 そうしたなかで、特に重要なことだと思うのは、やはりターム物リスク・フリー・レートを利用したいお客さまが多いということが明らかになったということ。一つ明確な方向性ができたという意味では、我々銀行界としても今回の結果を十分にしっかりと、重く受け止めたうえで、真摯に対応していく必要があると、まずは感じている。
 他方、ターム物リスク・フリー・レートがまだ存在していないのも事実である。まずは、それを構築していくことが重要だと思う。
 さらに、市場参加者による契約の変更やあるいはシステムの更改などの実務対応を考慮すると、LIBORの恒久的な公表停止が想定される2021年の年末まで、決して余裕があるわけではない。やはり、実務的に考えると、2年も時間があるとは決して言えないというのが基本認識である。そのため、銀行界としても、今後、貸出などの分野でターム物リスク・フリー・レートが利用されることを想定して、実務的な論点を整理したうえで、可能な限り早期に対応していく必要があるとまずは考えている。
 それに加えて、日本の検討状況その他についてどうかというお話があったと思う。代替金利指標の選定については、お客さまそれぞれが複数ある代替金利指標の選択肢のなかから適宜選定をされるというのが基本だと理解している。そのため、銀行界としては、お客さまがどの代替金利指標を選ばれても良いように準備すべきであると考えている。実際の対応はあくまで個別行のレベルで進んでいくことになるが、可能な限り早期にお客さまとの対話を開始し、お客さまの取引目的やニーズを踏まえて、適切に代替金利指標を選定していくことが重要である。
 本邦の検討状況に関してだが、私としては他国に比べて必ずしも遅れているという実感はない。欧米銀行のトップと話をする機会も多いが、彼らも同様に対応に苦慮しているというのが実態ではないかと思う。
 銀行界としても、当然ながらLIBORの恒久的な公表停止が想定される2021年末を意識しているわけであるが、LIBOR参照取引の大宗を占めるデリバティブの動向に左右される面ももちろんある。このデリバティブに関しては、いわゆるISDA(国際スワップデリバティブズ協会)が取りまとめを行っているが、来年半ばごろには契約文言の変更などが終了する見込みと伺っている。それがある種、デファクト・スタンダードとなっていく可能性も大きいことには注意が必要だと思っている。
 さらに、クロスボーダー取引が多い企業のお客さまからすれば、英米をはじめとする国際的な検討状況との整合性を意識する必要もまた出てこよう。日本だけで独自に検討すればいいというわけでもなく、非常に複雑な構図のなかで実務的な対応を行っていくことが必要なので、先ほど申しあげたとおり、決してまだ2年あるということではなくて、2年しかないという問題意識を持ちつつ、海外とも歩調を合わせてしっかりと対応していきたい。そのために全銀協としても色々な支援をしていきたいと考えているところである。


(問)
 口座維持手数料の話が出たが、銀行業界では、今、両替外貨振込や海外送金、さらには優遇プログラムの改正でATMの手数料を実質値上げするという動きもかなり目立ってきている。背景には、長引く低金利環境などもあると思うが、顧客サービスに係る手数料値上げが続く理由をどう分析されているのか、どう判断しているのかを教えてほしい。
(答)
 冒頭の幹事社からの質問でも申しあげたが、手数料については、あくまで個別行の経営戦略あるいは事業戦略にもとづいて設定されるもの。そして、お客さまにご理解を求めながら検討されるものであるので、その背景について一律には申しあげられないものと認識している。
 個別行について申しあげると、先ほども申しあげたが、手数料はあくまでお客さまに提供する商品やサービスに見合った対価を頂戴するというのが基本的な考え方であり、私どもSMBCでもその水準は絶えず見直しを検討する、あるいは研究するのは当然のことかと思っている。したがって、例えば、金融政策を理由に各行が手数料の見直しについて検討をしているという話は、少し筋が違うと思っている。


(問)
 1点、公正取引委員会の件について伺う。オープンAPIとか、あるいは、口座振替手数料をめぐって、公正な競争環境が確保されているのか、新規参入を阻害することになっていないのかということで、公取が関心を示し、年度内にその報告をまとめる予定と伺っている。まず、その公取の動きについてどう受け止めているか。あるいは、その全銀システムのあり方そのものにも関心を示していると言われているが、こういった動きについてどう受け止めているか考えを聞かせてほしい。
(答)
 公正取引委員会がAPI連携、あるいは、キャッシュレス決済に関して調査を行っていることは聞いているが、その目的が、今、ご指摘があったようなものなのかどうか存じあげる立場にないので、コメントは差し控えたいと思う。
 ちなみに、今質問のなかで触れられた全銀システムは、日本の決済を支える社会インフラとして、安定性・信頼性を確保することが最重要であり、そのために、接続条件として、現状は、銀行のほか、信用金庫や信用組合などの内国為替業務を営む預金取扱金融機関に限る等、必要な措置がとられているという認識である。
 また、資金移動業者による全銀システムへの接続について、これまでそういった具体的な要望は寄せられていない。
 なお、全銀協や全銀ネットが公正取引委員会から調査を受けているかどうかについては、コメントは差し控えたい。


(問)
 二つ伺いたい。
 一つ目が、今の方の質問ともかぶるが、オープンAPI、いろいろ聞くに、なかなか進まない理由の一つに銀行側と電代業者側の手数料のところで折り合えないケースがある。電代業者によっては、無料でこれは接続させるべきだという意見も聞かれるが、このあたりについてどう考えるか。APIに関しては、間に合わないので、とりあえずスクレイピングでもいいのではないかという声もあるが、これに対してはどう思われるか。
 もう一つは石炭火力について。COP25もあったが、石炭火力発電に対する世界的な批判が高まるなか、邦銀、特にメガバンクは、石炭火力発電に対する融資の額がNGOによると非常に多いというデータも出ている。改めて邦銀の石炭火力発電に対する融資方針、姿勢について教えてほしい。  
(答)
 まず最初のオープンAPIに関連してのご質問についてお答えする。
 銀行に対しては、お客さまにより付加価値の高い金融サービスを提供するため、電代業者の皆さまと積極的に連携・協働することで、従来の枠組にとらわれない新たなビジネスの創造を目指していくことが期待されていると考えている。そういった考えにもとづき、130行がオープンAPIへの前向きな対応方針を表明したものと理解している。現在、各行が、来年5月末の契約締結期限に向け、電代業者の皆さまと個別にコミュニケーションを取りながら契約締結の推進に取り組んでいるところである。
 個々の手数料の水準は、各銀行と電代業者の間の個別の交渉にもとづいて設定され、決まっていくものである。全銀協会長としてはコメントする立場にはない。
 そのうえで、一般論として申しあげると、サービス提供の対価としての手数料は、当然、サービスの継続を前提として、原価に適正な利潤を加えたものをベースとして交渉が行われ、適正な競争関係のなかで、おのずと適正な水準が定まってくるものと認識している。
 API連携について、電代業者との連携によるベネフィット、効用が非常に大きいと銀行が判断すれば、手数料については非常に少額で構わない、あるいは無料という判断もあり得るだろうと思う。しかし、片や、その連携によるベネフィットが必ずしも見えないケースもあるわけで、一定程度の手数料をいただかなければ、システムの初期投資費用どころか保守費用すら賄えないということもあり得る。それは、ひいては安定的なサービスの継続につながらないということもある。したがって、一概にはなかなか言いにくい。
 電代業者の皆さまとよく対話を行い、そのうえで、サービス・将来ビジョンなどについて、お互いに理解をしっかりと深めつつ、共有する。そういうステップが非常に重要である。そのなかで、手数料というものが適正なものとして、両者の合意につながっていくというものであろうと思う。
 なお、契約がなかなか進んでいないのではないかという問題意識をお持ちだと思う。それについて申しあげると、手数料の交渉というよりも、まずその前の段階、API接続に係る銀行による電代業者の皆さまのセキュリティ面での審査に非常に時間がかかっている面がある。具体的にシステムの要件が固まらず、したがって、手数料の交渉になかなか入れない。実は、ここが実務的なネックになっている実態がある。こういう現状も踏まえ、この分野に知見を持つベンダーであるNTTデータに、電代業者のセキュリティチェックを代行していただくスキームを、全銀協として会員行にご紹介しようとしているところである。
 このスキームにより、銀行、特に地域金融機関の皆さまにとっては、複数の電代業者に対する実地調査も含めたチェック作業を効率化できるということにつながる。また、電代業者の皆さまも、多数の銀行ごとに、それぞれの質問があり、それぞれに情報のやり取りを行ってきたところからすると、時間の短縮につながる効果が期待されるのではないかと思っている。
 ちなみに、このスキームの実行にかかるコストは、参加する各行にご負担いただく。
 全銀協としても引き続き、銀行と電代業者との連携、協働をサポートする取組みを強化していきたい。
 スクレイピングについてのお話があったと思うが、今、かなり前広にお答えしたので、簡潔に申しあげると、スクレイピングというのはあくまで暫定的な対応として考えられるべきものである。これは、利用者の方々からIDやパスワードを貸与、貸し出すことを通じて行うということであり、すなわちセキュリティ面、あるいは利用者保護に懸念がある形態であるので、これはあくまで暫定的なもの、あるいは一時的なものと捉えるべきものだろうと考えている。
 そうはいっても、現実に銀行によっては、例えば合併に伴うシステムの統合であるとか、基幹システムの更改など、既存のいろいろなシステムの制約等があり、そういう実務的な理由でAPIサービスを提供できないケースや、APIの接続テストも、先ほどセキュリティチェックの話も申しあげたが、期限内にAPIの接続が完了できないケースが出てくる可能性もある。そうしたときに、あくまで時限的な措置として、スクレイピング契約の締結を検討する場合も出てこようかと考えている。しかし、これは何度も言うとおり、セキュリティ面、利用者保護の面では、劣る対応であるので、その間、たとえ暫定といえども、電代業者の皆さまに追加の情報セキュリティ体制を求める必要も出てくるであろう。このようないろいろな事情を踏まえ、先般、全銀協として、地銀協・第二地銀協とも連携して、スクレイピング契約を検討する場合の留意点を取りまとめ、説明会を通じて、会員行に周知するなど、会員各行の取組みをサポートしているところである。
 もう一つは、石炭火力のご質問である。石炭火力発電への投融資に限らず、持続可能な社会の実現に向けて、気候変動対策への責任を果たすなど、銀行としてSDGsへの取組みを進めていくということは非常に重要なテーマだと認識している。
 石炭火力発電の抑制については、欧米での取組みが進んでいると言われているが、日本では、エネルギー基本計画において、高効率な石炭火力発電は重要かつ不可欠なベースロード電源と位置づけられているのはご承知のとおりである。融資ポリシーの策定あるいはその内容は、あくまで各行、各銀行の経営判断にもとづく自律的、自主的な取組みではあるが、こうした国家レベルでの政策や方針と国際的な議論の流れなど、双方に意を配りながら歩みを止めずに考え続けることが必要なテーマだろうと思っている次第である。
 私どもSMBCについて申しあげると、日本のエネルギー政策をサポートしつつ、それに貢献していくということも重要であるし、同時に環境に配慮することも、銀行の役割としては重要だということで、2018年6月、1年半前に、国内・海外を問わず新規建設する石炭火力発電所向けの融資は、超々臨界圧と呼ばれる発電効率の最も高い案件に限り検討するという方針を定めて公表した。これまでもOECDのガイドラインに則り、一定の基準を満たす案件であることを確認し、厳選した上で、個別に慎重な判断を続けてきたが、金融機関に対する環境社会問題への対応要請が国際的に高まっているということを踏まえ、さらなる厳格化に踏み切ったものである。
 今後、脱炭素でのエネルギー供給の実現に向け、再生可能エネルギーのさらなる促進等、関連するビジネスも積極的に支援をしていくつもりであるし、再生可能エネルギーに関連するファイナンスについては、私どもを含め邦銀はトップクラスの貢献を世界に対して行っているだろうと考えている。
 ちなみに、いわゆる座礁資産化という話が最近よく言われる。メガバンクは、今期、私どもSMBCも含めて、いわゆるTCFD提言に従い、石炭火力発電を含む炭素関連資産がエクスポージャーに占める比率を開示している。TCFD提言では、いわゆる座礁資産化を「移行リスク」と定義をしており、シナリオ分析に基づく定量化と開示を進めていくことを求めている。
 今回のメガバンクが行った開示は、そのための第一歩ということになり、今後、継続的に取組みを進めていくことが重要と考えている。私どもSMBCにおいても、今期総貸出に占める炭素関連資産、これは電力、エネルギーなどであるが、このエクスポージャー比率として7.8%という数値を開示した。こうした資産を抱えたセクターを対象として、移行リスクのシナリオ分析を進めており、将来的には座礁資産化の検証を進めていきたいと考えており、現に、ほぼ移行リスクの算定が今終わりつつある。
 ついては、そういうものもしっかりと開示をし、マーケットのなかでの皆さまの動きを確認しつつ、リーダーシップを取っていきたいと思っている次第である。
 また、全銀協としてもTCFDコンソーシアムでの議論を通じて、シナリオ分析及びその開示の重要性を会員銀行と共有し、座礁資産化リスクに対応していきたいと考えている


(問)
 昨日、日本郵政グループの不適切な保険販売問題での記者会見があり、法令違反が疑われるような事案が1万2,000件ぐらいあったということだったが、この問題についてどのように受け止められているかを率直にお伺いしたいのと、不正が広がった原因にガバナンス問題も指摘されているが、経営陣の責任問題も含めて見解を聞かせてほしい。
 全然違った問題でもう1点あるが、金融庁の金融審議会で決済法制について、銀行業界から特に資金の保全や滞留の問題についてもう少し盛り込んで欲しいと指摘されていたが、結局はすべては受け入れられなかったと思う。今回の取り纏め結果についてどのように受け止められているか聞かせてほしい。
(答)
 昨日、18日に日本郵政グループが不適切な保険販売問題に関する調査結果を発表したことは承知している。全銀協会長として、個別の金融機関の案件について詳しくコメントすることは差し控えさせていただくが、日本郵政グループにおかれては、お客さまの不安解消のための取組みを進めていただくとともに、全容解明、そして原因究明に向けた調査を引き続き進めていただきたい。
 一般論として申しあげると、各金融機関においては、顧客本位の業務運営に関する方針や、法令に則った適切な販売のためのルールは整備されていると認識しているが、近年、発生している不適切な事例を見ると、やはり経営陣の姿勢、ビジネスモデル、あるいは企業文化など、経営そのものの在り様が背景にある、あるいは主因となっている事例、経営陣が顧客本位やコンプライアンスについて主体的な意識を持たずに、コンプライアンス部門、あるいはリスク管理部門などの管理部門に任せ、部分的に対応するだけであった事例も少なくはないのだろうと考える。
 顧客本位やコンプライアンスはビジネスの大前提であり、経営の根幹に据えるべきものである。このため、管理部門のみで部分的に対応するのではなく、まさに経営陣がその重要性をしっかりと認識したうえで、自らのビジネスモデルや経営戦略からどのようなリスクが生じる可能性があるのか、絶えず主体的に見ていく、考えていくところから議論を行って、経営陣自ら姿勢を示すとともに、経営方針を踏まえた健全なリスクカルチャーやコンプライアンス意識を企業風土として醸成することがますます重要になってきていると考える。
 以上が一つ目の質問に対する回答である。
 二つ目は、金融審の決済法制についての質問と理解した。今回の金融審議会では、ご承知のとおり、イノベーションの促進などを通じて利用者の利便性の向上と利用者の保護のバランスに留意をしつつ、資金決済法の見直しが議論されてきた。全銀協もそのメンバーとして積極的に議論に参加してきたものである。
 今回、議論されたのは、資金移動業者に3つの類型をつくること、すなわち新たに第1類型として、送金上限がない代わりに、より厳格な規制が適用される類型を創設。第2類型は、100万円を送金上限とする現行の資金移動業者。さらに新たに、数万円程度の上限の下で緩やかな規制を許容する第3類型を創設するものである。
 私どもとしても、そうした方向性について賛同している。そのうえで、銀行界としては、ご指摘のとおり主に資金の滞留、資金の保全について意見を申しあげてきた。前者、資金の滞留問題は、そもそも資金移動業者は送金サービスを提供するものであって、為替取引と無関係な資金を預かることは想定されていないわけなので、そうした資金滞留のないように業務を運営すべきという考え方である。
 また、資金保全については、送金のためにお預かりした資金は、可能な限り常時全額保全に努めるべきであるし、送金以外の目的に流用されることはあってはならないと申しあげてきた。
 報告書はまさに昨日取り纏められ、私どもの意見は概ね反映いただいたと考えている。とはいえ、新たな類型も含めて資金移動業が今後どのように成長・発展をしていくのか、現時点ではなかなか分からない部分が多いのも事実である。したがって、今後継続的に業務の実態をモニタリングし、必要に応じて規制の枠組みを見直していただくことも同時にお願いをしたい。


(問)
 2点お伺いする。1点目は、ZホールディングスとLINEが来年10月に経営統合することでの基本合意を発表している。両者の経営統合で多くのユーザーがいるスマホ決済サービスができることになるほか、傘下には銀行、証券、保険会社を保有する企業が誕生することになるが、金融機関として脅威になるのではないか。このあたりの認識をお伺いする。また、イコールフッティングの観点からどのように受け止めているか、今後、こうしたプラットフォーマーとどのように対峙していくか、お伺いしたい。
 もう1点は、金融庁が昨日、検査マニュアルの廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方を公表した。併せて金融検査マニュアルを廃止したことになるが、銀行実務にどのような影響があるかお伺いしたい。
(答)
 まず最初のご質問、ヤフーを傘下に持っているZホールディングスとLINEが来年10月に経営統合するということで基本合意されたことについてのご質問であった。個別の統合事案であるので、全銀協会長として評価をするというのは適切ではないため、あくまで個人的な意見として聞いてもらいたいと思う。
 ご指摘のとおり、両者はそれぞれ大きな顧客基盤を有しているほか、金融分野でもすでに多様なサービスを手がけておられるので、統合による潜在力には、当然のことながら、我々としても非常に注目している。
 もっとも、金融機関とこうしたプラットフォーマーの関係というのは、さまざまな側面がある。すなわち競争相手となることも事実だが、実は、同時にパートナーとなる場合も多々ある。実際に両社ともに、すでにさまざまな分野でさまざまな金融機関と連携したサービス提供をしている、あるいは、しようとされておられる。デジタライゼーションが進展するなか、お客さまの多様なニーズを吸い上げ、そして、それに対してどういうソリューションを提供していくかということにおいて、私どもとしても、新たなプレーヤーと、時には競争し、時には連携・協調しながら、お互いに切磋琢磨し安全・安心で利便性の高い金融サービスを提供する、こうした相互的な関係を考えることこそが非常に重要であると思っている。
 一方で、ご指摘のとおり、公正・公平な競争環境を整備する、いわゆるイコールフッティングの枠組みというのも必要不可欠であろうと思う。例えば、厳格な業務範囲規制に服している銀行は、新たなプレーヤーのように金融・非金融サービスを一体的に提供することは現状困難である。また、一般の事業会社は銀行を子会社として持つことができるが、銀行は一般事業会社を子会社にすることはできないという問題もある。
 お客さまにとっていかに価値あるサービスが提供できるか、そのために多様な選択肢を提供できるか、本来はこれが国民経済には重要な視点であろうと思うので、こうした規制のあり方の見直しが同時かつ速やかに進められることが肝要であろう。私ども銀行界としても、そういう視点から意見を述べていきたいと思っている。
 もう一つは、昨日18日付の金融検査マニュアルの廃止についてである。今さら言うまでもないが、足元、人口減少、高齢化社会の進展、低金利環境の長期化、異業種との競争激化など、多様な経営課題に直面するなかにおいて、我々金融機関にはいかに自律的、主体的、自主的に、それぞれの経営課題に対処していくかが改めて問われていることは間違いないと思っている。
 こうした流れのなかで、まず、昨年の「融資に関する検査・監督実務についての研究会」における議論を踏まえ、まさに昨日、12月18日に「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」、いわゆるディスカッションペーパーが公表され、同時に金融検査マニュアルが廃止されたのはご指摘のとおりである。ディスカッションペーパーにおいては、これまで金融検査マニュアルにもとづき、定着してきた現状の実務、例えば、引当の実務を否定しないとされているが、同時に各行の経営理念あるいは経営戦略および地域経済の特性を踏まえた融資方針などをベースに、足元や将来の情報にもとづき、より的確かつ機動的な引当と柔軟な支援を可能にするものと理解している。
 その一方で、銀行には意思決定のプロセスの整備や適切なガバナンスの構築などを通じて、その引当の見積もりにおける恣意性を排除するとともに、説明責任をしっかりと果たすことが求められている。
 なお、こうした考え方は、銀行の実務面にも配慮したかたちになっている。したがって、あるべき姿を目指していくためのものだと受け止めている。私どもとしても、適切な金融仲介機能の発揮に向け、しっかりと取り組んでいかなければならないと改めて考えているところである。以上が受止めである。