2021年12月16日

髙島会長記者会見(三井住友銀行頭取)

岩本専務理事報告

 事務局から3点報告する。
 1点目は、本日の理事会において、次期会長を三菱UFJ銀行の半沢頭取とすることを内定した。次期会長は、今後の理事会における正式な選定手続を経て2022年7月1日付で就任予定であり、任期は2023年3月31日までとなる。
 2点目は、資料のとおり、本日の理事会において、「カーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアティブ」を取りまとめた。
 本イニシアティブは、政府の2050年カーボンニュートラル宣言等を踏まえ、気候変動問題への取組施策の体系化を図るとともに、中長期的な視点に立って、基本方針や重点的に取り組むべき分野を定めたものである。今後は本イニシアティブにもとづいて、産業界・政府関係省庁と連携のうえ、2050年カーボンニュートラル/ネットゼロの実現に貢献して参りたい。
 3点目は、現在当協会は、手形・小切手をイメージデータ化し、電子的に交換決済を行う電子交換所システムの開発を進めているところであるが、本日の理事会において、システムの稼動日を2022年7月19日、決済の開始予定日を同年11月4日とすることを決定した。

 

会長記者会見の模様


(問)
 まず1点目がみずほ銀行について。今年8度のシステム障害を起こしたみずほ銀行について、金融庁や財務省による処分を受けて、経営トップやCIOらが引責辞任する事態となっている。この一連の問題を総括して所感を伺いたい。
 2点目は、日本銀行によるコロナオペなどの各種支援策について伺う。「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ」や、「地域金融強化のための特別当座預金制度」について、それぞれどのように評価されているか。今後、銀行界として日本銀行に望むことはあるか。
 最後に3点目だが、今発表いただいた全銀協の次期会長人事について伺う。来年7月、三菱UFJ銀行の半沢頭取に引き継がれるということだが、選ばれた理由と、交代時期がなぜ7月1日なのか、それぞれ理由を伺いたい。
(答)
 まず一つ目だが、一連の事案は、個別行におけるシステム障害だが、銀行界全体として受け止めるべき点に関して何点かコメントさせていただく。
 1点目は、いわゆるシステムガバナンスのあり方についてである。
 社会の価値観、あるいはニーズの多様化に伴い、現在の銀行が取り扱っている業務は極めて多岐に及んでいる。そうした業務を支えているのがシステムであり、ITの技術革新が日進月歩で進んでいるなかにおいて、銀行のシステムのあり方もまた、著しく高度化しているのが実態である。
 こうした環境のなかで、適切なシステムガバナンスを実現するためには、何よりもまず、高い専門性と豊かな経験を持つシステム人材を適材適所で配置することが必要である。その上で、システム部門のみならず、経営トップも含めた経営陣が主体となり、現場が正しい情報を適時・適切に発信できる体制を整備することが、何より重要である。
 2点目は、システム障害時における対応のあり方である。現在の銀行では、業務とシステムが密接な関わりを持っているため、システム障害が発生した場合には、非常に広範な業務に影響が及ぶ可能性がある。一方で、どのようなシステムであっても、障害の発生自体を完璧に防ぐことは難しいのが実態である。こうした状況にあって、お客さまへの影響を最小限に食い止めるためには、障害時訓練を定期的に実施することは当然のこととして、同時に、障害が発生した際には、業務やシステムといった部門の垣根を越えて、直接的な影響のみならず派生的な影響も考慮しながら、幅広い関係者がお客さまの目線に立って対応を検討していくことが極めて重要である。
 最後に、資源配分に対する考え方も問われているのだろうと思う。長引く低金利環境など、銀行を取り巻く収益環境が厳しさを増すなかにおいて、各行が経営効率を高めるべく、システム投資のあり方も含めて資源配分のあり方を絶えず見直すこと自体は、経営として当然のことであり重要なことである。しかしながら、銀行がわが国の社会・経済を支える重要な金融インフラであることに鑑みれば、業務・システムの安定稼動は銀行にとっての社会的使命であり、そうした観点も踏まえて、複合的な視点で資源配分のあり方を考えることが重要だと思う。
 私ども銀行界は、わが国の社会経済を支える重要な金融インフラとして、社会の皆さまから寄せていただいている信頼にしっかりとお応えするため、今後とも不断の努力を重ねてまいる所存であるし、その必要性を改めて銀行界全体で実感したものと考えている。
 2点目の日本銀行の各種支援策について。「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ」、いわゆるコロナオペは、11月26日時点で約80兆円の利用残高が積み上がっており、本制度は、感染症の動向や公衆衛生上の措置に経済活動が大きく左右される非常に厳しい状況下において、企業倒産の抑制や金融市場の安定化に確実に寄与してきたと考えている。
 また、「地域金融強化のための特別当座預金制度」は、地域金融機関が将来にわたって地域経済をしっかりと支えていくために、その経営基盤強化に向けた取組みを後押しする制度であり、日本銀行の発表によれば、令和3年度上半期に約630先の金融機関に特別付利が行われた。本制度を適切に維持していく観点から、付利対象金額の上限について見直しが行われたが、いずれにせよ、それぞれの地域において期待される役割に応じた、地域金融機関のビジネスモデル改革や、さまざまな経営努力の後押しになっているのではないかと考えている。
 コロナオペの期限延長も含め、各種の支援策は日本銀行の専管事項であるため、全銀協会長としてコメントする立場にはないが、日本銀行におかれては、先ほど申しあげた制度以外にも、「気候変動対応オペ」の導入も決定されるなど、わが国の経済・金融情勢に応じた支援策の策定に積極的に取り組んでいただいている。銀行界としては、こうした日本銀行の制度活用を検討しつつ、引き続きお客さまの資金繰り支援などに全力で取り組むことにより、自らの役割をしっかりと果たしていきたいと考えている。
 3点目の、全銀協の次期会長に関しての質問だが、半沢頭取は、現在、わが国のリーディングバンクである三菱UFJ銀行を率いられ、銀行界の多岐にわたる課題に対しても大変見事なリーダーシップを発揮されている。加えて、全銀協においても本年4月1日より、副会長を務められ、その手腕・実績は申し分ない方である。本日の理事会においては、これらを総合的に鑑みて、新会長として最も相応しい方という判断で一致したところである。
 また、7月という就任のタイミングについてだが、やはり会長行をお引き受けいただくには相応の準備が必要である一方、三菱UFJ銀行は、通常の任期を超えて、本年6月末まで会長行を務められたばかりであり、行内での準備、体制づくりには一定の時間を要するため、7月1日からの就任となったとご理解いただけたらと思う。


(問)
 2点質問する。
 まず、一部企業では事業再生・再構築に向けた動きが出ていると思うが、そこで、銀行として資金提供以外でどんな支援をしていくのかを伺いたい。ポストコロナに向けて経済活動が再開するなかで企業のニーズも多様化していると思う。どう対応していくのか。
 もう1点は、SBIによる新生銀行の買収についての受止めを教えていただきたい。大手銀行であって公的資金も抱えている銀行をSBIが抱えることになった。銀行界としてSBIに期待することを教えてほしい。
(答)
 1点目は、資金支援以外の銀行界の支援についてのご質問であった。銀行界においては、新型コロナウイルス感染症の拡大初期から、一貫して、お客さまの資金繰り支援を最優先に取り組んできた。ご指摘のとおり、社会経済活動の再開に伴い、お客さまからはファイナンス面以外のニーズも実際に多く頂戴している。
 会員各行では、企業活動の回復を後押しすべく、ウィズコロナ/ポストコロナ時代に対応するための事業再構築に関するアドバイスやビジネスマッチング、あるいは事業承継やM&Aに関する提案など、経営課題の解決に知恵を絞りながら取り組み、コンサルティング機能の発揮に努めている。
 個別行の話になって恐縮だが、例えば私ども三井住友銀行においては、“Biz-Create”というサービスを提供している。これは、ウェブ上でお客さま同士が直接つながることができるオンラインビジネスマッチングサービスだが、開始して2年で利用企業は1万社をすでに超え、足元では月間1,500件以上の商談が行われている。コロナ禍で対面でのビジネスマッチングがなかなか難しくなっているなかにおいて、こういったデジタル技術を効果的に活用することにより、全体のマッチング件数はむしろコロナ前よりも大きく増加している。
 また、全銀協においても「中小企業の事業再生等に関する研究会」を立ち上げ、新たな再生支援手続きを定めるべく、鋭意取組みを進めている。
 いずれにしても、重要なことは、お客さま一社一社にしっかりと寄り添い、個々の状況を丁寧にお伺いしながら、ニーズに応じたきめ細かな支援を行っていくということに尽きるのではないかと考える。銀行界としても、資金繰り支援と併せて、コンサルティング機能の発揮により、お客さまの事業再生・再構築を支援していきたいと考えている。
 2点目のSBIと新生銀行の個別の案件についてだが、個別の銀行に関する話なので、全銀協会長としてコメントすることは差し控えさせていただき、あくまで私個人の考えとして申しあげる。
 そもそも今回のTOBは、当然のことながら法令にもとづいて、かつ、関係当局の許認可も得て、公正かつ適正に手続を進めて行われたものであり、その適否について議論を要するような取引ではないと考えている。
 そのうえで申しあげると、銀行はその公共性に鑑みて、信用の維持、あるいは預金者保護、そして金融の円滑化などの観点から、健全かつ適切な業務運営を行うことが求められている。
 すなわち、会員各行はお互いに金融サービスの提供という面では競争関係にあると同時に、健全かつ堅牢な金融システムを維持・深化させていくという観点ではパートナーでもあると言える。したがって、SBIにおかれては、様々な創意工夫、新しい経営を導入されて、ご指摘のような大手行の一角かつ公的資金を受けている銀行である点も含め、社会の期待に応えていかれることを期待している。


(問)
 次期会長人事について、これまではメガバンク3行が輪番で会長に就任されてきたので、次はみずほ銀行のはずだが、今後は2行で回していくのか。この点をまず教えてほしい。
(答)
 先ほどもお答えしたとおり、これまで確かにご指摘のように、三つの銀行で会長を回しているかたちになっているが、あくまで、次期会長については正副会長会議で議論し、理事会にお諮りをしたうえで内定し、かつその後正式に決定するというプロセスを毎年とってきている。
 したがって、私も三菱UFJ銀行の三毛会長からバトンを引き継いだが、今回については改めて三菱UFJ銀行の半沢頭取にバトンを引き継ぐのが一番いいだろうという結論に至ったということである。


(問)
 楽天銀行が口座数を伸ばすなど、他業種・他業態から銀行業への参入が増えているが、これらの他業種・他業態の強みはどういうところにあると見ているか。また、それに対して、銀行はどう対応していくのか。
(答)
 ご指摘のとおり、他業種・他業態から銀行業への新規参入がいろいろと出てきている。そうした新規参入者は、おしなべて申しあげると、質の高いUI/UXなどを活かした非金融事業と金融事業とのシームレスな連携を有するとともに、店舗を持たないなど、いわゆるレガシーコストがないことによるコスト競争力を有しており、主としてデジタルチャネルを中心に顧客基盤を拡大していると捉えている。
 また、依然として、銀行業の非金融業態への参入に比べて、非金融業態の銀行業への参入の方が容易であるという点も、新規参入の背景としては大きいと考えている。
 そのなかで伝統的な銀行がどのように持続的な成長を実現するかについては、個々の銀行の戦略に属する話であるが、銀行が取り得る戦略の方向性について一例を申しあげると、新規参入者と同様にデジタルチャネルの顧客利便性を一層向上させていくほか、元来の強みである「ヒト」を介したサービスの強化を図っていくことも考えられるのではないかと思う。
 例えば、大企業のお客さまの大口のファイナンスや、中小企業のお客さまの事業承継、個人のお客さまの相続といった複雑な課題に対するソリューションの提供では、まだまだ自動化できない、テーラーメイドのサービスが必要であり、デジタル技術による自動化が進むほど、こうした人が関わるサービスの価値はむしろ高まっていくとも言えると思う。
 大企業にしても、個人にしても、こうしたソリューションに対するニーズはこれからも変わらず残るものであり、伝統的な銀行にとっては、引き続きまだまだチャンスがあると考えている。
 また、本年11月に施行された改正銀行法による規制緩和を活用しながら、伝統的な銀行も非金融分野に事業領域を拡大し、金融と非金融の垣根を越えた複合的なサービスの提供などを通じて、新たな顧客基盤や取引の拡大を目指すという方向性も十分にあると考えている。
 さらには、既に一部ではそのような動きが出ているが、伝統的な銀行と新規参入者などが競合・競争するのではなく、お互いの強みを補完すべく、両者で連携する動きも、今後ますます進んでいくのではないかと思われる。
 いずれにしても、新規参入者と伝統的な銀行とがお互いに切磋琢磨しながらサービスの質の向上に努めていくことは、お客さまにとってメリットのある話である。銀行界としても引き続き、創意工夫を凝らして努力して参りたい。


(問)
 一つは脱炭素関連で、カーボンニュートラルへの対応として企業の温室効果ガス排出量を測定するツールを提供しようとする動きが三井住友銀行や三菱UFJ銀行で見られる。排出量の測定そのものはこれまでの銀行実務とは縁遠い分野かと思うが、銀行がこの種のビジネスを手掛ける強みや意義を改めてお聞きしたい。また、中小企業を含むサプライチェーン全体の排出量の算定には、中小顧客を多く抱える地域銀行の役割も大きいと思うが、この点についての見解も伺いたい。
 もう1点が、改正個人情報保護法である。来年4月に改正法が施行されるが、改正法では、お客さまが自分自身の個人情報の利用停止を企業に請求しやすくなるなど、銀行実務に影響を与えそうな変更点が多くある。銀行にとって特に重要だと考える変更点と、考えられる対応についてお聞きしたい。
(答)
 1点目は、カーボンニュートラルに向けた対応に関連するご質問である。
 ご指摘のとおり、気候変動問題の対応がまさに世界的な課題となるなかで、銀行界においてもお客さまの気候変動対策、脱炭素化を支援するさまざまなサービスを提供する動きが広がっている。脱炭素化に向けては、まずもって各企業が自社の温室効果ガスの排出量を把握する必要があるが、これには企業内に散在しているさまざまな活動情報の収集や専門知識を要し、苦労されているという声が多い。
 したがって、会員各行のなかで広がっている温室効果ガスの排出量測定ツールを提供する動きは、まさにこうしたお客さまの課題解決につながる取組みの一環としての努力であろうと理解している。
 当行の個別行としての取組みについて若干申しあげると、先月、温室効果ガスの排出量の算定・可視化ソリューションを提供するクラウドサービス、「Sustana(サスタナ)」を開発し、先行トライアルの開始を公表した。これは、企業内に散在する温室効果ガスの排出につながるさまざまな企業活動に関する情報を効率よく収集し、温室効果ガスの排出量を算定すると同時に、可視化をするサービスである。
 気候変動対応を巡る業務は伝統的な銀行業務とは異なるノウハウが求められるのは事実だが、気候変動対応を重要な経営課題の一つと位置付けるお客さまが増えていくなか、各銀行においては、リソースを投入し、外部専門家などと連携しつつ、創意工夫を凝らして、ノウハウの蓄積とサービスの拡充に努めているところである。
 令和3年銀行法施行規則の改正に伴い、新たに「地域の活性化、産業の生産性の向上、その他の持続可能な社会の構築に資する業務」が追加されたことも、こうした取組みを後押しするものと考えている。
 お客さまが、今後さらに、いわゆるScope3と呼ばれるサプライチェーンベースでの温室効果ガス排出量の把握・削減を進めていくためには、ご指摘のとおり、サプライヤーである中小企業を含めた支援が非常に重要となってくる。
 全銀協としても、地域銀行も含めた会員各行が、お客さまの課題に寄り添い、支援していけるように、先進的な事例を紹介するなどして、各行の取組みをサポートして参りたい。
 2点目は、改正個人情報保護法に関連するご質問であった。今回の改正は、個人情報に対する意識の高まり、技術革新を踏まえた保護と利活用のバランス、そして越境データの流通増大に伴う新たなリスクへの対応などの観点から、個人情報の利用停止を含む個人の権利保護や、事業者の責務の強化などが明確化されたものである。
 改正内容は多岐にわたるが、なかでも個人情報のデータ利活用に関するルールの明確化は非常に重要なポイントだと考えている。個人情報に対してより慎重な取扱いを求める潮流があるなか、銀行が顧客データを活用したビジネスを展開するにあたっては、個人情報の取扱い方法を明確化し、丁寧に分かりやすくお伝えをすることで、お客さまにしっかりとご理解いただくことが非常に重要である。
 従来から、銀行界は金融分野ガイドラインに則った、より厳格な個人情報管理を行ってきたが、今申しあげたような点も含めて、改正法および改正ガイドラインの内容を踏まえた態勢整備、個人情報保護管理の高度化を図っていく必要がある。全銀協としても、個人情報保護指針やQ&Aの改定によって、会員各行のサポートを引き続き進めて参りたい。


(問)
 1点目は、みずほの外為法違反について。財務省による是正措置命令では、役職員の知識不足やシステム管理態勢の脆弱性などが指摘されているが、それについて銀行界として何か対応が必要かなどの受止めを伺いたい。
 2点目は、政策保有株式の削減状況について。三井住友トラスト・ホールディングスが政策保有株式の議決権行使方針を公表したが、議決権行使方針のあり方についてどのようにお考えか伺いたい。
(答)
 最初のご質問だが、個別行の事案やそれに対する処分内容について、全銀協会長としてコメントすることは適当ではないと考える。
 したがって、法令遵守に関する一般的なポイントについて少しコメントさせていただく。
 銀行システムという社会インフラを安定的かつ確実に運営するに当たっては、高い目線での法令遵守が求められ、そのために態勢整備を行うことは最も重要かつ非常に基本的なテーマ・課題である。
 そのため、会員各行においては、今回の事案も踏まえて、役職員の研修プログラムの整備や、フロント・システム・コンプライアンスなどの部署間での連携の向上、そしてAMLシステムのみならず、その関連システムの管理態勢強化などの重要性を改めて認識するとともに、その強化のためにPDCAをしっかりと回していくなど、銀行界として不断の努力を続けていくことの重要性を改めて認識した、と考えている。
 2点目は、政策保有株式の議決権行使に関連するご質問であった。
 まず、政策保有株式の売却については、各行やお客さまごとにそれぞれ事情が異なるので、一概に申しあげることは難しいが、一般論として申しあげると、コーポレートガバナンス・コードの改訂、東証の市場改革、議決権行使助言会社やアクティビストの動向等を受け、お客さまの側にも政策保有株式に係る行動や判断に変化が見られてきており、金融機関等による政策保有株式縮減のトレンドは今後も続いていくと考えている。
 一方で、政策保有株式は、保有先企業の資本政策と密接に関連する話である。したがって、その売却に当たっては、お客さまとの丁寧な対話をベースに双方が納得したうえで進めていくことが引き続き基本となってくる。
 また、議決権行使については、各行がお客さまへの深い理解を基礎としつつ個別に判断することであるが、日々お客さまと対話を重ねていくなかで、発行会社が自らの中長期的な企業価値の増大に繋がる意思決定を行っているかどうか、ひいては、それが政策保有株式を保有している銀行にとっても自身の価値向上に資するかどうか、といった観点から、適切な議決権行使に努めていく必要があると考えている。


(問)
 FOMCの今回の会合の受止めについて伺う。日本銀行の金融政策決定会合が足元開かれているが、おそらく金融緩和は維持される見通しということで、日米の金利差が拡大することに対しての銀行ビジネスに対する影響など、そのあたりも含めて教えていただきたい。
(答)
 昨日行われたFOMCで、金融緩和の出口戦略について重要な意思決定がなされた。FOMCでは、テーパリングを加速させる方針が示され、これまで来年6月とされていた資産買入終了の時期が3月に前倒しされた。この対応は、一時的と見込まれていた高インフレが長期化するリスクに備えて、FRBがその後の利上げの検討も含め、機動的な金融政策を行う姿勢を示したものだと受け止めている。
 市場関係者の注目は、利上げの開始時期やそのペースに移ることになるが、FOMCメンバーの政策金利見通し、いわゆるドットチャートを見ると、来年、再来年それぞれ3回ずつの利上げを見込んでおり、前回9月の見通しと比べると、早期の利上げ実施が必要との見方が大幅に増えていると認識している。
 FOMC後に行われたパウエル議長の会見においても、テーパリング終了から利上げまでの時間はそれほど長くないと、早期の利上げの必要性に言及された。足元、アメリカのインフレ率は、12月10日に発表されたCPIが前年比プラス6.8%となるなど、2%目標を大きく上回る水準で推移している。それが供給制約などにより、どの程度長期化するかといった点や、今後の物価や雇用の動向に加えて、新たな変異株も含めた感染症の帰趨と、その実体経済への影響を注視しながら、利上げのタイミングを慎重に見極めていくのではないかと思う。
 市場環境の変化による銀行ビジネスへの影響については、金融機関によって状況が異なるため、あくまで一般論として申しあげる。
 長期金利の上昇は、一般に、邦銀の外債投資に関して、長短金利差の拡大に伴う中長期的な投資利回りの改善効果が見込める一方で、短期的には、保有債券の評価損益の悪化といった影響がある。
 銀行全体のビジネスモデルで見た場合には、金利上昇の背景が、景気回復にある限り基本的にはプラス、さらには国際的に活動する銀行では、海外拠点を中心に長短金利差拡大による預貸利鞘の拡大が見込まれる。いずれにしても、市場の環境変化を適切に捉え、事業ポートフォリオ全体を見渡した収益改善の努力とリスク管理がますます重要になる局面に来ていると考えている。


(問)
 来年1月で、日本で最初の新型コロナウイルス感染症の感染者が確認されてから2年が経とうとしている。この2年間で新型コロナウイルス感染症が銀行に与えた影響を総括していただけたらと思う。
(答)
 おっしゃるとおり、コロナ禍が始まってからまもなく2年となる。銀行界に与えた影響には色々なものがあると思うが、主として3点にまとめてお答えしたい。
 1点目はお客さまとの接点の変化であり、とりわけデジタル化の浸透である。ご承知のとおり、銀行界ではかねてよりインターネットバンキング、モバイルバンキングなど、デジタルチャネルによる取引の拡大に注力してきたわけであるが、コロナ禍によってデジタルチャネルへのシフトが大幅に進んだと感じている。一例として、私ども三井住友銀行の例をご紹介させていただくと、コロナ前である2019年10月と今年10月を比較したところ、お客さまの窓口来店数は35%減少した一方で、個人向けのインターネットバンキングの取引数は38%増加している。これはまさに、感染予防の観点から、デジタルチャネルに対するお客さまのニーズや安心感が高まった結果だと見ており、デジタルチャネルのメリットを実感していただいたことで、継続的なご利用に繋がったものと捉えている。
 2点目は従業員の働き方の変化ではないかと思う。社会全体でオンライン会議が一般化したことにより、会議の性質に応じて、対面とオンラインの二つの形式を柔軟に選択できるようになった。これにより、会議参加のための移動時間などが大幅に節約され、従業員の生産性の向上に繋がっていると考えている。また、テレワークについても一定程度浸透してきていると感じている。銀行員はエッセンシャルワーカーの一員であり、支店を開けて従業員を置かなければならない面があるので、必ずしも全ての従業員に当てはまるわけではないが、テレワークが可能な従業員においては、働き方の柔軟性が高まり、個々のライフスタイルに合わせた働き方を選択できるようになったと言っていいと思う。
 3点目は金融仲介機能の重要性を再認識したことだと思っている。コロナ禍が始まってからまもなく2年だが、この間、会員各行ではお客さまの資金繰り支援に全力を挙げてきたわけである。本年11月の全国銀行の貸出残高は536兆円に達しており、コロナ前の2019年12月と比較すると約28兆円増加している。この数字だけをもって、何か申しあげるものではないが、わが国の経済全体が難局ともいえる困難に立ち向かっているなかにあって、銀行が果たす金融仲介機能の重要性、さらにはその責務、社会的使命の大きさを銀行員一人一人が改めて実感したのではないかと感じている。私自身も、現場の若手の従業員からそういう実感のこもったコメントを聞いている。コロナ禍が社会・経済に与える影響は、なおも予断なく注視する必要があるが、銀行界としても、引き続き社会の変容をしっかりと捉え、かつそれを前向きに推し進めていくことによって、我々の責務、社会的使命を果たして参りたいと考えている。


(問)
 1点目は、私的整理の多数決制度についてである。経産省が大企業・中堅企業の私的整理を円滑化すべく、多数決制度の導入を目指している。先月、新しい資本主義実現会議が取りまとめた緊急提言にも盛り込まれており、今後政府内で議論されていくと思うが、銀行界としての見解を教えていただきたい。
 2点目は、気候変動関連の情報開示について。開示の充実や開示基準の統一化に向けて、銀行界としてはどのような意見を発信していくか、お考えを聞かせてほしい。
(答)
 最初の私的整理に関連するご質問については、仰るとおり、11月8日に開催された「新しい資本主義実現会議」が取りまとめた緊急提言のなかに、「現在の法制度では、全ての貸し手の同意がなければ、債務の軽減措置が決定できない。このため、事業再構築のための私的整理円滑化のための法制整備の検討を進め、関連法案を国会に提出する」という記載があったことは認識している。
 政府においてどのような議論が行われ、どのような法制整備が検討されているのか、私どもは必ずしも把握できる立場になく、具体的な内容についてはコメントしかねる。その点はご理解をいただきたい。
 そのうえで少し申しあげると、いわゆる多数決原理の議論では、その効果として迅速な債務整理が可能になるという点が指摘されている。他方、法的手続きに拠らない私的整理は、事業者、金融機関双方にとって経済合理性があることを前提として、関係者の合意にもとづいて手続きを進めるのが基本的な枠組みであり、関係者が一丸となって再建計画を実行していくことに大きな意義、メリットがある。
 それを多数決によって結論を得るとした場合、意思に反して債権放棄を迫られることになった債権者からは、その後の再建に向けた協力が得られず、却って再建に支障が出る事態も想定されるのではないか。
 従前から指摘されている、憲法上の財産権の侵害の懸念、あるいは少数債権者の保護策といった論点などと併せ、慎重な議論が必要なテーマであろうと考えている。
 2点目の気候変動に関する情報開示については、いわゆるTCFDの枠組み以外にも多くの基準や枠組み等が存在している。こうしたなか、本年11月3日、IFRS財団によるISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の設立が正式に発表され、グローバルに一貫した開示基準の策定に向けた機運が高まっているのは、まさにおっしゃるとおりである。
 全銀協としても、法域ごとに異なる開示基準が策定された場合、巨額な投資が必要とされる気候変動分野への円滑なグローバルマネーの動員や、資本市場における効率的な資源配分の制約になるほか、国際的に活動する銀行に過剰な対応負担が生ずる懸念があるので、グローバルに調和された、透明性があり、かつ比較可能性の高い開示の枠組みを目指すべきとこれまでも主張してきた。
 足元、国内でも様々な会議体で開示のあり方についての議論が高まっている。先月も経団連から、国際的な意見発信や国内基準の開発を担うサステナビリティ基準委員会の設立を求める提言が公表されている。
 全銀協としては、引き続き国内外の動向をしっかりとフォローしつつ、会員各行に情報還元を行っていくとともに、必要に応じて意見発信を行っていくことで、気候変動関連情報の開示拡充の議論に積極的に貢献して参りたい。


(問)
 1点目は、令和4年度の税制改正大綱について。企業の賃上げを促す税制が盛り込まれ、岸田首相も業績が回復した企業には積極的な賃上げを求めているが、来年の春闘に向けて銀行界としての考え方を伺いたい。
 2点目が中央銀行デジタル通貨CBDCについて。日本銀行が来年度から第2段階の実証実験に入る。民間でもデジタル通貨の実用化に向けた動きが出ているが、こうした準備状況をどう見ているのか。銀行界としての準備状況などを含めて教えていただきたい。また、もし実用化された場合、銀行界に与える影響などについてもお考えがあれば教えてほしい。
(答)
 「成長と分配の好循環」を掲げる岸田政権の下で、令和4年度の与党税制改正大綱において、いわゆる賃上げ税制の強化が明記された。お客さま、株主、社会等と並び重要なステークホルダーであり、かつコロナ禍という未曾有の危機のなかで、お客さまへのサービスをしっかりと継続してくれた従業員に対してもしっかりと配慮していくことは、極めて重要であると考える。
 一方、長引く新型コロナウイルス感染症の影響により、一部の業種・企業においては、債務の過剰感が増している状況もあり、資金繰り支援のみならず、そういった企業の事業再生を支援していくことが、まさにこれから銀行界に求められる重要な役割であると考えている。足元においても、世界各国で新たな変異株の感染拡大が見られており、引き続き、感染症の帰趨には十分に注意をしなければならないと考えている。
 このようななか、各行が期待される責務や、各地域における経営環境は必ずしも一様ではないことから、最終的には、労使間の協議を経て、いわゆる「賃金決定の大原則」に則り、自行の実情に適した処遇を検討していくことが必要だと考える。
 2点目は、CBDCに関連するご質問である。近年の情報通信技術の急速な進展を背景に、さまざまな領域においてデジタル化の動きがあるわけだが、経済活動の価値尺度である法定通貨そのもののデジタル化の検討が世界的に広がっていることは、まさにデジタル時代を象徴する動きの一つと言っても良いのではないかと思う。特にCBDCについては、各種のデジタル通貨に関連した取組みのなかで最も象徴的であるというだけでなく、わが国の金融・決済システムそのもののあり方に密接にも関わるものであり、その設計次第では、銀行が担っている金融仲介機能への影響も想定されるので、銀行界として引き続き重大な関心を持っている。
 本年10月に開催された第2回「中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会」においても、わが国の金融環境やCBDCの機能・特性を踏まえたユースケースの検討や、既存決済インフラとの共存のあり方に加えて、金融仲介機能の維持の観点に立ったCBDCの保有・決済金額への上限設定、公共財というCBDCの性格を踏まえたコストデザイン、そして情報の利活用と個人のプライバシー保護の両立といった論点について、意見発信を行ったところである。
 また、民間企業におけるデジタル通貨の発行・仲介のあり方については、金融審議会の資金決済ワーキング・グループで議論されているところである。銀行は、これまでも預金通貨を通じて幅広い決済サービス・ネットワークを提供してきたわけであるが、今後、デジタル化された決済手段による価値提供を新たな事業領域と捉える動きが出てくる可能性もあるのではないかと思っている。
 いずれにしても、銀行界としては、政府・日本銀行とも連携しつつ、引き続きデジタル時代にふさわしい金融・決済システムの構築に向けて、しっかりと貢献して参りたい。


(問)
 1点目は、中小企業向け事業再生ガイドラインについて。研究会における議論の状況やガイドラインの骨子、論点について、現状どのような進捗か。来年早々のガイドライン策定を目指していると思うが、スケジュール感を含めて足元の状況を教えてほしい。
 2点目は、本日公表された気候変動に関する全銀協イニシアティブについて、策定の背景や銀行界としての問題意識、また、重点的な取組事項等についてもポイントを教えてほしい。
(答)
 一つ目のご質問である「中小企業の事業再生等に関する研究会」は、すでに2回開催しており、来週、第3回の会議を開催する予定である。
 研究会には、座長を務めていただいている弁護士の小林先生をはじめとして、事業再生の分野でご活躍されている日本でも有数の専門家の方々に多数ご参加いただいており、非常に活発かつ質の高い議論を行っていただいている。
 内容について申しあげると、新たなガイドラインでは、中小企業者・金融機関双方にとって指針となるような事業再生等に係る基本的な考え方をしっかりと示すとともに、中小企業がより迅速かつ柔軟に事業再生等に取り組めるような新たな再生支援手続きを定める方針であり、大筋の方向性は固まってきているのではないかと考えている。
 足元では、個別の具体的な論点について議論を深めているところであるが、ポイントの一つは、今回新たに措置される、公正で中立な第三者の支援専門家の関与の実効性をいかに高めていくかという点である。
 いずれにしても、新たな手続きが中小企業者・金融機関双方にとって使いやすいものとなるためには、両者にとってバランスのとれた内容とすることが重要であり、研究会でもそうした基本認識に沿った議論を進めていただいている。
 ガイドラインの策定、運用開始までのスケジュールについては、現時点では確たることは申しあげにくいが、研究会の委員の方々には、しかるべきタイミングで、詳細を公表することを前提に議論を深めていただいている。
 全銀協としては、引き続き研究会の運営を担いつつ、ガイドラインの取りまとめをしっかりと迅速に進めていきたいと考えている。
 2つ目の全銀協イニシアティブに関して、カーボンニュートラルの実現は、言うまでもなく、日本を含む130ヶ国以上がコミットする世界規模の大変なチャレンジであるとともに、世界各国で脱炭素に向けた取組みが加速しており、将来のわが国産業の国際競争力にも直結する、銀行界にとってもお客さまにとっても極めて重大なテーマであり、かつゲームチェンジャーであると捉えている。
 そして、実際に、会員各行では脱炭素を進めるお客さまをサポートする様々な取組みがまさに始まっており、産業界、政府とも業界レベルで緊密に連携、協力して取り組むべきテーマである。加えて、国際的なルールメイキングも加速しており、この問題に業界を挙げて戦略的に対応する必要があり、今回、そのような認識の下、全銀協としての取組方針をイニシアティブという形で、しっかりと総合的に取りまとめることにした。
 また、足元では、金融機関に対しては、各国の監督当局が、例えば気候変動リスクに係るストレステストを実施するなど、お客さまが受ける物理的リスク、あるいは移行リスクを含めた気候変動リスクの管理への要請が国際的に高まってきている。
 お客さまのそれぞれの状況に応じ、カーボンニュートラル、あるいはネットゼロに向けた取組みをサポートしていくことは、お客さまと金融機関双方における気候変動リスクに対処するうえでも重要である。
 イニシアティブの全体像は、本日お配りしている資料の3ページに記載しているのでそれをご覧いただきたいが、基本方針と当面の重点取組分野について、簡単にポイントを申しあげたい。
 基本方針では、まず1つ目に、金融・社会インフラとして、銀行界全体の知見の蓄積、底上げを図り、お客さまの移行をサポートしていく観点から、各種の勉強会や情報プラットフォームの整備を進めていくこと。
 2つ目は、関係経済団体とも連携をして、産業界と一体となったさまざまな取組みや情報発信を加速していくこと。
 さらに3つ目に、政府、関係省庁とも密に連携して解決に取り組んでいくこと。
 加えて4つ目として、足元で加速する国際的なルールメイキングに対しても、本邦当局や国際銀行協会連合会、あるいは海外の銀行協会とも連携し、私どもの考えを積極的に発信していくことを掲げている。
 また、当面の重点取組分野として、2030年までのいわゆる「Critical Decade(決定的な10年)」において重要になる5分野を取り上げ、銀行界共通の課題解決に積極的な役割を果たしていく方針である。例えば、エンゲージメントの充実、円滑化に関して、銀行界の気候変動に関する取組みや課題意識などを理解していただくための説明資料、あるいはQ&Aなどの整備を来年にも行っていく予定にしている。
 気候変動への対応は、攻め、守りの両面で大変難しい課題であり、一筋縄ではいかない面があることは事実である。かたや不可逆的な動きであることもまた事実であるので、全銀協としては、今後も必要に応じ取組方針の見直し、充実を図りつつ、気候変動問題への対応が、わが国経済の持続的な発展につながるよう取り組んで参りたい。


(問)
 2点伺う。1点目は、来年のドル円相場をどう展望されているか。2点目は、日本銀行のExitに関して。日本の今のスタグフレーション的な環境下で出口議論をどう考えているか。
(答)
 ドル円の為替に関連して、こういう場で見通しを申しあげるのは避けるべきテーマであるが、可能な限り申しあげる。
 為替相場は、今年に入ってからアメリカの経済回復やFRBの資産買入れの縮小、いわゆるテーパリングの開始、さらにはその先に見えている利上げへの思惑などもあり、昨年までの円高傾向から反転して円安ドル高の基調が続いている。
 ファンダメンタルズの先行きを見通すと、新型コロナウイルス感染症の帰趨は引き続き不透明であるが、基本的にはワクチン普及に伴う経済活動の正常化が続くことにより、世界経済は回復基調が続くというのがメインシナリオである。そうしたもとドル円の為替相場についても、当面は現在の基調が続くのではないかと個人的には考えている。
 日本経済についても、経済活動が正常化するもとで個人消費を中心に景気回復の動きが明確化し、つれて金融市場も堅調に推移していくのではないかと期待される。
 もっとも足元はオミクロン株の出現や、半導体等の供給制約の長期化やサプライチェーンの目詰まり、コモディティ価格の高騰など、景気を下振れさせる要因も依然として存在している。
 加えて、新興国においては、景気回復にいまだ時間を要するなか、米国の利上げが実施されると資金流出や通貨安などで経済が不安定化するなどのリスク要因もある。
 したがって、今後についてはこうした各国経済の景気回復ペースの二極化によるインバランスにもよく目配りをしていく必要がある。この辺りが為替相場にも直接、間接に影響する要因になろうかと考えている。
 2点目の日本銀行の金融政策について。いつも申しあげていることだが、金融政策は日本銀行の専管事項であるため、全銀協会長としてコメントする立場になく、あくまで私個人の意見ということでお答えしたい。
 まず、足元のインフレの動向については、資源価格高騰やサプライチェーンの目詰まりなどの影響から、物価上昇圧力が高まっており、欧米の消費者物価は、ご承知のとおり、前年同月比でプラス5%から6%台となっている。一方、日本は、10月の全国消費者物価指数が前年同月比でプラス0.1%と、欧米との比較では物価上昇圧力が非常に鈍いという状況である。
 また、日本銀行が公表した直近の展望レポートによれば、物価の見通しは、プラス幅を緩やかに拡大し、2022年度がプラス0.9%、2023年度はプラス1%となっている。日本銀行では、そのような見通しにもとづき、2%の物価目標実現に向けて、現行の金融緩和を継続することが適切であると判断されているものと認識している。
 一方、10月の会見でも申しあげたが、いわゆる異次元緩和の導入からすでに8年以上が経過、マイナス金利の導入からすでに5年以上経過しているなかにおいて、副作用については、効果との対比においてより厳しく見極めていただく必要があるのではないかと考えている。
 日本銀行におかれては、2%の物価目標実現に向けた金融政策の効果と副作用のバランスなどについて、引き続きしっかりと総合的なご判断をお願いしたいと考えている。


(問)
 新型コロナウイルス感染症の関連で伺う。足元では倒産件数は低い水準で推移しているが、今後の経営環境や倒産件数の推移についてどのように想定されているのか。併せて、緊急事態宣言が解除されて2ヶ月余り経つが、前向きな資金需要が出ているのか。今後、ゼロゼロ融資の返済も徐々に進んでくるが、プロパー貸出も積極的に行っていくのか。
(答)
 本年度上半期の全国企業倒産件数が3,000件を下回るなど、財政・金融両面の支援もあり、新型コロナウイルス感染症の拡大以降も倒産件数は低水準で推移しているのは事実である。
 他方で、東京商工リサーチのデータによると、足元では新型コロナウイルス感染症に関連した倒産が徐々に増加しており、その点はしっかりと注視している。
 今後の見通しについては、感染症の帰趨に左右される面があるので、一概に申しあげるのはなかなか難しいが、第6波の抑制などを通じて事業環境の正常化のモメンタムを維持し、企業サイドでもそれを業績回復に結び付けることが極めて重要な局面に至っていると考えている。
 資金需要について申しあげると、全国銀行の貸出残高は、緊急事態宣言解除後の10月、11月とも前年同月比プラス0.1%で推移しており、今のところ大きな変化は見られない。一方、新たな変異株の出現などもあるが、日銀短観の設備投資計画を見ると、コロナ禍で昨年見送られた投資を挽回するべく、例年対比で高めの計画になっているので、これから前向きな資金需要が出てくることを期待している。
 また、ご指摘のとおり、ゼロゼロ融資についてはすでに返済が進みつつある。銀行界では従来から、ゼロゼロ融資を含めて、それぞれのお客さまのニーズを踏まえた資金繰り支援を実施してきた。
 今後もプロパー融資か、信用保証協会の保証付き融資かにかかわらず、プロパー貸出も含めてお客さまの資金繰り支援に全力を挙げていく考えである。