2022年9月15日

半沢会長記者会見(三菱UFJ銀行頭取)

辻専務理事報告

 事務局から2点ご報告申しあげる。
 1点目は、本日の理事会において、お手元の資料のとおり、令和5年度の税制改正の要望書を取りまとめた。今後、関係先に要望書を提出し、要望の実現に向けて働きかけて参りたい。
 2点目は、本日の理事会において、お手元の資料のとおり、全銀協の行動憲章を改定した。主な改定としては、人への取組みを強化していく必要性を銀行界全体の共通認識とすべく、多様性確保の促進や人材育成の強化を明記するとともに、社会の金融リテラシー向上に貢献していく方針を追加した。
 なお、税制改正要望の内容および行動憲章の改定内容についてご不明な点などがあれば、会見終了後、事務局まで照会いただきたい。

 

会長記者会見の模様

 


(問)
 2点質問する。
 1点目、岸田政権が「新しい資本主義」を掲げ、資産所得倍増プランは年内の取りまとめを目指すとされているが、足元の銀行業界としての取組み方針について伺いたい。あわせて、全銀協からの税制改正要望についても趣旨や概要について改めて説明いただきたい。
 2点目、2022年8月末に公表された金融行政方針だが、金融面から経済や国民生活の安定を支え、成長につなげていくこと、またGXやDXなど社会課題の解決による成長が国民に還元される金融システムの構築が重点課題として明記されている。銀行界として、今回の金融行政方針をどのように受け止めているか聞かせてほしい。
(答)
 1点目の「新しい資本主義」に関するご質問であるが、6月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」においては、「資産所得倍増プラン」を年末までに策定することが示されている。これに対し、全銀協としては、「貯蓄から投資へ」の流れを加速させ、資産所得倍増を実現するための方策として、これまで関係省庁と意見交換を進めてきた。本日公表した「令和5年度税制改正に関する要望」において、「貯蓄から投資の促進に向けた取組み」を取りまとめている。
 具体的な内容を申しあげると、まず、NISAについては、制度の恒久化、簡素化、拠出限度額拡大の3点を要望している。加えて、補助金やポイント等のインセンティブの付与についても提言している。8月末に公表された金融庁の税制改正要望には、NISA制度の恒久化や非課税枠の拡大に加え、新NISAの見直しが盛り込まれ、NISA口座へのマイナポイントの付与についても検討する方針が示されており、これらは全銀協の要望とも合致している。
 iDeCoについては、拠出限度額の見直しのほか、利用対象者が広がり、柔軟な運用ができる制度となることを要望している。つみたてNISAやiDeCoについては、税制メリットを受けながら、少額からの積立・分散投資により投資の第一歩を踏み出せる制度であり、全銀協としても、今後の議論において積極的に意見発信をしていきたいと考えている。
 資産所得の倍増には、資産形成層だけではなく、資産保有層や投資先となる企業も含めた資金の好循環を生み出す仕掛けが必要であり、政策を総動員のうえ、パッケージで打ち出すことが重要と考えている。NISAやiDeCoの拡充に加え、資産移転につながる措置や、スタートアップ支援に係る税制措置等も、資金の大きな流れを生むうえで必要との考えから、要望に盛り込んでいる。
 また、税制改正要望のほかに、金融経済教育への取組みも重要と考えている。これまでも全銀協として金融経済教育や広報活動に継続して取り組んできたが、資産形成の推進や、全世代の金融リテラシー向上による「貯蓄から投資へ」の一層の促進に向け、官民連携して施策を展開できないか議論を始めている。
 このほか、6月22日に施行された銀証ファイアーウォール規制の緩和については、資本市場の健全な発展を通じ、投資先企業の成長に資するものと考えている。今後は、再開された金融審議会の市場制度ワーキング・グループにおいて、外務員の二重登録禁止規制や、中堅・中小企業、個人のお客さまの情報授受規制の緩和について議論が進展することを期待している。
 銀行界としては、規制緩和により、貯蓄商品を取り扱う銀行が投資に係る提案力を高めることによって、「貯蓄から投資へ」に貢献する考えであることを発信して参りたい。
 今後、年末の「資産所得倍増プラン」の策定に向け、さまざまなテーマで活発な議論が交わされるものと考えており、銀行界としても、政府の検討に最大限貢献していきたい。また、「資産所得倍増プラン」の実現に向け、銀行界を挙げてお客さまの資産形成をサポートしていきたい。
 2点目は、金融庁の行政方針に対する受止めについてのご質問であった。金融庁の2022事務年度の金融行政方針が8月に公表されたが、重点課題として、「経済や国民生活の安定を支え、その後の成長へと繋ぐ」、「社会課題解決による新たな成長が国民に還元される金融システムを構築する」などが掲げられている。これらは、7月の就任会見で示した今年度の全銀協の方針とも符合した内容であると考えており、引き続き、各施策について議論・協働させていただきたいと考えている。
 まず、「経済や国民生活の安定を支え、その後の成長へと繋ぐ」においては、金融機関が「事業者の実情に応じた適切な支援に一層効果的に取り組んでいくこと」等の重要性が示されている。銀行界としては、各行がお客さまの置かれた状況と向き合い、財務・非財務の両面で支援していくことが重要と考えている。これまで同様に、財務面ではお客さまの資金繰り支援に最優先で取り組むとともに、非財務面でも本源的な収益力の回復に向けた支援にしっかり取り組んで参りたい。
 次に、「社会課題解決による新たな成長が国民に還元される金融システム構築」では、まず「国民の安定的な資産形成の促進」において、「貯蓄から投資へ」、「金融リテラシーの向上」、「顧客本位の業務運営」の3点が記載されている。
 1点目の「貯蓄から投資へ」に関しては、預貯金中心の金融資産が投資にも向かい、持続的な企業価値向上の恩恵が家計に及ぶ好循環を生み出すべく、「資産所得倍増プラン」の施策の検討や取組みを進めることが示されている。特にNISAに関しては、個人金融資産を全世代的に貯蓄から投資にシフトさせるため、抜本的拡充に向けた検討を行うとされている。簡素で分かりやすく、長期にわたり少額からでも資産形成に取り組める安定的な制度となるよう、検討に最大限貢献したい。
 2点目の「金融リテラシーの向上」に関しては、金融機関や業界団体による金融経済教育の取組み実態を把握し、有効に連携していく旨が記載されている。また、国全体として中立的立場から、資産形成に関する教育機会提供に向けた取組み推進のための体制を検討することが謳われている。銀行界としても官民一体での取組みが肝要と考えており、態勢構築も含め関係当局と一層協働を図っていきたい。
 3点目の「顧客本位の業務運営」に関しては、「顧客本位の業務運営に関する原則」の見直しの検討や、適切な勧誘、助言を行うための制度的枠組みの検討を進める方針と認識している。適切な顧客保護が図られたうえで、「貯蓄から投資へ」を加速させることが重要であり、銀行界としては、顧客本位の業務運営に則り、経験やリスク許容度等を踏まえた適切な適合性の判断と、お客さまのニーズに応じた最適な提案を行うことが大事だと考えている。お客さまの金融商品への理解が深まり、金融機関への信頼も高まるよう、今後の検討に貢献したい。
 次に、GXに関しては、「サステナブルファイナンスの推進」として、企業のサステナビリティ開示の充実、市場機能の発揮、金融機関の機能発揮、インパクトの評価、専門人材育成という、多岐にわたるテーマが掲げられている。現在、銀行界が取り組んでいるテーマを後押しする方針が示されたものと受け止めている。カーボンニュートラル達成に向けたサステナブルファイナンスの推進、気候変動対応の促進は、官民の協働なくしては達成できないと考えており、一つずつ丁寧に議論を進めたい。
 DXに関しては、「デジタル社会の実現」として、「Web 3.0等の推進に向けたデジタルマネーや暗号資産等に係る取組み」のほか、「決済インフラの高度化・効率化」が記載されている。特に決済インフラに関しては、全銀システムの参加資格拡大や、「ことら」のサービスインに向け、議論や取組みに参画していくことが示されており、相互運用性の確保や、より利便性の高い決済環境構築のため、官民連携で取り組むべきテーマと理解している。
 また、税・公金の収納におけるQRコードの活用、手形・小切手の電子化、およびZEDIを活用したデータ連携の促進なども、デジタル社会の実現に向け、行政としても支援していくべき重要な取組みであることが改めて示されたものと受け止めている。
 このように、今般示された行政方針はいずれも銀行界にとって重要なテーマであり、引き続き金融庁とも連携してしっかり取り組んでいきたい。  


(問)
 全銀システムの資金移動業者の参加資格拡大に関する進捗状況と今後のスケジュールについて、また、APIを活用した接続方式の検討状況について伺いたい。全銀システムへの参加資格が拡大開放されることの意義についてもあわせて教えていただきたい。
(答)
 2021年1月、全銀ネット傘下のタスクフォースが公表した報告書のなかで、資金移動業者の全銀システムへの加盟について、「決済システムの安定性を確保する観点から既存の加盟銀行と同一の条件での参加を前提としつつ、2022年度中を目途に加盟資格を拡大することが望ましい」と結論づけている。
 これを受けて、ワーキング・グループを設置し、有識者の方々や金融庁、日本銀行、また資金移動業者にも参加いただき、関係者の皆さまの協力を得ながら、具体的な検討を進めてきたところである。今般、全銀ネットにおいて、全銀システムの参加資格を定める業務方法書を改正し、資金移動業者の参加資格拡大を実現すべく、金融庁に認可申請を行う方針を決定した。
 加えて、システム面でも、資金移動業者が全銀システムに接続しやすい環境を整備する観点も踏まえ、現行の中継コンピュータを介した接続方式と比べ、より安価で柔軟性の高い接続方式となり得るAPIゲートウェイ方式の構築に向けて、検討を進める方針も決定した。
 全銀システムの参加資格拡大は、資金移動業者にとって、経営努力により送金コスト低減に繋がる可能性があることに加え、利用者にとっても、参加金融機関の多様化や相互運用性の確保による利便性向上が期待でき、日本のキャッシュレス化に大きく寄与するものである。政府も6月に閣議決定された「フォローアップ」の対象としており、全銀協としても、その意義と重要性を踏まえ、今後の準備を進めていく考えである。
 一方、資金移動業者が実際に全銀システムに接続するか否かは、個々のビジネスモデルや事業戦略にもとづくものであり、各社が判断することである。今般の規則改正により、日本の決済制度が新たな段階に入ることを理解いただくとともに、政府の目指す姿や社会的意義も踏まえて、参加を検討されることを期待している。
 いずれにしても、銀行界としては、決済機能を担う社会インフラとして、健全性・信頼性を確保した強靭な金融システムを維持していくことが責務と考えており、新たに参加する事業者とともにその責務を果たしていく考えである。そのうえで、各社が安定的かつ利便性の高い決済サービスを提供していけるよう、切磋琢磨し不断の努力を重ねていくことが重要だと考えている。  


(問)
 1点目は金融政策について、黒田総裁が来月で任期満了まで半年になる。この9年半の金融緩和政策が銀行業界に及ぼした影響についてどのように評価されるか、また、次期総裁に望む金融政策の姿があれば伺いたい。
 2点目は、足元の貸出動向について、コロナ禍におけるゼロゼロ融資等を受けて貸出額は増えたと思うが、過剰債務になり返済も本格化するなかで、再建を断念するような「息切れ倒産」も増えていると思う。中小企業の資金繰り支援や事業再生の伴走支援について、銀行界としてどのように進めていくのか伺いたい。
(答)
 1点目の金融政策については日本銀行の専管事項であり、全銀協会長としてコメントすることは適切でないため、あくまで個人の見解としてお答えする。
 7月の会見でも申しあげたが、黒田総裁が2013年3月に就任されて以降、日本銀行は2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現することを目的に、強力な金融緩和政策を進めてきたものと理解している。
 足元、日本の消費者物価指数は前年比プラス2%を超える状況が続いているが、日本銀行は資源高や円安などの影響が大きく、持続的かつ安定的ではないという観点で、いまだ目標に達していないと認識していると見られる。ただ、総括的な評価として言えば、デフレ的な状況を脱却したという意味において、一定の金融緩和の効果があったと考えている。
 一方で、これも繰り返しになるが、日本銀行のマイナス金利政策を含む異次元緩和が続くなかで、預貸金利鞘の縮小、運用環境の悪化など、金融機関の収益環境が悪化傾向をたどっているということも事実だと思う。これに加えて、中長期的には資本市場の資金配分機能に与える影響にも目配りが必要な状況だと思う。
 こうした状況がわが国の実体経済に悪影響を与えるとすれば、それは副作用と言えると思う。
 金融政策のあり方については、日本銀行における内外経済・金融環境の慎重な分析と、それにもとづく適切な目標設定をもとに、政策効果と副作用のバランスがとれた政策運営がなされることが重要だと考えている。
 こうしたことを念頭に、現総裁、そして次期総裁におかれても、日本銀行が政策の予見性を高めるフォワードガイダンスを含め、市場と十分に対話しつつ、適切な政策運営を進めていただくことを期待している。
 2点目のご質問の貸出動向と銀行界としての取組みについてであるが、銀行界は、新型コロナウイルス感染症の拡大初期から一貫して、お客さまの資金繰り支援を最優先に取り組んできたところである。この結果、2022年8月末の全国銀行の貸出残高は550兆円、新型コロナウイルス感染症拡大前である2020年の1月末時点と比較すると、プラス8.6%、前年同月比でプラス3.4%となっている。
 コロナ禍が長引くなかで、行動制限は緩和されているものの、夜間の人流動向等を踏まえると、依然として経済活動はコロナ前の水準に回復しているとは言えず、今後の感染状況によっては、飲食業を中心とする対面型サービス業において、再び厳しさが増していく可能性も考えられる。
 加えて、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化などにより、原材料、部材、エネルギーの不足、調達価格の高止まりも、幅広い業種で財務・資金繰りを圧迫していることから、貸出残高は増加トレンドにあると理解している。
 このようななか、コロナ禍でお客さまの資金繰りを支えてきた実質無利子・無担保融資、いわゆるゼロゼロ融資について、民間金融機関によるものはすでに返済が始まっている。加えて、政府系金融機関によるゼロゼロ融資の申込み期限も9月末に迎えることから、企業の資金繰り負担は増していくことが見込まれる。東京商工リサーチが8月に実施したアンケートでも、依然として債務の過剰感を抱える企業がおられることが伺える。
 今後、コロナ禍以前の水準にまで業績が回復せず、資材高や物価高などの事業環境の悪化も重なり、返済原資を捻出できなくなる企業が増えることも考えられる。その結果として、過剰債務に陥った企業の息切れや、脱落による倒産への懸念が高まる可能性も想定される。実際、足元の企業の倒産件数についても、件数自体は低水準ながら、前年同月比で増加が続き、底打ちから反転増の兆しも見えつつあるため、引き続き注視が必要と認識している。
 銀行界としては、これまでも力を入れて取り組んできたが、引き続き、財務・非財務の両面で、お客さまの収益力の回復や事業再生を支援していくことが重要と考えている。
 財務面の支援については、これまで同様にお客さまの資金繰り支援に最優先で取り組んでいく。一方、非財務面については、本源的な収益力の回復に向けた支援が重要と考えている。お客さまの経営課題解決を支援するべく、ビジネスマッチングや事業再構築に関するコンサルティング、後継者探しも含めたM&A支援等に努めるなど、まさに銀行の総合力、専門性の発揮により、引き続きお客さまの支援に万全を尽くして参りたい。


(問)
 冒頭で適合性原則への言及もあったが、仕組債について伺いたい。金融庁の金融行政方針においても、仕組債の販売に関するモニタリングへの言及があった。銀行としては系列、あるいは子会社の証券会社に送客をして、適合性を踏まえたうえで提案、関与しているものと思う。今後の取扱いについてはそれぞれの金融機関が判断するものと思うが、苦情が高止まりしている、あるいは少なからずあるなかで、苦情の減少に向けてどのように取り組んでいくのかを教えていただきたい。
(答)
 金融庁が2022年5月に公表した「資産運用業高度化プログレスレポート」や、6月に公表した「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」において、仕組債の組成と販売に関する課題が示されたと承知している。
 また、日本証券業協会でも、足元の状況を踏まえ、仕組債販売に関する各種ガイドラインの改訂等の検討が開始されており、全銀協としても、顧客保護の観点からしっかり議論すべきテーマと認識している。
 加えて、金融庁の2022事務年度の金融行政方針のなかでも、「顧客の資産形成に資する商品組成・販売・管理等を行う態勢が構築されているか」をモニタリングしていく方針が示されたところである。また、仕組債を取り扱う銀行は、仕組債の商品特性を十分に把握したうえで、どのような顧客に販売するのかなど、経営レベルでの検討が必要との記載がされている。
 仕組債については、商品の複雑さを踏まえると、主に「想定顧客の明確化」、また「分かりやすい情報提供」といった観点で、銀行界としての対応の検討が必要と考えている。
 「想定顧客の明確化」に向けては、まず各行の販売状況・販売体制を把握したうえで、顧客選定における各行の検討・検証プロセスの高度化を検討していきたい。また、「分かりやすい情報提供」については、重要情報シート等のツールの実効性向上に向けた検討も必要と考えている。
 これは仕組債に限らずだが、商品の複雑さ、商品の種類に関わらず、FD原則に示された「お客さまの最善の利益の追求」に向けて、いま一度、基本に立ち返ることが肝要と考えている。
 すなわち、お客さまの投資経験や資産背景、ニーズの正しい理解を起点に、お客さま一人一人にふさわしい商品・サービスを提供し、販売後もお客さまの意向をよく伺いながら適切なフォローアップに取り組んでいく、こうしたサイクルを回していくことが重要と考えている。
 銀行界として、9月12日に開催された市場制度ワーキング・グループにおいて設置方針が示された「顧客本位タスクフォース」における議論への参画、意見発信等を通じて、今後も顧客本位の販売態勢のあるべき姿を追求して参りたい。  


(問)
 2点伺う。
 1点目は、7月に電子交換所のシステムが稼働したと思うが、11月の決済開始に向けた準備状況と手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた今後の取組みについて伺いたい。
 2点目は、官邸が設立したGX実行会議について、銀行界としてどのような期待をしているか伺いたい。また、中堅・中小企業を含めた日本のカーボンニュートラル実現に向けて、銀行界としてどのように貢献しようという考えか、あわせて伺いたい。
(答)
 まず、電子交換所に関するご質問だが、全銀協では7月19日に電子交換所システムを稼働させ、銀行間の交換決済開始予定日である11月4日までの約3ヶ月間を参加金融機関の事務態勢を構築するための期間として設定し、決済開始に向けた準備を進めているところである。
 また、事務態勢の構築と並行して、電子交換所システムに接続する参加金融機関のシステム対応も進める必要があり、事務・システム両面での参加金融機関の準備状況を引続きフォローしていく方針である。
 全銀協は、2021年7月に策定した「手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた自主行動計画」において、2026年度末までに全国手形交換所における手形・小切手の交換枚数をゼロにすることを最終目標として掲げている。そうしたなか、電子交換所は、今後減少していく手形・小切手に係る業務処理の効率化を図るため、「全面的な電子化が達成されるまでの過渡期の対応」として位置づけ、紙の手形・小切手の銀行間の交換決済業務を電子化する取組みである。
 電子交換所での決済開始により、物理的な搬送がなくなることでより安全に決済ができるようになることや、遠隔地との交換に要する時間が短縮されることで資金化時期が早まることが期待できる。
 したがって、電子交換所の開設は、交換業務がデジタル化するという点で銀行界にとって大きな変化といえる。一方、紙の手形・小切手が振り出されることは不変であり、手形・小切手を削減し、社会全体で決済のデジタル化を推進するには、産業界、銀行界の双方が、同じ方向を向いて取り組むことが不可欠である。
 産業界においては、利用者の立場から、従来の商取引における慣習を見直し、紙の手形・小切手から、電子的決済サービスに移行を進めていただく必要がある。政府の要請を踏まえ、各業界団体において、約束手形の利用廃止に向けたロードマップをそれぞれの自主行動計画へ反映すること等を通じて、商慣習見直しが加速することを期待している。
 銀行界としては、決済サービスを提供する立場から、電子的決済サービスへ移行するインセンティブを高めるため、利便性向上への取組みを着実に進めて参りたいと考えている。
 具体的には、でんさいネットにおいて、紙の手形の代替手段の一つである「でんさい」について、記録請求の制限期間を短縮したり、1円から発生記録請求いただけるようにしたりするなどの機能改善を予定している。さらに、現状必須となっているインターネットバンキング契約を締結しなくても、スマートフォンやタブレットなどから「でんさい」を利用いただけるチャネルを構築する方針を決定したところである。
 今後も2026年度末を期限とする目標の達成に向け、各金融機関において主体的に取組みを進めるとともに、全銀協としても必要なサポートを行っていく。あわせて、産業界や関係省庁との連携をさらに強化し、官民一体での取組みを加速して参りたい。
 もう1点は、GX関連の銀行界としての取組みと中堅中小企業に対する銀行としての貢献についてだが、2022年6月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」において、GXへの投資は重点投資分野の一つに掲げられ、今後10年間で150兆円規模のGX投資を行うという大きな目標が示されたところである。これは、カーボンニュートラルの実現に向けた対応を力強く後押しするものであり、銀行界としても歓迎している。
 今後、官邸に設立されたGX実行会議を中心に、「新しい資本主義」で示された五つの政策イニシアティブにもとづいて、10年ロードマップの制定を始めとし、さまざまな議論がなされるものと理解している。
 政策イニシアティブの一つに、GX経済移行債の発行がある。世界からESG関連の資金を呼び込むためには、大規模な政策対応が必要であり、効果的な資金動員を先導する仕組みとなるよう期待するとともに、銀行界からもしっかり意見発信をしていきたい。
 加えて、GX実行会議傘下の研究会を中心にグリーン、トランジション、イノベーションの3分野への資金供給策や、GXを実践する企業の新たな評価軸作りに関する議論が行われており、金融機関も参加しているところである。カーボンニュートラル達成のためのファイナンスは、より大きな資金規模と長期目線が欠かせない。また、国際的な理解を得る取組みも必要である。銀行界としては、事業者がカーボンニュートラルに積極的に取り組むことができ、金融機関が前向きに資金供給できる枠組みや環境整備がなされるよう、引き続き議論に参画していきたい。
 カーボンニュートラルの達成は、産業構造の大きな転換を伴うものであり、是非、官民で建設的な政策議論が交わされることを期待しており、銀行界からも積極的に議論に貢献して参りたい。
 また、ご質問のとおり、カーボンニュートラルの達成には、大企業のみならず日本企業の99%、GHG排出量の約2割を占める中小企業の脱炭素化の推進も必要と考えている。
 お客さまにとって抱える課題はさまざまであるので、全国一律の施策を展開するよりも、共通のゴールに向け、取り得る道が多岐にわたることを前提に、個々のお客さまの置かれた状況を丁寧にお伺いし、適切なご支援をしていく必要がある。
 全銀協としても、中堅中小企業を中心としたお客さまに対し、銀行員がカーボンニュートラルへの取組みの必要性やGHG排出量の見える化、削減のための各種ソリューションをご案内できるよう、汎用的なコミュニケーションツールの策定を検討しているところである。
 一方、銀行員自身の知見、経験にもまだ不十分な面がある。会員行によると、お客さまのカーボンニュートラルの実現をサポートするに当たり、「何を論点とすべきか」、「どのような話題から切り出すべきか」などの声もあがっている状況である。全銀協としては、関係団体とも連携しながら、銀行員自身の意識やリテラシーの向上を含む銀行界全体のレベルアップに向けた活動を実施し、お客さまのカーボンニュートラルに貢献して参りたい。  


(問)
 ZEDIの利活用促進に向けた今後の取組方針について見解を伺いたい。
(答)
 ZEDIに関する銀行界の取組みは、2016年の「日本再興戦略」のなかで、政府の成長戦略として触れられ、国内決済においても、国際標準であるXML電文に移行する方針が示されたことを契機に本格化した。
 これを受けて、銀行界は4年前、2018年12月に全銀システムのサブシステムとしてZEDIを稼働させ、XML電文でのデータ連携を可能とし、現在、全銀システムの参加金融機関の約9割にあたる1,000以上の金融機関が接続を完了している。
 ZEDIを活用することによって、通常の振込で使用している固定長電文のフォーマットに比べ、請求書番号や商取引の契約情報を含む大量のEDI情報を伝達することが可能となる。これによって消込作業等でデータ突合の事務効率化ができるほか、連携される豊富なデータの利活用に繋がっていくことも期待できる。
 しかしながら、稼働以来、利用は低調な状況にあり、普及に当たり、いくつかの課題があることも認識している。例えば、受発注・請求において書面を用いる等の商慣習が残っていることや、連携するデータの規格が統一されていないことが挙げられる。EDI情報を添付する慣習を社会全体で確立し、ZEDIを活用して効率性や生産性向上を実現する環境整備が必要と考えている。
 今後、2023年10月に予定されているインボイス制度の開始を契機として、電子インボイスなどにより、企業における請求・決済業務の電子化が進んでいくことが期待されている。全銀ネットでは、電子インボイスと、ZEDIの連携促進を図るため、ソフトウェア開発の助成プロジェクトにも取り組んでいるところである。
 また、現在、デジタル庁やデジタルアーキテクチャ・デザインセンターによって、受発注・請求・決済におけるデータ連携のあり方が検討されている。デジタル化による商慣習の変化や、データ連携の意義や価値が社会で共有され、データの収集・活用に向けた動きが促進されることを期待しつつ、銀行界としても、関係省庁や産業界とも緊密に連携し、ZEDI活用の促進に取り組んで参りたい。  


(問)
 「ことら」が来月からスタートする。改めて、今後の普及に向けた取組み、準備状況などを伺いたい。
 もう1点、デジタル給与について伺う。先日、厚生労働省の審議会においてデジタル給与の制度案が示され、今後、本格的な制度化に向けて詰めの作業が行われることになっている。銀行界としての見解をお聞きしたい。
(答)
 まず、「ことら」は、全銀協が直接関与していないが、個別行として、ことら社の設立に関わり、出資もしていることから少しご説明させていただく。
 8月8日、ことら社から、10月11日から送金サービスを開始することが公表された。同日付で3メガバンクが各行のプレスリリースを通じて、Bank PayアプリやJ-Coin Payを通じた送金サービスを、無料で提供することを表明し、他の金融機関からも10月11日に向け、参加表明が続くものと認識している。
 ことら社によると、すでに40以上の金融機関が「ことら」に参加する方針を示している。今後は、2023年4月に地方税納付書への統一QRコードの導入にあわせて、税公金サービスの取扱いも開始する予定としており、サービスの広がりにあわせて、加盟金融機関の増加が見込まれ、ネットワークの着実な広がりに手応えを感じている。
 「ことら」がスタートする意義については、2020年7月に公表された政府の成長戦略実行計画において、乱立する各資金決済サービス間の相互運用性の確保や、多頻度小口決済を想定した低コストの資金決済システム構築の検討の必要性について問題提起があった。「ことら」がスタートすることにより、こうした課題が解決され、決済インフラの高度化が実現されるものと考えている。
 ただし、次世代の多頻度小口決済のインフラとして、「ことら」をより多くの方に便利にご利用いただくには、銀行と資金移動業者間の相互運用性が高まることが重要である。まずは、10月11日に着実にリリースしたうえで、今後は資金移動業者にも参加いただき、新しい決済インフラとして、キャッシュレス社会に大きく貢献できることを目指して参りたい。
 2点目はデジタルマネーによる賃金の支払いである。この件については、新しい資本主義「フォローアップ」で、「2022年度できるだけ早期の制度化を図る」と記載され、直近、9月13日に開催された労働政策審議会の分科会において、労使双方の委員から引き続き多様な意見が出されたうえで、次のステップに向け、当局が対応を検討している段階と承知している。
 厚生労働省は、労働者との合意を前提に、「破綻時の迅速な払戻しを可能とする保証の仕組みや不正利用等への補償」、「業務の適切な実施体制、実施状況・財務状況の報告体制の整備」等の要件を満たす資金移動業者に対し、賃金支払いを認めるとの制度骨子案にもとづき、分科会で議論を進めてきた。これに対して、破綻時の保証や、不正引出しの補償、換金性の観点等で指摘があり、さまざまな議論がなされてきたと認識している。
 9月13日の分科会では、新たに口座残高上限額を100万円以下に設定している資金移動業者に限定すること、破綻時に口座残高全額を速やかに労働者に保証すること等、過去の指摘事項についても方向性が示され、制度骨子は固まってきたと理解している。
 一方で、労働者側からは、「示された方向性について実効性を高める体制整備が大前提」という点や、「資金決済法に係る部分と労働基準法に係る部分について、金融庁と厚生労働省の情報共有体制の強化をしていただきたい」等の意見があり、使用者側からは、「中小企業への説明に対する資金移動業者のサポート体制を強化してほしい」などの意見があったと聞いている。
 改めて、銀行界としての考え方を述べると、賃金は、かけがえのない生活の糧であり、さまざまな面で一段高いレベルの利用者保護、利便性の確保が望まれる。また、企業側の観点からも、給与の確実な支払いは、従業員からの信頼の根幹となる。このような認識のもと、銀行界としては、労働者と企業の皆さまに安心して利用いただけるよう、業態を超え、インフラ構築とサービス提供に努めてきた。
 したがって、誰が決済を担うにしても、真に労使双方の経済厚生が高まるよう、引き続き丁寧かつ慎重に議論が行われ、利便性と安心・安全を両立した実効性のある制度設計としていくことが必要と考えている。


(問)
 スタートアップへの融資について伺いたい。先ほどもスタートアップへの支援の話が出たが、銀行もデットの出し手として役割は期待されていると思う。もちろん社会的意義があると思うが、銀行がビジネスとして見た場合、スタートアップは赤字のところも多く、将来キャッシュフローが読みにくい。そうすると、アップサイドを享受できるエクイティならまだしも、もともとリターンが固定されているデットを出すのはリスク・リターンが非対称的である。これを踏まえ、銀行界がビジネスとしてスタートアップにデットを出すことについて、どう整理されているか。
(答)
 スタートアップは、日本経済のダイナミズムと成長を促し、国際的な競争力を回復していくための重要なファクターである。一方、日本は、諸外国との比較において、開業率・廃業率が低水準にあるなど、スタートアップの育成や市場拡大に課題を抱えている状況ではないかと思う。そうしたことに鑑みれば、スタートアップエコシステムの活性化は、社会全体として取り組むべき重要なテーマと理解している。
 また、政府は6月に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」において、スタートアップへの投資を四つの重点投資の一つと位置づけており、金融機関に対しても、成長資金の融資を期待しているものと受け止めている。
 スタートアップへの資金供給に関しては、成長段階に応じて、求められる資金調達手段やリスクの性質が異なる。このため、政府系金融機関を含めた各資金提供主体が、それぞれの求められる役割を果たしていくことが、健全なスタートアップエコシステムを構築するうえで、肝要と考えている。
 とりわけ、銀行融資に関しては、短期のつなぎ融資のみならず、設立後数年を経て、一定のエクイティ調達がなされた後、さらなる成長資金として銀行融資による資金調達を必要とするケースがある。創業赤字段階や事業拡大途上のスタートアップについても、事業力や将来性を評価する能力を養いつつ、リスクに応じた金利設定や融資形態を確立していくことが、健全な銀行事業運営の観点で重要であり、スタートアップへの融資の裾野拡大にも繋がっていくと考えている。
 全銀協としても、スタートアップの支援を社会的使命と認識しつつ、持続可能なスタートアップへの融資慣行が確立できるよう、会員行とともに取り組んで参りたい。  


(問)
 一つ目は、今月は日中国交正常化から50年という節目の月に当たるが、足元では中国の台湾周辺での軍事演習などもあり、日中両国の関係に不安定な面も見られている。こうした状況が日本の銀行業界に与える影響をどのように捉えているか。また、邦銀にとっての中国市場の重要性についてどのように考えているか伺いたい。
 もう一つは、新しい資本主義のなかで、「人への投資」が掲げられているが、銀行界として人的資本経営や「人への投資」について、どのように取り組まれるのか、方針を伺いたい。
(答)
 米国のペロシ下院議長の台湾訪問後、中国が大規模な軍事演習を行うなど、台湾を巡って米中間の緊張が高まっており、そうしたことが日中関係にも影響を与えているということかと思う。
 現時点では、米中間の緊張が本格的にエスカレートする事態は想定していないが、仮に「台湾有事」が発生した場合には、在台の邦人や企業、台湾企業との取引のある日本企業に大きな影響を与えることが想定される。銀行界のなかでも、そうしたお客さまと取引のある銀行や、台湾に支店を持っている銀行には、当然ながら影響が出てくることが予想される。
 中国は、GDP世界第2位の経済大国であり、すでにグローバルなサプライチェーンにビルトインされていることから、グローバルマーケットのなかでは当然に無視できない重要な存在である。足元の情勢は気がかりであるが、現地ではEVの加速など、新しい商機も次々と生まれている。現地に進出するお客さまのビジネスを支えていく観点でも、邦銀にとって重要なマーケットであることは不変であるため、今後の動向を引き続き注視して参りたい。
 2問目の「人への投資」について、業界や企業を問わず、「人」が重要という点では共通であるが、なかでも、銀行業は「人」によって成り立っていると言っても過言ではないと思う。特に昨今は、長引く低金利、競争環境の激化、デジタライゼーションの進展を背景に、ビジネスの転換や高度化が強く求められており、「人への投資」、「人的資本の拡充」は、銀行が持続的に成長していくために、特に重要なテーマと認識している。
 そうした問題意識を踏まえ、全銀協の行動憲章を改定した。具体的には、行動憲章に、多様性の確保や、それを支える制度の構築および柔軟な働き方の確立を目指していく方針を明記した。また、従業員の自律的キャリア形成を促進するために、人材育成の取組みを強化することや、社外の人材に対しても金融経済教育を通じて、社会の金融リテラシー向上に貢献していく必要性を銀行界で共通認識とすべく、条項を新設した。
 多様性の確保については、女性の活躍支援はもとより、イノベーション創出のためにも重要であり、中途採用の強化に加え、副業の導入や外部就業経験を含む人事異動の多様化などの取組みも進めていく必要があると考えている。
 人材育成の取組みについては、デジタル化等を通じた生産性向上を図るとともに、一人ひとりの専門性向上や、社会・ビジネスの環境変化に合わせた能力開発・リスキリングをサポートし、付加価値の高いサービス提供に繋げていくことが重要である。
 このような「人」に関わる取組みを通じて生み出された価値を、従業員の成長や、社内外での活躍を支援するといった、「人への投資」に回すことで、サステナブルな好循環を生み出すことに繋がるのではないかと思う。
 今後は、人的資本の取組みに関して、情報開示という観点でも強化されていく方向感にあると理解しており、企業価値の向上に資する取組みを行い、そうした取組みを適切に開示することが、株主や投資家等の理解を得ていくうえでも重要となる。
 具体的な人的資本経営に向けた対応や開示は、各行の経営戦略に応じて決定されるべきものであるが、会員行の取組みや情報の連携・共有などを通じて、銀行界全体として、人的資本に関する動きが促進されるように取り組んで参りたい。  


(問)
 税・公金の収納事務に関して教えていただきたい。7月に群馬銀行が求めた手数料負担の増額の要求に対して、県内の自治体が拒否するといった事例が起きている。このような税・公金の収納業務に関して、銀行業界としてどのように臨んでいくのか。先ほども少し出たが、QRコードの活用など、どのように今後進めていくか教えていただきたい。
 2点目は金融リテラシーの向上について、特にこれまで日本で少し弱かったところ、金融教育で不足していたところや課題など、会長としてどのように考えられているのか、教えていただきたい。
(答)
 まず、税・公金については、全銀協では2015年から毎年、地銀協、第二地銀協など金融8団体連名で税・公金の電子納付等の推進についての要望活動を行っており、総務省などに地方税・公金の収納業務における適正な経費負担を求めてきた。
 経費負担の議論は、2020年10月、および2021年2月に開催された規制改革推進会議の投資等ワーキング・グループにおいて、大きく進展したと認識している。「銀行界が自治体に対して適正な対価を求めてこなかったため、電子化・効率化が進まなかった」とのご意見を踏まえ、電子化のインセンティブが働くような見直しを進めるべく、会員行へ周知した。
 2021年3月には、「税・公金収納業務に関するコスト・手数料に係る調査」を実施したところである。回答のあった会員行において、収納にかかるコストは300円程度かかっている一方、収納手数料の平均は8.8円であり、無償で対応している割合が約6割を占めるなど、適正な対価をいただいていない実態が浮き彫りになったところである。
 直近では、2022年3月、総務省が自治体に対し、公金収納等の事務について適正な経費負担となるような見直しを行うよう、通達を発出したと認識している。
 一方、税・公金収納を電子化する議論が急速に進展し、2023年4月よりQRコードを活用した納付が全国で始まる。この収納手数料は、当初1件当たり33円で開始することが地方税共同機構より示されている。これにより、新たな電子化のサービスと、平均8.8円で提供している従来型の手続きとの間で、電子化の動きに逆行する価格体系となるため、各行において見直しの動きが活発化していると認識している。群馬県の事例も、こうした流れを踏まえての交渉と受け止めている。
 手数料については、サービスを提供する事業者がお客さまに満足いただける高品質なサービスを提供することで、そのサービスに費やしているコストや提供価値に見合った対価をいただくというのが基本的な考え方である。独占禁止法の観点から、全銀協として個別の案件に関わることは難しいが、各加盟行が各自治体のご理解を得られるよう、丁寧な説明に努め、適切な経費負担の議論が進むことを期待している。
 2点目の金融リテラシー向上についてであるが、8月末に公表された、金融庁の行政方針において、金融機関や業界団体による金融経済教育の取組み実態を把握し、有効に連携していく旨が記載された。また、国全体として中立的立場から、資産形成に関する金融経済教育の機会提供に向けた取組みを推進するための体制を検討することが謳われている。
 こうした方針は、2022年4月に行われた成年年齢の引下げや、高等学校の家庭科において必修化されたことに加え、政府の資産所得倍増プランの打出しなどを踏まえた、社会全体の関心の高まりとも整合した内容と受け止めている。
 銀行界としても、金融リテラシー向上への取組みは、官民連携して進めていくことが肝要と考えており、体制をはじめとする具体策の検討において、関係当局と一層協働を図っていきたいと考えている。
 全銀協としての取組みは、現時点ではあくまで民としての取組みの域を出ていないが、3点ほど簡潔に紹介する。
 1点目は、成年年齢の引下げを受けて、全銀協のウェブサイトに「成年年齢引下げとお金のだいじな話」という特設サイトを設置している。10代を中心とした若年層に知ってほしい基礎知識に加え、成人になる前に知っておくべき事項を解説している。学校向けの授業等で生徒の皆さまに理解を深めていただきたい内容に加え、保護者の皆さまにご注意いただきたい点についても盛り込んでいる。
 2点目は「どこでも出張講座」である。学校での授業や地域のグループセミナー等に対し、ご依頼に応じて全銀協の役職員等を講師として派遣し、各年齢層に合わせたテーマで実施している。
 3点目は、2021年12月にMOUを締結した日本証券業協会との連携施策である。銀行界・証券界双方の人的・物的・知的資源を活用することを目指し、インストラクター制度の共同活用やコンテンツの共同開発を進めている。最近では8月に、両協会協同で、金融リテラシーに関する教員向けのセミナーを実施し、約870名の教員の方に参加いただいた。今後も若年社会人の方を対象にしたセミナー等のイベントを開催していく予定である。
 このように、現状では、民間企業や各団体が独自にコンテンツ作成やセミナー開催等の取組みを行っているが、政府の旗振りのもとで、これらの取組みが連携されると、全国民の金融リテラシー向上につながるものと思う。また、実際の投資促進につなげていくためには、インプット中心の教育のみならず、投資経験などのアウトプットを意識した実践的な教育を行うことも重要と考えている。
 今後は、政府やほかの団体とも連携しつつ、学んだことを活かすことができるようなコンテンツの開発やセミナーの開催等も検討して参りたい。  


(問)
 昨日、日銀ネットで電文送信が一部遅延した。これに関して、加盟行間の決済や加盟行の業務への影響の有無と程度、利用者への影響があったかどうか伺いたい。加えて、日銀ネットの運営について、日本銀行に対して何か要望があれば伺いたい。
(答)
 全銀協会長として、日銀ネットのシステムの不具合に対しての直接のコメントは差し控えるが、日本銀行の公表や三菱UFJ銀行として承知していることを中心に、一部コメントをさせていただく。
 昨日、日銀ネットで一部機能の不具合により、日銀ネットとそれに接続している金融機関の電文の送受信が通常より時間を要する事象が発生し、外為取引などで一部決済が遅延した。お客さまへの影響に関しては、各金融機関で事情は異なると考えられるが、当行においては、当日中に決済が必要なもので処理できないという事態には至らなかった。全銀システムにおいても、内国為替全体に大きな影響を与えるトラブルはなく、当日の処理を終えたと承知している。
 決済インフラは経済活動の基盤を支えるものであり、ひとたび障害や不具合が生じれば、社会に対して大きな影響を与えてしまう。
 一方、今回の原因である機器の不具合などを全て防ぐことは現実的には困難であり、障害が発生した際に影響を最小限とするため、バックアップ体制や早期の復旧態勢の構築が重要であると、改めて認識したところである。  


(問)
 足元、急速な円安が進んでおり、お客さまへの融資や資金需要などさまざまな影響があると思うが、銀行業界としてどのように見ているか。
(答)
 足元、約24年ぶりに1ドル140円を超える水準まで円安が進行している。これは、日本と欧米の金融政策のスタンスの違いが大きく影響していると思う。円安が日本経済に与える影響については、経済主体によって異なり、足元、ロシア・ウクライナ情勢を受けた資源高の影響を大きく受けており、一言では申しあげにくい。ただし、家計においては、円安による輸入物価の上昇により、資源高も相俟って物価全般に上昇圧力がかかっており、実質所得への負の影響を与えている面がある。
 一方、企業にとっての影響は、各企業のビジネスモデルにより異なるため、ばらつきがあると認識している。円安は、輸出型の製造業にとっては追い風となるが、生産拠点の海外移転などを背景に、そうしたメリットは過去に比べれば小さくなっている。他方、輸入型や内需型の企業は、仕入価格の上昇を販売価格へ十分に転嫁できず、負の影響を受けていると理解している。
 いずれにしても、為替相場の急速な変動は、家計や企業経営に好ましくなく、さまざまな影響が出てくるため、私どもとしてはお取引先の状況を丁寧に把握し、財務・非財務の両面でのサポートに注力していきたいと思う。