2022年10月13日

半沢会長記者会見(三菱UFJ銀行頭取)

辻専務理事報告

 事務局から2点ご報告申しあげる。
 1点目は、本日の理事会において、お手元の資料のとおり、お客さま本位の業務運営の徹底について申し合わせた。
 金融事業者による顧客本位の業務運営の進捗状況に対する昨今の指摘等を踏まえ、適切な商品・サービスの提案およびフォローアップのほか、適切な情報の取扱いを徹底する内容としている。
 2点目は、本日の理事会において、お手元の資料のとおり、AML/CFT業務の高度化・共同化を図ることを目的とした株式会社を新たに設立することを決定した。
 新会社においては、「取引モニタリング等のAIスコアリングサービス」を提供する予定であり、本年度中に準備会社を設立し、2024年度以降に段階的なサービス提供に向けた準備を進めていく。

 

会長記者会見の模様


(問)
 ファイアーウォール規制と私的整理のあり方について伺う。
 先般のSMBC日興証券と三井住友フィナンシャルグループに対する金融庁の処分の公表において、顧客の意向に反した非公開情報を、銀行と証券会社が共有していたことが発覚している。本年6月に大企業向けでオプトアウトが始まったばかりだが、本件に対する受止めと、本年9月から金融庁の「市場制度ワーキング・グループ」で、さらなる規制緩和に向けた議論が始まったばかりだと認識しているが、こうした流れに水を差すおそれがないのかについて、見解を伺いたい。
(答)
 まず、SMBC日興証券および三井住友フィナンシャルグループに対して行政処分がなされたことは認識しているが、個社の事例についてコメントする立場にないため、あくまで一般論として申しあげたい。
 金融機関は、関連する法令・規制を遵守したうえで、お客さま本位の業務運営を実践し、健全な金融資本市場の発展・信頼を醸成すべく業務に取り組むことが何よりも重要と考えている。社会やお客さまから寄せていただいている信頼・信用を損なうことは決してあってはならず、銀行グループの各社が業務を推進するに当たっては、法令等の遵守はもとより、規範意識を日々向上させていくことが肝要だと考える。
 このような認識を踏まえ、本日、全銀協の理事会において「お客さま本位の業務運営の徹底に係る申し合わせ」を実施し、公表した。この申し合わせは銀行を対象にしたものではあるが、銀行グループ内の証券会社も含め、グローバルな金融資本市場の担い手にふさわしいレベルの顧客保護、お客さま本位の業務運営や情報管理態勢の確立に向け、これまで以上にグループ単位での態勢を整えていくことが必要と考えている。
 また、今回の事案について、会員行において皆さまの信頼を損なうような事象が発生したことは、全銀協会長としても申し訳なく思っている。金融界全体として、今回の事例について真摯に受け止め、お客さまの信頼を損なうことがないよう、今後の管理態勢の見直しを含め、改善を図っていく必要があると認識している。
 一方、足元、政府の新しい資本主義において、「貯蓄から投資へ」が重点政策として掲げられている。家計が有する金融資産が、金融資本市場を介して企業へ供給され、そこで生み出された成長の果実が家計にもしっかりと分配されたうえで、再び次の成長資金として供給される、という循環の必要性が、強く打ち出されていると思う。この好循環の実現に向け、お客さまの預貯金を預かる私ども銀行界が、証券界とともに、お客さまの資産形成に貢献すべきと考えていることには変わりはない。
 先ほど申しあげたとおり、銀行界全体が管理態勢強化を進めていくことが前提ではあるが、総合的な金融サービスを通じたお客さまの利便性向上に向けて、引き続き残された論点についてご議論いただきたいと考えている。


(問)
 10月4日に、新しい資本主義に関する経済対策が公表され、重点項目のなかに、裁判所の関与のもとで、債権者の多数決で決めていく私的整理の法制化が示された。全銀協のなかでもいろいろな立場があると思うが、銀行界としての受止めと、導入に当たっての課題について教えてほしい。
(答)
 新しい資本主義実現会議において、総合経済対策の重点事項のなかに、「事業再構築のための私的整理円滑化法案」を、年明けの通常国会に提出することを検討する旨が記載されている。政府において、法案提出に向けて議論が進んでいくと認識しているが、詳細について承知していないため、債務整理における課題を中心にコメントしたい。
 わが国における企業の債務整理には、法的整理と私的整理がある。法的整理は裁判所の監督のもと、債権者の多数決により事業再生計画案を採決する。このため、透明性・公平性が確保されやすいものの、事業者にとっては事業価値が低下するという課題があると思う。
 一方、私的整理は柔軟な手続きが可能であり、商取引への影響が少ないなどの利点があるが、債権者全員の同意が必要であることが課題と理解している。この点、わが国では、2001年の私的整理ガイドラインの制定後、金融債権者の全員同意を前提としながら、公正中立な第三者を債権者間の調整役とすることをポイントに、新たな私的整理の枠組みや改善策が継続的に打ち出され、実務も定着してきたものと理解している。
 しかしながら、これまで一部の債権者の反対により、私的整理による事業再生が進められず、法的整理を余儀なくされたケースもあった。さらに、金融債権者も多様化していることなどを踏まえると、今回示された私的整理における多数決のあり方が具体化されると、新たな債務整理の選択肢となる可能性もあると思う。
 もっとも、事業再生や事業の再構築を後押しするためには、今回検討される制度が不適切な濫用を招くことがないよう、公平性を確保することが肝要である。また、手続きの利用による事業価値の毀損を回避することにも留意が必要と思う。これらの点も含めて、銀行界として今後しっかりと意見発信をして、事業再生の選択肢として有効に機能する制度となるように貢献して参りたい。


(問)
 足元で進む為替相場の急速な円安・ドル高についての所見を伺いたい。また、政府・日本銀行は9月に24年ぶりの円買い介入を実施したが、ここに来てドル円相場が介入前の水準を超えていることも踏まえて、今回の為替介入の意義、効果についてどのようにお考えか、伺いたい。
 もう1点、金融政策との関わりについて、円安方向に振れると言われる金融緩和を続けながら円買い介入をすることは矛盾しているのではないかという指摘も一部に出ているが、こういった指摘に関する会長の見解も伺いたい。
(答)
 まず、円安が進んでいることについての受止めだが、日本経済に与える影響については、経済主体によって異なるうえ、足元、ロシア・ウクライナ情勢等を受けた資源高の影響も大きく受けているため、プラスかマイナスかを一概に申しあげることは難しい。ただし、明確に言えることは、為替相場の急激な変動は、家計や企業経営に与える影響が大きく、望ましくないということである。
 介入の流れという意味で、足元の動向について触れると、9月22日、約24年ぶりに円買いの為替介入が行われた結果、1ドル145円台まで進行していたドル円相場が一時140円台まで上昇した。この為替介入は、まさに日本銀行の決定会合後に円安が急速に進んだタイミングを捉え、そうした急激な動きを抑制するために行われたものと認識している。
 また、円安方向への圧力が強まる金融緩和を進めながら円買い介入を政策として行うことが矛盾しているとの指摘であるが、政府・日本銀行ともに、日本経済の持続的な成長のために政策決定を行っているという大きな点では一致していると考えている。日本銀行は、物価安定のもとでの持続的な経済成長を実現するために金融政策を調整しており、9月の決定会合でもその観点から金融政策の維持を決定したと承知している。
 他方、繰り返しになるが、政府は、為替相場の急激な変動は家計や企業経営にとって望ましいことではないため、急速に円安が進んだタイミングで為替介入を行ったということだと思う。
 足元では、146円台まで円安が進んでいると認識しており、引き続き、為替相場の変動には注視していく必要があると思う。
 政府・日本銀行におかれては、これからも協調しながら、適切な政策運営を進めていただくことを期待している。


(問)
 欧米の金利急上昇と国内外の金利差を受けて円安が急激に進行している。この足元の金利情勢や為替環境が銀行の財務・経営にどのように影響しているか伺いたい。
(答)
 金利動向については、今年に入り、エネルギー価格の上昇、グローバルレベルでの各種供給制約に起因するインフレ圧力の急上昇を受けて、本邦を除く主要国において各中央銀行が利上げ等の金融政策の正常化を進め、米国債においても昨年末から大幅かつ急ピッチな金利上昇となっている。
 国内外の金利差拡大は、内外の金融政策の違いによるところが大きいと理解している。日本銀行は2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現することを目的に、強力な金融緩和を進めてきた。足元、日本のコアCPIは前年比で2%を超えているが、これは資源高や円安などの影響が大きく、持続性・安定性の観点からは、いまだ目標に達していないとの見方から、金融緩和政策が維持されていると理解している。
 こうした市場環境を受けた銀行財務への影響というご質問だが、各行で状況が異なるので、一般論として回答させていただく。
 各行の決算や一部報道にもあるとおり、メガバンク、地方銀行が保有している外国債券の評価損益は悪化傾向にあり、有価証券運用全体で含み損を抱えた金融機関もあると思う。もっとも、株式の評価益等を勘案すると、銀行界全体として見れば財務への影響は現時点では限定的と考えている。
 為替相場の影響についてもご質問をいただいたが、プラス・マイナス両面があると考えている。円安に伴い、円建てで管理している外国債券の残高やポジション量が増加すると、それにより銀行固有の影響として、自己資本比率規制やレバレッジ規制等があるなか、特に資本を円で保有する金融機関の場合、リスクアセット増加によって自己資本比率が下がることがマイナス影響として考えられる。一方で、円貨で認識した外貨建て収益が増加するというプラス影響もある。
 引き続き、各行において、各国の金融政策、景気、地政学リスク等の動向を注視しつつ、また預貸も含めたバランスシート全体への影響も見ていくことが適切であると認識している。


(問)
 金融教育についてお伺いしたい。金融教育の目的が、投資を促すためのものなのか、そうであれば、本当に知識がないから投資が促されてないのか。知識を得た結果として、預金の方が良いとなる可能性もある。もしくは、いわゆる自衛手段として危険な商品を買わないように、判断できるようにというためなのか。金融教育が必要と皆さまがおっしゃられるが、目的が明確でないと、やっただけで終わってしまうと思うが、どのようにお考えか伺いたい。
(答)
 あくまで個人的な見解としてお答えをさせていただければと思う。
 金融教育とは、国民一人ひとりが、社会情勢を含む多種多様な情報にもとづいて、自らのライフプランを自らで計画し、判断・実行できるようになり、その結果として豊かな暮らしを実現できるということが、大きな目的と思っている。
 また、この金融教育の目的達成に向けては、金融広報中央委員会が謳っている「自立する力」と「社会とかかわる力」を身につけ、高めていくことが重要だと思う。
 「自立する力」とは、お金を通して生計を管理する基礎を身につけ、より豊かな人生を過ごすために、主体的に考え、行動する力であり、金融にまつわるトラブル等から自らを守ることにもつながるものである。
 「社会とかかわる力」とは、金融・経済を学ぶことで、社会の中における自分を知り、社会に貢献する姿勢・意欲をもつ力であり、金融を通じて社会の一員としての実感・参画意識を高めることにつながるものだと思っている。
 ご質問のなかで触れていただいた「貯蓄から投資へ」の促進、また、その知識武装ということも、この金融教育の目的を実現する過程、もしくは結果として得ることができる果実の一つではないかと思う。
 ただし、先ほど申しあげたとおり、金融教育を通じて、一人ひとりが「自立する力」を高め、取り巻く「社会とかかわる力」を身につけることで、一人ひとりが豊かでよりよい暮らしを形成することが、最も重視すべき目的ではないかと思っている。


(問)
 政府が掲げる資産所得倍増計画の関係で伺いたい。9月22日、岸田総理がニューヨークでNISAの恒久化が必須だと表明した。また、政府の税制調査会などでもNISAについての議論が進み、年末に向けて議論も本格化していくと思うが、改めてNISAの拡充、政府の動きについてどのような議論を期待するのか、所感を伺いたい。
(答)
 9月22日のニューヨーク証券取引所における岸田総理のスピーチでは、「資産所得を倍増し、老後のための長期的な資産形成を可能にするためには、個人向け少額投資非課税制度、すなわちNISAの恒久化が必須だ。」と発言されたと認識している。NISAは税制メリットを受けながら、少額からの積立・分散投資により、投資の第一歩を踏み出せる制度である。制度および非課税期間が恒久化されれば、長期的な視点で継続的に活用でき、安心して投資に取り組める環境が整うことになる。
 NISAのモデルとなった英国のISAは、1999年の導入当初から非課税期間は無制限であったが、口座開設期間には10年という期限が設けられていた。これが2008年に恒久化されたことで利用者が大幅に増え、その後、非課税枠も当初年間7千ポンドであったが、現在は2万ポンド、日本円で約320万円に相当する金額まで拡大していると認識している。
 全銀協としては、NISAについて、恒久化、簡素化、拠出限度額の拡大の3点を要望している。加えて、補助金やポイント等のインセンティブの付与についても提言している。NISAの恒久化に加え、成長投資枠の設定、非課税枠の拡大が今後の議論のポイントになると思うが、利用者の目線に立った分かりやすい制度にしていく必要がある。
 NISAの恒久化により、預貯金が投資へシフトすると、資産運用のボリュームが拡大するとともに、取引先の成長によるリターンによって、資産所得が大きく拡大することも期待できる。資産所得の拡大による将来の税収増を見越し、戦略的に、投資を促す税の優遇を先行して導入するという発想も必要ではないかと思う。
 全銀協としては、資産所得倍増プラン策定に向けた議論において、引き続き積極的に意見発信をして参りたい。


(問)
 1点目は、日本の屋台骨といわれる自動車産業、そのなかの日産とルノーについて。長年、不平等とされた資本関係の見直しに向けた議論が進んでおり、裾野の広い自動車産業の動向は金融機関にとっても大きな影響が及ぶと思うが、これらの議論、特に自動車産業界再編の動きについてどのように受止めているか伺いたい。
 2点目は、ZEDIについて。足元、ZEDIの利用状況は低位に推移していると認識しているが、1年後のインボイス制度の開始を控えるなかで、普及に向けた課題をどのように認識しているか。また、どのように利活用を増やしていくのかも併せて伺いたい。
(答)
 まず1点目について、個別の事例についてはお答えを差し控えるが、あくまで自動車業界の一般的な動向としてお答えする。
 自動車業界は「100年に一度の大変革の時代」にあり、CASEに代表される次世代自動車の開発競争、気候変動への対応等、各社に求められる対応は一段と複雑化・迅速化していると思う。
 自動車業界における各アライアンス関係においても、EV化の進行等が想定以上に加速している業界環境を踏まえ、それぞれが引き続きメリットを享受できるよう、当事者間でさまざまな議論が進められているものと理解している。
 特に電動化や自動運転化の進展により、部品製造・車両製造プロセスそのものが変容することで、従来のバリューチェーンや競合他社とのアライアンスのあり方を見直す動きも出てきていると認識しており、これらがさらに加速していく可能性もあると考えている。そのような観点から、引き続き金融機関としてもその動向については注視していきたい。
 2点目のZEDIであるが、2018年12月に全銀システムのサブシステムとしてZEDIを稼動させ、現在では全銀システムへの参加金融機関の約9割に当たる1,000以上の金融機関が接続を完了している。
 これまで繰り返しご説明してきているが、ZEDIを活用することで、通常の振込で使用している固定長電文のフォーマットに比べ、請求書番号や商取引の契約情報を含む大量のEDI情報の伝達が可能となる。これにより、消込作業等でデータ突合の事務効率化ができるほか、連携される豊富なデータの利活用につながっていくことも期待できると考えている。
 しかしながら、2021年度の全銀システムの取扱件数におけるZEDI利用率は0.01%程度と、稼動以来、利用は低調な状況にあり、普及に当たり、いくつか課題があるということも認識している。例えば、受発注・請求において書面を用いる等の商慣習が残っているということ、資金の送り手にEDI情報の添付が求められ、受け手側に消込等のメリットがある、受益と負担の不一致、および連携するデータの規格が統一されていないことなどが挙げられる。したがって、EDI情報を添付する慣習を社会全体で確立し、ZEDIを活用して効率性や生産性向上を実現する環境整備が必要と認識している。
 2023年10月に予定されるインボイス制度開始を契機として、電子インボイスなどにより、企業における請求・決済業務の電子化が進んでいくことが期待されている。それを見据えて、全銀ネットでは、電子インボイスとZEDIの連携促進を図るため、ソフトウェア開発の助成プロジェクトにも取り組んでおり、多くのベンダーから問合せをいただいている。
 また、現在、デジタル庁やデジタルアーキテクチャ・デザインセンターにより、受発注・請求・決済におけるデータ連携のあり方が検討されている。国の旗振りのもとで、産業界と金融界が連携してデジタル化を進めることで、商慣習が変化し、データ連携の意義が社会で共有されると、社会の効率化や生産性の向上、ひいては経済成長にもつながっていくものと思う。銀行界としても、関係省庁や産業界とも緊密に連携し、ZEDIの活用促進に取り組んで参りたい。


(問)
 全銀システムの次期システム更改に向けた検討状況および今後の方針について教えてほしい。
(答)
 現在の第7次全銀システムは3年前、2019年11月に稼動している。これまで全銀システムは8年サイクルで更改してきており、次回のシステム更改は5年後の2027年11月の予定である。
 全銀システムは、巨大かつ日本の決済インフラを支える重要なシステムであり、開発、試験に長期間を要する。また、次期全銀システムの更改に当たっては、10月7日に金融庁の認可をいただいた資金移動業者への参加資格の拡大に加え、決済を取り巻く環境が今後もさらに変化していく可能性を見据え、検討を進めていく必要がある。そのため、2022年度は、全銀ネットの「次世代資金決済システムに関する検討タスクフォース」の傘下に、「次世代資金決済ワーキンググループ」を設置した。決済に関わる幅広い関係者や有識者の意見を踏まえながら、2022年度中に次期全銀システムのグランドデザインや基本方針を取りまとめるべく、検討を進めているところである。
 次期全銀システムの検討事項は多岐にわたるため、段階的に議論していく方針としている。2022年度上期は、あるべき姿や接続方式、基盤技術などの基礎的検討事項の議論を進めてきた。足元のワーキンググループでも、システム開発ベンダーや外部有識者のご意見も踏まえつつ、柔軟性と堅牢性を併せもったシステムを実現すべく、具体的な方向性につき議論をしたところである。今後も、わが国における資金決済を支える重要インフラとしての役割をしっかり果たすべく、関係省庁や関係者との議論を踏まえながら、強靭な金融システムの維持向上に向けて、検討を進めていく考えである。


(問)
 1点目は、今、急速に進んでいる円安について、銀行の法人向けビジネスにどのような影響があるか伺いたい。例えば、為替予約取引の増加もあり、こういう面はプラスかと思うが、マイナス面も含めて伺いたい。
 2点目は、今、一部のヨーロッパの金融機関の信用不安が盛んに報じられているが、これが日本に与える影響などをどのように受け止めているか伺いたい。
(答)
 1点目は、急速な円安下での法人顧客ビジネスへの影響を、プラス・マイナスの両面からのご質問と理解した。これは銀行の状況によって異なるものであり、プラス・マイナスどちらの面も考えられる。
 一般的に、急速な円安の進行が銀行の法人顧客向けのビジネスに与える影響は、大きく貸出、預金、外為の三つの領域において起こり得るものと理解している。
 貸出については、輸出量の増加による企業の資金需要の拡大が考えられる。一方で、輸入企業を中心にコストの上昇に苦しむお客さまには、資金支援のご相談にきめ細やかに対応するよう努めていく必要がある。今後も円安が継続し、コスト負担増に伴う収益力の圧迫が続く場合には、企業の信用力への影響に注視が必要になると考えている。
 預金については、外貨預金取引において、足元の急激な円安の進行を受けて、企業で滞留していた外貨建ての預金の一部に円転の動きが見られている。為替取引の活性化により、短期的には手数料ビジネスにプラスに働く可能性がある一方、外貨預金残高の減少により、資金利益の減少に繋がるというマイナス面も想定される。
 最後に、外為に関しては、特に輸入企業にとって、急速な円安はコスト増加に伴う利益の圧迫要因に繋がるため、為替予約や通貨オプション等による為替ヘッジのニーズが高まることが考えられる。一方、為替相場のボラティリティが激しい状況下、企業にとっては商流やバランスシートの見通しが立てづらい環境ともいえ、ヘッジ期間の短期化や手控えが発生することも想定される。また、中長期的な観点からのサプライチェーン見直しに関する提案機会も増えてくる側面もあるのではないかと思う。
 銀行としては、お客さまのニーズを適切に捉え、お客さまの採算レートや商流の実態を、より丁寧に検証のうえで対応を進めていく必要があると考えている。
 銀行の法人ビジネスにおいて、お客さまの事業が安定的に持続するよう中長期的な視点で支えていくことが重要であり、為替動向を注視しつつ、引き続き支援に努めて参りたい。
 もう1問は、一部の欧州金融機関の信用不安が日本に与える影響をどのように受け止めているかというご質問と理解した。一部の欧州金融機関の信用不安が話題となり、CDSスプレッドの急騰などに注目が集まっていることについては認識している。金利の上昇をはじめ、足元で金融市場が大きく変動するなか、これが金融機関の事業に与える影響について、色々な憶測を呼んでいるものと理解している。
 もっとも、リーマンショック以降、グローバルな金融機関を中心に、資本、流動性、リスク管理などの強化を進めてきており、これは本邦金融機関も同様である。
 現時点では日本の金融市場、金融システムに影響が生じるという兆候は見られないが、世界中のマクロ環境・金融環境が変わり続けていくなかで、市場のボラティリティが高まりやすくなっている状況であるため、引き続き経済情勢や金融環境の動向を注視していくことが必要と考えている。


(問)
 10月11日から「ことら」の送金サービスが始まったが、改めて、所感を伺いたい。また、「ことら」の送金サービスについては、PayPay等のQR決済事業者も含めた大きなインフラとして育つことが期待されているが、今後大きなインフラとして育てていくために何が必要と考えているか伺いたい。
(答)
 9月の会見でも申しあげたが、「ことら」は全銀協が直接関与しているわけではないが、個別行としてことら社の設立に関わり出資もしているため、少し説明をさせていただきたい。
 10月11日に「ことら」の送金サービスを開始した。20の金融機関がBank PayアプリやJ-Coin Payなどのアプリを通じた送金サービスの提供を開始し、全ての送金サービスが無料で提供されている。
 サービスの開始日には、ことら社がイベントを開催し、ゲストに実際に送金を試していただくなど、アプリの画面を見ていただきながら、メールアドレスや携帯電話番号で手軽に送金できるメリットをアピールした。サービス開始から現在まで特段の障害等は発生しておらず、円滑にサービスが提供できている。
 ことら社によると、57の金融機関が「ことら」に参加する方針を示している。今後は、2023年4月に、地方税納付書への統一QRコードの導入に合わせて、税公金サービスの取扱いも開始する予定としており、サービスの広がりに合わせて、加盟金融機関の増加も見込まれ、ネットワークは着実に広がるものと見ている。
 ただし、9月の会見でも申しあげたが、次世代の多頻度小口決済のインフラとして、「ことら」をより多くの方に便利に利用していただくには、銀行と資金移動者間の相互運用性が高まることが重要である。今後も働きかけを行い、資金移動業者にも参加いただいて、新しい決済インフラとしてキャッシュレス社会に大きく貢献することを目指して、まずは認識をしっかり高めていくことが重要と考えている。


(問)
 まず、仕組債について、新規勧誘停止や販売停止の方針を発表した大手金融機関が出ているが、銀行界として今後どのように対応していくのか伺いたい。
 もう1点、会見の冒頭で発表もあったが、マネロンへの対応について伺いたい。政府の行動計画では2024年春に取引スクリーニングや取引モニタリングの共同システムの実用化を図るとあるが、銀行界としてどのように取り組んでいく考えか。今後のスケジュール感も含めて伺いたい。
(答)
 まず仕組債の件は、仕組債に限らず個々の商品の販売方針は各社が判断することだが、商品の複雑さ・種類にかかわらず、FD原則に示されている「お客さまの最善の利益の追求」に向け、いま一度、基本に立ち返ることが肝要と考えている。すなわち、お客さまの投資経験・資産背景・ニーズの正しい理解を起点に、お客さま一人ひとりにふさわしい商品・サービスを提供し、販売後もお客さまの意向を伺って、適切なフォローアップに取り組んでいく、こうしたサイクルを回していくことが重要と考えている。
 全銀協としては、協会内に新たに「顧客本位検討部会」を設置し、顧客本位の業務運営にまつわる各課題に関し、集中的な検討を行う体制を整備したところである。
 仕組債への対応については、9月の会見でも申しあげたが、主に「想定顧客の明確化」、「わかりやすい情報提供」といった観点で検討が必要と考えている。このため、仕組債の販売に関する実態把握を目的に、各行が自社の状況を判断するために活用することも想定し、まずは販売額や苦情件数に焦点を当てた会員行向けのアンケートを実施したところである。
 集計結果から、銀行における仕組債の販売総額は、過去5年横ばいで推移してきたことがわかっている。また、苦情件数については、2020年のコロナショック時に増加しているが、足元は減少傾向にあった。ただし、金額や件数などにばらつきがあり、販売実態も各行ごとに異なることが見えてきており、より正しい把握には、商品性やお客さまの特性等も踏まえ細分化するなど、さらなる調査が必要と考えている。
 今回実施した先行アンケートの結果を精査したうえで、今後、より詳細なアンケートを会員行向けに実施する予定である。販売実態の深掘りを進めながら、顧客選定における各行の検討・検証プロセスの高度化や、重要情報シート等のルールの実効性向上を模索していきたい。
 銀行界としては、「市場制度ワーキング・グループ」の下に設置された「顧客本位タスクフォース」において、実態把握を踏まえた意見発信を行いながら、顧客本位の販売体制のあるべき姿を追求していきたい。
 もう1点はマネロン対応の件であるが、2021年8月のFATFの報告書公表を契機に政府が発表した行動計画のなかで、2024年春に「取引スクリーニングや取引モニタリングの共同システムの実用化を図る」と記載されている。
 銀行界では、共同システムの実用化に向けた初期的検討を進めるべく、2021年7月に全銀協が事務局となり、「AML/CFT業務共同化に関するタスクフォース」を設置し、対象とすべき業務や運営組織のあり方などを広く検討してきた。会見の冒頭で発表したプレスリリースの内容は、タスクフォースにおける検討を踏まえた銀行界としての取組方針を示したものだが、AML/CFT共同機関が提供するサービスとしては、大きく2点ある。
 まず、「AIスコアリングサービス」は、2020年度に受託したNEDO実証実験結果も踏まえたサービスである。具体的には、参加行の取引モニタリングシステム等が出力するアラート情報に対し、共同機関がリスク度合いのスコア付けを実施することで、参加行のモニタリング等の業務効率化・実効性向上を目指すものである。
 次に「業務高度化支援サービス」だが、これはAML/CFT業務に係るリーディングプラクティスや実務上の実践的な対応事例を参加行宛てに展開することにより、各行のマネロンリスクに対する理解の促進・業務の有効性の向上を図るものである。
 今後のスケジュールとしては、今回の方針決定を踏まえ、2022年度中の共同機関の会社設立に向けた準備を進めていく。サービスの提供時期は、システム開発の進捗を踏まえ、2024年春・2025年春の段階的な開始を検討している。また、2022年6月に成立した改正資金決済法上の「為替取引分析業」に係る許可の取得も進めていく。
 今後のFATF第5次審査も見据え、この共同機関の枠組みを通じて、都銀・地銀・第二地銀等の各業態が、まさに互助的に力を合わせることで、わが国全体のAML/CFT態勢の底上げを加速して参りたい。


(問)
 国内の銀証連携について、全銀協からも緩和を要請し、これまで緩和が進んできている一方で、今回の三井住友フィナンシャルグループで見つかった問題では、いわゆる銀証連携を進めるうえでの、また、管理するうえでの問題も露呈したと認識している。改めて、銀証連携が本当に必要なのか、その意義や、連携していくうえでの課題認識を伺いたい。
(答)
 銀証連携についての総括的なご質問であった。銀行界として、諸外国と同様、お客さまへの総合的な金融サービスの提供が可能となるよう、これまで規制の緩和を求めてきた。欧州ではユニバーサルバンクが認められており、米国では日本と同様に銀行と証券に分かれてはいるものの、事前の情報授受規制がなく、お客さまに総合的な金融サービスを提供できる環境が整っている。
 一方、本邦金融グループは、エンティティが銀行・証券に分かれ、その間に諸規制があることで、総合的な金融サービスの提供が阻害されているという問題意識がある。
 これらの規制の見直しが、「貯蓄から投資へ」の加速を通じた家計・企業の課題の解決、また、グローバルに競争力のある本邦資本市場の確立に不可欠と考え、意見発信し、関係者の皆さまと議論を重ねてきた。
 その結果、規制の緩和が進められてきたが、引き続き議論いただきたい論点が残っている。例えば、「証券外務員の二重登録の禁止規制」や「発行体向けのクロスマーケティング規制」等の提案段階の規制である。これらにより、銀行のお客さまに証券の商品、サービスのニーズがあった場合も、銀行職員として取り扱える範囲が限られ、提案できないケースがある。
 規制が緩和されることで、お客さまにとっては、日頃接点をもち、証券リテラシーをもつ銀行の担当者から、証券の商品・サービスの提案や、アフターフォローも受けられることになり、利便性が高まると考えている。
 また、6月の府令と監督指針の改正において、上場企業等について先行緩和された「情報の授受規制」のうち、個人と中堅・中小を含む非上場企業に係る部分は、依然として積み残しの課題となっている。
 先ほども申しあげたとおり、管理体制の強化を進めていくことは大きな前提であるが、引き続き、これらの残された論点について議論いただきたいと考えており、銀行界としては、お客さまのメリットと緩和を懸念するご意見に対して、しっかりと説明をしていく必要があると思っている。