2023年1月19日

半沢会長記者会見(三菱UFJ銀行頭取)

辻専務理事報告

 事務局から3点ご報告する。
 1点目は、本日の理事会において、お手元の資料のとおり、来年度の副会長を内定した。次期副会長は、昨年12月に内定している次期会長と同じく、理事会での正式な選定手続きを経て、本年4月1日付で就任予定である。
 2点目は、本日の理事会において、お手元の資料のとおり、スタートアップ支援に関する申合せを行った。これはスタートアップの育成や支援を社会的使命と位置付け、銀行界としてスタートアップへの取組み強化を共通認識とするために取りまとめたものである。
 3点目は、本年1月6日付で「株式会社マネー・ローンダリング対策共同機構」を設立した。今後は、同社において、「取引モニタリング等のAIスコアリングサービス」の2024年度以降の段階的な提供に向けた準備を進めていく。

 

会長記者会見の模様


(問)
 1点目は、新年に当たり、2023年の経済見通しと銀行界にとっての展望・抱負について伺いたい。
 2点目は、昨日開催された日本銀行の金融政策決定会合について、緩和策は維持された一方、展望レポートでは2023年度と2024年度の物価見通しが引き上げられた。こちらへの受止めをお願いしたい。また、先月の金融政策決定会合では緩和策が修正され、長期金利の上限が実質的に引き上げられたが、これに伴う銀行界への影響について、プラス面・マイナス面をそれぞれ伺いたい。
(答)
 1点目の2023年の経済見通しと銀行界にとっての展望・抱負だが、見通しに入る前に昨年を振り返ってお話しする。昨年は、「ウィズコロナ」を前提に経済活動の正常化が進んだ一方、ロシアによるウクライナ侵攻や、世界的なインフレの加速と各国の大幅な金融引締めの実施など、歴史的にも大きな変化が起きた1年であった。今年の世界経済にとっても、こうした動向を注視することは引き続き重要だと思っている。
 まず、ウクライナ紛争については、足元において早期の外交的解決は見通しにくい状況となっており、長期化の様相を呈していると受け止めている。
 インフレに関しては、エネルギー価格の落着きとともに、押上げ圧力は徐々に緩和すると見られ、各国の金融引締めスピードも次第に緩やかになると想定している。一方、これまでの金融引締めの累積的な効果により、景気には強い下押し圧力がかかってくる可能性がある。
 具体的に世界経済を見ると、欧州はウクライナ紛争に起因する天然ガスの供給懸念を受けた高インフレが直撃しており、景気後退リスクが相対的に高いと認識している。また、中国は、昨年末に行われたゼロコロナ政策の大幅緩和により、景気は上下双方に振れるリスクがあると見ている。加えて、中間選挙を終えた米国と、党大会で盤石な政権基盤を築いた習近平総書記の3期目がスタートした中国が、政治や経済面でどのような関係を築いていくのかについても、十分に注意を払う必要がある。
 わが国に関しては、海外発の逆風が景気の下押し圧力となり得るが、コロナ禍により大きく落ち込んだ対面サービス消費の回復、水際対策がおおむね撤廃されたことによるインバウンドの拡大、政府による大規模な経済対策などが下支え効果を発揮すると想定され、景気は全体として緩やかな回復を続けることが期待される。
 こうした状況のもと、銀行界としては、昨年来、岸田政権が掲げる「新しい資本主義」における各施策について、検討および意見発信を行ってきたが、今年は各施策の実現や施策検討の一層の前進を通じて、お客さまや社会に貢献していきたいと考えている。
 昨年来議論してきた「新しい資本主義」の柱となる資産所得倍増プラン、GX推進、スタートアップ支援などに係わる各種政策の実現に向け、金融起点の多様なサービスを提供することで貢献して参りたい。また、デジタル社会の構築に向けて、「キャッシュレス化」の進展、「デジタル完結・データ駆動」社会への転換を支える、利便性の高い金融インフラの構築を進めていく。加えて、マネロン対策の高度化や経済安全保障への対応など、強靭な金融システムの維持向上にも努めていく。
 引き続き、一つ一つの施策にしっかり取り組むとともに、お客さまが抱える諸課題に向き合い、お客さまとともに成長することで、わが国経済のさらなる成長に貢献して参りたい。
 2点目は、昨日の日本銀行金融政策決定会合の受止めと、昨年12月の長期金利の上限引上げが銀行界にどのような影響があるかとのご質問だと理解した。繰り返しとなるが、金融政策は日本銀行の専管事項であり、全銀協会長としてコメントすることは適切ではないため、あくまで個人の見解としてお答えする。
 まず、昨年12月の金融政策見直しの影響だが、日本銀行は昨年12月の金融政策決定会合において、イールドカーブ・コントロールの一部を見直し、長期金利の変動幅を従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大した。為替に対しての影響では、昨年は主に日本と米国の金融政策の方向性の違いから円安が進んでいたが、欧米の利上げペースの鈍化に加え、この政策変更により、そうした方向性の違いが幾分緩和したと市場参加者が受け止めたことで、円高が進んだと理解している。
 経済への影響だが、昨年12月の金融政策決定会合後の記者会見で、黒田総裁は、「最近の物価上昇等を背景に名目金利が同じでも実質金利は下がっており、景気刺激効果は強まっていた。今回の政策変更で金融緩和の効果を削ぐことはない」旨仰っていた。政策変更後に名目金利が上昇したが、総じてみると、現時点で実体経済への影響は大きくないと認識している。
 これらを踏まえた銀行界への影響だが、なかなか一概に申しあげることは難しい。一般論としては、仮に国内金利が上昇した場合、金利リスク量が大きい金融機関では債券の評価損益が悪化する。他方、景気回復を受けた金利上昇であれば、中長期的には貸出の増加やポートフォリオの入替え等による保有債券の利回りの上昇、金利収入の増加をもたらすため、プラスの影響もあると認識している。いずれにしても、引き続きインフレ動向や各国の金融政策、グローバルな景気の減速、地政学リスク等の動向や、そうした中での市場金利等の動きを注視しつつ、預貸を含めたバランスシート全体の影響をしっかり見ていくことが適切だと考えている。
 次に、昨日の金融政策決定会合についてお答えする。昨日公表された展望レポートでは、実質GDP成長率の見通しが、やや下方修正された一方、物価見通しが幾分上方修正された。ただし、日本銀行は、物価見通しの上振れを輸入物価の価格転嫁等の影響と説明しており、修正幅も小幅にとどまっている。2023年度以降は、2%の物価安定の目標を下回るという見通しは変わっていないため、先々の物価に対する見方が大きく変わったものではないと認識している。
 また、昨日の金融政策決定会合では、金融政策の現状維持が決定され、昨年12月に見直された長期金利の変動幅は、「±0.5%程度」に維持することが示された。声明文には、日本銀行が「大規模な国債買入れを継続するとともに」と新たに記載され、引き続き大規模な国債購入のもとで、イールドカーブ・コントロールを維持、継続する姿勢が強調されたほか、金融調節の円滑化を図る観点から、共通担保資金供給オペが拡充されたと承知している。
 金融政策の先行きについては、2%の物価安定目標に向けて、賃金上昇を伴うかたちでの持続的、安定的な物価上昇を展望できる局面が訪れれば、日本銀行はいずれかの段階で出口戦略を進めていくことになると思う。これまで実施してきた量的緩和、マイナス金利政策、イールドカーブ・コントロール、ETF購入など、金融緩和政策の各メニューについて、適正な水準に調整していく際には、金融・資本市場のボラティリティが高まることも想定される。そうしたリスクをできる限り低減させるためにも、政策の予見性を高めるフォワードガイダンスをはじめ、市場との十分な対話などを行いながら、引き続き、金融市場が健全に機能するよう、日本銀行が適切に決定・判断することを期待している。


(問)
 最近、政府と日本銀行が2013年に結んだ共同声明の見直しについて報道されているが、どのように受け止めているか。特に物価上昇目標2%のところと、それを早期に実現すると明記しているところについて、これらを見直す案が出てきているが、この議論についてどう思っているか、見解を教えていただきたい。
(答)
 こちらも日本銀行の専管事項であり、全銀協会長としてコメントすることは適切ではないため、あくまで個人の見解として可能な範囲でお答えする。
 本件について、日本銀行の黒田総裁は、昨年12月の金融政策決定会合後の記者会見で、共同声明の修正の必要性について聞かれた際、「現時点で共同声明を見直す必要があるとは考えていない」と回答している。また、岸田総理より、共同声明を見直すかどうかも含め、次期日本銀行総裁と話をする必要がある旨の発言があったとの報道も認識している。
 物価上昇目標2%と、その早期実現についての記載を含め、共同声明の見直しがなされるかどうかはともかく、共同声明が目指すデフレ脱却と経済成長に向けて、政府の経済政策と日本銀行の金融政策が相互に連携され、適切に運営されることを期待している。
 なかでも、金融政策については、日本銀行における内外経済・金融環境の慎重な分析と、それにもとづく適切な目標設定をもとに、政策効果と副作用のバランスが取れた政策運営がなされることが重要である。こうしたことを念頭に、日本銀行が政策の予見性を高めるフォワードガイダンスを含め、市場と十分に対話しつつ、引き続き、金融市場が健全に機能するよう、適切な政策運営を進めていただくことを期待している。


(問)
 日本銀行の金融政策について、仮定の話だが、今後マイナス金利が解除された場合の影響について伺いたい。住宅ローンや企業の資金繰りへの影響が大きいかと思うが、債務不履行が増加する可能性があるかなど、どのような影響が考えられるか教えていただきたい。
(答)
 金融政策は、日本銀行の専管事項であり、かつ、仮定の話について、全銀協会長としてコメントすることは適切ではないため、あくまで一般論としてコメントさせていただく。
 仮にマイナス金利が解除されれば、日本銀行の政策金利の引上げ影響を受けやすい変動金利の上昇に繋がり、それに伴い、住宅ローンや企業向け貸出の適用金利の上昇に繋がる可能性がある。
 それによる元利金の返済や資金繰りについては、金利以外の外部環境の変化も含め、お客さまの資産・財務状況やビジネスの状況により異なると考えられるため、お客さまの状況把握に努めていく必要があると考えている。
 いずれにしても、金利を含め環境変化を注視しつつ、個人・法人のお客さまへの影響把握に努め、引き続きお客さまに寄り添った丁寧な対応を行って参りたい。


(問)
 2点お願いする。1点目は、先ほど発表があったマネロン対策共同機構の設立に関して、今後、サービス開始に向けたスケジュールや課題をどのように認識しているか教えてほしい。2点目は、今年はわが国で銀行が設立されて150年の節目ということになるが、銀行界を代表して一言お願いしたい。
(答)
 1点目はAML共同機構の話だが、昨年10月の会見の場で申しあげたとおり、今般、1月6日付で、全銀協100%出資によって「株式会社マネー・ローンダリング対策共同機構」を設立した。
 「業務高度化支援」、「AIスコアリング機能」の各サービスの準備を進め、2024年春以降、段階的に提供を開始していく予定である。
 サービス利用予定については、昨年11月から12月にかけて、全銀協正会員114行向けにAIスコアリング機能に関する「利用意向調査」を実施しており、地銀・第二地銀を中心に、多数の銀行より利用意向の声を頂戴している。こうした各行からの大きな期待に応え、わが国全体のAML/CFT態勢の底上げに貢献すべく、しっかりと準備を進めて参りたい。
 また、先の臨時国会で成立した補正予算において、「AIを活用したマネー・ローンダリング対策高度化推進事業」として、6.2億円の補助金が創設され、1月16日に金融庁のホームページで補助金の交付要綱等が公表されたと認識している。これは、わが国におけるAML/CFT態勢の強化・高度化を後押しするものであり、全銀協としても歓迎している。
 全銀協の共同機構は、「AIスコアリングサービス」を通じて参加行の取引モニタリング等の業務高度化・実効性向上を目指しており、同事業が対象とする補助金の支給要件や公募の申請・承認プロセス等を踏まえ、今後、申請を検討して参りたい。
 2点目は150年の節目ということであるが、渋沢栄一氏が1873年に日本最初の銀行である第一国立銀行を設立して、今年が150年にあたる。
 当時は、銀行の役割も国民の皆さまに認知されていなかったため、渋沢氏は、銀行の役割について、「そもそも銀行は大きな川のようなものだ。」と、銀行を川に例えて説明し、「銀行に資金を集め、それを必要な箇所に流していく。銀行が機能することで、国家が繁栄する。」と、説いたとされている。
 また、「皆の資金を集めるには、銀行が信用たる機関であることが大前提」と、銀行に対するお客さまからの普遍的な期待である「信用」の必要性を説き、加えて、銀行の果たすべき義務として、公開性・透明性にもこだわったとされている。
 この150年前の渋沢氏の想いを受け継いで、銀行界は、お客さまとともに歩み、日本経済の発展に貢献してきたと思っている。
 昨年7月の会長記者会見において、私は、お客さまからの「信頼・信用」の根源となる「安心・安全」の確保を、銀行の普遍的な役割と認識のうえ、日本経済を成長軌道に乗せていく支え手として、その責務をしっかりと果たすことが極めて重要と申しあげた。また、その責務を果たすため、銀行界が諸課題に向き合い自ら挑戦していくことこそが、今年度の最大のテーマであるとも申しあげた。
 こうした考えは150年来変わらないものであり、将来に亘っての「礎」となる理念として大切にしたいと思っている。
 大きな節目の年を迎え、銀行界の諸先輩方が築いてきた理念に改めて思いを致しつつ、これからも、お客さまとともに成長し、日本経済の発展に最大限貢献するべく、決意を新たにしたところである。


(問)
 日本銀行の金融政策が銀行収益に与える影響について、銀行収益に最も影響を与えるのは、短期の政策金利であって、イールドカーブ・コントロールはなく、マイナス金利の撤廃がもっとも直接的に影響を与えるとお考えか。
(答)
 本業に関するご質問だが、金融政策の変更による銀行への影響は、一概に申しあげることは難しい。ただ、一般論として少しお話しさせていただくと、仮に国内金利が上昇した場合、これは長期も含めてだが、金利リスク量が大きい金融機関では債券の評価損益が一時的に悪化する。日本銀行が昨年10月に公表した金融システムレポートでは、銀行が高利回り債の償還に伴う利息の減少を補う目的から、これまで保有債券のデュレーションを長期化させていることが指摘されている。加えて、海外での金利上昇を受け、円債の価格変動リスクが超長期ゾーンを中心に上昇しており、これらを踏まえ、銀行における金利リスクの拡大を指摘する報道もあると理解している。
 一方、保有銘柄の入替え、また日本銀行の当座預金から国債への切替えによって、利回り上昇を見込めるほか、景気回復を受けた金利上昇であれば、中長期的には貸出金利の上昇も期待できるなど、やはり長期的に見ればプラスの影響も大きいと認識している。したがって、短期に限らず金利が動けば、少し長めで見ると、プラスの影響も大きいと思っている。
 今後もインフレ動向、各国金融政策、グローバル景気の減速、地政学リスクなどの動向を受けた金利動向を注視する必要があり、収益に加え、預貸を含めたバランスシート全体への影響を、銀行経営としてはしっかり見ていく必要があると考えている。


(問)
 賃上げについて伺う。これから本格化する春闘を前に、政府から物価上昇を上回る賃上げをといった要請が出ており、各業界でも大企業を中心に前向きな姿勢を示したり、または、すでに大幅な賃上げを表明している企業も相次いでいる。銀行界として賃上げにどのように臨むのか、また現在、銀行界としてそもそも賃上げをできる環境なのかどうかの認識も教えていただきたい。
(答)
 先月の会見でも申しあげたが、賃上げは、各行の経営状況や経営戦略に則り決定されるものであり、銀行界として一律に対応するものではないため、あくまで一般論としてお答えする。
 賃上げは、政府が目指す「成長と分配の好循環」による経済の持続的な成長の観点はもとより、企業にとっても、お客さま・株主・社会と並んで大切なステークホルダーである従業員に還元することによって、自社の持続的成長につなげていくうえで、重要な経営判断であると理解している。また、従業員の賃金は、最終的には各行において労使間の協議を経て、いわゆる「賃金決定の大原則」に則り決定されるものであるが、足元の物価動向も十分に踏まえつつ、構造的な賃上げや継続的な処遇改善を実現していくために、各行が中長期的な目線で人的資本への投資を強化していくことが肝要である。
 賃上げができる経営環境かどうかは、各行の状況によって異なるが、個別行として、三菱UFJ銀行においては、一人ひとりの成果に応じた処遇を継続していくなかで、中長期的な処遇改善とインフレ対応の重要性を十分認識しており、そうした観点を踏まえ、労使協議に臨んでいく考えである。
 また、銀行界全体として、厳しい競争環境やサービスの転換を進める最中にあり、各行が持続的成長を実現するために、一時的な賃上げのみならず、中長期的な視点での事業構造改革とそれに伴うリスキルや能力開発など人的資本への投資全般が重要である。
 昨年9月に全銀協の行動憲章を改定したところであるが、多様性の確保に向けた制度構築や柔軟な働き方の確立、および、従業員の自律的キャリア形成に資する人材育成などを含め、銀行界全体で人材に関する取組みを進めていかなければならないと考えている。
 このような私の問題意識も踏まえ、本日の全銀協理事会の場において、人材に関する取組みとして、私の考えを大きく5点に整理して述べさせていただいたので、その内容について最後に付言させていただく。
 一つ目は、女性活躍のみならず、経験・価値観のダイバーシティを確立すること。
 二つ目は、一人ひとりの事情や環境に応じた柔軟な働き方を提供すること。
 三つ目は、継続的に従業員の能力開発に取り組むこと。
 四つ目は、円滑な労働移動に資する環境を整備すること。
 五つ目は、成果に応じて物価も踏まえた継続的な処遇改善を実現すること。
 これは銀行経営に携わる私の考えを示したものであり、具体的な実現方法は一律・一様ではないものの、各行がこうした点を踏まえて人材に関する取組みを進めてもらえることを期待するとともに、全銀協としても会員行の取組みの支援に努めて参りたい。


(問)
 1点目は、顧客本位の取組みについて。昨秋に、仕組債やファンドラップといった運用商品の販売状況を巡るアンケートを加盟行全行に送ったと思う。その集計や分析を終え、どのようなことが浮き彫りになったのか、今後の課題も含めて所見を伺いたい。
 2点目は、金融政策決定会合について。冒頭のコメントで言及があったが、昨日の決定のなかで、共通担保資金供給オペの拡充があった。イールドカーブの歪みを是正する目的だと認識しているが、金融調節の取組みについての受止めを教えてほしい。
(答)
 まず1点目は、フィデューシャリー・デューティーに関する詳細アンケートの結果と、そこから見えてきた課題ということだと思う。仕組債については商品性を細分化して確認したほか、お客さまの資産背景別の各商品の販売実績等を確認したところである。
 本アンケートは、会員行が自行の販売状況や販売態勢を全体の傾向と比較することで、自らの立ち位置の分析や今後の態勢見直し等に役立てる目的で実施したものである。取りまとめた結果から見えた傾向と各行共通の課題等について説明させていただければと思う。
 アンケートは正会員114行を対象に実施した。114行すべての回答が現在はそろっている。仕組債、ファンドラップ、外貨建て一時払い保険など、個人向けリスク商品について、「銀行での販売」、「証券会社への紹介」、「証券会社との共同店舗」、この三つの販売チャネルのいずれかで販売していると回答した銀行は、仕組債が89行、ファンドラップが41行、外貨建て一時払い保険が109行であった。
 仕組債について、販売チャネル別に主な取扱い商品の傾向を見ると、銀行での販売は株価指数連動型の仕組債が多く、証券会社への紹介や証券会社との共同店舗による販売はEB債が多かった。また、資産背景による傾向として、EB債は保有資産が大きい顧客への販売額が大きく、為替連動型、株価指数連動型の仕組債は、幅広い資産背景のお客さまに販売されているということがわかった。
 苦情件数については、個人向けリスク商品全体の苦情件数は、2017年度から2019年度にかけて増加しているが、それ以降2021年度にかけて減少している。これは相場動向や商品特性等によることが想定されるが、一概に評価することは難しいのではないかと思う。なお、個別の商品において、苦情の構成比が大きく増加するような事象は見られていない。
 仕組債の苦情は、一定の資産規模、投資経験を有するお客さまからもあった。また、比較的リスク・リターン志向が高いお客さまからも寄せられているとの回答もある。具体的な内容としては、元本割れとなったことへの苦情のほか、損失の大きさが想定よりも大きかったこと、当該損失リスクに係る説明が不足していたこと、販売後のアフターフォロー不足への苦情などであった。
 営業職員に対する業績評価については、お客さまの預り資産増加額で評価する銀行や、お客さまからの評価やアフターフォローの実施を業績評価項目に加える銀行があるなど、さまざまな工夫が見られた。
 また、アンケート結果では、例えば仕組債を販売している89行のうち、85行で販売態勢の見直しが行われていることがわかった。今後各行において、今回のアンケート分析の結果を商品性と顧客選定における検討、検証プロセスの高度化に役立てていただきたいと考えている。
 今般、顧客本位タスクフォースにおいて、金融事業者が顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図ることを目指し、フィデューシャリー・デューティー原則の法制化の方向性が示された。また、自主規制機関である日本証券業協会においても、仕組債のガイドラインを策定する予定であると承知している。
 全銀協としては、会員行が法制化やガイドラインの趣旨も踏まえ、自律的に販売態勢の適正化を図れるよう、こうしたアンケートなども通じて引き続きサポートして参りたい。
 2点目の共通担保資金供給オペの件は、金融政策は日本銀行の専管事項であるので、あくまで個人の見解としてお答えさせていただく。
 昨日の金融政策決定会合では、金融政策の現状維持が決定され、昨年12月に見直された長期金利の変動幅を引き続き「±0.5%程度」に維持することが示された。その声明文のなかで、日本銀行が「大規模な国債買入れを継続するとともに」と新たに記載され、引き続き大規模な国債購入のもとでイールドカーブ・コントロールを継続する姿勢が強調されたということに加えて、金融調節の円滑化を図る観点から、ご指摘の共通担保資金供給オペが拡充されたと承知している。
 共通担保資金供給オペについては、固定金利方式は貸付利率を0%から、貸付期間ごとの国債の市場実勢相場を踏まえ、貸出ごとに決定するように改められ、金利入札方式は貸付期間の上限を1年から10年に延ばしたと認識している。
 今回の緩和により、オペを活用した金融機関がスワップ取引などの裁定取引を行うことを通じて、現物国債の需給に直接的な影響を与えることなく、市場金利に対して抑制効果が波及する可能性があると考えられる。実際に来週以降どのようにオペが行われていくのか、今後注視していきたいと思う。


(問)
 日本銀行がCBDCの検討のため、民間金融機関と実証実験を近く行うとの話が出ているが、準備や検討状況について教えていただきたい。また、CBDCに対する課題認識や期待も教えていただきたい。
 もう1点、日本銀行の次期総裁人事が迫っているが、新たな総裁への期待を伺いたい。
(答)
 まずCBDCについてだが、国内外において、中銀デジタル通貨、いわゆるCBDCの議論が引き続き活発に行われている。
 デジタルユーロについては、この秋にも、実現に向けて技術面・ビジネス面の検討を行う「実現フェーズ」の開始を判断し、発行の判断を2026年秋頃に行う想定で検討が進んでいる。先行するデジタルユーロの動向は注視すべきと考えている。
 また、米国ではニューヨーク連銀と民間銀行・マスターカード等が実証実験を開始し、欧州でもECBとアマゾンを含む複数の会社がプロトタイプ開発を進めるなど、海外において、官民が協働した検証・実験ステージに進みつつあると認識している。他方、昨年末には、先行する中国のデジタル人民元について、その有用性に関する懸念の報道もあったが、改めてユースケースをよく考える必要性も認識したところである。
 一方、わが国においては、昨年11月のCBDC連絡協議会では具体的なことは示されておらず、現時点でも決定したことはないと認識しているが、パイロット実験を実施することが決定されれば、銀行界としても協力して参りたい。
 期待という点では、一般利用型のCBDCは、現金やデジタルマネーが利用されている小口決済の領域において、個人・法人を含む幅広いユーザーの利用を想定しており、経済活動や金融システムのあり方が変化することが予想される。また、資金決済の手段が、預金やデジタルマネーから、CBDCに置き換わっていくと、革新的な決済サービスが生み出されることも期待され、銀行が仲介業者として、CBDCのインフラ部分にどのようなかたちで関与できるかは関心が高いところである。
 課題という点では、銀行経営の観点では、CBDCの設計次第であるが、金融ショック時の「デジタル・バンク・ラン」と呼ばれる、預金からの資金シフトが大規模に生じた場合に、金融機関のバランスシート構造が変化し、信用創造や金融仲介機能のあり方にも変化が生じる可能性がある。
 CBDCについては、必要性・意義やコスト負担・信用創造機能の維持などの論点も踏まえ、海外の取組みも参考に、民間サービスとの共存のあり方について官民でコンセンサスを得て議論を進めるべきと考えている。そのほかにも、日本銀行が、昨年5月に公表したCBDC連絡協議会の中間整理で示したとおり、多岐にわたる課題や論点があり、これらの検討には、銀行界も主体的に関わり、意見発信を行って参りたい。
 次に、次期総裁への期待についてのご質問だが、繰り返しになるが、2%の物価安定目標に向けて、賃金上昇を伴うかたちでの持続的・安定的な物価上昇を展望できる局面が訪れれば、日本銀行はいずれかの段階で出口戦略を進めていくことになると思う。これまで実施してきた金融緩和政策の各メニューについて、適正な水準に調整していく際には、金融・資本市場のボラティリティが高まることも想定される。そうしたリスクをできる限り低減させるためにも、次期総裁におかれては、政策の予見性を高めるフォワードガイダンスを含めた市場との対話を行いながら、金融市場が健全に機能するよう、適切な政策運営を進めていただくことを期待している。


(問)
 融資に対する経営者保証について伺う。金融庁が監督指針を改正し、民間や政府系の金融機関に対し、安易に経営者保証をつける商習慣を見直すよう求める方針を示した。経営者保証に依存しない商習慣の確立について、どのように考えるか。
 もう1点は、冒頭発表があったスタートアップ支援に関して、全銀協として申し合わせを行ったとのことだが、今後銀行界としてスタートアップ支援にどのように取り組んでいく考えか、具体的に教えてほしい。
(答)
 経営者保証に関するご質問だが、2022年12月23日に、各省庁連名で「スタートアップ・創業」、「民間融資」、「信用保証付融資」、「中小企業のガバナンス」の4分野に重点的に取り組む「経営者保証改革プログラム」が公表された。その一つとして、民間融資について、金融庁監督指針が改正され、安易な経営者保証に依存した融資を抑制するとの方針が示されたものと理解している。
 併せて、政府から民間金融機関に向け、保証契約締結時における保証契約の必要性等の個別・具体的な説明、その結果の記録化、経営者保証に対する各行の取組方針等の公表が要請された。
 全銀協では、これまで、経営者保証に依存しない融資の促進を図るため、専門家や事業者団体・金融団体等で構成される研究会の共同事務局として「経営者保証に関するガイドライン」を制定のうえ、2014年に適用を開始し、ガイドラインに則った運用の浸透を図ってきた。
 本ガイドラインでは、「法人と経営者の資産・経理が明確に分離され、両者間の資金のやり取りが社会通念上、適切な範囲を超えない」、「法人のみの資産・収益力による借入返済が可能」、「財務情報の適時適切な開示」の各要件が将来に亘って充足すると見込まれる場合、金融機関は、経営者保証を求めない対応を検討すると定めている。
 一方、お客さまの置かれた状況は様々であることから、その検討にあたっては、先ほど申しあげた各要件に対し、一律の定量的な基準を定めて、その充足を判断するものではない、というのが基本的な考え方であると認識している。したがって、ガイドラインに則って、保証契約の必要性や変更・解除の可能性を個別に検討し、丁寧かつ具体的に説明することとしている。
 なお、会員行における2021年度の新規融資に占める無保証融資の割合は約40%と、前年度の約34%から増加しており、近年、この比率は増加トレンドにある。これは、本ガイドラインの周知・利用が進んでいることもあるが、ガイドラインで求めている要件を充足する企業が増えてきた証左とも言える。
 今般の監督指針の改正により、ガイドラインの基本理念や考え方の重要性が改めて示されたと理解している。また、政府の要請において、今般の監督指針改正が経営者保証の受入を制限するものではなく、むしろ、事業者への資金繰り支援に取り組むことが重要との考えも示されており、銀行界としては、こうした政府の方針を踏まえ、今後の取組みを検討していく必要がある。
 これまでも、会員各行には周知してきたが、引き続き、個々のお客さまの状況を良く把握したうえで、本ガイドラインおよび監督指針改正の趣旨に則って、お客さまに寄り添った丁寧な対応に努めるよう、会員各行に求めていきたい。
 もう1点は申し合わせの件だが、スタートアップは日本経済のダイナミズムと成長を促し、国際的な競争力を回復していく重要なファクターであり、その支援は社会全体として取り組むべき重要なテーマである。政府も、昨年11月に、スタートアップ育成5か年計画を取りまとめ、12月にはスタートアップに関して、個人保証に依存しない融資慣行の確立に向けた取組みを促進するよう、民間金融機関に対して要請を発出した。
 こうした状況も踏まえ、銀行界として、スタートアップ支援への取組み強化を共通認識とするため、本日の全銀協理事会において、「スタートアップ支援に関する申し合わせ」を実施した。
 申し合わせでは、スタートアップが、早期に強固な財務基盤を確立することが困難であることを勘案し、事業価値や将来性を踏まえた、融資判断や経営者保証の要否検討などを行い、一層の支援強化に取り組むことを促している。
 また、融資による資金提供に止まらず、スタートアップの抱える経営課題に対応できるよう、出向等を通じた人材面でのサポートや、事業拡大に資するような銀行の取引基盤を活かしたビジネスマッチングに注力することにも触れている。
 個別行の事例となるが、三菱UFJ銀行では、アジアでスタートアップ向けデットファンドを立ち上げ、AIを活用した審査モデルで迅速に融資判断し、リスクに見合う金利で融資する実績を積み上げている。今後、日本での活用可能性を含めて検討し、資金支援に取り組んで参りたい。また、資金提供に止まらず、ビジネスマッチングや、出向による人材供給などにも既に取り組んでおり、グループ一体で、スタートアップの成長ステージに応じた多様な支援を、今後一層強化していく考えである。
 銀行界全体としても、多角的な支援を実現していきたいと考えている。そのために、事業成長担保権といった新たな選択肢の創設とともに、ベンチャー・キャピタル等を運営する子会社、いわゆる、投資専門子会社を通じて出資する際の制限をさらに緩和するなど、スタートアップ支援の環境が、より整備・拡充されることを期待している。


(問)
 冒頭にも少し触れられていたが、昨年11月頃から為替が円高方向に動いている。足元の為替環境が銀行の収益、財務に与える影響について教えてほしい。
(答)
 為替の変動が銀行収益に与える影響は、プラス・マイナス両面あり、各行によって状況が異なるため、一概には申しあげにくいが、一般論として申しあげる。
 まず、円高の進行によって、収益面において、円貨で認識した際の外貨建て収益が減少することは間違いない。一方、外貨建てで調達しているケース等においては、反対に支払利息の円貨額が減少し、収益を底上げする側面もある。また、短期的には、企業が円貨資金を外貨にするなどの為替取引や為替ヘッジニーズの増加による手数料ビジネスのプラス、また、外貨預金の増加による資金利益の増加につながる可能性もある。
 次に財務面では、バランスシートについて、外貨建て資産の円換算額が減少することで、リスクアセットの減少要因になる。一方、海外子会社の出資持分の含み損益を示す為替換算調整勘定の減少を通じて、自己資本の減少要因にもなる。これにより、自己資本比率への影響としては、分子分母で相殺される構造にある。
 また、為替の影響には、銀行への直接的な影響のみならず、取引先企業への影響を通じた間接的な影響も考えられる。過度な円高や円安、または急激な為替変動は、企業の業績に対し悪影響を与え、それに伴う業績悪化は、与信費用や不良債権の増加といったかたちで銀行にも影響し得る。
 足元の為替環境によるお客さまへの影響は、業種や企業によって異なるものの、お客さまの事業に対する影響を丁寧に見極め、支援していくことが、今、私どもに求められていると考えている。