2023年2月16日

半沢会長記者会見(三菱UFJ銀行頭取)

辻専務理事報告

 事務局から4点ご報告する。
 1点目は、本日の理事会において、お手元の資料のとおり、中小企業金融等への取組みについて申し合わせを実施した。これは、長期にわたるコロナ禍、エネルギー価格の高騰、物価高騰により中小企業等にとって厳しい経営環境が続いていることや、民間金融機関によるゼロゼロ融資について、今後、一層多くの企業で返済が始まる見込みとなっていること等を踏まえ、年度末に向け、改めて金融仲介機能の発揮に全力をあげて取り組むことを申し合わせたものである。
 2点目は、お手元の資料のとおり、1月30日に、脱炭素経営に向けた対話促進支援ガイド「脱炭素経営に向けたはじめの一歩」を公表した。これは、事業者の方々における脱炭素経営の一助となることを目指し、全国地方銀行協会および第二地方銀行協会と共同で取りまとめたものである。
 3点目は、本日の理事会において、お手元の資料のとおり、「カーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアティブ2023」を取りまとめ、公表した。これは、全銀協イニシアティブを策定した2021年12月以降の活動内容を振り返るとともに、国内外の最新の動向を反映したものである。2点目の「脱炭素経営に向けたはじめの一歩」の利活用など、引き続き、事業者の方々と会員銀行の円滑なエンゲージメントに向けた環境整備等に努めていく。
 4点目は、お手元の資料のとおり、2月1日に、株式会社SCRAPのリアル脱出ゲームとタイアップし、金融経済教育特設サイトを公開した。これは、SCRAP監修の謎解き(リアル脱出ゲーム)を通じて、基礎的な家計管理から資産形成、多重債務の防止等に至るまで、人生に役立つ金融リテラシーを身につけることができるものである。是非ともチャレンジいただきたい。

 

会長記者会見の模様


(問)
 2点伺う。1点目は日本銀行の総裁人事の関係だが、2月14日、経済学者の植田和男氏が新たに総裁に就任する案が国会に提示された。植田氏は、「現状では金融緩和の継続が必要だ」と言及されているが、今後、日本銀行の出口戦略の議論なども含めてどのように受け止めているかお聞きしたい。
 また、今回総裁になる植田氏について、日本銀行や財務省の出身ではない経済学者が総裁になるのは非常に異例なことだと思うが、この点についての受止めを含めて、期待や取り組んでほしいことを伺いたい。
 2点目は、大手銀行の第3四半期決算の受止めと、銀行界の足元の収益環境についての認識を伺いたい。
(答)
 1点目の日本銀行総裁人事であるが、金融政策は日本銀行の専管事項であり、全銀協会長としてのコメントは適切ではないため、個人の見解としてお答えする。
 日本銀行総裁・副総裁の後任人事については、植田氏を総裁、内田氏と氷見野氏を副総裁とする人事案が2月14日に国会に提示され、今後、衆参両院の本会議で承認されれば、内閣から総裁・副総裁として任命されると認識している。
 植田氏は、任命されれば戦後初の学者出身の総裁となるが、過去に日本銀行の審議委員も務められるなど、実務経験も豊富な、日本を代表する経済・金融政策の専門家の一人と認識している。また、副総裁には、これまでの金融政策を日本銀行の理事・企画局長として支えてこられた内田氏と、金融庁長官として国際的に活躍され、金融業界に熟知された氷見野氏が後任人事案として提示されており、バランスの取れた陣容と受け止めている。
 金融緩和に関しては、これまでの会見でも申しあげてきたが、デフレ的な状況から抜け出したという意味で、一定の効果があったと考えている。もっとも、日本の消費者物価指数は、昨年12月に前年比+4.0%まで上昇したものの、足元の金融政策への対応状況を踏まえると、日本銀行は、持続的かつ安定的ではないという観点で、いまだ目標に達していないと判断しているものと理解している。
 植田氏が、「現状では金融緩和の継続が必要」と発言されたとの報道があることは承知しているが、現時点では、2%の物価安定目標が達成されたとは言えないとの認識を受けた発言と理解している。
 一方、異次元緩和が継続されるなかで、イールドカーブが歪むなど、市場では一部機能の低下が見られている。また、金融機関にとっても、預貸金利鞘の縮小、運用環境の悪化など、収益に相応のマイナスインパクトがあったことは事実である。
 今後、賃金上昇を伴うかたちで、持続的・安定的な物価上昇を展望できる局面が訪れれば、日本銀行は、いずれかの段階で大規模金融緩和の出口戦略を進めることになると思う。
 これまで実施してきた金融緩和政策について、適正な水準に調整していく際には、金融・資本市場のボラティリティが高まることも想定される。そうしたリスクをできる限り低減させるためにも、政策の予見性を高めるフォワードガイダンスをはじめ、市場との十分な対話などを行いながら、金融市場が健全に機能するよう、新たな布陣のもとで日本銀行が適切に決定・判断することを期待している。
 2点目は、大手銀行の第3四半期決算の受止め、足元の収益環境である。
 2022年度第3四半期の3メガバンクの決算については、米国を中心とした海外での金利上昇および日本の長期金利の上昇を受け、多額の債券関係損失を計上したものの、本業収益力の回復により、総じて堅調な決算だったと受け止めている。
 資源高騰による仕入価格上昇の影響を受けたお客さまへの資金繰り支援や、コロナ禍を受けて手控えていた設備投資を再開するお客さまへの支援等による貸出の増加、また、海外金利上昇による貸出利鞘の改善が資金利益の拡大に繋がったほか、手数料収入にあたる役務取引等利益も増加するなど、本業の収益が回復した。三菱UFJフィナンシャル・グループにおける海外子会社売却の一時的な影響を除けば、3メガ全体で与信費用は減少し、実質的に最終増益であった。
 有価証券の運用について、外債に関しては、グローバルの金融環境が依然不透明であるため留意が必要だが、足元、海外の金利上昇には一服感がある。他方、ここ1~2ヶ月ほどは、円金利の動向に注目が集まっており、円債利回りにさらなる動きがある場合には、その影響を注視する必要がある。
 先行きについては、経済の動向などに不透明感があり、見通すことは難しい状況にある。引き続き、マクロ経済の動向や、各国の金融政策、金融市場の動向などを注視していく必要があると考えている。


(問)
 黒田総裁の任期が本年4月までとなっている。任期中には、デフレ的な状況を抜け出したという評価がある一方、副作用もさまざま指摘されているかと思う。改めて銀行界として黒田総裁の10年間の政策をどのように評価しているか。
(答)
 金融政策は日本銀行の専管事項であることから、個人の見解としてお答えする。
 黒田総裁は2023年4月8日に任期を迎える予定である。2013年3月20日の就任から数えると、およそ10年の在任期間となる。
 その間、2%の物価安定目標をできるだけ早期に達成することを目指し、量的・質的金融緩和に始まり、マイナス金利政策やイールドカーブ・コントロール、オーバーシュート型コミットメントなど、数多くの政策を導入されてきたと思う。
 その結果、先ほども申しあげたが、デフレ的な状況から抜け出したという意味で、これまでの金融緩和は一定の効果があったと考えている。
 一方、異次元緩和が継続されるなかでイールドカーブが歪むなど、市場では一部機能の低下が見られている。また、金融機関にとっても、預貸金利鞘の縮小、運用環境の悪化など、収益に相応のマイナスインパクトがあったことも事実である。
 金融政策のあり方については、日本銀行において、内外経済・金融環境の慎重な分析がなされ、それにもとづく適切な目標のもとで、政策効果と副作用のバランスが取れた政策運営が実行されることが重要と考えている。
 今後、金融緩和政策について、適正な水準に調整していく際には、市場との十分な対話などを行いながら、金融市場が健全に機能するよう、新総裁のもとで日本銀行が適切に決定・判断することを期待している。


(問)
 いずれ金利が戻ってくるとした場合、銀行にとって、再び預貸業務が収益の柱になるのか、それとも社会的な構造の変化や銀行の収益構造の変化によって、必ずしも金利が戻ったときに、銀行の経営は昔と同じような状況にはならないと見ているのか。
(答)
 金融政策の変更が銀行の収益に与える影響は、各行の収益構造によって濃淡があり、何を収益の柱とするかは各行の経営戦略によって異なるので一概には申しあげにくい。一方で、低金利環境が長期化するなか、預貸金利鞘の縮小が続き、資金収益が減少傾向をたどってきたことはご承知のとおりである。
 そうしたなか、今後、政策金利が上昇した場合、上昇幅にもよるが、利鞘の改善により、預貸業務の収益への貢献度がある程度高まってくることは想定される。もっとも、構造的な民間部門の資金余剰という環境のなか、お客さまのニーズは、人手不足や後継者不在といった経営課題、またデジタライゼーションへの対応など、多岐にわたっている。したがって、預貸を中心とした従来のビジネス領域を超えたサービスやアドバイスを提供していくことが求められていると理解している。
 2021年11月に施行された改正銀行法では、銀行が創意工夫を凝らし、さまざまなサービス提供が可能となるよう、業務範囲規制が大きく緩和された。すでに新たなビジネスを模索する取組みが拡大している。いくつか例を申しあげれば、保有する情報を活用し、利用者ニーズに合ったさまざまな商品・サービスをマッチングする広告事業や、人材のミスマッチ解消のために行う登録型の人材派遣業務などに参入する動きもある。
 総括すると、預貸業務は銀行業の根幹であり、重要な収益源であることに変わりはないが、今後は収益源の多様化に向けた取組みが重要になる。人・物・情報など、銀行グループのリソースを総動員し、ニーズに即したサービスを提供することで、お客さまや社会課題の解決に貢献するとともに、銀行グループ自身の持続可能なビジネスモデルの確立に繋げていくことが求められていると思っている。


(問)
 2点お伺いする。1点目は、日本銀行の政策修正による金利上昇傾向に伴い、住宅ローン金利の引上げや企業の調達コストの増加といった懸念について、考えを伺いたい。
 2点目は、政府から物価上昇を上回る賃上げが求められていることについて、各業界で賃上げに前向きな姿勢を既に示している企業も出てきており、一部の大手金融機関では初任給を引き上げる動きもあるが、銀行界としてどのように臨まれるか、伺いたい。
(答)
 1点目は、日本銀行の政策修正による金利上昇傾向に伴ったさまざまな影響、懸念というご質問だと思う。日本銀行が昨年12月にイールドカーブ・コントロールの一部運用を見直し、長期金利の変動幅が従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大したことによって、長期金利の上昇に繋がったと認識している。
 個人向け住宅ローンについては、1月以降、複数の銀行で、事業戦略も踏まえ、短期金利に連動する変動金利は据え置きつつ、長期金利の上昇に合わせて、10年物固定金利を中心に長期固定金利の見直しを実施していると理解している。
 個人のお客さまにとっては、足元では多くのお客さまが選択されている変動金利に影響が出ていない状況であるが、今後については、将来の金利上昇に備えたいお客さまによる固定金利での借入ニーズが高まる可能性もあると思う。銀行にとっても、今後さらに金利が上昇した場合の返済負担への影響を確認することが重要になってくる。
 また、企業向けの貸出も同様に、中長期の固定金利の貸出に適用される金利が上昇している。お客さまにとって、今後、新規で中長期の借入を行う場合、金利の上昇により、従前よりも支払利息の負担が大きくなり、収益に影響を及ぼす可能性もある。銀行としても、お客さまの資金調達の計画、また、中長期的なキャッシュフローなどへの影響を確認していく必要があると考えている。
 このように、個人・法人ともに、何らかの影響が想定されるが、銀行界としてはお客さまの資産・財務状況を踏まえつつ、ニーズに即した提案・サービスを提供していくことが重要と考えている。引き続き、日本銀行の金融政策や金利動向を注視しながら、お客さまに寄り添った丁寧な対応を行って参りたい。
 2点目は、賃上げに関するご質問であるが、賃上げや初任給などの処遇については、各行の経営状況や採用戦略に則り決定されるものであり、銀行界一律で対応するものではないため、あくまで一般論としてお答えさせていただく。
 先月の会見でも申しあげたとおり、賃上げは経済の持続的な成長の観点はもとより、私ども企業にとっても、大切なステークホルダーである従業員に還元することによって、自社の持続的成長に繋げていくうえで重要な経営判断である。
 従業員の賃金は、最終的には各銀行において労使間の協議を経て、いわゆる「賃金決定の大原則」に則り決定されるものであるが、足元の物価動向を十分に踏まえつつ、構造的な賃上げや継続的な処遇改善を実現していくため、各銀行が中長期的な目線で人的資本への投資を強化していくことが肝要である。
 一部の大手金融機関で初任給を引き上げる動きがあることは承知しているが、企業にとって、初任給をはじめ、他社・他業界と比較して魅力ある処遇を提供することは、人材確保の観点からも重要な事項である。銀行界では、デジタル化の進展に伴い、業務が高度化し、大きく変化していることから、多様な魅力ある人材を継続して採用することが経営戦略上、重要となっている。こうした環境認識を踏まえて、初任給を含めた採用戦略や制度の見直しを行っているものと受け止めている。
 また、人材確保という意味では、事業戦略に合わせた最適な人材ポートフォリオの構築や多様性確保の観点から、新卒採用だけではなく、キャリア採用の重要性も高まっており、処遇を含めた人事制度・運用全体の見直しも、併せて必要になっている。さらに、採用だけではなく、その後の取組みとして、人材育成についても一人ひとりの専門性向上や能力開発をサポートし、付加価値の高いサービス提供に繋げていくことが重要である。
 こうした考え方は、先月の会見で、人材への取組みに関して、私が重要と考える事項としてお伝えした5つの考えにも通じるものと受け止めている。
 繰り返しになるが、1点目は経験・価値観のダイバーシティの確立、2点目は柔軟な働き方の提供、3点目は継続的な従業員の能力開発である。これら3点は、昨年改定した全銀協の行動憲章に則った内容である。さらに4点目として、円滑な労働移動に資する環境の整備、そして5点目として、成果に応じた物価も踏まえた継続的な処遇改善、を加えた5つの考え方をお示しした。
 こうした点も踏まえて、銀行界全体で、賃上げや初任給をはじめとする処遇を含めた人材に関する取組みが一層促進されるよう、会員行の取組みを支援して参りたい。


(問)
 日本銀行の金融政策に関連して、先月末ごろ、令和国民会議(令和臨調)で日本銀行が目標としている2%の物価上昇の達成時期を含めて、見直しを行うよう提言があった。この提言についての受止めを伺いたい。
(答)
 繰り返しとなるが、あくまで金融政策は日本銀行の専管事項なので、個人の見解としてお答えする。
 2013年に政府と日本銀行が2%の物価上昇目標をできるだけ早期に実現する、という共同声明を出し、これまで日本銀行は、それにもとづいて金融政策を運営してきた。いわゆる令和臨調は、1月末に、これまでの金融政策による副作用を踏まえ、過去10年の政策効果を検証し、政府・日本銀行が新たな共同声明を出すよう提言を行ったと理解している。
 その具体的な内容として、物価上昇目標2%を長期的な目標とすることなどが提案されている。こうした提言に対して、政府・鈴木財務大臣は、「新しい日本銀行総裁が決まっていない現時点で言及するのは時期尚早」としたうえで、「賃金上昇の重要性については政府・日本銀行において十分認識している」と発言されたと承知している。
 実際に共同声明の見直しがなされるかどうかはわからないが、令和臨調が提示した論点、すなわち、安定した物価上昇を伴う持続的な経済成長や、財政の中長期的な持続可能性の確保に向けて、政府の成長戦略・構造改革の取組みと日本銀行の金融政策が相互に連携されることが重要と考えている。
 なかでも、金融政策については、日本銀行における内外経済・金融環境の慎重な分析、それにもとづく適切な目標設定をもとに、政策効果と副作用のバランスの取れた政策運営がなされることが肝要である。こうしたことを念頭に、日本銀行が政策の予見性を高めるフォワードガイダンスを含め、市場と十分に対話しつつ、金融市場が健全に機能するよう、適切に政策運営を進めていただくことを期待している。


(問)
 1点目は給与のデジタル払いについて、2023年4月に資金移動業者の口座への賃金支払いが解禁される予定になっているが、銀行界としてはどのように捉えているか。また、給与のデジタル払いをどう活用していくかなど、銀行界のビジネスへの影響も伺いたい。
 2点目は、地方税納付書へのQRコードの印刷も同じく4月に迫っているが、銀行界の準備状況や、この制度に期待することについて伺いたい。
(答)
 資金移動業者の口座への賃金の支払いについては、労働政策審議会の労働条件分科会において、多くの議論がなされたうえで、2023年4月に施行予定である。制度の詳細として資金移動業者向けガイドライン案が示されており、銀行界からの意見についても、一定程度反映されたものと認識している。ただし、賃金のように、必ずしも為替取引を目的としない資金が滞留する場合の取扱いについては、実態を踏まえ、今後も議論を継続していく必要があるのではないかと考えている。
 銀行界のビジネスへの影響について質問をいただいたが、銀行界では、長年の不断の努力により、労働者と企業の皆さまに安心して利用いただけるよう、業態を超えたインフラ構築とサービス提供に努めてきた。
 例えば、賃金がATM等で簡単に現金化できるようにATMネットワークを維持してきており、加えて、自社経済圏だけではなく、他の銀行の口座にも送金でき、さらには銀行以外の業態にも垣根を越えて送金できるよう、相互運用性も確保している。また、預金口座への給与振込を起点に、預金や決済のみならず資産運用や住宅ローンなど、個人のお客さまとの多岐にわたる取引関係を築いてきた。
 今後、実際に参入する業者の数にもよるが、賃金の受取りの一部を銀行から資金移動業者へとシフトさせたいお客さまが出てくる可能性はあると思う。一方で、各行の戦略にもとづき、すでに資金移動業者とさまざまな協業が行われており、この賃金支払いにおいても、労働者や雇用主の企業向けにサービスを提供するために、連携が進むこともあり得ると現時点では考えている。
 銀行界としては、賃金支払いの一翼を担ってきた業界として、引き続きお客さまの安心・安全と利便性を維持できるよう、貢献して参りたい。
 2点目の、QRコード印刷が4月に迫るなかでの準備状況についてだが、銀行界では社会のデジタル化に貢献すべく、税・公金収納の効率化に積極的に取り組んでいる。なかでもQRコードを活用した納付の仕組みは、納税者の利便性の向上のみならず、自治体と金融機関の事務の効率化、DX推進にも繋がるため、社会全体のコスト削減を実現する施策として業界を挙げて推進しているところである。
 これまで全銀協は、長年にわたり、税・公金収納業務の電子化に関する提言を続けてきたが、行政手続きのデジタル化に向けた機運の高まりもあり、2021年3月、総務省が、2023年度から全ての自治体で納付書にQRコードを印字する方針を決定した。
 4月の開始まであと2ヶ月を切ったが、直近の「地方税統一QRコードの活用に係る検討会」では、地方団体、金融機関、地方税共同機構それぞれが、予定どおり準備を進めていることが示されている。各金融機関では、指定金融機関を務める地方団体と読取テストを実施しており、そのなかで見い出された課題を一つ一つ潰し込む作業を進めている。現在も各金融機関がeLTAXとの連動試験を実施するなどの準備を進めており、4月の運用開始に向けてしっかりと対応して参りたい。
 なお、制度開始の時点では、QRコード印字が必須とされるのは、固定資産税等の4税目に限られる。4税目以外の地方税目のほか、歳入金や、地方自治体の国民健康保険料等の地方公金、いわゆる「料金」等に関してもQRコードが印字されるよう、関係省庁宛てに要望を続けている。
 地方公金については、2022年12月22日に公表された「規制改革推進に関する中間答申」において、「必要な立法措置及びその施行に係るスケジュールも含めた方針を令和4年度末までに決定する」とされている。納付書へのQRコードの活用は確実に広がっており、さらなるデジタル化・社会コストの削減を目指して、対象となる税目等の拡大に向けた議論も進めて参りたい。


(問)
 2点お願いしたい。1点目は商工組合中央金庫(商工中金)についてである。最終の報告書は今日の時点でまだ出ていないが、政府保有株を完全に売却するという方向感が出ている。民間金融機関との協業も考えられるが、政府関与のあり方や危機対応業務の必要性についてどのように考えているか所感を伺いたい。
 2点目は、2月15日に日本証券業協会(日証協)から示された仕組債などに関するガイドラインの改正案のパブリックコメントについてである。銀行も日証協の特別会員の一員として一定の影響を受けるのかもしれないが、今回の受止めと全銀協として何か対応する必要があるのか、考えがあれば伺いたい。
(答)
 1点目は商工中金のあり方をめぐる議論だが、商工中金を含む政策金融について、「官から民へ」、「官業は民業の補完に」との政策金融改革における大きな流れは不変だと理解している。そうしたなかで、商工中金に関しては、「新たなビジネスモデルは概ね確立され、地域金融機関との連携・協業も進捗している」という評価委員会の評価も踏まえて、2022年12月に「新たなビジネスモデルを踏まえた商工中金の在り方検討会」が再開されたと認識している。
 足元の検討会の議論では、財務・制度面で間接の政府関与は残る方向にあり、私どもの考え方も踏まえ、民間金融機関との適正な競争関係を確保することや、連携・協業規定を設けること等が検討されている。私どもとしては、これらを担保するための具体的な仕組みづくりが重要と考えており、業務範囲規制緩和後に連携・協業規定等の遵守状況を確認し、民間金融機関の意見を聴取するための方策が取られることを期待している。また、業務範囲規制の緩和が施行された後も、商工中金が新たな業務を開始する際には、民間金融機関に対して、事前に十分な説明がなされることを期待している。
 今回の見直しでは、中小企業支援の観点から、今後の商工中金のあり方が検討されているものと理解している。ここ数年間、コロナ禍のもと、商工中金は危機対応業務、民間金融機関はゼロゼロ融資等を活用し、適切に役割分担しながら、中小企業のお客さまの支援に全力を尽くしてきた。民間金融機関としては、この経験を活かし、引き続き商工中金との連携・協調を深化させながら、中小企業の支援をしっかり行って参りたい。
 2点目の2月15日に示された日証協のガイドラインの改正案への受止め等だが、日証協が仕組債などの組成・勧誘販売の適正化に向けた各種ガイドライン見直しについてのパブリックコメントを昨日から開始した。複数のガイドラインについて改定が予定されており、顧客選定基準の明示、商品選定理由の説明、商品の定量的な検証、説明すべき重要事項の追加、販売形態の多様化への対応、そしてトップマネジメントの適切な関与、などが新たに定められるものと認識している。
 仕組債等の販売態勢については、先月の会見でも申しあげたとおり、会員行向けに実施したアンケートの結果なども踏まえながら、各行において顧客選定における基準の明確化や重要情報シート等の実効性向上を図るなど、自律的に見直しに取り組んでいるところと認識している。仕組債の販売に当たっては、見直し後の日証協ガイドラインに沿った対応を求められるが、各行においては、仕組債だけではなく、金融商品全般の組成・販売に係る法令等の見直しの動向にも留意が必要となる。例えば、顧客本位タスクフォースにおいて方向性が示された、フィデューシャリー・デューティー原則(FD原則)の法制化や、利益相反関係および組成コストの開示などが挙げられる。
 金融商品の販売に当たり、FD原則が掲げる「顧客の最善の利益」を図るには、お客さまの立場に立って、お客さまに適合した金融商品を販売する態勢を確保することが重要であり、経営陣も積極的に関与し、不断の見直しを行うことが必要だと思う。全銀協としても、会員行が法制化やガイドラインの趣旨を踏まえ、自律的に販売態勢の適正化が図れるよう、引き続きサポートして参りたい。


(問)
 大手行の第3四半期の決算で、海外での貸出ビジネスが好調だったと認識しているが、このビジネスについて今後どのように考えているか、見通しを教えてほしい。
(答)
 第3四半期の大手銀行の決算は、各国の金利上昇を受けて、多額の債券関係損失を計上したものの、資金利益など本業の伸びにより打ち返し、総じて堅調な決算だったと受け止めている。その中でもご指摘のとおり、海外の貸出ビジネスは好調であり、資金利益の押上げに貢献している。
 その主な要因は、米ドルを中心とした金利上昇であり、預貸金利鞘の改善につながったと認識している。また、各行の要因はさまざまだが、企業が資金調達を直接金融市場から銀行借入へシフトする動きもあり、残高も堅調に推移した。
 今後の見通しについては、一概に申しあげることは難しいが、金利上昇ペースが鈍化している国においては、預貸金利鞘の改善幅が縮小することが見込まれる。一方、貸出残高は金融市場動向次第で増加・減少いずれにも振れる可能性があるとみており、予断を持つことは難しい。
 第3四半期までの決算は好調であったが、このように、先行き不透明感が継続しているなか、銀行界としては、引き続き各国の経済・金利情勢やマーケット動向を注視しながら適切な業務運営を行っていく必要があると考えている。
 これまで好調であったが、なかなか先行きは非常に見通しにくい、というのが率直なところである。


(問)
 ウクライナ侵攻から1年を迎えるに当たり、1年間を振り返り、銀行界への影響と、今後長期化した際の見通しについて伺いたい。
(答)
 ウクライナ紛争が勃発して1年近くが経過した。まず、経済への影響を振り返ると、西側諸国の対露経済制裁の強化やロシア側の対抗措置等により、ロシアとのエネルギー取引や各種原材料・食糧取引に制限をかける要因となった。また、航空・海運の輸送経路の変更も含むサプライチェーンの混乱なども発生した。こうしたことが世界のインフレ圧力を高め、物価上昇による企業収益の圧迫や家計の購買力の低下、貿易の停滞・生産の制約などを通じ、世界経済の下押し圧力を与えてきた。
 このようななか、銀行界への影響は、各銀行の貸出債権額やポートフォリオの構成等によって異なり、一概には申しあげられないが、まずは企業収益の圧迫に伴う与信費用の計上が挙げられる。3メガバンク・地域金融機関ともに第3四半期決算までの与信費用は落ち着いた動きになっているが、引き続き企業の信用動向を注視していく必要がある。
 また、物価上昇に伴う世界的な金利上昇が、保有有価証券の時価評価にも影響を与えている。特に米国金利の急激な上昇により、債券売却損が大幅に増加し、さらに保有する債券の時価評価額が悪化したことで、多くの銀行が含み損を抱えることとなった。銀行界全体としては、損失処理を行うに十分な株式等の評価益を有しているが、有価証券に含み損を抱えている銀行も一部あると理解している。
 足元、ウクライナ紛争に起因するインフレ圧力の高まりは、各国のエネルギー調達の多角化やサプライチェーンの見直し等により一旦は沈静化しつつある。この結果、海外の金利上昇にも一服感がある。一方、ウクライナ紛争は長期化の様相を見せていることから、その帰趨次第では、再度のエネルギー取引への制限や、サプライチェーンの混乱等が起きる可能性も否定できない。
 こうした状況を踏まえ、今後、物価が上昇し、企業収益に影響を及ぼすことで、与信費用の追加発生等に繋がることも考えられるため、引き続きお客さまとの丁寧なコミュニケーションに努め、情勢を注視して参りたい。


(問)
 1点目は、カーボンニュートラルの対応についてである。「カーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアティブ」が改定されたが、今回改定した狙いと趣旨について教えていただきたい。
 2点目は、全銀ネットについてである。2022年12月のタスクフォースや1月の有識者会議での議論や、今後の検討予定、方向性について教えていただきたい。
(答)
 全銀協では、カーボンニュートラルに向けた取組みの中期計画として、2021年12月に「カーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアティブ」を取りまとめ、わが国における2050年のカーボンニュートラル実現に向け、産業界・関係省庁等と連携して各種取組みを進めている。
 全銀協イニシアティブは、銀行界として、「社会経済全体の2050年カーボンニュートラル/ネットゼロへの『公正な移行』を支え、実現する」ことをミッションとして、四つの基本方針と五つの重点取組分野を定めた3ヶ年計画である。
 2022年度については、このイニシアティブに則り、さまざまな施策を進めてきた。お客さまとのエンゲージメントを加速するべく、脱炭素経営や気候変動対応について対話いただく際の説明資料として「脱炭素経営に向けたはじめの一歩」を作成して、新設した全銀協のウェブサイト上の特設サイトに公表している。
 また、会員向けの勉強会であるCompass Programを2022年4月以降、計13回にわたって継続的に開催している。国内外のさまざまな議論にも参画し、GX実行会議をはじめとする各種会議体への意見発信や、国際的な意見募集への対応なども行ってきた。
 今般の改定では、イニシアティブ制定から1年が経過したことを踏まえて、今申しあげたような直近までの取組実績を報告している。
 また、国内外におけるカーボンニュートラルに関する議論の進展や、特に昨年来、「新しい資本主義実行計画」のもとで進められてきた「GX実行会議」、およびそれに伴うさまざまな議論を踏まえた官民の取組みの進捗を整理し、アップデートした内容となっている。
 銀行界としては、2023年度以降も引き続き、見直し後のイニシアティブに沿って、カーボンニュートラルの達成に向けた取組みを推進するとともに、今後の議論の進捗に応じて、適宜、計画内容を見直したうえで、取組みを強化して参りたい。
 もう1点が全銀ネットであるが、全銀ネットの有識者会議では、内国為替制度や決済システムの利便性向上に関する各種テーマについて、外部の有識者に参加いただいて意見交換を実施している。会議における示唆や提言を全銀ネットの中期的な組織運営に活かすとともに、傘下にタスクフォースを設置して、次世代の資金決済システムに関する検討を行っている。
 まず、2022年12月に開催したタスクフォースにおける論点を3点ご紹介させていただく。
 1点目は、2022年10月に制度上の整備を完了した全銀システムの参加資格拡大について、相互運用性が確保された決済インフラを構築する観点から、関係者と協調しながら資金移動業者の理解や検討を促進する必要性について議論した。
 2点目は、APIゲートウェイのサービス開始時期や、次期全銀システムのグランドデザイン・基盤技術などについて議論した。基盤技術は将来的な需給環境の変化等を見据え、メインフレームからオープン化を志向する方向で検討している。
 3点目は、ZEDIの利活用について、デジタルインボイスとZEDIを連携するサービスの開発に対し、全銀ネットが助成するプロジェクトに20社近くから応募があった旨を報告した。
 また、請求・決済のデジタル完結やZEDI利用促進の観点から、デジタルインボイスの標準仕様に対応した金融EDI標準の策定についても議論した。
 1月16日に開催した有識者会議においても、次期全銀システムの方向性を確認するとともに、利用者の利便性向上やキャッシュレス推進のため、関係省庁や関係団体との連携を強化し、資金移動業者を含めた相互運用性の実現に向けた取組みを継続する必要性が示された。また、請求サービスとの連携を主体的に図っていくことで、継続的にZEDIの活用やデジタル化促進に取り組む重要性が示唆された。
 銀行界としては、決済機能を担う社会インフラとして健全性・信頼性を確保した金融システムを維持していくことを大前提としつつ、参加者の負担軽減と利用者の利便性向上を図り、キャッシュレス社会の促進に資する相互運用性の確保されたインフラ構築に努めて参りたい。


(問)
 2点伺う。1点目は、少額送金サービス「ことら」に170の信用金庫が参加すると発表があったが、この件についての受止めと、今後の展開について伺いたい。
 2点目は、岸田政権の資産所得倍増プランにおいて柱の一つとなっている金融経済教育の充実について、今後、全銀協としてどのように取り組んでいく考えか伺いたい。
(答)
 まず、ご質問の「ことら」は、銀行界による多頻度小口決済インフラ構築の取組みであり、個別行としても、設立に関わり、出資しているので、ご説明させていただく。
 2022年10月、「ことら」の送金サービスを開始し、約4ヶ月が経過した。現在は31行の金融機関がアプリを通じて送金サービスを提供しているが、他行宛の送金も含め、全行が手数料を無料としている。1月末までの約4ヶ月間の送金利用の実績は、累計で約130億円であった。
 稼動ユーザー数の多い自行アプリでサービスを提供する銀行も出てきており、4月にはQRコードを活用した税・公金サービスの取扱いも開始する予定である。今後もサービスの広がりに合わせ、加盟金融機関の増加が見込まれ、今後参加を予定している30の銀行に加え、新たに170の信用金庫が参加することが、ことら社から公表されている。これにより、加盟金融機関数は231まで拡大する予定である。
 ことら社の分析によると、送金の6割以上がお客さま本人の口座間での資金移動に利用されており、家族の間も含めると8割に上ることが分かっている。その多くが、従来ATMを通じて現金によって資金移動されていた可能性があり、今後、「ことら」の利用が増えていくことで社会全体のキャッシュレスが進展すると考えている。
 また、「ことら」は相互運用性の確保を展望して設立されたインフラであり、幅広い決済アプリから「ことら」を利用できることが望ましい。そのためには、「ことら」が魅力あるインフラとして成長し、加盟事業者に選ばれるようになっていかなければならないと考えている。
 以前も申しあげたが、次世代の多頻度小口決済のインフラとして、「ことら」をより多くの方に便利にご利用いただくには、銀行と資金移動業者間の相互運用性が高まることも重要である。今後は、資金移動業者にも参加いただき、新しい決済インフラとしてキャッシュレス社会に大きく貢献することを目指して参りたい。
 もう1点は、金融経済教育への取組みである。先ほど触れていただいたように、昨年11月に開催された政府の「新しい資本主義実現会議」において、7本柱の取組みを一体で推進することを盛り込んだ、「資産所得倍増プラン」が決定している。そのなかで、全銀協・日証協等の協力も得て、官民一体で金融経済教育に取り組む中立的な組織として、2024年中に「金融経済教育推進機構」を設立する方針が示されている。これまで全銀協は、官民一体となって金融経済教育を推進していく必要性を訴えてきたところだが、こうした政府の取組みにしっかり協力していきたいと思う。
 ご質問の全銀協における金融経済教育の取組みについてだが、全銀協では、中高生向けや一般社会人向けの教材を作成し、希望者に無償提供してきたほか、学校への講師の派遣、教員向けの研修などを実施している。また、若年社会人等に対し、資産形成の重要性を訴求する内容の広報活動も実施している。
 これまでは、インプット中心の教育を展開してきたが、金融リテラシーの向上・定着の観点で、アウトプットを意識した実践的な教育が重要と考えている。このため、今年度は「学ぶ」だけではなく、「実践」に重きを置いて活動してきた。
 そうした取組みの一つとして、今般、若者にも人気のある「異世界転生」をテーマとしたオンラインでの「脱出ゲーム」を企画し、今月1日よりウェブ上で掲載を開始している。金融リテラシーを苦手意識なく学べるストーリーで構成しており、10問の謎を解きながら家計管理や資産形成に関するテーマを学べる内容としている。期間限定の公開であるため、ぜひ一度試していただければと思う。
 このほかにも、「体験型投資学習アプリ」のリリースを検討している。実際の株価情報にもとづくチャートを用いた値動きの確認やデモ取引、さらには自身の保有している株式資産の確認もできるコンテンツを加えることなども検討している。
 今後、このようなコンテンツの周知や教育現場での活用を通じて、皆さまの金融リテラシーの向上に少しでも役に立てるよう、銀行界としても努めて参りたい。