2014年7月17日

一般社団法人全国銀行協会

平成27年度税制改正に関する要望

1.国民の中長期的な資産形成と成長資金の供給促進のために
(1)NISAの拡充等
(2)金融所得課税の一体化の推進等
(3)確定拠出年金税制の見直し等
2.日本経済再生の進展と課税の適正化のために
(1)PPP/PFIの活用拡大に資する税制の見直し
(2)住宅取得の促進に資する税制措置の拡充等
(3)印紙税の軽減・簡素化
(4)登録免許税の軽減・簡素化
3.適切な経営環境を確保するために
(1)貸倒れに係る税務上の償却・引当基準の見直しおよび欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の拡充
(2)社会保障・税番号制度、個人預金口座へのマイナンバーの付番
(3)金融機関によるシステム投資促進のための措置
(4)国際的な金融取引の円滑化等
(5)法人税率引下げに伴う代替財源の検討等

1.国民の中長期的な資産形成と成長資金の供給促進のために

 少子高齢化が進展し、今後、人口減少社会へ本格的に突入するわが国において、自助努力による中長期的な資産形成を通じて国民が豊かな老後生活を送ることができるようにすることが大切である。
 そのためには、金融資産形成に資するNISAの拡充や金融所得課税の一体化の推進、確定拠出年金税制の見直し等を通じて、国民にとって利便性の高い効率的な金融・資本市場の構築を後押しすることが必要である。
 これにより1,600兆円を超える家計部門の金融資産に適切な投資機会を提供して、「貯蓄から投資へ」の流れを一層確実なものとし、成長企業への資金供給を促進することで、デフレ脱却に向けて前進しつつあるわが国経済の成長を確固たるものとすることが重要である。

(1)NISAの拡充等

  • 少額投資非課税制度(NISA)について、制度の恒久化および拡充を行うこと。
  • 若年層向けの「ジュニアNISA」を導入すること。
  • 個人投資家の利便性および金融機関の実務に配慮したより簡素な制度とすること。

 平成26年1月から開始した少額投資非課税制度(NISA)は、「貯蓄から投資へ」の流れの促進に向けて順調な滑り出しを見せている。平成25年度税制改正では、毎年100万円までの非課税投資を行うことができる期間を平成26年1月から平成35年12月までの10年間に拡充するとされたが、今後、さらにNISAを普及・定着させ、幅広い家計に国内外の資産への長期・分散投資の機会を提供し、国民の自助努力による資産形成を支援する観点から、NISAの恒久化の実現を要望する。
 また、個人の自助努力による資産形成の拡充を支援する観点から、NISA口座における年間の投資可能上限額を引き上げるなど、制度の拡充を要望する。
 さらに現行制度では、20歳以上の居住者等が制度利用可能となっているが、投資家の裾野拡大を図るために、若年層向けの「ジュニアNISA」を導入することを要望する。
 加えて、利用者ニーズを踏まえ、口座開設手続における住民票提出等手続や、勘定設定期間終了後に同一金融機関での利用を継続する場合の手続の簡素化等、個人投資家の利便性および金融機関の実務に配慮したより簡素な制度とすることを要望する。

(2)金融所得課税の一体化の推進等

  • 金融所得課税の一体化をより一層推進すること。具体的には、金融資産に対する課税の簡素化・中立化の観点から、課税方式の均衡化を図るとともに、預金口座へのマイナンバー付番に関する今後の検討と併せて、預金等を含め損益通算を幅広く認めること。
  • 納税の仕組み等については、一体化の実施時期に応じて、納税者の利便性に配慮しつつ、金融機関が納税実務面でも対応可能な実効性の高い制度とすること。

 わが国では、個人金融資産の有効な活用が経済活性化のための鍵となっており、それに資する金融・資本市場の構築が喫緊の課題である。そのためには、個人投資家が自らのリスク選好に応じて自由に金融商品を選択できるようにする必要があり、金融資産に対する課税は、簡素で分かりやすく、金融商品の選択に当たって中立的であることが求められる。
 政府税制調査会は平成16年に金融商品に対する課税方式の均衡化と損益通算範囲の拡大の方向性を打ち出した。この流れに沿って、平成20年度税制改正では、上場株式等の譲渡損失と配当等の損益通算が平成21年以降可能とされ、さらに平成22年度税制改正では、「金融所得課税の一体化を更に推進する」とされた。また、平成25年度税制改正では、平成28年1月以降、公社債等に対する課税方式を上場株式等と同様、申告分離課税に変更したうえで、損益通算できる範囲を、公社債等にまで拡大することとされ、金融所得課税の一体化に向けた制度整備が進展している。
 このように、金融所得課税の一体化が着実に前進しつつあるなか、金融資産に対する課税の簡素化・中立化の観点から、金融商品間の課税方式の均衡化を図るとともに、預金口座へのマイナンバー付番に関する今後の検討と併せて、預金等を含め損益通算を幅広く認めることで、一体化のさらなる推進を要望する。
 その際、金融所得課税の一体化に係る具体的な納税の仕組みについては、その対象範囲が順次拡大されることを念頭に、一体化の実施時期に応じて、納税者の利便性に配慮しつつ、金融機関のシステム開発等に必要な準備期間を設ける等、金融機関が納税実務面でも対応可能な実効性の高い制度とすることを要望する。

(3)確定拠出年金税制の見直し等

  • 退職年金等積立金に対する特別法人税を撤廃すること。
  • 確定拠出年金に係る拠出限度額を見直すこと。
  • 確定拠出年金の対象者を拡充すること。
  • マッチング拠出制度における従業員拠出額の要件を緩和すること。
  • 確定拠出年金の引き出し制限および脱退一時金の支給要件を緩和すること。

 わが国において少子高齢化が進展するなか、自助努力による老後生活の維持向上を図る観点から、公的年金を補完するものとして、確定拠出年金の果たす役割の重要性は高まっている。また、確定拠出年金の一層の普及は、より多くの個人に対して投資性商品を選択する機会を提供し、「貯蓄から投資へ」の流れを後押しすることにもつながる。
 こうした確定拠出年金制度の重要性に鑑みれば、わが国においても、欧米における同種の年金と同様に、拠出時・運用時非課税、給付時課税を基本とする十分な税制上の措置を講じる必要がある。
 平成16年度税制改正では、拠出限度額が引き上げられた一方、公的年金等控除の縮小および老年者控除の廃止等、拠出時非課税と給付時課税の措置がなされており、平成21年度と平成26年度の税制改正でそれぞれ拠出限度額の引き上げが行われているが、老後に必要とされる生活資金の水準や公的年金の給付縮減可能性等を勘案すれば、引き続き、税制面の整備を推進する必要がある。
 したがって、運用時非課税を実現し、国際的に見劣りのない制度とする観点から、平成29年3月までの時限措置として課税が停止されている退職年金等積立金に対する特別法人税を撤廃するほか、拠出限度額のさらなる引き上げを要望する。
 また、個人型確定拠出年金の加入対象者を、確定給付型の企業年金のみを実施し企業型確定拠出年金は実施していない企業の従業員や専業主婦等にまで拡大する等、確定拠出年金の対象者を拡充するほか、平成24年1月から開始された企業型確定拠出年金のマッチング拠出の限度額要件のうち、従業員拠出額を事業主拠出額の範囲内とする要件の緩和を併せて要望する。
 さらに、企業型確定拠出年金の加入者が退職により国民年金の第3号被保険者となる場合には、加入者期間が3年を超え、かつ50万円を超える資産があると、脱退一時金の支給が認められず、個人型確定拠出年金の加入者となることもできない。こうしたケースでは、その後の個人型確定拠出年金の運用指図に係る手数料負担によって年金資産額が減少する場合があり、制度普及の妨げとなっている。
 したがって、追徴課税等のペナルティを支払うことで年金資産の中途引出しや脱退一時金の支給を可能とする制度の創設を要望する。

 なお、上記のような確定拠出年金税制の見直しと併せて、中長期的に米国のIRA(Individual Retirement Account)等を参考に、拠出時課税、運用時・給付時非課税の個人型年金積立金非課税制度の導入を含めて検討を行うことも考えられる。

2.日本経済再生の進展と課税の適正化のために

 わが国経済は、政府・日本銀行による大胆な財政・金融政策に加えて、成長戦略の遂行もあり、企業収益の向上、賃金上昇が消費の拡大とさらなる投資を生むという循環が動き始めているところである。
 こうした経済の好循環を引き続き拡大させるには、民間企業の活力を引き出し、日本経済の生産性を向上させることが不可欠であり、PPP/PFIの活用拡大や、住宅投資拡大策としての住宅取得促進に資する税制措置の拡充等は、民間部門の投資・消費需要を喚起していくために有用である。
 また、金融取引を含む各種の経済取引には、担税力に着目して印紙税や登録免許税等の流通税が課せられるケースが多いが、こうした税負担は円滑な経済取引に悪影響を与え、経済の活性化を阻害している側面がある。そこで、これら流通税の軽減・簡素化により、課税の適正化を図ることが必要である。

(1)PPP/PFIの活用拡大に資する税制の見直し

  • 投資法人に係る課税の特例および特定投資信託に係る受託法人の課税の特例を拡充すること。
  • 民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律にもとづき実施される公共施設等の整備等に係る地方税法の特例措置の非課税化および適用期限(平成27年3月末)の撤廃を行うこと。

 わが国の厳しい財政状況のもと、真に必要な社会資本の整備・維持更新と財政健全化を両立させるために、民間の資金・ノウハウを最大限に活用することで経済成長につなげていくことが重要であり、平成25年6月には民間資金等活用事業推進会議が「PPP/PFIの抜本改革に向けたアクションプラン」を決定しているところである。
 こうしたなか、平成26年度税制改正において、投資法人に係る課税の特例および特定投資信託に係る受託法人の課税の特例について、対象となる投資法人および投資信託の要件に「再生エネルギー発電設備及び公共施設等運営権以外の特定資産の割合が50%を超えること」が追加された。このうち、平成29年3月までの間に再生エネルギー発電設備を取得して賃貸の用に供した投資法人で、<1>公共施設等運営権の割合が50%を超えないこと、<2>設立に際して公募により投資口を募集したことまたは投資口が上場されていること、<3>再生エネルギー発電設備の運用の方法が賃貸のみであることが規約に記載されていること、の要件を満たすものについては、再生エネルギー発電設備を最初に賃貸の用に供した日から10年以内に終了する事業年度に限り、上記の追加された要件を満たす必要がないこととされた。
 しかしながら、上記の課税特例の適格要件は厳格で案件の組成が難しく、インフラ市場の創設の妨げとなると考えられることから、投資法人等のインフラ関連資産の100%保有を認めるとともに、制度の安定性確保のためにインフラファンドの特性に配慮した本件税制措置の恒久化を行うこと、また、賃貸方式以外の運用方法を認めストラクチャリングの自由度を高めることを要望する。
 また、BOT方式(Build-Operate-Transfer方式)のPFI事業について、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律にもとづき実施される公共施設等の整備等に係る特例措置により、民間と競合しない施設についての固定資産税、都市計画税、不動産取得税は平成27年3月までの時限措置として、課税標準の2分の1が減免されているが、これを非課税とするとともに、同措置の期限を撤廃するか、少なくとも延長することを要望する。

(2)住宅取得の促進に資する税制措置の拡充等

  • 住宅取得、住生活の安定確保および向上をさらに進めるため、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度の恒久化等を図ること。

 住宅は、国民の社会生活や経済活動の基盤となる重要な資産であり、自然災害に強く良好な居住環境を形成するためには、社会経済情勢等の変化に左右されることのない、安定かつ公平な住宅取得の機会が、国民に与えられることが重要である。
 こうしたなか、平成18年に制定された住生活基本法では、政府の責務として、住生活の安定の確保および向上の促進に関する施策を実施するために必要な措置を講じるべきことが規定された。持家取得に伴う初期負担の軽減により住宅投資を促進し、これが景気浮揚にも資するとの観点から、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度は、平成21年度税制改正によって大幅に拡充され、平成25年度税制改正においても、消費税率の引き上げに伴う一時の税負担の増加による影響を緩和する観点からの措置が行われたが、わが国経済においては、住宅投資が拡大することに対する期待は依然として大きいところである。
 したがって、住宅取得、住生活の安定確保および向上をさらに進めるため、住宅借入金等の所得税額の特別控除制度の恒久化、税額控除の拡充を図ることを要望する。

(3)印紙税の軽減・簡素化

  • 印紙税について、金融取引に悪影響を及ぼさないよう軽減・簡素化すること。

 印紙税は、本来軽微であるべき流通税としては極めて高い税率となっており、金融取引に悪影響を及ぼさないよう整理し、軽減・簡素化することを要望する。

(4)登録免許税の軽減・簡素化

  • 登録免許税は手数料的な性格を持つことを踏まえ、担保権の信託における抵当権等の信託登記をはじめ、登録免許税の税率を低額の定額税率とする等、軽減・簡素化すること。

 現行の登録免許税は、手数料的な性格を持つ流通税であるにもかかわらず、負担が極めて重い。このため、わが国企業の競争力強化に必要な組織再編成や、資産流動化、担保権の信託を利用するシンジケート・ローン取引等の経済取引に影響し、経済の活性化を阻害している面がある。
 特に、担保権信託に関しては、不動産信託の所有権移転登記に係る登録免許税が非課税にもかかわらず、抵当権設定登記に加え、信託登記についても登録免許税が課されている。
 このため、登録免許税が持つ手数料的な性格を踏まえ、低額の定額税率とする等、大幅に軽減・簡素化することを要望する。

3.適切な経営環境を確保するために

 国内外において経済構造の変化が進行するなか、企業や金融機関を取り巻く環境も急速に変化しており、適切な経営環境を確保するうえで、わが国の実情や諸外国の制度に配意した税制面の整備を進めることが一段と重要になっている。
 なかでも、「『日本再興戦略』改訂2014」に掲げられた、マイナンバー制度の積極的活用等や、資金決済高度化をはじめとした諸課題について、今後、銀行界は大規模なシステム対応が必要となることから、政策的な課題の円滑な遂行を可能とするための税制上の措置を検討することが必要である。
 また、貸倒れに係る税務上の償却・引当基準等について欧米主要国に遜色のないものとし、将来の損失発生に備えた制度を拡充することは、日本企業の投資意欲や競争力を高めるほか、金融機関の自己資本の強化等の観点からも極めて意義深いものである。
 さらに、外国子会社合算税制の見直しやデリバティブ取引に係る源泉徴収の免除、OECDで検討されているBEPS(税源浸食と利益移転)行動計画について、国際的な金融取引の円滑化に資する税制を整備していくことが必要である。

(1)貸倒れに係る税務上の償却・引当基準の見直しおよび欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の拡充

  • 貸倒れに係る税務上の償却・引当の範囲を拡大すること。
  • 欠損金の繰越控除と繰戻還付制度について、十分な措置を設けること。

 わが国金融界は不良債権問題からすでに脱却しているものの、わが国経済の持続的成長に資する金融システムの維持や、中小企業者等の経営改善、事業再生支援を積極的かつ継続的に進める金融機関の取組みを一層促進する観点から、不良債権税制の拡充が重要である。また、将来の損失発生に備えた制度を拡充することは、企業の投資意欲を高める効果も大きい。
 現在、会計上の引当金基準と税務上の無税基準が大きく乖離している状態にあるが、不良債権問題の再発防止や金融機関の自己資本の強化等の観点からは、金融機関が実施している自己査定等にもとづく会計上の償却・引当を税務上も幅広く認める等、債権毀損の実情に応じたものとすることが重要である。
 具体的には、法的整理手続き開始の申立てがあった場合の個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入割合(現行50%)を引き上げる等、貸倒れに係る税務上の償却・引当の範囲を拡大することを要望する。
 法人税における欠損金の繰越控除・繰戻還付制度は、事業年度ごとの課税負担の平準化を通じ、経営の中長期的な安定性を確保するものであり、わが国企業の投資意欲や競争力を高めるうえで極めて重要な制度である。また、金融機関にとって景気後退期における不良債権の規模は大きく、その処理に伴い発生する欠損金の控除や還付について十分な措置を設ける必要がある。

(2)社会保障・税番号制度、個人預金口座へのマイナンバーの付番

  • 社会保障・税番号制度については、金融機関の実務負担等に配慮した制度設計、導入スケジュールとすること。特に、個人預金口座へのマイナンバーの付番に係る具体的な検討が行われるに当たっては、付番の方法等を十分に検討するとともに必要な法整備を行うこと。また、適切な準備期間を設けること。

 社会保障・税番号制度(以下「マイナンバー制度」という。)については、平成28年1月にマイナンバーの利用開始が予定されており、金融機関においては、顧客からマイナンバーの告知を受けて、既存の各種申告書や法定調書への記載が求められているが、今後、実務の詳細等を検討するに当たり、関係者である金融機関との事前協議を行い、十分な準備期間の設定等を含め、金融機関が実務面でも対応可能な制度設計とすることを要望する。
 政府税制調査会のマイナンバー・税務執行ディスカッショングループが平成26年4月に公表した「論点整理」では、「社会保障について所得・資産要件を適正に執行する観点や、適正・公平な税務執行の観点からは(中略)預金口座へのマイナンバーの付番について早急に検討すべきである」とされている。
 同時に、上記論点整理では、「預金口座への付番については、個人預金の口座数が10億口座を上回るとされているなか、金融機関のコストや事務負担など、執行面の課題を十分に検討する必要がある」、「いわゆる休眠預金の扱いや、預金者からの番号告知を促すインセンティブ、付番に要する準備期間等の幅広い論点について、海外における取組も参考にしつつ、実態を十分踏まえて、実務的に検討を進めていくべきである」といった考え方が示されているところである。
 さらに、同年6月にIT総合戦略本部が改定を行った「世界最先端IT国家創造宣言工程表」では、「マイナンバーの利用範囲の拡大や制度基盤の活用(特に(中略)<3>預貯金付番(中略))について検討を行い、その状況を2014年秋までに政府CIO に報告する」とされているところである。
 これらの状況も踏まえて、今後、預金口座へのマイナンバーの付番に係る具体的な検討が行われるに当たっては、政府が銀行界と十分な議論を行ったうえで、付番の方法等を実務的な視点で十分に検討するとともに必要な法整備を行うこと、また、膨大な既存口座数等も考慮して適切な準備期間を設けることを要望する。

(3)金融機関によるシステム投資促進のための措置

  • 「『日本再興戦略』改訂2014」に掲げられた、マイナンバー制度の積極的活用等や資金決済高度化をはじめとした諸課題について、銀行界に求められるシステム対応に必要な投資額を減税の対象とすること。

 平成26年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」では、「マイナンバー制度の積極的活用等」として、「2016年1月に予定されているマイナンバー制度の利用開始(中略)に向けた取組を加速する。」とされており、銀行は既存の各種申告書や法定調書へのマイナンバーの記載に当たって、今後、システム対応を行うこととなる。
 一方、政府税制調査会のマイナンバー・税務執行ディスカッショングループが平成26年4月に公表した論点整理では、「預金口座へのマイナンバーの付番について早急に検討すべきである。」とされているが、「個人預金の口座数が10億口座を上回る」ともされており、本件対応のためには各金融機関において大規模なシステム対応が必要となる。
 また、上記「『日本再興戦略』改訂2014」において、即時振込みなどの資金決済高度化や、国内送金における商流情報(EDI情報)の添付拡張への取組みを政府が促すとされている。銀行界では、こうした要請も踏まえて所要の検討を開始しているところであり、実現に向けては本件に伴う各行でのシステム対応が今後必要となる。
 銀行界としては、政策的な課題については、上記各課題に限らず、最大限の協力を行っていく方針であるが、このようなシステム対応は、金融インフラ整備という側面が多分に存在すると考えられることから、銀行界に求められるシステム対応に必要な投資額を減税の対象とすることを要望する。

(4)国際的な金融取引の円滑化等

  • 外国子会社合算税制において、
    • トリガー税率(現行20%)を引き下げること。
    • 益金不算入額となる特定課税対象を過去10年分に制限する規定を撤廃すること。
    • タックスヘイブン税制の適用除外基準のうち「事業基準」において、主たる事業が「船舶又は航空機の貸付け」である場合は、現地での事業の実体がある場合でも合算課税の対象となるが、これを改めること。また、「資産性所得」から船舶・航空機の貸付料を除くこと。

 外国子会社合算税制における、いわゆる「トリガー税率」は現在「20%以下」とされているが、例えば英国では平成27年に法人税率を20%に引き下げることとされているほか、この水準ではシンガポールや香港等のアジア主要地域までが同制度の対象に含まれることとなる。したがって、国外に進出する企業の事業形態の変化や諸外国における法人税等の負担水準の動向に対応し、わが国企業の国際競争力を維持する観点から、トリガー税率を引き下げることを要望する。
 また、外国子会社合算税制によって合算された所得から配当があった場合、過去10年間に発生した特定課税対象金額の5%については、益金不算入(外国子会社配当益金不算入と併せ、100%の益金不算入)とすることができるが、二重課税を排除する観点から、この期間を廃止する措置が求められる。
 現状、船舶又は航空機の貸付けを主たる事業としている特定外国子会社は、その事業の実態等にかかわらず、外国子会社合算税制の適用除外を受けることができない。しかし、所在地国における事業実体と、所在地国で事業を行う経済合理性がある場合には、あえて船舶又は航空機の貸付け事業を例外扱いする理由に乏しいことに加え、本規定により、同様の事業を行う海外の事業者と比して競争上不利な条件におかれることとなる。
 したがって、特定外国子会社等の適用除外要件における事業基準について、特定事業の定義から「船舶又は航空機の貸付け」を削除すること、これに合わせ、船舶又は航空機の貸付けを主たる事業とする特定外国子会社等の非関連者基準または所在地国基準の適用については、その国際的な事業活動に照らし、非関連者基準を適用すること、また、「事業(特定の事業を除く)の性質上重要で欠くことのできない業務から生じたもの」である場合に資産性所得課税の対象外とされる所得の範囲について、船舶又は航空機の貸付けによる所得をその対象に含めることを要望する。

  • 金融機関等が行うデリバティブ取引に係る付随契約(CSA:Credit Support Annex)にもとづき授受する現金担保から生じる利息について、源泉徴収を免除すること。

 金融機関等は、デリバティブ取引を行うに当たり、その時価変動に伴うカウンターパーティの信用リスク削減手段として、国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA:International Swaps and Derivatives Association)が定めるISDAマスター契約およびその付随契約(CSA:Credit Support Annex)を締結し、現金・国債等を担保として授受することが一般化している。
 本邦金融機関が外国金融機関等非居住者から現金を担保として受け入れた場合、当該非居住者(ISDAマスター契約やCSA契約の対象となる取引は本店・支店が混在しているのが通常で、担保差入は本店が行うことが多い)に対し、受入れ期間に応じて利息を支払うが、本邦金融機関は、租税条約等により免税化できる一定のケースを除き、本邦所得税法にもとづいて利子所得税を源泉徴収のうえ、税務署に納税している。
 バーゼル銀行監督委員会(BCBS)および証券監督者国際機構(IOSCO)では、G20ピッツバーグ・サミットでの合意にもとづき、平成25年9月に中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制に関する報告書を公表し、平成27年12月からの適用が予定されている。本規制では、金融機関およびシステム上重要な非金融機関との担保契約の締結、担保授受が義務化され、今後、本邦金融機関も多様な国の金融機関等と契約締結を進めていく見込みである。
 しかしながら、担保に係る課税関係の存在を事由に、外国金融機関等から契約締結を拒否される、または契約が締結できたとしても取引を敬遠されたり、不利な条件での取引を強いられるおそれがある。これらが本邦金融機関のマーケットプレゼンスや競争力の低下を招き、ヘッジ機能の低下による市場流動性悪化に加え、ALM運営や信用リスク管理にも悪影響が生じることが懸念される。
 わが国金融機関のデリバティブ市場における国際競争力の維持・向上のためには、担保取引を円滑に遂行できる環境を整備することが必要条件であり、また、金融・資本市場の類似取引(例えば、レポ取引のように有価証券取引に関連した現金授受)との整合性の観点からも、源泉所得税を課さない扱いとすることが望ましい。

  • OECDで検討されている「BEPS行動計画」の各アクションプランの策定に当たっては、金融機関の業務への影響を十分に考慮するとともに、体制整備等を行うための十分な準備期間を確保すること。

 OECDは平成25年7月に「BEPS行動計画」(Action Plan on Base Erosion and Profit Shifting、税源浸食と利益移転)を公表し、BEPSに対処するために必要な15のアクションプランを特定した。
 各国が二重非課税を排除し、実際に企業の経済活動が行われている場所での課税を十分に可能とするため、OECDは各アクションプランについて、平成26年9月から平成27年12月の間に、新たに国際的な税制の調和を図る方策を勧告することとしており、これまでに行動1「電子経済の課税上の課題への対処」、行動2「ハイブリッド・ミスマッチ取決めの効果の無効化」、行動6「租税条約の濫用防止」、行動13「移転価格文書化の再検討」についてパブリック・コメントとパブリックコンサルテーションの手続きが行われている。
 このうち、例えば、行動2「ハイブリッド・ミスマッチ取決めの効果の無効化」について、銀行はバーゼル規制への適合を図るための資金調達スキームにおいて、形式的にはハイブリッド商品に該当するおそれのある証券を発行している場合があるが、スキーム全体で見ると、最終投資家段階では受取優先配当・利息が益金計上されており、規制上の要求を満たす目的の資本調達スキームに、無効化ルールを適用するのは合理的ではないと考えられる。
 今後、わが国においてもBEPS行動計画を踏まえた国際課税の見直しが行われると考えられるが、その際にはわが国の金融機関の実務に十分に配慮した制度とするとともに、体制整備のための十分な準備期間を設けることを要望する。

  • BtoB取引での国境を越えた役務の提供等に対する消費税の課税方式として導入が検討されているリバースチャージ方式(国内事業者が申告納税する方式)については、課税対象となる国際取引を予め明確化するとともに、制度変更による事業者の影響について最大限考慮すること。

 政府税制調査会の国際課税ディスカッショングループでは、国境を越えた役務の提供等に対する消費税課税の在り方が議論されており、内外判定基準の見直しとともに課税方式の見直しが議論されている。
 課税方式については、消費者向け取引については国外事業者申告納税方式、事業者向け取引についてはリバースチャージ方式が検討されているところであるが、国内事業者が申告納税義務を負うリバースチャージ方式については、新たに国内事業者に納税負担を生じさせるものである。
 リバースチャージ方式による納税額と同額の仕入れ控除税額を計上する事業者については、事務負担に配慮する観点から、申告対象から除外する規定を設けることが検討されている。
 この点、課税売上割合が小さい銀行等の事業者が申告対象から除外されない場合には、申告に係る事務負担および納税負担が生じることから、制度変更による事業者への影響を最大限に考慮することを要望する。
 また、申告実務における混乱を回避し、適切な納税を行うため本件消費税の課税対象となる具体的な国際取引を予め明確化することを要望する。

(5)法人税率引下げに伴う代替財源の検討等

  • 法人税率引下げに伴う代替財源の検討に際しては、特定業種に負担が偏重することがないよう十分に配慮すること(受取配当等の益金不算入制度の見直しや新税導入の可能性の検討等)。

 グローバル経済の中で、わが国が強い競争力を持って成長していくためには、法人税改革が必要であり、平成26年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2014~デフレ脱却から好循環拡大へ~」において、20%台への法人実効税率引下げを平成27年度から開始することが明記されたことは望ましい。
 また、政府税制調査会では、同年6月に、「法人税の改革について」を公表し、わが国の立地競争力を高めるとともに、わが国企業の競争力を強化するために法人税率を引き下げることや、法人税の負担構造を改革すべく課税ベースの見直しを行うという改革の方向性を示したところである。
 その中で、受取配当等の益金不算入制度については、「支配関係を目的とした株式保有と、資産運用を目的とした株式保有の取扱いを明確に分け、益金不算入制度の対象とすべき配当等の範囲や、益金不算入の割合などについて、諸外国の事例や、会社法における各種の決議要件、少数株主権などを参考にしつつ、見直すこととする」こととされている。
 また、法人税の改革と併せて検討すべき事項として、「イギリスで銀行税が導入され、法人課税の一翼を担っている例もあり、必要に応じ、法人税率引下げの財源確保の一環として、法人課税の一翼を担うような新税の導入の可能性も検討すべきである」とされている。
 今後、法人税率引下げの代替財源に係る具体的な検討が行われる際には、特定の業種に負担が偏重することがないよう十分に配慮されることを要望する。
 とりわけ、受取配当等の益金不算入制度は、利子が支払法人で損金算入することが認められるのに対し、支払法人が課税後利益を配当することに鑑み、二重課税排除と課税の中立性の観点から設けられ、法人株主の受取配当について、配当を支払う法人段階とそれを受け取る株主段階とを通じる税負担の調整を行うための仕組みとして位置付けられるものである。
 したがって、このような本制度の趣旨やこれまでの経緯、将来の経済や金融システムに与える影響を踏まえて慎重に議論されることを要望する。