2008年10月21日

杉山会長記者会見(みずほ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 事務局から2点ご報告する。
 1点目は、中小企業金融の円滑化に向けた取組みについてである。
 全銀協では、本日の理事会で、お手元の資料のとおり申し合わせを行った。
 現下のわが国経済や中小企業を取り巻く状況を踏まえ、銀行界として、適切に金融仲介機能を発揮し、中小企業の資金需要にしっかりとお応えしていくことが必要との認識のもと、金融の円滑化に全力をあげて取り組むことを申し合わせたものである。
 なお、この申し合わせとともに、銀行界における取組みの積極的なアピールに努めていくこととしており、今後、これを会員各行に要請していくこととする。
 もう1点は、「電子債権記録機関要綱」(中間整理)」を取りまとめたことである。
 全銀協では、本年3月に「電子記録債権の活用・環境整備に向けて」と題する報告書を取りまとめ、その後、「全銀行参加型」の電子債権記録機関の設立に向けた検討に着手し、これまで組織面、業務面の諸論点に係る具体的な検討を進めてきた。
 この中間整理は、記録機関の基本的枠組み、業務上の基本要件について現時点での検討状況を整理したものである。今後は、この中間整理をもとに、さらに具体的な検討を進め、今年度末を目途に、要綱の取りまとめを行う予定である。
 私からの報告は、以上である。なお、本日ご報告した内容について、さらにお知りになりたい点があれば、会見終了後、事務局にご照会いただきたい。

 

会長記者会見の模様

(問)
 サブプライム問題に起因する欧米の金融市場の混乱が深刻化しているが、この状況をどう見ているか。先般のG7後の各国当局の対応と日本への影響などを踏まえたうえでお答えいただきたい。
(答)
 昨夏に始まった欧米の金融市場の「動揺」は、やがて「混乱」へと拡大し、ついには、ブッシュ大統領をはじめ各国首脳が「危機」という言葉を使うまでに至った。
 特に、先月以降は、事態が目まぐるしく動いている。たとえば米国では住宅公社2社や保険会社への公的支援方針が決定されたり、大手金融機関の再編、さらには政府による7,000億ドルの不良資産買取スキームの発表など、一つひとつが大ニュースとなるような大きな動きが相次いだ。
 このような状況下、金融市場は、ドルの銀行間市場の収縮、金融機関の株価急落など、その混乱が一段と拡大をみせ、緊張した状態が継続した。
 こうした状況下では、預金や銀行間取引の保護拡大、公的資金による資本注入、そして、不良資産の買取といった包括的な政策対応を、迅速かつ大胆に打ち出すことにより金融システムへの信頼を回復することが何よりも重要となる。
 市場の「混乱」が「危機」へとステージを変えるまでは極めて短かったが、欧米当局の動きもまた、迅速であったと思う。
 一連の政策対応は、10月10日のG7前後に山場を迎えた。まず、英国が先陣を切って大規模な資本注入と銀行間取引の保証を含む包括的パッケージを打ち出し、欧州の各国も追随した。一方、米国は当初は不良資産買取を軸に政策対応を進めていたが、これまた機動的に対応を拡大し、大手行への一斉資本注入を一気に決めている。
 グローバルな金融危機へ対応するため、G7が協調姿勢を明確に示すとともに、各国において迅速に大型の具体策が打ち出されたことを歓迎したい。
 しかしながら、これで欧米の危機がスムーズに終息に向かうかどうかは、まだ予断を許さない。株価をみても、足許で目まぐるしく状況が変化しており、先行きを見通すことは非常に難しい状況にある。
 わが国の経験に照らしても、金融セクターの問題を解決しただけでは問題解決のための必要条件を満たしたことにしかならない。金融は「実体経済の鏡」であり、実体経済の回復という十分条件を満たさなければ問題の根本的な解決は難しい。欧米の資産価格が底打ちし、実体経済が力強さを取り戻して、ようやく事態が終息に向かっていくのではないかと見ている。
 翻って、わが国の状況であるが、欧米の状況と比較すれば金融システムは相対的に安定している。セーフティ・ネットも十分に整備されており、万一の事態への備えもできていると言えよう。また、ともすれば悲観一色となりがちだが、わが国経済のファンダメンタルズが欧米に比して良好であることも忘れてはならない。一足早くバブル崩壊を経験したわが国では、その後の調整過程を経て「3つの過剰」を克服している。家計や金融セクターにおいて過剰債務の調整が進行しつつある欧米とは明確に状況が異なる。
 とはいえ、グローバルな金融危機は、様々な経路でわが国にも影響を与え得るという点には留意する必要がある。すでに、株価下落や外需の減退といった形で、わが国にも影響が及び始めている。この1ヶ月で世界の金融資本市場の様相は大きく変化しており、先行きは予断を許さない。これまで以上に、欧米発の危機の本格的な「上陸」に備え、警戒水準を高めることが必要であろう。
 この点、政府より打ち出された当面の金融市場安定化策は、まさに当を得たものであり歓迎したい。自社株買いの規制緩和や、空売り規制の強化をはじめとする株価対策は極めて重要である。
 また、直ちに必要でないにせよ、欧米発の危機が本格的に「上陸」して事態が一層悪化するケースに備えるという意味からは、公的資金の活用の枠組みを見直し、整備することには意義があると考えられる。地域金融の円滑化の観点から、今年3月に期限切れとなった金融機能強化法の強化・活用が検討されているが、これもまた時宜にかなった措置ではないかと考える。
 まずは、これらの対策を確実に実施していくことが肝要である。
 さらには、万一への備えを一段と強化するという観点からは、欧米において見直しが進んでいる会計基準の運用ルール等についても検討が必要であろう。先般、地銀界から声が挙がったように、緊急対応として、わが国固有の事情も踏まえ時価会計の影響につき分析したうえで、必要な手当てを講じるといった検討が望まれる。その際には、わが国企業が国際的にみて不利にならないよう対応することが、国益の観点からも必須となろう。
 他にも、万全を期して備えを見直すという観点から、様々な政策対応の可能性について、前倒しで議論を深めておくことが有用と考える。
 最後に、繰り返しになるが、わが国の状況は欧米とは異なる。悲観一色ではなく、欧米が混乱しているなかにあっても、冷静に事態を受け止め、適切に対処することが肝要であろう。


(問)
 金融市場の混乱が実体経済にまで影響を与えているが、国内外の景況感も悪化しているなか、景況感についてどのように考えているか。
(答)
 先般のG7において、公的資金による金融機関への資本注入などを含む行動計画が発表され、金融市場の安定化に向けて、先進主要国の協調の下で、様々な具体的な対応が講じられつつある。
 こうした対応策が実行されていくことで、金融市場が落ち着きを取り戻してくれることを切に願っているところである。
 しかしながら、今や金融不安の帰趨のみならず、それが世界規模で実体経済にどの程度のインパクトを与えるのかが大きなポイントとなっている。
 先日、IMFが最新の世界経済見通しを公表したが、それによると、2009年の世界の実質GDP成長率は(3.0%)、7月時点の予測値(3.9%)から大きく下方修正されている。個人的にも、世界経済はこれから来年にかけて、逆風のなかで立ち直りのきっかけを模索する、正念場の状況が続くのではないかと考えている。
 日本経済については、内需の停滞に加えて、海外経済の減速を背景に輸出が大きく鈍化し、すでに景気後退期入りをしている。
 企業の業績は、原材料コストの上昇等により足元で大幅に悪化しており、倒産件数も増加傾向にある。また、食料・エネルギーを中心とした物価上昇によって家計の所得が圧迫され、個人消費も低調である。
 当面は、内需と輸出がともに伸び悩み、景気後退局面が続くと見ているが、今後、金融不安の世界的な広がりが、一段の下押し圧力となることは避けられないだろう。
 株価が乱高下しているなど、金融市場が激しく動いていることもあって、その程度については、現時点ではなかなか見極めがたい。ただし、世界経済の落ち込みが深まれば、日本の景気後退も予想以上に深刻化するおそれがあり、引き続き、世界経済、金融市場の動向を注意深く見ていく必要があると思う。
 こうしたなかで、先週成立した補正予算に加え、追加の経済対策として、定額減税の具体化や中小企業の資金繰り支援強化など、様々な対策が検討されているようである。財政事情が厳しい等の制約もあるが、可能な限り、景気後退の痛みを感じやすい中小企業や家計等に配慮した政策が実施されることを期待している。


(問)
 時価会計の凍結については、さまざまなデメリットも指摘されているが、その見解を聞かせて欲しい。また、この中間期から実施する必要があると考えているか。
 金融機能強化法は、主に地域金融機関が対象だが、大手行をも対象とする議論もあるようだが、その背景をどう考えるか。また、大手行も必要としているのかどうか見解を聞かせてほしい。
(答)
 今回の混乱の初期段階から、時価会計が金融システムにスパイラル的な影響を与えているという点について金融安定化フォーラム(FSF)等で国際的に議論がなされてきた。すでに、IASBや米FASBにおいて、市場が活発でなくなった場合の時価評価にかかる解釈指針が示されるなど、具体的な動きも見られる。さらに米国では、金融安定化法においてSECに対し時価会計の一時停止の権限を与えている。
 時価会計には、透明性というメリットがある一方、その変動の激しさは、時に企業業績や金融システムの安定に大きな影響を与える面もある。特に、市場が乱高下する状況下では、こうした時価会計の影響が大きく生じることがある。欧米における慌しい動きは、時価の急落という緊急事態を受け、各国の事情に応じた対応がなされているものと言えるのではないか。
 わが国においても、先般、地銀界から声が挙がったように、緊急対応として、わが国固有の事情も踏まえた時価会計の影響を分析したうえ、必要な手当てを講じるといった検討が望まれる。その際には、わが国企業が国際的にみて不利にならないよう対応することが、国益の観点からも必須となろう。

 二つ目のご質問であるが、わが国においては、公的資金による資本注入の枠組みとして預金保険法102条1号があるが、これは金融危機の認定がないと実施できないこととなっている。こうしたなか、昨今の国際的な金融市場の動揺に鑑み、地域金融機関がより機動的に公的資金による資本注入を受けられる枠組みを整備することにより、金融機能の強化を図ることは時宜にかなった措置ではないかと思う。
 私どもは、わが国において、この枠組みが直ちに利用されることはないと考えているが、万が一の事態に際して有効に機能することも重要と考える。
 金融機能強化法については、地域金融の円滑化の観点から、地域金融機関による中小企業金融円滑化を図るために検討されているもので、メガバンクを主眼においてはいないのではないか。いずれにしても、みずほ銀行としては、現在のところ申請するつもりはない。


(問)
 欧米では公的資金注入が相次いでいるが、そこには優良行も含まれている。こういった優良行に公的資金が入ることについて、競争上の観点からどのように考えるか。
(答)
 欧米各国の公的資金による資本注入は、G7における「緊急かつ例外的な行動を必要としている」という共通認識に基づくものである。現在の緊急事態に鑑みて金融市場の安定化、金融システムの維持を重要視して行われたものと理解している。実際に、各国における資本注入の具体策を市場が好感する等の成果が出はじめており、こうした動きにより、一刻も早く国際金融資本市場の状況が改善されることを望みたい。なお、公的資金による資本注入が競争戦略上有利に働くかは、資本調達に伴う配当などのコストに鑑み、その資本を活用することによって生み出される収益との費用対効果の観点から一概にどうとは申しあげられない。調達コストが一般に高いことを考えれば、必ずしも競争戦略上有利と言えないのではないかと思っている。私としては、公的資金による資本注入が必要ないのであれば、それに越したことはないと思う。


(問)
 中小企業金融について、実際に中小企業の声を聞くと、資金融資が厳しくなっているとか、早期返済を求められているとか等の声が聞こえてくる。中小企業金融の現状について、どのような見解を持っているか。
(答)
 国内景気が停滞色を強めるなかで、国際金融資本市場の混乱が実体経済に及ぼす影響も懸念されており、中小企業を取り巻く環境は厳しさを増している。そのような事態に際し、政府におかれては、中小企業の資金繰り確保に向けた様々な対策を講じられている。私ども民間金融機関としても、政府、日銀と引き続き緊密な連携を保ちつつ、自主的・自律的な取組みを通じ、企業の資金需要に円滑にお応えしていくことが期待されている。
 ここで、わが国金融機関の状況について申しあげると、米国発の金融危機に伴う影響が生じていることは事実ではあるが、現時点では、欧米の金融機関に比べて相対的に安定していると考えている。また、何よりも、現在の状況は、10年前の厳しい環境とは異なると思う。
 したがって、収益環境が厳しいなかで、各銀行とも、お客さまとのお取引の基盤となる「貸出」をできるだけ伸ばしたいと考えており、様々な工夫を凝らしているところである。
 なお、株式市場の大幅な変動など、国際金融資本市場は依然予断を許さない状況にあり、今後さらに政府の追加的な対策が期待される。様々な事態を想定し、私どもが円滑な資金供給を行っていくためのさらなる対策が検討されることは有用であると思う。
 先ほど景況感について申しあげたが、お客さまから大切なご預金をお預かりしている身としては、景気停滞に伴い与信コストが増加傾向にあるなど、経営環境は難しくなってきていると感じている。
 このような状況下、私どもとしては、企業の資金ニーズに何とかお応えすべく、お客さまの事業内容等に関するよりきめ細やかな審査を行っている。こうした取組みが、「金融機関の貸出態度が厳しい」というご意見として顕れてきている面もあるのではないかと思うが、いずれにしても、お客さまにご納得いただけるように十分説明を尽くすことが重要であると思う。
 私ども金融機関は、重要な役割期待として、「円滑な資金供給」と「財務の健全性維持」の双方を適切に実現していくことが強く求められている。
 また、先日の中川大臣との意見交換の場でも、中小企業金融の円滑化に向けた適切な対応についてご要請をいただいている。難しい環境ではあるが、私どもとしては、金融機関の役割期待を今一度肝に銘じ、引き続き適切にリスクを取って、円滑な資金供給にしっかりと取り組んでまいりたい。
 なお、こうした考えのもと、本日、中小企業金融の円滑化に関する申し合わせを行ったが、今後、私どもの取組みについての積極的なアピールにも取り組んでいくこととしたい。
 このように厳しい時勢においては、中小企業のお客さまとしっかりと向き合い、お客さまが抱えておられる問題に迅速かつ一歩踏み込んで対応していくことが重要であり、私どもとしては、こうした取組みを着実に行ってまいりたい。


(問)
 各国当局が金融機関に公的資金を注入するなど、市場安定化に向けて対策を打ち出している。この前のG7でも金融機関を破綻させないという趣旨も入っていたと思われる。そういったなかで、日本の銀行は比較的体力があるという発言があったが、そういった金融機関に出資するとか買収する余力というのがあると考えているか。個別行にもよると思うが見解を聞かせてほしい。
(答)
 最近では、みずほコーポレート銀行がメリルリンチに12億ドル、SMBCが英国のバークレイズに1,000億円、MUFGが米国のモルガン・スタンレーに9,000億円など、邦銀の外国金融機関への出資が続いている。
 金融情勢の変化が激しい現時点において、今後の動向について予測することは難しく、また海外金融機関への出資や業務提携は各行の業務戦略に拠るものでもあり、コメントは差し控えさせていただきたい。余力があるかどうかについてのコメントも難しいが、一般論として言えば、出資等を行う際には、リスクとリターンについて十分検討したうえで判断が行われていると理解している。


(問)
 まず、時価会計のところを教えて欲しい。時価会計の見直しと言ったときに、対象となる金融商品について会長はどこまで想定されているのか。株についても、株の乱高下ということがあって言及されていたが、株も入るのか、あるいは証券化商品だけなのか、あるいは国債も含めるのか。究極的には、株も入れて欲しいというお考えなのか。
 次に、物価連動国債とか変動利付国債の価格が大幅に下がっていて、需給が悪化していると国は言っており、昨日も財務省で需給対策が出ている。ここのところは、地銀も含めていろいろエクスポージャーが多いのではないかと言われているが、ここのリスクを会長はどういうふうにお考えになっているのか。かつ、ここのところの対応策として、1つは時価会計の見直しがあると思うが、ここは総合的にどういう落としどころが皆ハッピーになると会長はお考えか。
(答)
 会計基準については、しかるべく関係機関において検討がなされるものであり、検討範囲に関する私からのコメントは差し控えたい。
 あえて一般論を申しあげるならば、検討にあたっては、入口ではできるだけ議論の幅を広げるとともに、対応については欧米と足並みを揃えることが一つの軸となろう。欧米では、現下の緊急事態を踏まえて、それぞれの事情に応じた検討が進められているようである。
 わが国でも、わが国固有の問題についてどのような手が打てるか検討がされることを望んでいる。現在は、非常に厳しい状況にあり、平時とは違う環境にあることから、このような議論が高まっているものと認識している。

 変動利付国債や物価連動国債については、市場が正常な状態にはなく、市場価格が下落し理論価格と大きく乖離しているようだ。
 こうした事態下における時価評価のあり方は難しい問題であり、欧米でも議論がなされたが、そこでは、会計基準の変更ではなく、運用ルールの見直しという観点から対応がなされたようだ。わが国においても、こうした欧米の動きを踏まえつつ議論されるということではないか。


(問)
 日本固有の問題や事情といったとき、それは例えばどういうことを念頭に置いているのか。
(答)
 各国で様々な固有事情がある。わが国では、例えば、金融機関の株式保有が相対的に多いという点が、欧米の金融機関との相違点と言えるのではないかと思っている。


(問)
 先月の会長会見のときは、MUFGによるモルガン・スタンレーへの出資が決まった直後ぐらいで、日本の金融機関は何の問題もないという印象を持っていたが、ここにきて地銀では決算の下方修正が相次ぎ、株価も大幅に下落して、メガバンクも含めて問題はかなり大きくなっていると思う。その点について、会長ご自身の危機意識というか、現状について、日本の金融機関を見渡したときに比較的傷は浅いとおっしゃられたが、どの程度の危機意識を持たれているのかお聞きしたい。
(答)
 日本の金融機関の状況は、欧米との比較において安定している。ただ、万全とまでは言えないかもしれない。欧米においては、金融システムの安定を維持すべく様々な取組みが実施されており、状況は改善してきている。
 日本においても、欧米に追随して株価の下落が続き、あるいは景況感が悪化して実体経済に悪影響を及ぼすという状況が長い期間続くと、経営環境は厳しくなるとは思うが、すでに、国際的な協調政策を含め、様々な施策が実施されていることから、そうした事態には至らないのではないかと私は見ている。右肩上がりの景気が続くという状況にはないものの、ここ2~3日の株価は回復しており、グローバルな対策が好感されたということはあるのかも知れない。


(問)
 先ほど会長の口から国益という言葉が出たが、欧米と日本とは状況が異なるとの認識を示されているが、そうは言っても欧米の金融機関の株価が下がれば日本の金融機関の株価も下がり、上がればまた上がる。どうしても状況が一緒にされているような状況だと思うが、そこで敢えて協会としていわゆるプロアクティブなアクションが取れないものか。
 制度上私も不勉強でわからないが、時価会計とか守りというよりもむしろ積極的な日本発の世の中直しみたいな、世界直しみたいなポジティブな意味でのコレクティブアクションというものが取れないのか、たとえばファンドを日本の銀行全部が作ってそれぞれお金を拠出しあって100兆円集め、それを欧米に投資するだとか、勝手に思って言っているのだが、5年後に振り返ったときに、あの金融危機は日本から直っていった、日本発で直ったと、しかも金融、銀行が主導して直ったというような思いっきりプロアクティブな話というのがどれくらい協会の会員の皆さんから出ているのか、それともやはり今は守りという部分で時間が経ってしまうのか。
 みずほの出資もわれわれから見ると大きな花火だったわけで、SMBCもそうで、MUFGもそう。ただ単発で終わってしまうような雰囲気があって、これをドーンと大きく出せないものか、この辺の意見をお聞かせいただきたい。
(答)
 先ほど申しあげたように、日本の金融機関は、欧米に比較すれば相対的に良好な状態にある。しかし、この状況も、わが国の実体経済や株価次第では変化する可能性がある。そうした万一の事態も想定し、予備的・予防的な対応、例えば金融機能強化法などが検討されているものと理解している。したがって、今おっしゃったように、5年後を想定して、日本の金融界を挙げてとにかく世界に打って出れば良いというような状況にあるかというと、なかなかお答えすることは難しい。
 金融機関としては、もちろん守りの姿勢だけではないものの、様々な事態を想定し、それに備えて着実に足場を固めておくことが重要である。特に、経済はグローバルに連関しているため、欧米あるいは中国をはじめとするアジア諸国等において問題が生じれば、わが国にも影響が及ぶことになる。
 そうしたことを踏まえれば、欧米よりも相対的に優位だから、日本の金融機関あるいは日本の企業が直ちに打って出るべきだという点については、それぞれの企業の置かれた状況も異なるなか、一概に言えないのではないか。世界経済が景気サイクルの底にあるかもしれないなかで、国際的な協調策が打ち出されている。わが国だけで世界経済を救うということではないと思う。


(問)
 今日のプレスリリースの文言に則してうかがうが、金融界でも工夫を凝らし様々な方策を講じて中小企業の資金需要に応えてきたとあるが、具体的に世間が貸し渋りではないかと指摘するところにおいて、どのように対応しているのか、具体例を交えてご紹介いただければありがたいと思う。
 それからこれに併せて、先ほどのお話で、取組みについて積極的にアピールしていきたいという話もあった。これは具体的にどのような内容をどのようなレベルで行うのか、これも併せてご紹介いただきたい。
(答)
 後者の方からお答えする。今回、会員銀行に要請を行うこととし、具体的にはこれから検討していくことになる。銀行界の中小企業貸出に対する取組姿勢に厳しい視線が向けられているなかで、各行が独自に創意工夫を行い、中小企業のお客さまに対する取組みを積極的に打ち出していくことが求められており、そういった方向感でアピールしていくことを考えている。
 それから、具体的な取組み状況に関して申しあげると、例えばみずほ銀行においては、お客さまの商品・売掛債権等の事業用収益資産を活用した融資や、環境配慮型企業向けの融資などに取り組んでいる。また、零細企業などの小規模法人のお客さまに特化した融資業務専門子会社(「ビジネス金融センター」)を活用して、お客さまの資金ニーズにきめ細かく対応している。さらに、資金供給に止まらず、事業承継や海外進出支援といった各種ソリューションなどの提供を通じて、企業の経営支援についても積極的に取り組んでいきたい。


(問)
 貸し渋りではないかと言われていることに対しては、何か対応しないのか。
(答)
 個別のお取引においては、様々な検討を行ったにもかかわらず、銀行としてお客さまからの借入のお申し込みにお応えできないケースがあるかと思う。
 こうした厳しい環境下では、中小企業のお客さまと従来以上にしっかりとコミュニケーションを取って、お客さまが抱えている問題をいち早く共有し、きめ細かく対応していくことが重要であり、私どもも取組みを進めているところである。
 金融機関は、先ほども申しあげたとおり、財務基盤の健全性にも意を用いていかなければならない。10数年前のように不良債権が大幅に増加するような状況を作り出すことのないよう充分に留意し、バランスを上手く取りながら、円滑な資金供給に取り組んでいかなければならないと考えている。


(問)
 銀行員の方のなかにも、銀行がこの数年間、スコアリング融資などの自動審査融資に随分注力した結果、与信管理能力が落ちているのではないか、あるいはそのノウハウを伝えることを怠ってきたのではないか、というような反省の弁が聞かれたり、あるいは、言葉は悪いのだけれども、足もとの手数料稼ぎという、収益をあげるためのビジネスに特化して、本来の与信ビジネスがおろそかというか、後回しになった部分もあったのではないかというような話を聞いたことがある。会長はどのようにお答えになるか。
(答)
 スコアリングモデルを活用したビジネスローンについては、一時、銀行は不動産等の担保に依存しすぎてはならないということで、みずほ銀行も含めて、取り組んだ時期もあった。しかしながら、スコアリングの判定結果だけでは、必ずしも企業の実態を反映していないケースもあると考えている。
 スコアリングモデルそのものを否定するつもりはないが、それに頼るだけではなくて、個々のお客さまとの十分な対話を通じ、企業の実態をきちんとつかんだうえで与信判断することが重要である。私どもとしても、そのように各支店を指導しており、効果は上がってきていると思っている。


(問)
 2点うかがいたい。
 1点目は、昨日の佐藤長官の会見で、株価下落の影響が懸念されるなか自己資本比率規制の見直し検討について言及されたが、株価が非常に下落した状況では、自己資本のなかから含み損が控除されることが日本の金融機関にとってマイナスになるのではないかという議論があるが、その見直しは対策の一つとして有効なものと思われるか。
 2点目は、中小企業に対する取組みについてのアピールだが、いつごろから始める予定なのか教えて欲しい。
(答)
 株価が下落し含み損が発生した場合は、その部分だけをみれば、Tier1の減少要因となる。株価が乱高下している状況を踏まえれば、このタイミングで様々な対応につき幅広く検討を進めることは必要であろう。
 中小企業向けの取組みを対外的に打ち出していく時期については、できるだけ早いタイミングでやっていくことが大切だと思っている。


(問)
 会長は、金融機能強化法を評価するとお話されている。前回と大きく違う点は、経営陣の責任を問うかどうか、公的資金を注入するときに合併などがセットで来るのかどうかということだと思う。モラルハザードも起こしかねないことだと思うが、その功罪について、会長の評価をお聞かせいただきたい。
(答)
 先ほど申しあげたように、金融機能強化法は、昨今の国際的な金融市場の動揺に鑑み、中小企業金融の円滑化の観点から、地域金融機関が予備的・予防的に公的資金による資本注入を受けられる枠組みを整備するということから始まった話だと思う。
 現在、法案が検討されているところであり、お答えは控えさせていただくが、経営者の責任も含め、様々な観点から議論されているものと考えている。まさに、日本の金融システムの安定化を最重要課題として検討が進んでいるということではないか。