2009年3月24日

杉山会長記者会見(みずほ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 事務局から2点ご報告する。
 1点目は、新年度の役員についてであるが、本日開催の総会において、お手許に配付した資料のとおり21年度の理事を選任した。任期は4月21日からとなる。会長、副会長については、4月21日に開催する理事会で選任する。
 もう1点は、本日、「電子債権記録機関要綱」を決定した。お手許にその公表文を配付している。
 全銀協では、昨年3月に「電子記録債権の活用・環境整備に向けて」と題する報告書を取りまとめ、「全銀行参加型」の電子債権記録機関の設立に向けた検討を本格化させた。その後、昨年10月に「要綱(中間整理)」を公表しているが、今般、「電子債権記録機関要綱」として、記録機関の基本的な要件について最終取りまとめを行った。
 今後は、この要綱をベースとして、24年度上期の開業を目指し、記録機関設立に向けた準備を進めていく。
 私からの報告は、以上である。
 なお、本日ご報告した内容について、質問等があれば、会見終了後に事務局にご照会いただきたい。

 

会長記者会見の模様

(問)
 足元の景況感についてお聞きしたい。国内外の景気の見通しについて、また株価も上がってきているが、株価対策に対する考えと合わせて教えていただきたい。
(答)
 日本経済は引き続き、極めて厳しい状況にあると認識している。昨年10~12月期の実質GDP成長率は輸出の急減を主因に前期比年率マイナス12.1%の大幅マイナス成長となったが、今年1~3月期も同程度のマイナス成長になりそうな情勢である。
 輸出の落ち込みはまだ止まらず、1月の貿易統計ではほぼすべての国・地域向けの輸出が前年比4~6割も減少した。製造業は急ピッチで減産を続けており、それが国内需要の減少にもつながっている。業績の悪化と設備稼働率の低下を受けて、設備投資のマイナス幅が拡大していくことは確実である。また、家計所得の減少や、雇用不安の高まりから個人消費も低迷している。
 こうしたなか、日ごろお客さまと接していると、「今後の事業や資金繰りの計画を立てようにも過去の経験が全く役に立たない」という声を多く聞く。将来の見通しが立たない、すなわち「不確実性」が高まっていることを受けて、お客さまは一斉に守りの姿勢を強めており、事業拡大意欲が大きく減退しているとの実感がある。
 こうした現状への対応としては、一刻も早く、お客さまの売上や受注の「不確実性」を取り除くこと、すなわち、短期集中での需要創出策が必要ではないかと考えており、この連休中の首相官邸での有識者会議においてもそうした観点から発言させていただいた。
 緊急の需要創出策を考えるにあたっては、外需型産業を短期的に内需で支援することや、可能な限り中長期の政策を先取りするような施策を盛り込んでいくことが有用であろう。
 詳細は省くが、官邸では、「災害に強く環境へやさしい社会づくり」や「農業、観光など地方への対策」といった観点から、いくつかの重点項目を挙げさせていただいた。
 一方、企業の資金繰り支援策については、こうした需要創出策とセットで行うことにより、より一層の効果が得られるものと考える。
 これまで政府・日銀により相次いで打ち出された施策は、私どもにとっても大変心強いものであり、実際、世界の金融資本市場が混乱するなかにあっても、わが国の銀行貸出は増加を続けている。
 とは言え、今後の更なるリスクを考えた場合の追加対策をいくつか備えておくという観点から、様々な検討を進めておくことは有用である。
 たとえば、中堅企業の資金繰り支援策である。これまで、中小企業へは緊急保証制度、大企業には日銀による企業金融支援措置などが講じられてきたが、中堅企業に対する公的保証など、実効性の高い更なる対策を講じることが有用である。
 次に、ご質問のあった株価対策についてであるが、昨今の急激かつ過度な株安を受け、株式の保有リスクへの対応が銀行経営にとって重要な課題になっていることは間違いないが、一方で、株式市場全体についてみれば、銀行の保有している割合は5%に満たない。
 むしろ、株価対策は、全産業にわたる企業活動や国民生活にも幅広く影響を及ぼす日本経済全体の問題であるとの認識をもち、その必要性や効果について検討することが必要と考える。
 検討に際しては、人為的にマーケットに介入することの副作用や市場の信認の問題をはじめ、様々な論点があろう。
 本来、景気そのものを刺激することが最大の株価対策であることは申しあげるまでもないと思うが、現在の厳しい状況を考えると、一時的な需給の偏りを中和するような対策も検討に値しよう。


(問)
 土曜日の官邸の有識者会議でも与謝野大臣から、金融機能強化法、日銀の劣後ローン供与に対して理解を求めると発言があった。そして今日の夕方、日銀で大手行の首脳級の方と、日銀の劣後ローンの制度に関して意見交換会をもたれるそうであるが、こういう公的な資本強化制度に対する会長の現時点でのお考えをお聞かせいただきたい。
(答)
 金融機能強化法は、金融機関の仲介機能を強化し、厳しい状況に直面する地域経済や中小企業を支援することを目的としている。私どもとしては、本法律は時宜にかなった有意義なものと考えていると同時に、足許の状況のみならず、先を見据えたフォワードルッキング的な考えに基づく申請も可能となっている点など、まさに金融市場の安定化に資するものとなっていることを、大変心強く思う。
 本法律の趣旨などについては、金融担当大臣や金融庁から銀行界に幾度もご説明をいただいており、先ごろ、北洋銀行、福邦銀行、南日本銀行の3行が申請を行い、資本参加の決定がなされたところである。私どもは、資本参加については、あくまでも、本法律の趣旨を理解して、必要に応じて各行が自ら申請するものと考えており、先の3行もそれぞれのご判断で資本参加を申請されたものと理解している。
 ちなみに、みずほとしては、まずもって自助努力で資本増強してきたし、今後もそれを基本としたいと考えている。一方、銀行界全体としては、21日に首相官邸での有識者会合において申しあげたとおり、昨今の国際的な金融市場の混乱や国内の景気悪化がさらに加速度的に進み、この金融危機が一段と異常な状況になると見込まれる場合、個々の銀行にとって選択肢となるため、安全弁として大変有意義だと思っている。
 私ども銀行界としては、資本参加のあるなしにかかわらず、そもそもこの法律が制定された背景や趣旨を踏まえ、金融仲介機能の一層の強化を図り、中小企業等に対する円滑な資金供給に努めるとともに、地域経済の活性化にも全力で貢献して参りたいと考えている。
 日本銀行による劣後貸付の供与については、厳しい金融情勢の下でも、わが国の金融機関が十分な自己資本基盤を維持し得る手段を整えることにより、円滑な金融仲介機能を確保するとともに、これを通じて金融システムの安定を図ることを目的とするものと理解している。
 今後の株価下落や国内景気悪化等に備える時宜にかなった有意義な措置と考えており、こうしたことが検討されることはありがたい。
 この枠組みを利用するかどうかは、個別金融機関の判断となるが、政府に加えて日本銀行により金融システムの安定に向けて様々な政策パッケージが整備され、あるいは検討されることは大変心強く思う。


(問)
 日本時間で昨晩、アメリカで不良資産の買取案が正式に発表されたが、それでマーケットもかなり好感しているようだが、会長の評価を踏まえて、所感を聞きたい。
(答)
 昨夜のニューヨーク株式市場及び、昨日、本日の東京株式市場の株価が上昇しているが、お尋ねの米国の措置が材料視されているとの見方もあるようだ。発表された内容は、不良資産救済プログラムの資金を最大1,000億ドル投じるとともに、民間資金を積極的に活用し、預金保険公社の保証、FRBの融資等と組み合わせて総額5,000億ドル、最大で1兆ドル規模の官民投資プログラムを実施するものと聞いている。
 このプログラムの3つの原則として、官民協力により大規模な買取基金を創設すること、民間も相応にリスク負担すること、買取価格の算定に民間のノウハウを活用することがあげられている。
 民間のノウハウを活用することで、政府が独自に買取るよりも適正な価格で買取り、また官民協力して銀行のバランスシートから不良資産を大規模かつ迅速に切り離すことにより、金融危機を早期に解決することを目指すものと考えている。
 今後、民間がどの程度このプログラムに参加するか、適正な価格がどの程度となるかといった点がポイントになると思っている。本プログラムについては米国でも様々な反応があるようだが、昨夜のニューヨーク株式市場では、このプログラムが好感されたようだ。
 米国政府による危機解決への取り組みはよい方向に向かっていると認識しており、金融危機が早期に解決されることを期待している。


(問)
 改正金融機能強化法に基いて、公的資金を申請した銀行が北洋銀行を含め3行にとどまっている。3行にとどまっているのは、将来的に国が銀行経営に関与してくるのではないかという懸念があるからということなのか、自力調達が一番であると思っている理由は何なのか、ご意見を聞かせてほしい。一方、日銀が導入する資本増強支援策は、経営に関与してくるという懸念が比較的薄いと考えられるため、改正金融機能強化法よりも利用する銀行が多いのではないかと思われるがご意見を聞かせてほしい。
(答)
 まず、日銀による劣後特約付貸付の供与についてであるが、今後、その商品性や条件など詳細が検討されるものと承知しているものの、大変有意義な措置ではないかと考えている。これにより私どもの自己資本の増強にあたって、自力での調達、金融機能強化法に基づくTier1の調達に加え、日銀の劣後特約付貸付によるTier2の調達と3つの手段が揃い、自己資本基盤を維持しうる「政策パッケージ」が整備されたことになる。その意味で金融機能強化法もTier1強化の選択肢という観点から、時宜にかなった有意義なものと考えている。ただし、資本参加の申請はあくまで各行独自の判断によるものだと思うし、個別行毎にスタンスは異なるのであろう。もちろん、早めに公的資金を入れて、自己資本を強化したいと考える経営者がいらっしゃるのは当然だと思うが、やはり公的資金は国民の税金である。そのことの重さを踏まえれば、まずは自力調達からということではないかと思っている。私どもについて言えば、過去に公的資金によるご支援を頂いていたこともあるが、今次の危機においては、なるべく自力調達で頑張ってまいりたいと考えている。


(問)
 中小企業向け融資の足許の状況を教えていただきたい。
(答)
 貸出金全体の動きを申しあげると、引き続き増加基調で推移しているが、特に昨年10月以降、高い伸びを示している。また、中小企業向け貸出についても、10月末から実施されている緊急保証制度の効果もあり、足許で増加してきているというのが実感である。


(問)
 伸びているのは前月比か。
(答)
 日銀が公表している統計によると、昨年12月末の中小企業向け貸出は9月末対比で増加している。なお、ご参考までに申しあげると、みずほ銀行の2月末の中小企業向け貸出は、12月末対比でも増加している。


(問)
 中小企業向け融資全体は、前年同月比では16~17ヶ月連続でマイナスだと思うが、今の銀行は、中小企業向け融資ということに関して役割を十分に果たせているとお思いか。
(答)
 前年同月比の数字はいま持ち合わせていない。ただし、私どもとしては、各銀行が政府によって総額20兆円に拡大いただいた緊急保証制度も活用して中小企業向け貸出に積極的に取り組んでいることもあり、全体としては、お客さまの年度末の資金需要にお応えしてきていると感じている。


(問)
 銀行の資金仲介機能を果たして欲しいという言葉が、当局サイドからしばしば出てくるが、一方で企業の資金繰りの側面から見ると、直接金融というところも大事なところで、そこは日銀が手を打つなど一定の対策を講じてきているが、現段階で、会長の評価として、直接金融市場は回復した、あるいは回復してきている、回復してきている途上にあるとしたらどの程度回復してきているのか。結局、そこのところの回復がきちんと進まなければ、間接金融としての銀行の金融仲介機能に対する、ある意味過度かもしれない期待というのは収まらないのではないかと思うが、このあたりのバランスをどのように考えたら良いのかということも含めて、お考えをお聞かせいただきたい。
(答)
 日銀による社債やCPの買入など様々な措置を実施いただき、その効果により、これらのマーケットは落ち着きを取り戻していると思う。いまだ正常時の状況に戻っているとは言えないが、危機対応としてこのような措置を講じて頂いているのは、大変心強い。
 今後、マーケットが正常時の状況に戻るためには、やはり実体経済の回復という条件が満たされることが第一だと思う。しばらくは厳しい状況が続くのではないか。


(問)
 日銀はもうこれ以上やるべきことはないとお考えか。
(答)
 日銀におかれては、既に異例の対応も含め様々な措置を講じて頂いており、大変ありがたいと思っている。これ以上やるべきことはないかとのご質問だが、できれば本年9月末までの時限措置となっている社債及びCPの買入期限の延長などのご対応を頂けると大変有用だと思う。なお、このことは、先般の有識者会合でも検討をお願いしたところである。 今後、マーケットが正常時の状況に戻るためには、やはり実体経済の回復という条件が満たされることが第一だと思う。しばらくは厳しい状況が続くのではないか。


(問)
 今回、金融庁が貸し渋り防止の集中検査ということで、大手行を中心にこれから集中検査に入るということであるが、個別の融資案件等には口を挟まないという言い方をしていたが、今回の検査に対して会長はどのように捉えているか。
(答)
 国内景気が停滞感を強め、企業の倒産増加や業績悪化に伴い、与信コストが増加傾向にあるなど、経営環境としては、全体として、非常に難しい局面にあると感じている。そうしたなか、政府・日銀において企業の資金繰り確保に向けたさまざまな対策が講じられており、われわれ民間金融機関としても、その趣旨を十分に理解した取組みを期待されていると認識している。お客さまから大切なご預金をお預かりしている身として、財務の健全性についても留意しつつ、バランスを保ちながら、円滑な資金供給に取り組んでいかなければならない。
 中小企業をはじめとするお客さまへの適切な対応については、銀行界としても、金融担当大臣との意見交換会や、ご当局からいただいた要請文の趣旨等を踏まえ、会員各行に徹底しているところである。
 お尋ねの金融庁検査については、それ自体についてコメントすることは差し控えたいが、いずれにしても、検査があるから対応するということではなく、銀行界が自らこうした取組みを進めていくべきものだと考えている。

別添資料:杉山会長記者会見(みずほ銀行頭取)