2009年5月26日

永易会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日の理事会において、昨年度に引続き「金融犯罪防止啓発活動」を実施することを決定した。
 その活動の第一弾として、お手許の資料のとおり、6月を振り込め詐欺撲滅強化月間として、高齢者層をターゲットとしたイベントの開催、会員銀行における振り込め詐欺撲滅に関する頒布品の店頭配布等を通じて、注意喚起を行うこととした。

 

会長記者会見の模様

(問)
 地銀を含めた銀行決算が発表された。赤字の銀行が多かったが、これに対する評価と、今後の与信費用もしくは与信の余力等についての見通しを教えていただきたい。
(答)
 産業界、金融界とも決算が出た直後であるので、まずその評価ということだろうが、ご高承のとおり、100年に一度の金融危機、戦後最悪の経済悪化という状況であるので、決算は非常に厳しかったという評価である。昨年度は、上半期は、いわゆる巡航速度で走っていたが、9月15日のリーマン破綻以降の急激な環境悪化は、金融界、産業界とも経験のないものであったと思う。したがって、決算は非常に厳しかった。産業界は、減収・減益は勿論だが、特に利益の落ち込みが大きく、経常利益は東証一部上場企業の合計で▲6割の減益である。上期はまずまずの業績であったことからすれば、いかに下期の悪化が深刻であったかということであろう。かつ、当期利益は同じく東証一部上場企業の合計で赤字である。そこまでの落ち込みがあったということは、非常に厳しかったと言えると思う。ただ、全体の景況感にも言えることだが、3月になって良い材料が散見されるようになってきたのも事実である。また、当期利益が経常利益を上回って落ち込んだということは、各企業が必死に構造改革に取り組み、これに伴う特別損失を計上したケースが非常に多かったことを示している。勿論、繰延税金資産を取り崩した等の要因もあったが、基本的には、事業構造改革を完遂するという企業の強い意志が見て取れる決算だったのではないかと思う。
 金融界については、これまでも申しあげていることであるが、与信関連費用が前年比3~4倍と急増するとともに、株価の大幅な下落により株式減損が非常に巨額になった。このダブルパンチによって3メガは揃って赤字となった。黒字の銀行もあったが、総じて地銀各行も相当厳しい決算だったと思う。したがって、これを踏まえて、今後どうするかが問題であり、先ほど申しあげたように、産業界は相当早く手を打ち始めていると感じられる決算であったと思う。


(問)
 国際的に「資本の質」という議論が起こっている。いろいろ業態の違いなどもあり、横串を刺すのは難しいのではないかという議論も国内ではあると思う。これに対する銀行界としての考えをお聞かせ願いたい。
(答)
 今回のサブプライム問題を端緒にする証券化商品の問題や100年に一度と言われる危機への反省等から、早くこの金融・経済危機から脱却しようという動きがある。一方で、このような危機を二度と起こさないよう監督当局がどういうものを規制すれば良いのかという中長期的な議論があるのも事実である。
 そのなかに「資本の質」という議論があることは承知しており、3月のバーゼル銀行監督委員会で公表されたテーマでもある。その「資本の質」のテーマだけが、際立って議論されているかのような印象を受ける報道もあるし、また、先日の米国でのストレス・テストでもコア資本が基準として使われたが、時期として非常に唐突感があった。
 グローバル・ベースの規制の基準は、一つのテーマだけで全て上手く議論出来る訳がなく、いろいろな角度から十分議論を行い、トータルで検討されたものでなければ意味がない。規制というのは良いところもあるし、悪いところも必ずある。そういう観点で十分に議論してやるべきだと考える。ストレス・テストで使われた資本の基準は、グローバル・ベースでコンセンサスを得ている訳ではないので、これがスタンダードではないということは強調しておきたい。
 また、バーゼル委員会からは4つの大きなテーマが掲げられている。今回起こった危機事象から、リスクの捕捉手法をレベルアップしなければいけないということが非常に重要視されている。しかし、リスク捕捉の問題はほとんど報道されていない。本年は、まだ金融危機のなかにあり、そうした議論を完全に深めてコンセンサスにするタイミングではないと思っているし、おそらくそうはならないであろう。金融危機からある程度脱却した次の段階で、「監督規制というのはどうしていくべきか」という議論を行いたいというのが私どもの希望である。本邦当局、乃至はIIF等の民間金融機関の集まり等も通じ、意見を集約しながら議論を深めたいと思っている。


(問)
 鳩山民主党が発足した。これに対する感想をお願いしたい。
(答)
 鳩山民主党は誕生したばかりであり、今後の政策立案の内容次第で評価が決まっていくものと思う。
 100年に一度と言われる経済危機において、政官民一体となって経済立て直しに取組むことが目下の最優先の課題と考えている。したがって民主党においても、経済対策における建設的な議論や提案を期待したい。


(問)
 米国ゼネラルモーターズが、数日中にも連邦破産法を申請するとの見方が強まっている。もし、破綻した場合、マーケットや日本経済に与える影響について、会長のご意見を聞かせてほしい。
(答)
 クライスラーは4月に連邦破産法第11条の適用を申請し、法的整理に追い込まれたが、これは再生型の破綻である。GMはクライスラーよりはるかに巨大な企業で、破綻した場合の影響は大きい。GMが連邦破産法第11条を申請するか、自力再生のどちらを選択するかはわからないが、クライスラー同様に再生型でいくことは間違いないと思う。その前提で、日本経済への影響が巨大かというとそうではないと思う。GMに連邦破産法11条が適用されても、取引のある本邦の部品メーカーは米財務省の保証を使えば損失を抑えることができる。また、再生型であれば今後の商売も続いていくことになるので、日本国内においては巨大な影響があるということではないと思う。一方、GMの破綻が米国内に与える影響は非常に大きく、間接的に日本経済への影響も出てこよう。ただ、繰り返すが、再生型であれば、大変大きなマグニチュードにはならないのではないかと理解している。


(問)
 スタンダード&プアーズが、先週、英国債の見通しを格下げした。米国債の格下げ懸念も出てきており、ドル安を誘導するのではないかとマーケットでは懸念している。その場合の市場への影響について、どのようにお考えか。
(答)
 非常に大きな影響が生じることはないだろうと思う。かつて日本国債も同様の状況になったことがある。大胆な財政支出を行う際には、格付が若干下がるということは、往々にして起こることである。センチメントの点でやや影響を受けることはあると思うが、重大な影響は生じないだろうと思う。


(問)
 欧米で長期金利が上昇してきている。日本は比較的低位で安定しているが、欧米に引きずられて長期金利が上昇し、国債の価格が下落するというリスクを指摘する声もある。今後の金利、国債価格の見通しについて、お聞かせいただきたい。
(答)
 確かに、足元、海外の長期金利は徐々に上昇している。国内は安定しているとのご指摘だが、私は国内でも上昇していると思う。10年物、30年物という長期金利の上昇に対して、通常の指標には出てこない2~3年物の金利は上がっていない。微妙なセンチメントなどの要因もあって、超長期の30年物、長期の10年物は上昇しているが、中期の金利までは波及していない。実際のところ、今後の見通しは誰にもわからない。金利は、様々な要因が微妙に絡み合うなかで上下するものである。ただ、少なくともこのまま一本調子で上昇することは想定していないということは言える。


(問)
 新型インフルエンザ対応についてである。三菱東京UFJ銀行の三宮支店で行員の方が感染されて、しばらく応援の方を使って営業されたというのがあったと思うが、規模の小さい金融機関で同じようなことがあった場合に、そういう応援が回るかということもあるし、今、少し落ち着いてきているとはいえ、またこういう事態が起きる可能性もあるので、感染防止という観点と、金融機関として、営業継続するというのはなかなか難しいところだと思うが、会長のお考えをお聞かせ願いたい。
(答)
 どちらにしても感染防止という観点は非常に重要である。われわれは公共性の高い業種であり、事業継続に対する責任もあるなか、たまたま私どもの銀行のなかで感染者が発生した。今回の対応は、2~3年前から脅威として想定していた鳥インフルエンザを参考にしたものであり、従前から持っていたプランを基に発動したものである。一部には、やり過ぎではないかというご意見もいただいているが、今回の事象は第一号かつ感染拡大の方向性がどうなるのかまったくわからない状況のなかで、感染防止の観点から甘い対応は取るべきではないという判断の下に対応をした。
 その後は既にご高承のとおり、三宮支店は今週25日には通常どおりの営業体制に戻った。全体としても、大阪・神戸等では、感染者は相応に増えてはいるものの、全国的には急増しているという状況ではないと思う。
 今後、感染防止とのバランスを見極めつつ、厚生労働省や金融庁等と連携させていただきながら、個別の銀行としての対応を取っていくものと考えている。


(問)
 先日、日銀の西村副総裁が、資本保険というスキームを講演で紹介しておられた。平時に銀行が保険料を払って保険契約を締結し、危機時にはその保険から資本の供給を受ける。こういった仕組みを官民で作っておけば、危機時の資本不足を緩和する効果が見込めるのではないかという話だったが、こういった考え方について、お考えがあればうかがいたい。
(答)
 考え方としては十分にありうるし、興味がある。先ほど申しあげた規制を巡る議論のなかで、プロシクロカリティの抑制策として提示されている様々な案のひとつと理解している。ただ、考え方としては面白いと思うが、各論については、まだ議論されてない。例えば誰が保険を引き受けるのか、保険料をどうするのか、一斉に保険金の支払いが発生した場合にシステムが成り立つのか等、詰めるべき点は多々ある。考え方としては理解しうるし、興味はあるが、まだ各論はまったく議論されてない状態と私は理解しているので、それ以上のコメントはできない。


(問)
 昨年の3メガの決算を見ると、中小企業向けの貸出が3メガそろって減った。個別行の議論になるかもしれないが、御行における要因を教えていただけないか。貸し渋りか貸し剥がしということではないか。
(答)
 確かに前年3月末と比較をすると、そういう数字が出てくる。しかしながら、金融危機になったのは昨年の9月以降であり、その時から「円滑な資金供給」を最重要テーマに掲げ、全銀協としても個別銀行としても対応してきた。
 前回は2月の数字があったので9月から2月にかけての数字を申しあげたが、今回、9月から3月について申しあげると、中小企業向け貸出は、個別行としてはほぼ同水準、全国銀行ベースでは1兆3,000億円くらい増加している。1%弱だが、中小企業向け貸出も増えている。大企業・中堅企業向け貸出は、直接金融が麻痺したなか、これを間接金融で補ったため約10兆円増加している。したがって、9月から3月でみていただくと、中小企業向け貸出が約1兆円、大企業・中堅企業向け貸出が約10兆円増加。平均すると約4%の増加となる。金融危機となった9月から3月にかけて4%ぐらい貸出が増加しているという事実は、ご理解いただきたいと思う。
 それでは去年の前半はどうだったのか、ということになるが、それはトータルの資金需要との兼ね合いであり、貸し渋り、貸し剥がしといったことではなく、こういう大きなサイクルというのは必ずあるわけで、注目して比較していただきたいのは9月末対比の3月末残高である、ということを強調しておきたいと思う。


(問)
 銀行・証券のファイアーウォール規制の緩和が間もなく迫っているが、準備状況と今後のビジネス上の変化について、教えていただきたい。
(答)
 6月1日にファイアーウォール規制の緩和が行われるのはご存知のとおりである。大きく分けると2点、1点は非公開情報授受規制の緩和、もう1点は職員の兼任の解禁である。非公開情報の共有に関しては、オプトイン方式やオプトアウト方式があるが、オプトアウト方式を採用する場合でも、やはりお客様のご納得をいただかないといけないという側面があり、勝手にレターを送りつければ良いということではない。したがって、6月1日から直ちにスタートできるとは思っていない。基本的に、ファイアーウォール規制の緩和というのは方向感として私どもにとっては非常にありがたい措置である。保険の解禁や株式投信の解禁であれば、業務そのものなので一気にスタートできるが、ファイアーウォール規制の緩和は一種の内部ルールの緩和のため、各行ごと対応が異なる。各行がTPOをよく考えながら対応していくことになる。


(問)
 今朝、国際協力銀行(JBIC)が海外に事業展開している中小企業に資金支援すると発表があったように、最近、政府系金融機関の存在感が以前にも増して強くなってきているが、政府系金融機関の位置づけについて、会長はどのように受け止めているか。
(答)
 「官から民へ」「官業は民業の補完に徹する」という大きな流れは全く不変である。ただし、現在の危機的状況は、政官民一体、政策総動員でないと脱却できない。一種の緊急事態・緊急避難であるので、さまざまな形で政府系から供給される資金を有効に活用していきたい。せっかく資金を付けてもらっても、われわれが政策へ協力・貢献していかないと、政策意図が発揮されず意味がなくなってしまう。
 つまり、現況下でわれわれは、政策金融に協調し貢献していきたい強く思っているが、冒頭に申しあげたとおり、大原則、大きな道は全く不変と考えている。繰り返すが、「官から民へ」「官業は民業の補完に徹する」という大きな流れ自体は全く不変ということである。


(問)
 先程、景気の見通しについて、明るい兆しも見えているが、ベースは非常に低いというお話があったと思うが、会長の日本経済の見通しをお尋ねしたい。
(答)
 良い方にも悪い方にも振れることがあり得るという大前提で、今年後半に底入れを探る動き、底打ちといわれる動きがみられ、年末から22年の年始にかけて、若干なりとも回復の兆しを模索するというのがメインシナリオだと思う。前回の会見では、秋口から底入れ、回復の兆しは22年度に入ってからと申しあげたかと思うが、これが若干前倒しになるのではないかと感じている。3月頃までは明るい兆しは出てこないであろうと考えていたが、輸出や生産の動向が3月にかなり好転した。輸出は、中国やASEAN向けが大きく方向が変わったという印象がある。昨年末の輸出の減少を受けて大幅な生産調整が行われており、早い分野では3月くらいに、その他でもこの4~6月に調整は完了するだろう。そうなれば、鉱工業生産にも必ず回復感が生じてくる。1~3月には、自動車や電機が3割操業などとよく言われたが、在庫調整が完了し、かつ輸出が数量ベースとはいえ3月は増加していることを考えると、底入れの時期は多少前倒しになるという印象を持っている。加えて、中国で4兆元(約57兆円)、米国で7,900億ドル(約72兆円)にのぼる景気対策が効果を上げ始めているし、わが国でも真水で15兆円の緊急対策が実施されるわけであり、これによる需要下支え効果は間違いなくある。先ほど申しあげたような輸出の増加、在庫調整の完了もあって、相応に生産活動が活発化していくという循環が期待されるため、年後半に底入れを探るというのがメインシナリオではないかと思う。


(問)
 5月危機と盛んに言われたが、足元、企業の資金繰り・資金需要はどのような状況になっているか。
(答)
 資金需要は、昨年10~12月、今年1~3月に比べ、足元では大幅に沈静化していると思う。昨秋以降、直接金融による調達が非常に難しくなるなかで、大企業が厚めの資金調達を行ったが、これが大きく落ち着ついてきている。中堅・中小企業の資金需要は足元でもそこそこ存在する。しかし、大企業は、昨年下期には、先ほど申しあげたとおり全銀ベースで約10兆円の資金需要があったが、現在はそれほどの資金需要はないと思う。金融危機の影響は直接金融に最も強く現れる。足元、景気の先行指標といえる株式相場は比較的堅調に推移しているが、これも、直接金融市場の回復を睨んでの動きだと思う。ただ、景気全体が底打ちに向かいつつあるなか、先行指標が株式相場とすると、遅行指標はやはり雇用、消費である。これらが早急に回復するとは考えにくく、景気全体の回復にやや遅れる動きとなる。このため、トータルとして景気は次第に回復していくという期待はあるが、そのスピードはさほど速くはなく、回復パターンも鋭角ではない。しばしば「L字型の回復」、「逆J型の回復」といわれるが、そうした回復パターンが現在の見通しにおいてはメインのシナリオだろうと考えている。


(問)
 北朝鮮を巡る核の動きが世界経済及び日本経済に与える影響はどのようにご覧になっているか。
(答)
 この後どういう展開をするかだろう。国連の安全保障理事会で何らかの決議が採択される方向と聞いているが、現時点ではわからない。また、今後世界的にどのように制裁の動きが広がるかについてもわからない。地政学的には非常に大きい事件だが、経済に与える影響はそれほど大きくないだろう。北朝鮮が世界に占める経済の割合を見ていただければ、貿易も含めて非常に小さいので、それほど大きい影響は与えないだろうと思う。