2022年12月15日

半沢会長記者会見(三菱UFJ銀行頭取)

辻専務理事報告

 事務局から3点ご報告申しあげる。
 1点目は、本日の理事会において、次期会長をみずほ銀行の加藤頭取とすることを内定した。次期会長は、今後の理事会における正式な選定手続を経て、2023年4月1日付で就任予定であり、任期は2024年3月31日までとなる。
 2点目は、本日、お手元の資料のとおり、気候変動問題に対する銀行界の取組み等に関する特設サイトを公開した。本特設サイトにおいては、気候変動問題の概要をはじめ、銀行界における取組みや企業に期待される取組み等を紹介している。
 3点目は、今般、お手元の資料のとおり、TNFDフォーラム(自然関連財務情報開示タスクフォース フォーラム)に参画した。今後は、本フォーラムへの参画を通じて、TNFDにおける議論の動向をより機動的にフォローして参りたい。

 

会長記者会見の模様


(問)
 3点質問する。
 1点目は、2023年度与党税制改正大綱が12月16日にも決定する見込みだが、金融関係ではNISAが拡充されるほか、金融所得課税について超富裕層への課税強化というかたちで盛り込まれる見通しである。こうした内容についてどう評価しているか。
 2点目は、日本銀行の大規模金融緩和の開始から来年で10年になるが、この期間における政策の効果と副作用について、会長の認識を教えてほしい。
 3点目は、全銀協の次期会長にみずほ銀行の加藤頭取が内定したとのことだが、このことについての受止めを伺いたい。
(答)
 1点目の税制改正関連についてだが、週内にも令和5年度の税制改正大綱が取りまとめられると報じられている。今回の大綱には、岸田政権の掲げる「貯蓄から投資へ」を強く推進する項目が多く盛り込まれるものと期待している。なかでもNISA制度の抜本的な見直しは、「貯蓄から投資へ」の流れを加速させるものであり、銀行界としても従前より要望してきた項目であることから、その動向について注視している。
 NISA制度の見直しを巡っては、現行の一般NISAに代わって、令和6年からいわゆる「2階建ての新NISA」が開始される予定であった。これは、まず、1階部分の積立投資等を行う場合のみ、2階部分の株式などに広く投資できる枠が使用できる仕組みであり、複雑かつ分かりづらいという声もあった。今般の大綱では、現行制度とは分離したうえで、複数あるNISA制度を一つに集約したシンプルな制度とする方向と報じられている。そのような制度になれば、利用者にとって理解しやすく、普及に資する見直しになると受け止めている。
 また、NISA制度を恒久化したうえで、長期的な投資を促すため、非課税で保有できる期間を無制限にすることや、年間の投資額の上限を倍以上に拡大すること等も盛り込まれる方向とも報じられている。銀行界としては、NISAについて、恒久化、簡素化、拠出限度額の拡大の3点を要望してきたところであり、報道を踏まえると、これらが十分に反映された制度になると受け止めている。
 いずれにしても、大綱決定後は、制度拡充のメリットをお客さまが享受でき、また円滑に新制度が開始できるよう、具体的な運用ルールなどの制度設計に関して、銀行界の意見を発信していくことに加え、システムや販売態勢の整備などの対応にしっかり貢献していきたい。
 また、大綱では、年間所得が約30億円を上回る富裕層のみを対象に、課税の見直しを行う方向性が示されるとの報道もある。これは、高額所得者ほど低税率の所得割合が高く、所得税の負担率が低下している状況を踏まえ、税負担の公平性を確保する観点から検討されているものと理解している。
 併せて、与党においては、「貯蓄から投資へ」の全体の機運を損なうことのないよう、総合的なバランスを取りながら、慎重に整理・検討を進めたうえで、最終的な結論が導かれていくものと受け止めている。
 対象者は200人から300人という報道もあるが、銀行界としては、具体的な制度設計に際し、事務体制やシステム対応への影響等に留意していきたい。
 2点目の金融政策についてだが、金融政策は日本銀行の専管事項であり、全銀協会長としてコメントすることは適切でないため、あくまで個人の見解として回答する。
 これまでの会見でも申しあげてきたとおり、日本銀行は2013年4月から「量的・質的金融緩和」を導入し、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現することを目的に、強力な金融緩和政策を進めてきたものと理解している。足元の日本の消費者物価指数は、前年比2%を超える状況が続いているが、資源高や円安などの影響が大きく、物価動向が持続的かつ安定的ではないという観点から、日本銀行は依然、目標には到達していないと判断し、そのような認識のもとで金融政策を維持していると理解している。
 金融緩和に対する総括的な受止めとしては、デフレ的な状況から抜け出したという意味で、効果は一定程度あったと考えている。一方で、マイナス金利政策を含む異次元緩和が継続されるなかで、預貸金利鞘の縮小、運用環境の悪化など、金融機関の収益に相応のマイナスインパクトがあったことも事実だと思う。これに加え、中長期的には、資本市場の資金配分機能に与える影響にも留意が必要だと考える。
 これらの状況が、わが国の実体経済に悪影響を与えるとするならば、それは副作用だと思う。金融政策のあり方については、日本銀行において、内外経済・金融環境の慎重な分析がなされ、それにもとづく適切な目標のもとで、政策効果と副作用のバランスが取れた政策運営が実行されることが重要と考えている。
 来週金融政策決定会合が開催される予定だが、これまでの政策経緯、足元や今後のマクロ環境等を踏まえ、どのような分析・議論がなされるのかについて注目している。引き続き、政策の予見可能性を高めるフォワードガイダンスを含む市場との十分な対話などを通じて、日本銀行が適切な判断をすることを期待している。
 3点目の次期会長に関する質問だが、加藤頭取は、現在わが国のリーディングバンクの一つであるみずほ銀行を率い、GX、DX、スタートアップ支援など、銀行界の多岐にわたる課題に対し、大変見事なリーダーシップを発揮している方である。また、全銀協においても、4月1日から副会長を務められ、所管する業務委員会でマネロン対策などに尽力し、その手腕・実績は申し分ない方である。本日の理事会において、これらを総合的に踏まえ、新会長として最もふさわしい方と判断したものである。


(問)
 2点お伺いする。1点目であるが、12月14日に日本銀行の短観(日銀短観)が発表され、大企業のうち製造業が4期連続で悪化した一方、非製造業は改善した。本件を踏まえた現在の国内景況感の受止めと、先行きに関する見立てを伺いたい。
 2点目は、11月に発表された銀行各社の決算で、メガバンク、地方銀行とも外国債券の含み損が拡大しているが、現段階でこのことに関するリスクをどのように捉えているか伺いたい。
(答)
 1点目の日銀短観に関するご質問だが、まず、足元の日本経済は、「ウィズコロナ」を前提とした経済活動の正常化が進む一方、国際金融、国際商品市況の動向や、円安を背景とする物価高などが景気の重石になっている。また、欧米経済は、深刻なインフレと急速な金融引締めにより先行き景気後退に陥る可能性も指摘されており、わが国に関しても、そうした海外発の逆風が今後の景気の下押し要因になることが想定される。今回の日銀短観のポイントは、企業がそうした経営環境をどのように実感しているかという点にあったかと思う。
 結論から申しあげると、全体的には企業の景況感は緩やかに改善している一方、業種・企業規模によって、ばらつきがある姿が示されたと理解している。
 内容を具体的に見ると、まず、現状評価として、業況判断DIは全産業・全規模ベースで6%ポイントと、9月調査から3%ポイント改善している。製造業では、大企業で円安や資源高などを背景に「石油・石炭製品」や「紙・パルプ」・「化学」などの素材業種を中心に業況の悪化が示された。一方、非製造業では、「ウィズコロナ」を前提とした経済活動の正常化により、企業規模を問わず、「宿泊・飲食サービス」や「対個人サービス」などを中心に業況が改善した。
 他方、今年度の企業の設備投資計画については、やや下方修正されたものの、全体として強めの計画が維持された。海外経済の悪化というリスク要因はあるものの、企業収益は全般に堅調に推移しており、コロナ禍後に手控えられていたものや省力化投資を含め、企業の設備投資意欲が維持されていることを示唆しているのではないかと思っている。
 銀行界としては、政府・日本銀行の対応と歩調を合わせつつ、お客さまの置かれている状況を丁寧に確認しながら、資金繰り支援をはじめとしたサポートなどを行うことで、わが国経済をしっかり支えて参りたい。
 2点目のご質問は、銀行の決算、そのなかで外国債券の含み損が拡大しているという点についてであるが、まず、2022年度中間期の銀行決算については、米国を中心とした海外での金利上昇を受けて多額の債券関係損失を計上しているものの、3メガバンク・地方銀行ともに資金利益が前年比プラスとなるなど、本業の収益力の回復により、総じて堅調な決算だったと受け止めている。
 資源高等による仕入価格上昇の影響を受けたお客さまへの資金繰り支援や、コロナ禍を受けて手控えていた設備投資を再開するお客さまへの支援等による貸出の増加が資金利益の拡大につながったほか、手数料収入に当たる役務取引等利益も増加するなど、本業での収益が回復している。与信費用も地方銀行で半減するなど抑制された結果、銀行全体で最終増益となっている。
 一方、ご質問のとおり、米国金利の急激な上昇により債券の売却損が大幅に増加し、保有する債券の時価評価額が悪化したことで、多くの銀行が含み損を抱えることとなった。銀行界全体としては、損失処理を行うのに十分な株式等の評価益を有しているが、有価証券に含み損を抱え、損失処理を行うことが難しい地方銀行も一部あると理解している。
 債券は満期を迎えれば原則額面金額で償還されるため、途中で売却するか、減損の基準に当たらない限りは、実現損は生じない。ただし、外債については、足元で外貨調達コストが上昇し、運用利回りと調達コストが「逆ざや」となり、こうした外債を抱え続けた場合、収益に影響が出てくる可能性もあると認識している。
 海外金利の動向などには不透明感があり、先行きを見通すのが難しい状況であるため、引き続き、マクロ経済の動向や各国の金融政策、金融市場の動向などを注視していく必要があると考えている。


(問)
 2点伺いたい。1点目は、賃金の関係である。物価上昇のなかで、賃金上昇に労使ともに非常に関心が高まっている。デフレマインドの脱却に向けて賃金上昇は重要という指摘もあるが、賃金に関する全銀協会長としての見解、また銀行界としてこうした賃上げ、人への投資について、どのような取組みを進めていきたいとお考えか伺いたい。
 2点目は、今朝のFOMCについてである。利上げの幅は0.5%と縮小されたが、政策金利の今後の見通しは、インフレの長期化を見据えて、引き上げられた状況だと思う。今回のFOMCの受止めと、今後のアメリカの利上げの動向について、どのようなところを注視していくかを伺いたい。
(答)
 まず、賃上げについてであるが、各行の経営状況や経営戦略に則り決定されるものであり、銀行界として一律に決めているものではないため、あくまで一般論としてお答えする。
 賃上げは、政府が目指している「成長と分配の好循環」による経済の持続的な成長の観点はもとより、企業がお客さま、株主、社会と並んで大切なステークホルダーである従業員に還元することによって、企業の持続的成長を実現するうえでも重要である。
 そのうえで、従業員の賃金は、最終的には各行において労使間の協議を経て、いわゆる「賃金決定の大原則」に則り決定されるものと理解している。その協議のなかで、足元の物価動向も十分に踏まえつつ、各行の経営環境や資本・人材戦略を総合的に勘案し、実情に即した持続可能な処遇方法が検討されることが重要だと思う。
 銀行界は、マイナス金利の長期化やフィンテック企業の新規参入等の厳しい環境にあり、従業員に求められるスキル・知識は、より一層、多様化・高度化していると思う。そのため、短期的な賃上げのみならず、中長期的な目線での事業構造変革と、それに連動する人的資本への投資、成長機会の提供に取り組み、新たなビジネスの創出や労働生産性の向上による持続的成長を実現し、その果実を従業員の賃金や処遇に還元していくことが重要と考えている。
 各銀行が持続的成長を実現するために、人的資本への投資が、特に重要なテーマであることを共通認識とすべく、今年9月に全銀協の行動憲章を改定したところである。会員行において、多様性の確保に向けた制度構築や柔軟な働き方の確立、および、従業員の自律的キャリア形成に資する人材育成などを含め、人材に関する取組みが強化されるよう、全銀協としても取組みを強化して参りたい。
 2点目は米国金利に関してであるが、FRBはこれまでの利上げの累積効果や実体経済に影響を与えるタイムラグを見る必要があるとして、11月には利上げペースを減速させる意向を示し始め、本日早朝のFOMCにおいて、利上げ幅を前回の0.75%から0.5%に縮小し、併せて、政策金利の予想中央値を従来の4.6%から5.1%に引き上げた。
 足元は12月13日発表の米国のCPIが市場予測を下回ったこともあり、例えば米国の10年金利は2021年末の1.5%の水準から一時4.3%台まで上昇後、今は3.5%近辺に低下している。
 今後の見通しであるが、米国の長期金利は中銀高官の発言や経済指標に応じて、引き続き振幅の広い動きが想定される。ただし、これまでの大幅な利上げにより、米国の住宅市場が軟化するなど、実体経済への悪影響が徐々に顕在化し始めていることなどを背景に、来年前半には一旦利上げが停止となる蓋然性も増しつつある。
 引き続き、インフレの動向、金融政策、グローバル景気の減速等を注視していく必要があると認識している。


(問)
 ローンのセカンダリーマーケットについて意見を伺いたい。日本はアメリカと比べてセカンダリーマーケットが発達していないと思われる。例えばLBOローンでも、アメリカでは多様な投資家がデットに入ってきて、結局、銀行はリボルバーを出すぐらいだと思うが、日本では銀行がほとんど抱えてしまっている。そもそも会長はこの状況でいいと思うのか、もしくはこのセカンダリーマーケットが変わっていく必要があるのか、見解を伺いたい。
(答)
 ご指摘いただいたように、日本においては、戦後から主に銀行を中心とした間接金融が企業の資金需要を支える役割を担ってきたと思う。現在では大企業を中心に直接金融が広がっているが、家計の金融資産に占める預貯金の割合が高く、リスクマネーを供給する投資家の裾野も広がり切っていない。そうしたなかで、中堅・中小企業も含む企業全体への安定的、持続的な資金供給において、私ども銀行への期待は依然として大きいと思う。
 一方、米国においては、企業サイドでは株・社債といった直接金融を通じた資金調達が活発で、家計サイドでもこれらのリスク資産での運用が大きい。経済やビジネスのダイナミズムが維持されていることや、証券化等の金融手法が発達していることもあり、ファンドなどのリスクマネーを供給する投資家層は分厚いと認識している。
 LBOファイナンスにおいても、日本の場合、運転資金枠・長期貸付ともメガバンクをはじめとした大手銀行を中心にローンを組成し、LBOマーケットに必要な資金を供給してきた。ただし、ここ数年は案件数の増加とともに、地方銀行、生保、リース会社等への債権譲渡も増加し、資金供給者も徐々に拡大している状況と思う。
 それに対して米国では、先ほど申しあげた金融市場の構造的な違いから、運転資金枠や約定返済付の中長期貸出は銀行が中心的な資金供給者となるが、長期一括返済の貸出や、優先弁済順位が低い貸付等についてはヘッジファンド・保険会社・年金基金等の機関投資家が主たる資金供給者となるマーケットと理解している。
 今後も日本の金融市場については、間接金融による長期安定支援の利点は活かしつつ、直接金融の資金もバランスよく配分されることで、企業の成長と家計の資産所得拡大の好循環に繋がっていくことが必要と思う。


(問)
 先ほどのFOMCや金融政策の質問に絡むかもしれないが、不透明な状況ではあるが、足元の日米金利差の拡大などがあるなかで、金利動向が為替、経済に与える影響をどのように考えているか伺いたい。
(答)
 まず、金利動向が為替に与える影響についてだが、足元、ドル円相場は日米金利差に影響されやすい展開となっており、金融政策の方向性の違いを背景とした日米金利差の拡大などにより、10月には約32年ぶりとなる1ドル151円台まで下落した。もっとも、その後は政府・日本銀行の為替介入や米国の利上げペースの鈍化観測などにより円高・ドル安方向に推移し、足元では1ドル130円台半ばの動きとなっている。
 次に、金利動向が日本経済に与える影響だが、日本の金利が大きく変動すれば貸出金利の変動を通じた影響等が想定され、日本銀行の従来からの緩和政策が維持されていることにより、日本の金利が低位で推移している現状では、米国金利動向に応じた為替変動による影響が主なものになると見ている。
 本日早朝のFOMC発表によると、利上げ幅が0.5%とペースは減速したが、利上げ自体は続ける方針が示されたため、政策金利は当面景気抑制的な水準にとどまり、ドル円相場も円安水準での推移が続くことが想定される。
 円安が日本経済に与える影響については、経済主体により異なるうえ、足元はロシア・ウクライナの情勢を受けた資源高の影響も受けているため、プラスかマイナスかを一概に申しあげることは難しいが、家計においては資源高により物価全般に上昇圧力がかかるなか、円安が輸入物価の上昇に拍車をかけ、実質所得へ負の影響を与えている面があると思う。
 一方、企業にとっての影響は、各企業のビジネスモデルにより異なるため、ばらつきがあると認識している。円安は輸出型の製造業にとっては追い風となり得るが、生産拠点の海外移転などを背景に、そうしたメリットは過去に比べれば小さくなっている。加えて、輸入型、内需型の企業は仕入れ価格の上昇を販売価格へ十分に転嫁できず、負の影響を受けていると理解している。
 いずれにしても、為替相場の急激な変動は、家計や企業経営に望ましくないため、景気への影響を含め、為替相場の動向は今後も注視して参りたい。


(問)
 1点目は、NTTデータの基幹システムを使う地銀・第二地銀40行でシステム統合の交渉が始まったが、基幹システムについて、クラウド技術を活用するシステムに切り替える動きをどのように見ているか。また、三菱UFJ銀行をはじめ大手行の動向についても併せて教えて頂きたい。
 2点目は、生物多様性に関して、COP15がカナダで開催されているが、どのような議論を期待するか。銀行界として、生物多様性の議論にどのように取り組んでいくかということも併せてお話し頂きたい。
(答)
 まず1問目のシステムの統合や共同化については、個別行の経営戦略によるものであり、全銀協会長としてのコメントは差し控え、あくまで一般論として申しあげる。
 一般的に、システムの共同化は、パッケージ化や共同運用による開発や運用・保守の負担の軽減、銀行を跨いだ業務プロセスの標準化に寄与する可能性もあると考える。一方、一つの障害が複数銀行の業務に影響を与える可能性には留意が必要であり、そうした点も踏まえて対応を検討していく必要がある。
 また、クラウド利用についても、システム導入までの期間を短縮できる点に加え、インフラとして資産を持たなくてよい点、リソースを共有することでコスト負担を抑えつつ、必要な時にリソースを活用できるなどの利点が考えられる。
 銀行界は、デジタル活用を含めてサービスの見直しを図っている最中であり、システム設備やメンテナンスへの投資からビジネスへの投資にシフトする重要性が増していることも、共同化やクラウド利用が選択される背景の一つと理解している。
 メガバンクにおいても、クラウド利用は戦略的に鍵であり、特に、俊敏性が求められるビジネス領域、および、AIやデータ分析・活用が求められる領域を中心として、クラウド利用が拡大していくものと考えている。
 個別行の話としては、三菱UFJ銀行では2000年代後半からクラウドの活用を開始している。2022年4月時点では約350のシステムでクラウドを利用しており、今後もビジネスニーズに合わせてクラウド利用を検討していくことになると考えている。
 銀行のシステム環境の構築のあり方は変化してきており、コストやサービス面で銀行経営にも大きな変化をもたらす可能性がある。他方で、銀行のシステムは、社会インフラとして安定的なサービス提供と障害へのレジリエンスや高いセキュリティを保持することが求められており、その前提のもとでコスト効率化を図りつつ、サービスの安定的な提供、高度化に努めていくことが肝要と考えている。
 2点目の生物多様性に関してだが、COP15の第2部が12月7日からカナダで開催されており、今回は2030年に向けた目標である「ポスト2020生物多様性枠組」の最終的な合意を目指していると認識している。
 この枠組みについては、長きにわたって議論がなされてきたものの、コロナ禍の影響もあり、現状でも数多くの論点があると理解している。特に、2030年に向けた「22の行動目標」については、数値目標や目標の規制化の有無などに複数の選択肢があることから、合意に向けて難しい論点が残されていると思う。今回の会合では、このような論点について議論を尽くしたうえで、自然と共生する世界の構築に向けて、目指すべき方向性が共有されることを期待している。
 こうした自然資本・生物多様性に関する動きに対して、銀行界の果たすべき役割として、ファイナンスを通じて自然破壊・生物多様性の損失に歯止めをかけ、回復へ移行するための取組みを支援することが挙げられる。加えて、気候変動対応において、評価・開示に係るグローバルな枠組みの策定が模索されてTCFDができたように、自然資本・生物多様性保護に関する企業の取組みを評価・開示する枠組みを策定すべく、2021年にTNFDが設立され、銀行も含めた本邦企業も多くが参加し、協議を行っている。
 また、TNFDの議論をサポートするステークホルダー組織である「TNFDフォーラム」には、全世界で800を超える企業、団体が参加しており、日本からも多くの民間企業や関連省庁が参画している。全銀協としても、適切な情報収集にもとづく会員行への周知や働きかけを行うべく、今般、TNFDフォーラムに加盟した。フォーラムで得られる情報等も活用して、全銀協としても自然資本・生物多様性に関する議論の動向をしっかりフォローしていきたいと思う。


(問)
 2点伺いたい。1点目は東芝について。今、国内連合(JIP)による経営再建案が検討されていると思う。銀行団としても交渉に入っていると思うが、こうした企業支援を担う意義や受止めについて伺いたい。
 2点目は、全銀協の新しい会長人事について。みずほ銀行はシステム障害を受けて、2021年度の全銀協の会長人事を飛ばすという対応を取られており、まだ業務改善計画を進めている段階だと認識している。このタイミングでみずほ銀行に全銀協会長を引き継げると判断した理由を、改めて伺いたい。
(答)
 1点目は、全銀協会長として、個別企業の動向について本来コメントする立場にはないが、日本を代表する企業への買収提案がなされており、社会的にも注目されているので、簡潔にコメントできればと思う。
 当社は、4月に「企業価値向上に向けた戦略的選択肢」を発表して以降、複数のパートナー候補や本邦企業と協議してきたと認識している。当社は原子力・社会インフラ・半導体といった、日本の産業や経済安全保障にとって重要な事業を有する企業であり、長らくステークホルダーとの対話を含めたガバナンス態勢の強化に取り組まれていると認識している。そのような観点も踏まえ、足元では、日本産業パートナーズを中心とするスポンサー候補とさまざまな協議をしていると理解している。非公開化に向け2兆円を超える金額が必要とも言われる資金調達規模や、本買収案件が業界に与える影響の大きさを踏まえると、銀行界としても、当社とスポンサー候補との間の検討状況を引き続き注視していく必要があると認識している。
 2点目、このタイミングでの次期会長の判断についてだが、みずほ銀行およびみずほフィナンシャルグループは、業務改善計画にもとづき、システム障害防止、障害対応力向上、ガバナンス、人と組織などの観点から、包括的な対応策に取り組んでいるものと理解している。
 すでに10月には、「業務改善計画の全施策を計画通り実施し、お客さまに安定したサービスを提供し続けるために、定着に向けて取り組みを継続している」ことを公表している状況と認識している。
 こうしたことも踏まえて、「全銀協会長に就任いただくにふさわしい態勢にある」ことを、本日の正副会長会議・理事会においても確認している。
 繰り返しになるが、加藤頭取はみずほ銀行の頭取および全銀協の副会長として素晴らしいリーダーシップを発揮されており、本日の理事会において、新会長として最もふさわしい方という判断で一致したものである。


(問)
 2問伺う。2022年は大きく為替が変動した1年だったと思う。この1年の為替動向と、それに対する銀行界の取組みについて総括をお願いしたい。
 もう一つ、先ほど発表された気候変動問題に関する特設サイトの件で、この内容と目的について教えてほしい。
(答)
 まず為替について、今年の為替相場を振り返ると、ドル円相場は年明け以降3月上旬までは概ね115円程度で推移し、その後、10月に約32年ぶりとなる1ドル151円台まで円安が加速したものの、足元では反転し130円台半ばで推移している状況かと思う。変動幅が半年強で35円程度円安に進むなど、激しいボラティリティの下で、お客さまにとって、商流やバランスシートの見通しが立てづらい1年だったと思う。
 このような状況の下で、銀行界では、お客さまが抱える、為替にとどまらない事業全体に関わるさまざまな課題にお応えしてきた。個別行の話になるが、三菱UFJ銀行の取組事例をいくつかご紹介する。
 輸入企業においては、販売価格への短期的なコストの転嫁が困難ななかで、為替相場によるコスト増が収益を圧迫し、対応に苦慮するお客さまも相応にあった。これを受け、三菱UFJ銀行では、お客さまの商流が抱える為替リスクに対して、お客さま自身のヘッジ方針を重視しつつも、最適な提案を行い、為替リスクの抑制に努めてきた。
 また、逆に円安進行を一つの契機と捉えるお客さまに対しては、海外現法が持つ資金の有効活用に向け、グローバルベースでの資金ポジションの最適化など、バランスシートの改善に資する提案活動も行ってきた。
 今後も、当面ドル円相場は円安水準での推移が続くことが想定されるが、銀行界としては、引き続きお客さまの安定的かつ持続的な成長に貢献するべく、中長期的な支援をしっかり進めて参りたい。
 2点目、まさに本日開設した気候変動対応に関する特設サイトだが、このサイトを設置するに至った背景から少し申しあげる。全銀協では、2021年12月に、「カーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアティブ」を取りまとめ、銀行界としての基本方針や重点的に取り組む分野を策定し、各方針・各分野においてさまざまな施策を展開してきた。このイニシアティブの重点分野の一つに、「お客さまと銀行の円滑な対話に資する環境整備」というエンゲージメント施策を掲げ、この6月には、お客さまへの気候変動問題に関する金融機関の取組事例等をまとめた資料を公表するなど、お客さまのご理解の一助となるべく施策を進めてきたところである。
 今般、これまで発信してきた気候変動問題に関するひとつひとつの成果物について、お客さまが一元的に情報を収集できるよう、全銀協のウェブサイト上に特設サイトを開設した。これは、お客さまとのエンゲージメント等の取組みをさらに発展させることを企図したもので、幅広いお客さまにタイムリーな情報をお届けすることで、気候変動問題を身近に感じていただき、理解の促進と行動計画の策定に役立ててもらいたいと思っている。
 特設サイトは、気候変動問題の基本事項から、企業の具体的な行動に繋がる取組みの内容に至るまで、さまざまな疑問にお答えできるコンテンツで構成している。そのほか、国内外の主な政策動向、各種ガイドライン、用語集など、気候変動問題に関連する疑問が発生した際に、容易に解決のヒントに辿り着けることを目指している。
 今後、自然・生物多様性の分野など、気候変動問題から派生するトピックもテーマに加え、より一層お客さまとのエンゲージメントが深まるサイトとなるよう、コンテンツの充実を図って参りたい。


(問)
 暗号資産の関連で伺う。交換業者大手のFTXが破綻した。この破綻が伝統的な金融システムに与える影響について、どうお考えか伺いたい。また、現状の暗号資産に関する日本の規制について、何か課題等があれば、併せて伺いたい。
(答)
 個別企業の経営状況に係る事項については、コメントを差し控えさせていただくが、本件は、社会的に大変注目を集めているため、受止めを少し申しあげたい。
 暗号資産交換業の大手、FTX Trading Limitedが11月11日に米国の破産法の適用を申請した。同社の破綻を巡っては、関係会社との資金融通を通じた、顧客資産の流用、不透明な財務諸表、企業統治の失敗があったと報じられている。
 本件については、米財務長官が11月16日に公表した、FTXの経営破綻とその余波を踏まえた声明文によると、金融全体の安定に与えた影響は「限定的だった」としたうえで、伝統的な金融業界と暗号資産業界の繋がりが今後さらに深まれば、金融安定を揺るがしかねないと警鐘を鳴らしている。
 日本国内においては、財務省関東財務局よりFTX Japan株式会社に対し、11月10日にFTX Trading Limitedとの資本・取引関係を踏まえて、業務停止命令および業務改善命令が発令された。また、顧客資金返還に時間がかかることを踏まえて、業務停止命令が延長されたと認識している。
 また、11月28日には、暗号資産融資企業のBlockFiも米国の破産法の適用を申請し、BlockFiはFTXに対し融資を行う一方で、同社より金融支援を受けていたと報じられている。
 このように、FTXに関してはさまざまな見方・情報があるが、本邦銀行界は暗号資産交換業者としての活動はしておらず、金融システムへの直接的な影響は見られない。今後、破綻の経緯や関係する範囲について、さらに明らかになるものと認識しており、その動向を注視して参りたい。
 暗号資産については、2022年10月から信託銀行に対してカストディ業務が解禁されるなど規制緩和が進んでいるが、利用者保護やリスク管理徹底を前提に、安心・安全な環境整備を図りながら、ビジネスの検討を進めていくことが望ましいと考える。


(問)
 中央銀行が発行するデジタル通貨について伺う。2022年11月下旬に日本銀行のCBDC連絡協議会があり、日本銀行からパイロット実験の検討について示されたと思うが、銀行界としてどう受け止めているのか伺いたい。また、信用創造ができないという課題や懸念もあると思うが、進めていくに当たっての懸念をどのように解消していくのか、あるいは日本銀行に対してどのようなことを要望されていくのかについても伺いたい。
(答)
 11月24日、日本銀行においてCBDCに関する連絡協議会が開催され、日本銀行からは、「現時点でCBDCを発行する計画はないが、決済システム全体の安定性と効率性を確保する観点から、今後のさまざまな環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要」という考え方が示された。
 また、この4月から開始している「概念実証フェーズ2」について、「金融システムの安全確保のためのセーフガード」、「決済の利便性向上」、「仲介機関間・外部システムとの連携」に関して、技術的課題を早めに確認すべく、機能検証等が進められていることが共有された。
 ご指摘のとおり、CBDCには信用創造機能がないという側面があり、銀行界としては、これまで、金融危機時の「デジタル・バンク・ラン」と呼ばれる、預金からの資金シフトが大規模に生じた場合に金融機関のバランスシート構造が変化し、信用創造や金融仲介機能のあり方に変化が生じる可能性がある点を指摘してきた。この「概念実証フェーズ2」ではこうした声を受け止め、セーフガードなどの検証を進めていただいているものと思う。
 「概念実証フェーズ2」は、当面は2023年3月までの予定とされており、その後は必要に応じて民間事業者も参加するパイロット実験を実施していくものと思われる。米国でもニューヨーク連銀と民間銀行・マスターカード等が実証実験を開始し、欧州でもECBとアマゾンを含む複数社がプロトタイプの開発を進めるなど、海外でも官民が協働した検証・実験ステージに進みつつあると認識している。今般の協議会では具体的なことは示されなかったが、パイロット実験を実施することが決定されれば、銀行界としても協力して参りたい。
 また、今回の協議会では、海外でCBDCの議論が引き続き活発に行われている点も示された。特にデジタルユーロについては、2023年秋に、実現に向けて技術面・ビジネス面の検討を行う実現フェーズの開始を判断し、発行の判断を2026年秋頃に行う想定で検討が進んでいる。CBDCはクロスボーダーのユースケースも想定すべきであり、検討が先行するデジタルユーロの動向は注視すべきと考えている。
 CBDCについては、必要性、意義に対する声やコスト負担・信用創造機能の維持などの論点も踏まえ、海外の取組みも参考に、民間サービスとの共存のあり方について、官民でコンセンサスを得て議論すべきものと考えている。
 日本銀行は5月に公表したCBDC連絡協議会の中間整理のなかで、今申しあげた論点のほかにも、台帳の保有方法、プライバシー保護と利用者情報の取扱い、各種法制面の整備など、多岐にわたる論点を示している。これらの課題や論点について、関係者が議論し理解を深めることが重要であり、銀行界も検討に主体的に関わり、しっかり意見発信をして参りたい。


(問)
 資金移動業者の口座への賃金のデジタル払いについて、2022年11月に省令が公布され、2023年4月に施行となる。この件について銀行界としてどのように捉えているか改めて伺いたい。
 2点目は、10月に全銀ネットの規則が改正され、資金移動業者への参加資格が拡大されたが、この件の意義についてと、今後、資金移動業者の参加をどのように働きかけていくのか伺いたい。
(答)
 まず、資金移動業者の口座への賃金支払いについては、労働政策審議会の労働条件分科会において多くの議論がなされたうえで、11月28日に「労働基準法施行規則の一部を改正する省令」が公布され、2023年4月から施行予定と理解している。
 今般公布された省令は、利便性の観点から、一定の資金滞留を認めている資金決済法に、労働者の賃金の安全性確保を目的に、労働基準法の関係省令で追加の要件を課すものと理解している。省令では制度の概要が示されているが、今後、Q&Aや資金移動業者向けのガイドライン等で制度の詳細が示されると理解しており、利便性と安心・安全が両立し、実効性あるかたちで、労使双方の経済厚生が高まるよう、引き続き丁寧かつ慎重な検討が行われるべきと考えている。
 また、資金移動業者は為替取引を業として営む業態であるため、賃金の性質を踏まえた、為替取引に無関係な滞留する資金の取扱いについても、改めてしっかりと議論していく必要があると思っている。
 銀行界では、長年の不断の努力により、労働者と企業の皆さまに安心してご利用いただけるよう、業態を超えたインフラ構築とサービスの提供に努めてきた。
 例えば、現金の代替としての機能を確保すべく、賃金がATM等で簡単に現金化できるよう、ATMネットワークを維持してきたほか、自社の経済圏だけではなく、自社以外の経済圏、すなわち、他の銀行の口座にも送金でき、さらには銀行以外の業態にも垣根を越えて送金できるよう、相互運用性も確保している。
 今後も賃金の受取手段である預金口座を起点とした金融サービスに、銀行界として一層磨きをかけると同時に、賃金支払いの一翼を担う業界として、資金移動業者の口座への賃金支払いにおいても、お客さまの安心・安全と利便性を維持できるよう、引き続き意見発信をしていきたいと思っている。
 2点目は全銀ネットの件だが、資金移動業者の参加資格の拡大に関しては、2022年9月に全銀ネット理事会において、全銀システムの参加資格を定める業務方法書の改正を決定し、10月7日付で金融庁から改正に係る認可をいただいたところである。
 全銀システムに資金移動業者が参加することの社会的な効果としては、相互運用性が確保され、利用者の利便性向上に資する点が大きいと思う。日本においては、資金移動業者からキャッシュレス支払手段としてさまざまなサービスが提供されているなかで、異なる資金移動業者間の資金移動を可能とする環境構築が、キャッシュレス社会の一層の促進に繋がると考えている。
 また、資金移動業者が全銀システムに参加することで、自社の経営努力により送金コストの低減を図ることができる可能性があることも、キャッシュレスの裾野拡大に繋がっていくものと理解している。
 次に「業務高度化支援サービス」だが、これはAML/CFT業務に係るリーディングプラクティスや実務上の実践的な対応事例を参加行宛てに展開することにより、各行のマネロンリスクに対する理解の促進・業務の有効性の向上を図るものである。
 全銀システムに接続するか否かは、個々のビジネスモデルや事業戦略にもとづいて各社が判断することではあるが、銀行界としては、規則の改正にとどまらず、APIを用いた新たな接続方式について詳細の検討を進めているほか、全銀システム参加への理解の促進に向けた取組みも進めている。
 例えば、全銀ネットでは、11月4日に、日本資金決済業協会の協力をいただき、同協会の会員企業向けに、全銀システムの概要や参加手続等に関して説明会を実施したところである。今後も全銀システム参加への理解が深まるよう、継続的に取り組んでいく方針である。
 銀行界としては、決済機能を担う社会インフラとして、健全性・信頼性を確保した強靭な金融システムを維持していく必要があり、新たに参加する事業者とともに、その責務を果たしていく考えである。そのうえで、各社が切磋琢磨し、安定的かつ利便性の高い決済サービスを提供し続けられるよう、不断の努力を続けていきたいと思う。