解説記事 海外

2016年10月 7日

国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会、開催

 国際通貨基金(IMF)・世界銀行(以下「世銀」という。)年次総会(以下「年次総会」という。)が、10月7日から9日にかけて、米国のワシントンD.C.で開催された。

 年次総会に先立ちIMFから公表された世界経済見通しおよび国際金融安定性報告書、ならびに年次総会の開催期間中に公表された主なコミュニケの概要は以下のとおり。


1.世界経済見通し
 IMFは、年次総会に先立ち、10月4日、世界経済見通しを公表した。世界経済の成長は改善するとの見通しを示しており、2016年の世界経済の成長率は3.1%まで鈍化した後、2017年には3.4%まで回復するとしている。また、改善の原動力は、新興市場および途上国・地域である一方、ブレグジット等の政治的緊張により、先進国・地域が政策の不確実性の中心となっているとしている。


2.国際金融安定性報告書
 IMFは、年次総会に先立ち、9月26日、国際金融安定性報告書を公表した。

(1)短期的なリスクは低下

  • ブレグジットの衝撃は当初は市場に大きな動揺を与えたが、その後の英国経済へのマイナスのリス クと他国への波及を市場が織り込む調整はスムーズに進んだ。

(2)中期的なリスクは上昇

  • 短期的なリスクの低下と対照的に、中期的なリスクの蓄積が進んでいる。世界経済の成長率の低下が続いているため、金融市場では長期にわたる低インフレと低金利の予想が蔓延し、金融政策の正常化にもなお一層の時間がかかると見ている。
  • 収益力の低さから銀行の資本余力が傾向的に減少し、経済の成長を支える力も低下することが懸念される。景気が回復しても、収益力の低さという問題は解消しない。
  • 多くの生命保険会社や年金基金は未解消の問題を抱えている中で、低金利が問題を大きくしているのみならず、人口の老齢化と投資収益の低さと変動の大きさという問題に直面している。

(3)安定性を高めるには、より強力で協調のとれた政策が必要

  •  銀行においては、低成長と低金利という新たな環境に対応するため、膨大な額に上る既往の問題債権を縮減し、バランスシートをスリム化するとともに銀行業の構造も整理する必要がある。これには陳腐化したビジネスモデルを変更し収益性を確保するとともに、新たなビジネス実態と規制基準に適応する必要がある。
  •  ユーロ圏では、経営不安のある銀行の過大な不良債権を縮減し資本不足を解消することが喫緊の課題である。
  • 日本については、銀行が国際的な規制基準の強化に対応しつつ、十分な収益をあげるとともに健全な資金調達構造を維持させるため、監督を強化する必要がある。

(4)新興市場国における企業統治の一層の改善はショックへの耐性を高めることに寄与する

  •  外部投資家、特に少数株主の権利を強化すること、ディスクロージャーの要件を国際的な最良慣行のレベルにまで引き上げること、取締役会の独立性を高めること、などの政策は、金融安定性を確保する上でも効果があると考えられる。

 

3.国際通貨金融委員会(IMFC)による第34回会合のコミュニケ
 IMFの国際通貨金融委員会(IMFC)は、10月8日、第34回会合を開催し、コミュニケを公表した。

  • 世界経済の回復は、ゆっくりと、かつ、ばらつきがあるかたちで続いており、成長は新興国がその大半を占めるかたちで、来年わずかながら上向くと予想される。経済のパフォーマンスと強靱性は一部の国で回復し、金融市場の短期のリスクは概ね減少した。
  • 優先事項は、成長に配慮した財政政策、成長を支える金融政策の継続、優先順位付けされた構造改革、実効性のある金融セクター政策、全世界的な協力の強化である。



(関係資料はwww.mof.go.jp、www.imf.org、www.worldbank.orgから入手可能)