「相続時精算課税制度」っていったいどんな制度?

生前贈与を促進させるために創設された制度で、早期にまとまった資金が必要な子や孫に贈与することができます。
ただし、一度この制度を選択すると暦年贈与に戻ることができないほか、贈与時は非課税でも相続時に相続税が課される可能性がある、同制度を利用して贈与により取得した宅地等は「小規模宅地等の特例」の適用が受けられなくなる等の注意点があります。

申告と一緒に「相続時精算課税選択届出書」の届け出が必要

「相続時精算課税制度」とは、受贈者(子や孫)が2,500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けることができ、贈与者が亡くなった時にその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額から相続税額を計算し、一括して相続税として納税する制度です。

また、2024年1月からは、年間110万円の基礎控除が創設されています。この基礎控除は特別控除(2,500万円)の対象外であり、相続発生時に相続財産に加算されません。

年間110万円の基礎控除創設後の贈与税の計算式は、次のとおりです。

(「1年間の贈与額-年間110万円の基礎控除」の累計額-2,500万円の特別控除)×20%

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相続の際、計算の結果、相続税の納税を要しない場合には、遡って贈与税がかかることはありません。なお、「2,500万円+110万円×贈与年数」を超えた分の金額には、贈与時に20%の贈与税がかかりますが、相続税を計算する際、支払った贈与税相当額は控除されます。

具体例で説明します。例えば、母親から5年に分けて毎年400万円ずつ計2,000万円を贈与されたとします。相続時精算課税制度を利用すれば、贈与税は発生しません。
( (400万円-110万円)×5年=1,450万円 < 2,500万円の特別控除 )

他方の相続税については、数年後、母親が他界し、相続された資産が5,000万円だとすれば、先に同制度を使って贈与された2,000万円から基礎控除110万円×5年分を差し引いた1,450万円を加算し、計6,450万円に対して課税されることになります。

5年に分けて毎年800万円ずつ計4,000万円を贈与した場合であれば、基礎控除110万円×5年分を差し引いた3,450万円から、2,500万円の特別控除を差し引いた残り950万円に贈与税が発生します。この際、支払った贈与税190万円が、相続税が発生した場合にその額から控除されます。

この制度は、1人の贈与者からの贈与額の合計が2,500万円になるまでは、何回贈与を受けても贈与税が非課税となります。また、贈与者ごとに利用を選択することも可能です。

適用要件は、贈与者は贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母、受贈者は贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者のうち、贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人または孫です。贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日までの贈与税の申告期間内に、贈与税の申告と一緒に「相続時精算課税選択届出書」の届け出が必要です。

「暦年贈与」との併用は不可

「相続時精算課税制度」を理解するうえでのポイントは、同制度を利用して贈与した分が、相続発生時に相続税の対象額として再計算されるという点。つまり、贈与の際は非課税となっても、将来、相続する額によっては、相続税が発生するということです。

仮に、相続人が1人だとすれば、相続税の基礎控除額は3,600万円ですから、贈与額と相続した資産の合計額がそれを超えれば、原則、相続税は発生することになります。

そのうえで、この制度のメリットを考えれば、やはり早期にまとまった額の資産を贈与することができるということ。上手に活用すれば、贈与税、そして相続税も非課税のまま、子や孫が資金を必要としている時期に合わせての贈与が可能になります。

気をつけるべき点としては、相続時精算課税選択届出書を一度提出すると撤回できず、暦年贈与に戻ることができないことです。相続時精算課税制度は、同じ贈与者からの贈与について、年間110万円の贈与税の非課税枠となる「暦年贈与」との併用が不可となっていますので、この制度を選択した時点で、それ以降、暦年贈与は利用できないことになります(ただし、別の贈与者からの贈与は利用可能)。

また、同制度を利用して贈与により取得した宅地等については、「小規模宅地等の特例」の適用を受けることはできません。この特例は、居住用等の宅地が相続される際、一定の要件を満たしていれば、その評価額を80%減額して税額を算出できるというものです。宅地の評価額が高ければ大きな節税につながりますので、将来、宅地を相続することが想定される場合は、どちらを選択するか、十分検討するべきでしょう。