Q.亡くなった夫の母親を長年介護。それでも相続の権利はない!?

〈私、悩んでいます〉

「近所に住んでいた義理の母親は一人暮らしでしたが、3年前から、自宅介護となりました。結局、私が母親の世話をし、亡くなる1年前はパートも辞め、介護に専念するようになりました。しかし、その母親が亡くなってから1ヵ月。この場合、私に相続の権利はないのでしょうか……(女性/50歳)」

ファイナンシャル・プランナーからのアドバイス

  • 被相続人の子の妻は「法定相続人」には該当しない
  • 子の妻でも被相続人への介護等の寄与があれば「特別寄与料」が請求できる
  • 介護日誌や領収書など、寄与を証明、判断できる資料を用意しておきたい
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子の妻にも「寄与分」を請求できる権利が与えられた

民法の規定により、相続の権利が認められている相続人を「法定相続人」と言い、その範囲と順位が決められています。それに該当するのは配偶者(法律上の夫または妻)、子や孫、父母、兄弟姉妹です。法的効力を持つ遺言書があり、そこに遺産を分与する旨が明記されていない限り、たとえ親族であっても、叔父・叔母や子の配偶者は遺産を受け継ぐ権利はありません。

ご相談のケースに当てはめるなら、もしご主人がまだご健在の場合、遺産分割協議の場で、妻の介護に対する相続財産の割り増し分を要求することもできたかもしれません。ですが、夫の死後だと、妻がその協議に加わることもできないのです。

しかし、そういった親族の報われない現状を改善するための法改正が、平成30年度の民法改正に盛り込まれました。それが新設された「特別寄与料の請求権」です。

そもそも相続には「寄与分」が民法で認められています。寄与分とは、無償で介護や家事の提供、家業の手伝い、あるいは経済的に親を支援した場合、それに見合った金額を受け取る、いわば相続の「上乗せ分」という位置づけです。

ただ、その寄与分についても以前は、相続人にしか認められていませんでした。それが先の改正により、「6親等内の血族、配偶者および3親等内の姻族」までに広がったのです。結果、叔父・叔母、甥・姪、そしてご相談者である息子の嫁も「特別寄与者」として、平成31年7月1日以降の相続について、新たに寄与分を請求できる権利を得たわけです。

無償で長期間、専念するような寄与であることが条件

民法改正により、息子の嫁が寄与分を要求する権利は法的に認められました。しかし、実際にそれを受け取るのはそう簡単ではありません。

民法904条の2にある「寄与分」の説明は「特別の寄与をした者」に対して相続財産を分配する制度とあります。なぜ「特別」と記されているかと言えば、親族であれば身内を助けるのは当然という前提があるからです。

では、どのような内容であれば「特別」なのでしょうか。条件として無償性、継続性、専従性が必要となります。過去の判例を参考にすれば、介護なら少なくとも継続して1年以上、家業の手伝いなら3年以上。しかも、臨時や片手間という形ではなく、ご相談者のように、パートを辞めてまで行うといった、生活に負担を強いられる程度に専念し、しかもそれが無報酬かそれに近い状態でなくてはならないということになります。

さらに、遺産分割協議の場で「特別の寄与」に対する具体的な金額が話し合われ、相続人全員が了承しないと特別寄与料を受け取ることはできません。もしもその場では話がまとまらない、納得した金額とならない場合、家庭裁判所に間に入ってもらうことも可能です。その際、裁判所の判断材料として介護日誌や出費のわかる領収書等の提出が大変重要となります。

しかも、この請求権には時効があるので注意してください。権利行使期限は相続開始および相続人を知った日から6ヵ月以内、または相続開始のときから1年以内のいずれか短い方です。また、受け取った寄与分は相続税の対象となります。