ファイナンシャル・プランナーからのアドバイス
- 住宅ローン減税期間中に繰上返済を実施した方が有利か否かは、ほぼ金利で決まる
- 実際にどちらを優先させるかは金融機関等に相談を
- 無理な繰上返済は避け、原資はあくまで余裕資金から
2021年に3,000万円を借り入れ、新築マンションを購入しました。しかし、返済期間が35年と長いため、繰上返済で返済期間を縮めたいと考えています。ただ、住宅ローン減税の期間中に行うと控除額も減ってしまいます。やはり、繰上返済を行う時期は、控除期間の終了以降がいいのでしょうか? (男性/36歳)
住宅ローン減税(住宅借入金等特別控除)は、一定の要件を満たしていれば、ローンの支払い開始から10年間、年末の住宅ローン残高の1%(一般住宅で上限40万円、100円未満は切り捨て)が所得税から控除されるというもの。控除額が所得税を上回った場合、住民税からも控除(前年課税所得の7%、上限13万6,500円)することができます。
さらに、一定期間内に契約し、2022年12月31日までに入居した場合、消費増税の負担軽減措置として控除期間は3年間延長となります(※)。
そして、住宅ローンを抱える世帯にとって、この住宅ローン減税は、実に「ありがたい制度」として浸透しています。住宅ローンの年末の残高が3,000万円であれば、その1%で30万円。実際の家計負担の軽減効果はもちろん、「これだけ戻ってくる」という実感は心情的にも大きいはずです。
それだけに「住宅ローン控除をフルに活用したい」と思う人も多いはず。そうなると、ご相談のように、住宅ローンの繰上返済の時期が気になります。繰上返済を住宅ローン減税の適用期間中に行えば、控除額が減ることになるからです。しかし、繰上返済は、早い時期に実施するほど効果が大きくなります。どちらを優先すればいいか、試算をしてみましょう。
ご相談と同じ、3,000万円の住宅ローンを組んで新築マンションを購入したケースで考えてみましょう。
住宅ローン控除期間は13年、住宅ローンは全期間固定、金利1.5%とすると、その間、繰上返済をしなければ、控除総額は最大で約326万円。また、住宅ローン控除期間が終わる13年後に300万円を繰上返済すると、軽減できる支払利息は約106万円。合計432万円が、この場合の住宅ローン減税と繰上返済の、2つの効果を合わせた額となります。
では、控除期間中に繰上返済をしたらどうなるでしょうか。例えば、5年後に300万円を繰上返済すると、その効果を合わせた額は約456万円。結果、控除期間中に繰上返済をした方が24万円ほど額が高くなりました(表参照)。
ところが、同様の比較を金利1%でしてみると、やはり控除期間中に繰上返済をした方が有利ですが、その差は5万円ほど。さらに、金利0.5%で試算すると、逆に繰上返済を控除期間後に行った方が、11万円ほど効果が大きくなるのです。
しかもこの傾向は、繰上返済の金額や実施時期を変更しても、同じ金利であれば変わりません。つまりは、住宅ローン減税の期間中に繰上返済を行う方が効果的か否かは、ほぼ金利によって決まると言えるのです。
また、繰上返済は表で示した金額が確実に軽減されます。対して、住宅ローン減税は、対象となる人の収入によっては、住民税から差し引いても還付しきれない可能性があります。実際には、表で示した控除額をすべて控除できるとは限らないのです。ただし、繰上返済についても手数料が発生する場合、その額も考慮しなくてはいけません。
ともあれ、住宅ローン減税の期間中であっても繰上返済を行う方がローンの支払いを抑えることには効果的であるケースがあるということ。実際に抱えている住宅ローンについては、借り入れをしている金融機関に試算、相談をしてみてもいいでしょう。
しかし、繰上返済が有利だからと言って、手持資金を繰上返済にシフトし過ぎることはリスクをともないます。教育資金や老後資金も確保しつつ、繰上返済はあくまで余裕資金の範囲で行うようにしてください。
[設定条件]
表を横にスライドできます。
5年後に300万円 | 13年後に300万円 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
0.50% | 1.00% | 1.50% | 0.50% | 1.00% | 1.50% | |
繰上返済による 支払利息の軽減額(A) |
45万 2,500円 |
96万 8,800円 |
155万 6,400円 |
31万 8,400円 |
66万 9,200円 |
105万 5,400円 |
住宅ローン控除による 控除総額(B) |
292万 4,000円 |
296万 6,500円 |
300万 7,400円 |
316万 9,200円 |
321万 7,300円 |
326万 3,800円 |
A+B | 337万 6,500円 |
393万 5,300円 |
456万 3,800円 |
348万 7,600円 |
388万 6,500円 |
431万 9,200円 |
(注)実際の金融機関による数値とは若干異なる場合があります
※ このページは、2021年9月1日現在の法令等にもとづき記載しています。最新の住宅ローン減税(住宅借入金等特別控除)制度については、国税庁ウェブサイトや国土交通省ウェブサイトをご覧ください。